V-Low帯を使った防災ラジオの実証実験が、間もなく開始

-木村太郎氏ら。ワンセグ活用で新デジタルラジオ実現へ


V-Low防災デジタル・コミュニティラジオ検討協議会の木村太郎会長

 地上アナログテレビ放送終了後に空いたVHF-Low帯(VHF 1~3ch)を使ったマルチメディア放送の実現に向けて、防災情報を主な目的とした実証実験を行なう「V-Low防災デジタル・コミュニティラジオ湘南実験局」が設立された。

 試験電波の発射を間近に控え、この実験局の運営にあたるV-Low防災デジタル・コミュニティラジオ検討協議会の木村太郎会長をはじめとする関係者が、実験の内容や、今後の放送に関する記者説明会を行なった。

 V-Low帯を使った実証実験は、湘南の他にも宮城県や、福島県、喜多方市、前橋市、大阪市、福岡県の合計7エリアで実施予定。それぞれの協議会で実証実験を行なう。なお、同じく地アナ終了後に空いた帯域であるV-High帯は、「モバキャス」として4月から放送(NOTTV)が始まっている。

 湘南の実験局を運営するV-Low防災デジタル・コミュニティラジオ検討協議会は、コミュニティFMラジオ「逗子・葉山コミュニティ放送」の代表取締役でもある木村太郎氏が会長を務め、副会長は、テレビなどの放送・通信機器関連の技術で長い歴史を持つ営電の深川喜男代表取締役が務めている。

 この実証実験では、東日本大震災を受けて、大規模災害を想定した緊急用ラジオの送信設備や受信機などの開発を推進。自治体との協力により、新サービスの実現に向けたシミュレーションを行なう。また、将来的には防災だけでなく、多重音声チャンネルやIPキャストを活用したデジタルラジオ放送として、商用サービスにすることも視野に入れている。

 実証実験では、ワンセグ放送波を使用し、出力は20W。これは、小さな出力でも伝播し、マンションなどのコンクリート壁があっても遮られないようにするという目的と、既に普及が進んでいるワンセグを採用することで受信機の開発コストを抑えられるといった利点がある。

 受信機の第1弾となる防災専用緊急ラジオは、加賀ハイテックが開発。緊急時に自動で起動して警報を鳴らすという基本機能に特化し、高齢者にも使いやすい操作系を採用している。充電バッテリを内蔵し、72時間の連続動作を目指すという。充電池以外に乾電池も使えるようになる予定。現在も開発中だが、価格は8,000円前後を想定している。

V-Low放送に関するこれまでの経緯かつて東海地域などに被害をもたらした明応地震(1498年)の津波予想図。住民にも大きな危機意識が芽生えているという加賀ハイテックが開発中の防災デジタルラジオの試作機
湘南の実験局は、逗子市、葉山町、鎌倉市をカバー。観光客への警報なども想定しているV-Lowマルチメディア放送のイメージを、現在のワンセグ放送と比較アンテナの位置は利根山(標高190m)


■ 将来は商用化へ。テレビや車への搭載も

 木村太郎氏は、今回の防災ラジオサービス実験を決めた経緯を説明。消防庁が東日本大震災後、三陸地域の市町村に実施したアンケートで、回答があった27市町村のうち17市町村において、防災行政無線による警報に問題が起きていたという。その内容は、「倒壊・破損」が11件、「バッテリ切れ」が5件、「燃料切れ等」が2件。また、普段もこうした公共の無線放送は「家の中にいると音がこもって聞こえにくい」、「大雨などで聞こえなくなる」といった問題があると指摘した。

 こうした現状を踏まえ、木村氏は「行政無線は大切なもので、V-Lowがこれに代わるとは言わないが、補完するものを考えた。防災と言わなくても“減災”のための新しいメディアを作ることができる。1つの県に5つくらいの防災放送があるという形で全国展開できればと考えている」と説明。不可欠な要素として「自動で起動すること」、「遅滞なく伝えること」、「高齢者や障害者にも使いやすいこと」などを挙げた。

実験の課題実験の先の展望被災地の防災行政無線は、半数以上に何らかのトラブルが起きていたという

 実験局の送信施設は営電が提供したもので、既存の変調器やパワーアンプなどを組み合わせたものだが、既に送信設備の小型化にも着手。これまでだと合わせて1,000万円ほどかかっていた送信設備を、高さ約135mmのコンパクトサイズで250万円まで低価格化しているという。

 実験では防災での活用がメインだが、その先には、多重音声や、IPキャストによる双方向性などを活かした新しいデジタルラジオとして、ビジネス化も見据えている。深川喜男副会長は「社会に役立つだけでなく、長期的に続けていけるビジネスになるようにしていくことが、裏方としての私たちの仕事」とした。

 また、木村氏はビジネスモデルの例として、「IPキャストを活用することで、放送を聴いて買い物をするとか、音楽のサブスクリプションサービスとするとか、色々な可能性がある。受信機についても、スマートフォンに取り付けるものだとか、デジタルゆえの拡張性があると思っている」と述べた。これを受けて、受信機を開発する加賀ハイテックの松浦耕二常務取締役事業推進本部長は「家庭で使うだけでなく、携帯で使うとか、車の中のラジオとか、頭の中でバリエーションは描いており、順次開発する予定。テレビやSTBに組み込むことも考えられる」と意欲を見せた。

営電の社長で、協議会の副会長も務める深川喜男氏加賀ハイテックの松浦耕二氏


(2012年 4月 27日)

[AV Watch編集部 中林暁]