藤本健のDigital Audio Laboratory
861回
怪しさ炸裂! 1,587円の中華オーディオインターフェイスをいちかばちかで買ってみた
2020年8月3日 10:56
中国のアリババが展開するネット通販サイト「AliExpress」。
様々なものが扱われており、怪しい音系機材もたくさん販売されている。そうした中、先日SNSでちょっと話題になっていた「V8」というUSBオーディオインターフェイスを購入してみた。
価格は送料込みでたったの1,587円。コロナ禍の昨今、オーディオインターフェイスが品不足でなかなか入手できず、ネットオークションなどでは高値で取引されている時代なのだが、こんな値段のオーディオインターフェイスなどあるのか? そもそも、まともに動作するものなのか? メーカーの記載もない非常に怪しい機材だが、あまりにも安いので、面白半分、怖いもの見たさで購入してみた。実際どんなものだったのか、紹介してみよう。
購入1カ月後、カタカタ鳴るUSBオーディオインターフェイス到着
2カ月ほど前、SNS上で知人の作曲家がAmazonで売っている怪しいオーディオインターフェイスを取り上げており、目を引いた。それは「Muslady」という聞いたことのないメーカー名の機材で……
Muslady 外部オーディオミキシングサウンドカード USBオーディオインターフェイス複数の効果音 内蔵充電式電池 ライブストリーミングチャーター音楽録音用
……と記載され、価格は破格とも言える2,594円だった。
これは試してみねば、と思ったのと同時に頭に浮かんだのが“AliExpress”だった。というのも、たまたまその日、別の知人がSNS上でAliExpressを取り上げていたからだ。
試しにAliExpressへアクセスしてみると、日本語表記や商品詳細には英語表記が入り交じる、怪しい感じの通販サイト。ここで“V8”を検索してみたところ、案の定似た筐体の機材がいっぱい出てきた。
写真をよく見てみると、メーカー名やデザインが微妙に異なっている。また値段も700円から2,600円程度まで存在する模様。ただ、基本的にはどれも同じものに違いないと判断し、送料込みで一番安いものをセレクトし、イチかバチかで注文してみることにした。
その値段は1,587円。Amazonの2,594円でも激安だが、それを上回る安さなので、まったく動かなかったとしても、大きな痛手にはならないだろう。クレジットカード番号を入力するのに躊躇したが、AliExpressのネットの評判を見る限りは、大丈夫そうだったので、登録してみた。
しかし。数日で届くのかなと思っていたが、1週間待っても、2週間待ってもやってこない。
AliExpressの注文履歴を見てみると、出荷はされているようなのだが、その先で止まっている。AliExpressをよく使うという知人に聞いたところ、激安送料を実現するために船便を使っており、通関にも時間がかかるから、気長に待つしかないという。
半分忘れかけていた1カ月以上が経過したある日、「商品は間もなくお手元に届きます!」というメールが来たかと思ったら、すぐに郵便配達がやってきて、中国からの荷物が届いた。送料だけで1,587円の価格を上回ってしまいそうな気もするが、ちゃんと届いてくれただけで、ちょっぴり嬉しくなった。
箱を振るとカタカタという音がするのが気になるところだったが、さっそく箱を開けてみると、それなりにガッチリしたアルミボディの機材が現れた。
外形寸法は実測で約125×105×255mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は約235g。iPhone 11 Proと並べてみると大きさの雰囲気も分かるだろう。
本体と共に、4本の白いmicro USBケーブルが付属しているのだが、これがまた怪しいケーブルとなっている。1つはmicro USB - USB TypeAのごく普通のケーブルなのだが、残り3本はmicro USB - ステレオミニという見たこともない妙なもの。「何だこれ?」という疑問とワクワク感でいっぱい。そもそもこの製品で何ができるのか、内容を詳しく調べもせずに、好奇心だけで買ったこその楽しみなわけだが、やはり先ほどから聞こえる“カタカタ”は気になる。
通常であれば、即刻返品手続き扱いなのだろうが、中国からの個人輸入だし、あんまり面倒なことはしたくない。そもそも送料込みで1,587円なのだから、まぁこんなものなのだろう。ただカタカタの正体を探るべく、ネジとノブを取り外し、シャーシを開けてみることにした。
開けると、カタカタの原因がすぐに分かった。このV8にはニッケル水素と思われるバッテリーが内蔵されているのだが、その接着が甘く、剥がれてしまったために、カタカタいっていたのだ。
普通に見て、完全な不良品である。
しかも、基板を見て驚いたのはネジ穴が4か所あるのに、実際には2か所しか止まっていないという手抜きっぷり。これぞTHE安物の粗悪品であることは間違いないが、それ以外の箇所はパッと見て異常はなさそう。
スイッチとボリュームはいっぱいあるが、基板上の回路を見るかぎり、すごくサッパリしている。48PINの小さなチップがメインの処理回路なのだろう。チップの名称はマスクされているため判別はつかない。横には、クリスタルのクロックが1つ。あとは小さなトランジスタやコンデンサ、抵抗が並んでいるという感じだ。
とりあえず接着剤でバッテリーを固定するとともに、手持ちのネジで基板の4カ所をしっかり固定。試しにパワーボタンを押してみると、PCとの接続もしていないスタンドアロンの状態だというのにLEDが点灯した。単独動作するミキサー的機能を持った高級オーディオインターフェイスは存在するが、それに匹敵するものなのか、はたまた、タダのガラクタなのか……。面白そうで、ますます期待が高まる。
シャーシを元に戻し、ネジ止めし、ノブを取り付けて、本来の形に戻す。改めて見てみると、そこそこカッコイイ機材なような気もしてくる。が、左上にあるタイトルを見てみると「LIVE The sound card V8」書かれていて笑ってしまった。「そもそも、これボックスであって、カードじゃないから!」。なんとも色々といい加減な機材である。
リアパネルを見てみると、見たことのない不思議なインターフェイスだ。
micro USB端子が4つ並び、3.5mm端子が3つ、そして6.3mm端子が1つ。micro USBにはLINE1、LINE2、Accompany Instrument、Chargingと記載されている。また3.5mmのほうにはEarphone speaker、Headset、Condenser mic、Dynamic micとあって、まさに突っ込みどころ満載。なんでこんなにいっぱいUSB端子があるのか、いっぱいあるのにPCと接続できそうなポートがない、コンデンサマイク端子なのにミニジャックってどういうことなのか?
12音の“ポン出し”や効果不明なボタンを搭載
よく分からないが、とりあえず“Earphone speaker”と書かれた端子にヘッドホンを接続し、電源をオン。すると赤いLEDがピカピカと点灯して起動する。ここで黒いボタンを押してみると、効果音が鳴るではないか。そう、これはいわゆるポン出しマシンのようなのだ。全部で12個あるボタンを順に押してみたのが、下記動画だ。
Pay attensionとか、Songs1、Songs2などは30秒近いサンプリング音が収録されている。このままでも使えそうだが、このサンプリング音の差し替えができるとしたら、超低価格なポン出しマシンとして十分元が取れそうな気がする。ただ先に結論を言ってしまうと、サンプリング音の差し替えはできず、この12音は固定のようだ。
このまま最初から充電されている電気だけで使っていると、すぐに切れてしまいそうな気がしたので、Charging端子にUSBのACアダプタをつないでみた。
半分程度も刺さらずに飛び出した状態ではあったけれど、パワーランプが赤く点灯し、充電されているように見える。この状態で、唯一まともに見える6.3mmのDynamic micという端子にダイナミックマイクの代表、ShureのSM58を接続してみたところ、ダイナミックマイクからの入力音をヘッドフォンからモニターできた。
マイクの入力ゲインはMICノブで調整でき、ECHOを回していくとリバーブがかかる。さらに、赤いボタンを押すとエフェクト効果が得られることも確認できたので、ちょっとその様子を撮影してみた。
お分かりいただけただろうか?
Electroというボタンは、ピッチコレクトをリアルタイムに行なうもので、Auto-Tune的なものといえる。ボタンを押すと、女性の声で何か言っている。最初、何を言っているのか聞き取れず、これは中国語か? などと思っていたが、よく聞いてみると押す度に「Aフラットメジャー」「Aメジャー」「Bフラットメジャー」「Bメジャー」と言っており、補正するキーを設定できるものだった。
となりのPitch Bendはピッチチェンジャー、その隣は声を変質させるボタン。その隣のShock-Wayeも触ってみたが、効果を判別することができなかった。本当は“Shock-Wave”と書きたかったのかもしれないが、いずれにせよ機能は理解不能。それはMCについても同様。一番右のDodgeも当初は分からなかったが、その後マニュアルを読んで理解したので、後ほど紹介する。
実は梱包を開けた時点でマニュアルの存在に気付かず、手探りで使っていたのだが、よく見たらとても小さな表裏ぺら1枚の英語の説明書が付属していた。
正直言って、ほとんど内容のないマニュアルで、各ボタンごとに、「短く押すとオンになる、長押しするとオフになる」といったことばかりで、どんな機能で、どう使うのかがほとんど書かれていない。ただし、Charging端子をPCに接続することは可能なようなので、Windowsと接続してみたところ、めでたく認識。オーディオインターフェイスとして使えるようになった。
仕様上は48kHz/16bit、または44.1kHz/16bitということのようだが、試してみるとちゃんと音は出るし、聴いた感じ酷くはない印象。
とはいえ、ボリュームを上げていくと明らかにフロアノイズは大きくなるし、マイク端子などに何かが刺さっている状態だと、接触がよろしくないようで、爆音でバリバリとノイズが出る。そんなものだと割り切って使えばいいが、普通の製品と考えるとクレームレベルの低品質といえる。
気になる他の端子も調査してみる
これまで触れてきていない端子についても試してみたので紹介してみたい。
まず、ミニ端子のコンデンサーマイクは、我々がいうコンデンサーマイク、つまり+48Vのファンタム電源供給で動作するものとはまったくの別物と分かった。
プラグインパワーも不要で動作するエレクトレットコンデンサマイクであり、少し昔のSound Blasterなどに付属していたオモチャマイクのこと。試しに、約20年前のSound Blaster Liveに付いていたマイクが未開封のままあったので、これを接続してみたところ動作した。
しかし、音質的にはダイナミックマイクのSM58のほうがはるかにいい印象。またHeadset端子は、その名の通りヘッドセット用の端子で、ヘッドフォン兼マイクで使うことができる。このダイナミックマイク、コンデンサマイク、ヘッドセットの3つのマイクは並列入力となっており、内部で勝手にミックスされるため、バランス調整は不可。いずれもMICノブでゲイン調整する形になっている。
前述の謎の3つのmicro USB端子は、付属のケーブルを使って入力するライン入力。そもそもmicro USBの形状など使わず3.5mmの端子にしておけばよかったのでは、と思うが、見た目のカッコよさを優先した、ということなのだろうか?
なお、この3つの入力も並行して入り、勝手にミックスされる。そのためバランス調整やオン/オフ設定はできない。これらの入力とPCからの入力はすべて一緒になった状態でMUSICノブで調整する形になる。
ここで先ほど触れた、赤いDodgeボタンが出てくる。これをオンにすると、マイク入力と、USB/ライン入力のどちらが大きいかを比較し、小さいほうの音量をグッと下げるという操作を自動的に行なってくれるのだ。たとえばBGMを流している状況でマイクからしゃべりだすと、BGMの音量をしゃべっているときだけ下げてくれるという効果が得られるようになっている。
そんなライン入力があるのなら、いつも行なっているRMAA PROで音質テストができるのでは? と思い試してみた。が、実際にループ接続してテストしてみようと思ったところで、根本的な問題に気づき、テストすることを断念。
その根本的問題とは、USB経由でPCへ送れる信号はマイクからの入力、およびポン出しボタンからの音だけであり、ライン入力された音を送ることができなかったのだ。これだとテストのしようがない。
ちなみにマイク入力ゲインはMICノブで調整する一方、PCへ送る信号レベルはRecordノブで調整する。またヘッドホンからの出力調整するのがMonitorノブである。
残る左側のTREBLEノブとBASSノブは当然、音質調整をするためのノブなのだが、これを動かしてもヘッドフォンからモニターする音に変化がない。ということは録音側に効くものなのだろうかとUSB経由でPCに録音した音を聴いてみたが、こちらも変化なし。どうやら、この2つは配線ミスがあったのか、壊れているようだった……。
総括~値段相応の品質。覚悟して割り切れば、遊べなくもない
以上が、1,587円のUSBオーディオインターフェイス、V8をテストしてみたレポートである。まあ、この値段でこれだけのことができれば、機能面的に考えて十分なようにも思うが、どうだろうか?
ただし、実用性は限りなく低いというのが実情。とくにバリバリというノイズは耐えられない。幼児用のポン出しオモチャとしては面白いけれど、アルミシャーシの硬いものなので、投げたら危険だし、子供に持たせるべきものではない。
ループバック機能でもあれば、ネット配信用などとして使えそうとも思うが、そうした機能もない。とはいえ、とにかくマイクに簡単にエコーをかけたいとか、ボイスエフェクトを使ってのネット放送をしたいというニーズにはこたえられるので、多少バリバリしても大丈夫というのであれば、試してみてもよさそうだ。
個体によって壊れているところに違いがありそうな気もするが、その辺も含めて受け入れる覚悟と度量があれば、AmazonやAliExpressから購入してみるのもありかもしれない。