西田宗千佳のRandomTracking

「PS4世代でかわること」とゲーム市場の関係

SCE WWスタジオプレジデント 吉田修平氏インタビュー

SCE ワールドワイドスタジオ プレジデントの吉田修平氏。ゲーム開発のトップでありながら、Twitterでユーザーとコミュニケーションを図る「フットワークの軽い」人物、としても知られている

 ソニー・コンピュータエンタテインメント ハウス社長のインタビューに続き、同社のゲーム開発部門である、ワールドワイドスタジオ(WWS)プレジデント、吉田修平氏のインタビューをお届けする。

 ゲーム開発のトップである吉田氏には、「PlayStation 4(PS4)とゲーム開発」、「ゲーム販売モデルの変化」、「モバイルへの施策」などを、細かい部分も含めて聞いている。そこからは、日本からは見えにくい部分もある、欧米市場が持つ「次世代コンソールへの熱気」も見えてきた。

PS4は開発当初から「399ドル」が目標だった

――価格の点について。PS4の399ドルはとても魅力的だと感じます。

吉田:ありがとうございます。399ドルというのは、狙っていた価格なんですね。プラン中、急に価格を変えたりはできませんよね。ものすごく長い時間でビジネスプランニングをしますので。ですから設計段階から、もう、399ドルで行きたい、と。我々もPS3で非常に苦労してきていますから、PS4のプロジェクトが始まった早い段階から「399ドルじゃないといけない」という、自分達向けの縛りを持ちながら、どういう技術が使えるのか、周辺機器はどういうものが使えるのか、みんなで議論しながら開発してきたんです。

 実は月曜日(筆者注:6月10日、E3開催前日のプレスカンファレンス・デー。朝にはマイクロソフトのプレスカンファレンスがあり、499ドルと発表された)、リハーサルをしながら会場で我々も映像を見ていましたけれど、みんな「えーっ」「よし!」みたいな反応で。ちょっと、というか、かなりびっくりしました。

PlayStation 4の価格は米国で399ドル(プレスイベントのライブ中継から)
PlayStation 4
縦置き時。上にスロットイン式のBDドライブを搭載する
PlayStation 4

――PS4では、中古ゲームをこれまで通りに扱えるということで、発表会場でも大いに盛り上がっていました。物理ディスクへの認証導入についてはどうですか?

吉田:まず、「デジタル(オンライン配信)かフィジカルか」という点については、かなり早い段階から「PS4はPS3と同じだよね」という形で、あまり意識せず、当たり前のように計画して作ってきたのですが、5月に他社さん(マイクロソフト)の発表を見て、これもまた「えーっ」という感じで……。そうすると、ユーザーさんから一気にものすごい数の反響をいただいて、私のTwitterもスクロールが大変なくらいのメンションが飛んできていました。これはもう大変なことになっているぞ、ということで、E3ではちゃんと説明することにして、準備しました。

ディスク提供のゲームは、オフラインプレイでは「ネット認証不要」、「中古で売っても良い」で大歓声(プレスイベントのライブ中継から)

 デジタルのビジネスというのは、年々非常に増えています。それはPS3でもVitaでも変わりません。デジタルの売り上げ比率は高まっています。特に欧米では、インディーズのタイトル、これがものすごく活発です。彼らのタイトルというのは、基本的にはデジタルじゃないと手に入らない。そこも含めて考えると、今後もデジタルのビジネスが増えるのは目に見えているというか、間違いない。

 ですけれど、人間の習慣というのは、急には変わらないですよね。iPodが出て10年経ちましたが、CDはまだ売れています。最近CDショップはなくなってしまいましたが、いまだそれでもCDを買う方はいる。一晩でどちらかに変わってしまうものではなく、何年も何年も何年もかけて、ゆっくり変わるものです。インターネット回線のスピードは年々上がっていますが、我々は全世界でビジネスをしたいので、両方のユーザーをサポートしつつ、徐々にデジタルへ、と移行していきたいです。

 PS4の世代というのは、まだ徐々に移行している途中段階、と我々は捉えています。やっぱりユーザーさんが選べるようにしたい。最近はディスクベースのゲームをフルにダウンロードできるようにしています。そっちの比率も少しずつ上がっていくとは思いますが、やはり50GBとかの容量になりますからね。時間もかかりますし、PS4の500GBのハードディスクも、50GBのゲームだと10個でいっぱいになってしまいますから。そっちがメインとは、簡単にはならないでしょうね。

吉田氏が動画でPS4における中古ゲームの扱いを紹介する公式ビデオ

――ハードウエア価格を、通信会社とのサブスクリプションで割り引く、という可能性についてどう見ていますか?

吉田:サブスクリプションモデルについては……。2つあると思います。

 私もアメリカに住んでいた経験があるのですが、テレビをつけると「車を無料で!」といったCMがたくさんあります。クレジット文化というか。後で払うのが好きですよね。だからアメリカにいろんな国からお金が集まると思うんですが……。そういうやり方、ファイナンスですよね、それはあるのかな、と。日本でも家電の分割払いがあるわけで。

 もう一つは、携帯電話のようにキャリア(通信事業者)がサブシダイズ(補助・補填)するというモデルですね。その時には、本体とサブシダイズの関係性はありますよね。2年間契約をしたらいくらか返ってくる、といった形のものです。そういうところから考えた時に、オンラインサービスでどのくらいの金額をサブシダイズできるのか。そしてそれがユーザーさんにどのくらい魅力的に見えるか、どうなんだろう……ということを見ていかなくてはならないと思います。

 でもですね、結局は誰かが(ハードウエアコストを)負担しなければならないんです。まずは基本価格が魅力的でなければならない、というのが我々の考え方です。その上でなにがしかのプランは考えていきます。

――PS4ではマルチプレイが有料になりました。マルチプレイの内容として、PS3世代とPS4世代ではどこが変わるのでしょうか?

吉田:マッチングなどの基本的な部分にかかわらず、機能はより拡充したいですし、そういう要素はたくさんあります。特に、非同期通信の機能やソーシャルとのつながり、他のSNSとのつながり、オートアップデートやオートダウンロードなど、あらゆる面を良くしていきたいです。そのためには、無料でやっていると「コスト」になってしまいます。そうすると、担当部署は「とにかくコストダウン」と考え、十分なオンライン体験の向上と、内部的なコンフリクトが起こりやすいのです。我々はPS4でオンラインの体験を良いものにしたいと思っていますから、その意思表示も含めてですが、オンラインをより深く、一番深いところまで遊ぶユーザーさんには一部コスト負担をお願いしたい……。これが、PS4での方針変化の理由です。PS3とVitaのユーザーさんについては、これまで通り無料です。

 PS3でもそうですが、1台について複数のアカウントを設定できます。しかし、1台について1つ、メインのアカウントが有料の「PlayStation Plus(PS+)」アカウントがあればOKで、後のPS4内にあるアカウントは、マルチプレイヤーで遊べます。ですから「1台に1つ」、と考えていただければ。しかも、現在PS3・Vita向けにPS+のユーザーである方は、そのままPS4でも有効になります。

 コンテンツについてのメリット、無料プレイがあるとかクラウドへのセーブがあるとか、そうした部分もPS4に引き継がれます。今回ローンチタイトルの「DRIVECLUB」は、特にクラウドでの機能がとても多く、他デバイスの併用やソーシャル面を強化したタイトルです。なので、DRIVECLUBのスペシャルバージョン、機能は楽しめるけれどコンテンツを絞ったバージョンを用意し、PS+のユーザーの方には無料提供することにしました。あと、毎月、インディーさんのタイトルも含め、PS4向けのタイトルを1つずつ無料で提供します。

 オンラインマルチプレイは有料になって申し訳ないのですが、その代わり、色々なオンラインフィーチャー、コンテンツを提供しますので、ぜひ会員になってください、というのが我々からのメッセージになります。

PS4で「やりたかったこと」が可能に。欧米は1年前から次世代機レディ?

――PS3世代は開発が大変だった世代、という共通認識はあると思います。他方で、WWSとして見た時にも、大切に開発を続けながらもまだ世に出ていないタイトルがいくつかありますよね。具体的に言えば「人喰いの大鷲トリコ」ですが。プロジェクトの難航は、別にPS3世代に限った話ではないのですが、それでも、PS3世代ではそうした話が少なくない。

吉田:難産はWWSでも多いですね。それは事実です。

――PS4の世代で、そうした状況はどう変わりますか?

吉田:そのハードルはすごく低くなりました。ゲームが動き出すまでの時間が、もう圧倒的に短くなった。PS3ですと、最初のPS3向けゲームを作る時には、エンジニアがものすごく勉強してからやらなければならなかったのですが、PS4はPCアーキテクチャでできていますから、ゲームを動かすという面では本当に早い。その先に行く、PS3でCELLを使いこなしたようなエンジニアは、今度はGPGPUの方でもっと凄いことを、ということができるんですが、そこまで行かなくても、すごいパフォーマンスが出ます。それですぐゲームが作れます。

 月曜のカンファレンスでも、インディータイトルのご紹介をしましたが、その中の1タイトルは、PC向けに元々作っていたものが、ほんの何日間かPS4で動いていた、といいます。そんな感じですよね。

 すべてのチームが、アートもクリエイティブもエンジニアリングに強いわけではないです。すごく面白いビジョンがあり、映像も美しいのに、テックの部分でひっかかって作れなかったタイトルというのが、PS3世代ではいっぱいあったと思うのですが、それはPS4ではなくなると思います。

 こう言っては失礼ですが、そういう意味ではハードルが低くなったので、日本のゲーム業界でも、PS3ではトップチームだけががんばっている状況でしたが、そうでないチームやインディーの方も含めて、どんどんPS4にきていただきたいな、と思います。

――PS3で出なかったタイトルが、PS4でプロジェクトが復帰する可能性があるのでしょうか?

吉田:これは一般的な話としてコメントしますが、それは常にある話です。PS2で開発していたものがPS3で復活したこともありますし。それはタイトルの判断だと思います。

――GPGPUの活用は、PS4と同時に発売されるタイトルから行なわれるのですか?

吉田:ローンチ(同時発売)タイトルは、乗り越えるべきハードルが非常に多くあるため、壁が高いです。システム開発の途上で開発を始めるので、壁を乗り越える努力が必要です。それは我々もサードパーティーさんも変わりません。ハードの活用よりもローンチ時に出すことが重要だ、という判断をする場合が多いです。来年以降とか、PS4世代向けの「二本目」「セカンドジェネレーション」は面白いことになるだろうな、と思っています。

 しかし最近は、みなさんミドルウエアをお使いですしね。ミドルウエアを開発している方々は、最初から(GPGPUの活用に)行かれるんじゃないかな、と思います。彼らがチューニングをすれば、さほど手間をかけることなくPS4の能力を活用できるかな、ベネフィットが出てくるかな、と思います。

――PS4で、OSが占有するメモリーやプロセッサーのリソース量はどうですか?

吉田:ゲームの占有リソースの問題ですよね? それは決まっていて、開発の方々にはお伝えしてます。しかし、情報としてはオープンにしない、という方針です。ご容赦ください。噂されている容量についてですか? それについても真偽はノーコメントで(笑)まあ。8GBありますからね……。これは相当に膨大な領地ですよね。

――8GBという容量は途中で変更されたものだ、という話がありますが……

吉田:うーん。その辺、開発者向けの話と、一般公開情報とは違いますからね。でも、開発しながら「早く確定しないといけない部分」と「そうでない部分」はありますよね。容量などは開発の後半でも決められる部分ではありましたね。

――PS3の世代はハイデフゲームを作る上で、限界が多くてギリギリな部分が多かったのは事実です。例えば、レンダリングターゲットとなる解像度を下げてリソースを抑えて、表示はスケーリングして対応する、といった処理が一般的でしたし、解像度も720Pが主流でした。そうしたことが、テクスチャなどのリッチさを下げていた部分があります。PS4では、1080p/60フレームが想定されると思うのですが、レンダリングの内部解像度についても上がりそうですか?

吉田:それはチョイスですよね。PS3でも全部1080pでやることはできますが、そのためになにか我慢しなくてはならない。そこはゲーム機のパフォーマンスがいくらあがっても、チームがどのようなチョイスをするかです。「PS4でもあえて1080pじゃなく720pでやれば、もっとエフェクトをリッチにできる」というチョイスをするところもあるかも知れません。それはゲームによって、こだわりの違いが出てくると思います。

 ただし、一般的な話として、PS3の世代は720p/30フレームが非常に多かった。PS4ではより多くのゲームが1080p/60フレームになり、レンダーターゲットもよりネイティブ解像度に近づくものが増えるだろう、と期待しています。それは当然のこととして、ですが。

ー4Kはいかがですか?

吉田:ウチのどのチームに聞いても「興味はない」と言いますね。あまりネガティブな意味で取られると困るのですが……。

 PS3の世代では、色々なバランスを考えて、結局は720pを選んでいたチームが多いです。「PS4になったらやっと1080pいけるかな」と思い始めたところに、「その4倍リソースが必要になるので、色々な部分を我慢して」と言われると、そこに興味をもって食いつくチームは少ないです。

PS4の本体背面

――要はPS3の世代に我慢していた部分がやっと解放されるのに、さらに上、というのはまだ早い、と?

吉田:PS3時代の制約条件がなくなってきた、というところです。それでもまだトレードオフがある段階で「4Kできるよ」と言っても……。それをやるための犠牲はあまりにも多い。

 ですから、不必要な期待感をもたれないように、「ゲームでの4Kは対応しません」というところからスタートしています。もちろん将来は「やりたい」「やるべきだ」という話になるかも知れませんが。4Kは動画と写真、というところからの対応です。

――PS4はローンチタイトルが多くて豊作になりそうです。そのため、「PS3の状況を1年早送りしているみたいだ」と表現した人もいます。その点、どうですか?

吉田:それは逆に、デベロッパーさん・パブリッシャーさんから見れば、「PS4などが出るのが、1年遅い」くらいに感じているのではないでしょうか。

 つまり、PS3は今回で7年目。Xbox 360から数えると8年目じゃないですか。これはPS2から比べるととても長いです。ゲームを作る側もどんどん慣れますし、同じプラットフォームでシリーズを展開するのは、やはり限界があるんですよ。3作くらいやると、同じ機械でできることはやりつくしてしまって、ユーザーさんの側からしても、言葉は良くないですが「飽きる」。デベロッパー側も、欧米市場で考えると、昨年あたりから「次世代機レディ」になっていたんではないか……と、私などは考えるんです。

 なので、「去年出てもいい」くらいに思っていた準備感からすると、「今年は2年目」といったイメージになるのだと思います。

――単純に開発が楽だから早く動いているのではなくて。

吉田:そうです。去年新ハードが出ていても間に合ったものが、今年満を持して……という感じで出てきたんだろうと思うのです。

 もちろん、開発しやすい、ということは重要だと思いますよ。

ゲーム機ビジネスのピラミッドから「カジュアル」が抜け、「二極化」

――ゲーム全体でいうと、コアなAAAタイトルに魅力があるのは変わらないのですが、そこに対して「ゲームには普段興味がない人」を集めるのが難しくなっているように感じます。そのため、E3も、少し元気がない。そういうピラミッドの下の方は、スマートフォンやタブレットにとられている印象があります。その中でインディーであるとか、メジャーレーベルからのコンパクトなプロジェクトの価値があると思います。パブリシャーとして、そうした部分をどう見ていますか?

吉田:その関係性は、かなりクリアーに説明できます。

 プレイする人達のピラミッド(上にコアファンがいて、下に行くに従って人数は増えるが熱狂度は落ちる)が成り立たなくなっているという点については、家庭用ゲーム全体で考えると、まさにその通りだと思います。ピラミッド全部が一つのビジネスであったとするならば、裾野を形成していたカジュアルゲームユーザーが、スマホやタブレットなどの「すでに持っているデバイス」で、しかも「最初はタダで」遊べるので、そちらに移行する。ちょっと時間がつぶせればいい、というのは間違いないですね。その層がゲーム専用機を買って、60ドル払ってゲームを買ってくれるかというと、なかなか難しい。

 しかしその中身をもうちょっとみていくとですが……。この話は、現世代から次世代の話をしていますよね。今世代のピラミッドはどう形成されていたんだろう、ということです。もう理解していただけるんじゃないかと思うんですが、ここ(下の部分)を取られていったのはどなたでしたっけ……ということがあります。

 別の言い方をしましょう。PS2とPS3を比較すると、PS3はPS2ほどの普及に至っていません。PS3がだいたい7,000万台くらいで、PS2は1億5,000万台出荷しています。PS3世代もXbox 360と合わせると1億5,000万台くらいになるんですが、要はPS3のユーザーは「ピラミッドの上の方」です。ピラミッドの下の部分がスコンと抜けた形になっているんですが、PS3だけでも7,000万台以上あり、今年はもっと売れると思います。マイクロソフトさんもそのくらい売れています。コアゲーム市場でもそれだけはある、ということなんです。

 ですから、そこで1パブリシャーとして、ゲームを出して成り立つのか、という部分なんですが……。PS2の世代では色んなゲームが売れていました。トップから中間まで、具体的に言えば、トップは300万・400万枚売れて、その下は100万枚・50万枚。30万枚も売れればペイしたかな……という感じだったと思うんですが、PS3世代で開発費が伸びて、ペイラインが上がっています。結果、中間層がバタバタと倒れていっている。ユーザーさんの目線としても、PS3の世代というのは、ゲームのクオリティの差がものすごく出た世代かと思います。

 ゲームのコアファンというのは、家庭用ゲーム機しかやらないかというと、そんなことはないです。ゲーム好きですからなんでもやるわけです。スマホでもタブレットでもPCでも、いつでもやります。でも、そういう人々にとって、そういうゲームは「タダ」のものなんですよね。最初はタダ、というのが正確ですが。

 そうすると「クオリティが中間」のものに60ドル払いますか? ということになるんです。そこのハードルが非常に高くなっています。

 結果どうなったかというと、多くのユーザーさんが選ぶタイトルが同じになっていった。だから、トップタイトルの売り上げはずっと伸びているんですよ。PS3の世代でもずっと伸びているので、「そこでビジネスができますか?」と問われれば「まったくできます」ということになるんです。

 ただし、生き残れるのはトップオブトップと、さきほど話した「デジタル」。開発費が少ないんだけど、ユニークで面白いもの。要は二極化してきている、ということ。中間層がないのは、そこに60ドルの価値を見いだす人がいなくなっている、という話です。

 WWSは非常に大きなスタジオでたくさんのタイトルを動かしていますが、中では実は、二極化させてきています。大きなプロジェクトはより大きくして、それ以外はコンパクトに。中間層は減らしながら、デジタルのユニークなタイトルを、F2P(Free to Play:無料プレイ)も含めてやっていこう、と移行しつつある、というのが現状です。おそらく、他のパブリシャーさんもそうだと思いますね。

「シェア」での情報流通に本腰、購入導線も整備中

――デジタルコンテンツの流通を考えると、いい作品があった場合、個人の間で存在が知れ渡ることで、結果的に投入したバジェットより大きなヒットになる可能性が高いと考えています。映画はまさにそうですよね。特にPS4では「SHAREボタン」を使い、そうした効果を生かして「下のタイトルを上に持ち上げる」ことを狙っているのではないか、と考えているのですが。

SHAREボタンを備えた新コントローラ「DUALSHOCK 4」

吉田:まさにおっしゃる通り。それを狙っているんです。2月に発表したキャッチフレーズの中の「Personalized」というのがそれにあたります。自分の趣味が合う友達がタイトルを紹介してくれたり、アップされた映像を見たりすることで、「これ面白そうじゃん」という形で、自分の趣味に合うタイトルが、あまり情報収集に対して努力しなくても、自分の目に入ってくるようなことを、ぜひやりたいと思っているんです。

 だからインディーさんにはいっぱいきて欲しい。でもその時に重要なのは、「いっぱいインディータイトルが集まったけれど、自分のタイトルが目立たない、埋もれたらどうなるのか」という懸念への対応です。今、モバイルのタイトルはそうなっていますよね。PS3やVita向けにタイトルを作っているインディーさんに話をうかがうと、「モバイル向けにタイトルを作るのは、もうサイコロを振るようなもの。どんなにいいものを作っても、世の中で知られるかどうかは運次第。怖くて手が出ない」と言われます。もちろん、パイが大きいのでヒットすればその分売り上げも大きくなるんですが、運頼り。だから、モバイルで何作か作ってもヒットせず、プレイステーションに来た方々もいます。まあ、プレイステーションの方はまだタイトル数が少ないので、逆に売り上げはウチの方が多かった、といっていただけます。

 また、うちのユーザーさん達は、すでにお話したとおり「ゲームをガッツリ遊ぶ」方々なので、1本をより深く楽しんでいただけるし、反応もいいし、お金もきちんと使っていただける。最近はゲームにアチーブメント評価の機能がついているので、どこのプラットフォームのユーザーがどこまで遊んだかを分析できるようになっているのですが、Vitaのユーザーさんが一番遊んでくれる、と。「だからうれしい」と言ってくれるんですよ。

 そういった形で「いま自分達のコンテンツは、プレイステーションのユーザーに合っている」として、こちらに来ていただいている、というのが現状です。

――SHAREボタンの可能性は非常に大きいと思います。他方で、ゲーム映像をネットにアップすることについては、ゲームパブリシャー側は、著作権的な問題や「ネタバレ」問題もあり、慎重な向きもあります。PS4のSHAREボタンで録画する映像の仕様として、デベロッパー側へのコントローラビリティはあるのでしょうか?

吉田:あります。ただし、すべてのゲームで「まったく映像のシェアができない」という形は禁止させていただいています。

――例えば、ボス戦はダメだけどそうでないところはOKとか……。

吉田:そういう判断は、デベロッパーさんの中でよくあることかと思います。

 ただし、基本的に、シェアをやる理由は、タイトルのプロモーションでもありますし、まったく知らなかった人にゲームを伝えられる、という点もあります。ですから「これは楽しいことですから、どんどんやりましょうよ」というのが我々のスタンスです。

――アップロードするSNSとしてFacebookなどを挙げていらっしゃいましたが、対応SNSの拡充などは行えるのですか? 国毎に求められるサービスが違うように思います。例えば日本なら、ニコニコ動画を求める人も多そうですが。

吉田:そうした国毎の違いはあるでしょうね。アーキテクチャとしては、「アップロードしたいものを選んでからサービスを選ぶ」という形ができるようになっています。どの地域でどのサービスをサポートするかは、地域毎に、ビジネスパートナーとディスカッションして決めることになります。

 今公開されているものは、ビジネスパートナーとの合意ができて、我々が「例として」公開可能なものを、パートナーさんから許諾を受けて紹介している段階、とご理解ください。

――そうしてゲームの情報が伝わることは興味深いです。細かいことですが、アップされた動画や静止画からは、直接PSNでゲームが買えるよう、導線が張られるのですか? 要はクリックすれば買えるか? ということですが。

吉田:もちろんです! それがやりたいんです!

 実はVitaでスクリーンショットを撮って、Vita内からTwitterへ投稿した場合には、スクリーンショット内にVitaのPSストアへのリンクが張ってあるんです。クリックすれば、Vita内でストアに移動して、ゲームが買えるように仕込んであるんです。考え方としてはそれと同じですね。

 今度は相手がVitaだけではなく、タブレットであったりスマホであったり、違うOS上で見られることになるので、そこはきちんとプラットフォームビルダーと話し合い、どういう形でリンクできるかを相談している状況です。

 今回、PC上でPSNのストアが利用できるようになりましたが、それはこうしたことを見越した上でのものです。今後はモバイルでもサポートして、シェア機能にもつなげていって……と考えているところで、今準備中です。

「レジューム」は最後にプレイしたゲームのみ。ネットサービス積極対応

――PS4は、プレイ中のゲームを「中断」し、次にすぐ続きができる、というのが特徴です。この時、「中断」できるのは1タイトルだけなんでしょうか? 複数タイトルの中断ができると、ゲームを入れ替えながら遊ぶ時などに便利だと思うのですが。

吉田:それは1本ですね。Vitaと基本的には同じです。メモリー領域の割り振りなどの問題がありますから。最後にプレイしたゲームと、ブラウザーやビデオプレーヤーなどの切り換えはすごく早いのですが、ゲームを切り換える時には、前のゲームを完全に閉じてしまうので、切り換えにそれなりの時間がかかります。

――ゲームでないアプリケーションは、Vitaよりリッチなものになると考えていいのですか? Vitaでは同時起動できるものは、メモリーなどの制約もあり、少々機能がコンパクトでした。

吉田:PS4は8GBありますからね。わりといいものになるんじゃないか、と期待しています。とはいえ、ゲームをやりながらTwitterするとかは、みなさんタブレットなどをお持ちなので、そちらでやるんじゃないのかな……と思ってはいます。

――PS3にあったビデオ系のサービスは、ほとんどがPS4でもサポートされることになるわけですか?

吉田:基本的にはそうです。どのサービスをどの順番で対応するかは別として、PS4でも対応していくことになります。PS3も含めて、新しいサービスにもどんどん対応していきますよ。今回、アメリカ向けにはNetflixやredboxへの対応を発表しましたが。日本のユーザーさんから見れば、torneやnasneへ対応してほしい、ということになりますよね。そういう声はあるでしょうし、我々も意識しています。

――これは要望ですが、PS4版のtorneについては、ゲームでなくアプリとして実装してほしい、と考えています。ゲームとして実装すると、torneを終わらないとゲームができないため、レジューム機能での高速起動を生かせませよね。Vita版torneがそうしたジレンマを抱えているので。

吉田:なるほど。その方が便利な感じがしますね。その旨開発チームに伝えておきます。彼らは本当にtorneを愛してますからね(笑)。

――Vitaとのリモートプレイは、すべてのタイトルで利用可能と考えていいんですか?

吉田:そうですそうです。ダンスゲームなど、DUALSHOCK(標準のコントローラー:DUALSHOCK 4)に依存しないものは対象外ですが。

――でも、VitaにはL2/R2、L3/R3がないですよね。そのことで、操作性が悪くなるのでは、と不安視する人もいそうですが。

吉田:ですから我々は、リモートプレイはPS4でゲームを作ったら「自動で対応」されます。Vitaのシステム機能として、フロントタッチとバックタッチを使い、Vitaにないボタンの代わりをする機能は用意します。ですけれど、それではタイトルによっては操作感が悪くなる可能性がある。なので、すべてのPS4タイトルの開発者に「あなたのゲームをVitaでプレイする時に、いちばんやりやすいマッピング」をちゃんと用意してください、とお願いしています。それを最低限の条件として挙げています。ですからPS4のゲームが完成してSCEに提出される前に、Vitaでも遊んで、ちゃんと遊べることを確認してからマスターアップしてください、とお願いしています。

 特にヨーロッパでは、店頭ベースで色々なバンドルが組まれているので、Vitaとのセットがあっても面白いかもしれませんね。

Vitaの戦略は「修正中」、とがったインディータイトルが主軸に

――モバイルについて。リージョンによって状況はかなり違いますが、特にアメリカ市場ではVitaがかなり苦しい。ゲーム市場の構造変化の中で、モバイルでは「トップタイトルの効果」が生きていないのが現状です。PlayStation Mobileも、Vitaではそれなりに活用されていますが、他プラットフォーム向けには元気がない。

 VitaとPS Mobileを含め、「モバイル」の活性化をどう考えていますか?

吉田:最初にPSPを出した時もそうでしたが、まずは「PS2クラスのゲームがポータブルで遊べる」ことにびっくりしたし、それがウリでした。しかししばらくするとPS3が出てきてグラフィックスの水準が上がって、「やっぱりテレビでやりたい」となりました。時間が経つとコンソールが先を行くので、それだけでは先が続かない。それは我々にもわかっていました。

 ですからVitaにはもっと手軽に遊べる、あるいはデジタルでたくさんのゲームが遊べる、という方向性を目指しています。最近欧米では、すごくクオリティの高いインディー系ゲームがたくさん出ています。そうしたものはポータブル機を使う用途にピッタリなんですよね。別に長いムービーが出るわけじゃなくて、すごくアーティスティックな世界観で、やりたい時にちょっとだけ遊べる。そうしたものがこれからもたくさん出てきます。「KILLZONE MERCENARY」という大作も出しますが、より大作にいくのでなく、よりとがったゲームをたくさん出していくモデルに、徐々に変えていこうとしていますし、PS4が出ましたら、リモートプレイで遊べるようになりますしね。またアメリカでは、来年になれば、Gaikaiのクラウド技術を使って、PS3のタイトルも遊べるようになります。

 そういう形で、Vitaのネイティブタイトル・インディーズタイトル・過去のクラシックタイトルといったことをやりながら、PS4とのつながりやクラウドとのつながりをやっていく……。そういうモデルになります。

――そうすると、古典的な携帯ゲーム機のモデル、PSPがモンハンのヒットで伸びていった、という形とは、ちょっと違うわけですね?

吉田:ちょっと違ってくる、ということだと思います。じっくりと伸ばしていきたいです。Vitaはまだ2年目に突入したばかりですから、PS4とのつながりも含め、じっくりやっていきます。ユーザーさんがじわじわ増えていけば、と思います。

 でも、地域によって違いますよ。日本では、わりと「Vita向けに作ってもいけるじゃないか」という手応えを感じていらっしゃるデベロッパーさんも多くて、増えてくる傾向にありますが。

西田 宗千佳