鳥居一豊の「良作×良品」

ULTRA HD PREMIUMの威力に感激。4K VIERA最高峰「DX950」

TH-58DX950で見るUHD Blu-ray「オデッセイ(米国盤)」

 4Kテレビも今や薄型テレビの高級機としての地位を固めてきており、50V型を超える大画面サイズとなると4Kテレビを選ぶ人が多いだろう。特に今年は新しいパッケージメディアである「Ultra HD Blu-ray」(UHD BD)も登場。国内版も6月末から登場する予定となっていることもあり、その目玉となる高画質技術HDRの対応を含めて、各社とも画質に磨きをかけたモデルをラインアップしてきている。

VIERA「TH-58DX950」

 そんな状況もあり、4Kテレビの中でも身近な価格のスタンダードなモデルと、画質や音質にこだわった高級モデルの分化が進んできている。今回取り上げるパナソニックの「TH-58DX950」(約52万円)は、VIERAの最上位モデルで、1インチ=1万円をわずかに切っているが、およそ50万円となかなかに高額だ。4Kテレビも40型サイズならば10万円台後半から選べるだけに、高級品という印象になる。

 その理由は、徹底して画質にこだわったことにある。詳しい技術的な内容は後で紹介するが、ハリウッドの映画会社や関連メーカーが集まって策定した国際認証である「ULTRA HD PREMIUM」を取得した唯一の液晶テレビとなる(有機ELはLGが取得)。また、「THX 4Kディスプレイ規格」の認証も取得する。このように、さまざまな厳しい基準をクリアする優れた性能や実力を備えているのだ。

細身のノイズレスデザイン

 今回の視聴は編集部のスタジオで行なっているが、これは58型で重量が約31kgあり一人で搬入と組み立て、設置をするのが困難だったため。薄型テレビもずいぶんと軽く、フレームなどの細枠化で小さくもなっているが、本機の場合は重量がそれなりに重いために、万一の事故を考えると最低でも2人以上で作業した方がいい。

 さっそく、TH-58DX950と対面。画面周囲のフレーム、スタンドともに細身のデザインで、大画面でありながら圧迫感は少ない。前面はスタンド以外は黒一色だが、側面のフレーム部分はマットなシルバー調となっている。正面からは画面以外のものが目立ちにくいノイズレスデザインとしながら、フレームなどはリビングなどのインテリアと合わせやすいモダンな仕上がりとなっている。金属製のフレームもエッジの面取り加工を施すなど、作りもしっかりとしている。

TH-58DX950。画面サイズは十分に大きいが、ベゼルが狭く、スタンドも細身なため、巨大さは感じない。画面の表面処理は光沢タイプで、明るい場所では多少映り込みもある
画面の端の部分を拡大。フレームのサイド面はマットなシルバーとなっている。金属パネルの細かな加工など質感の高い作りだ

 背面にある接続端子は、逆L字型にB-CASカードスロットや各種の接続端子が備わっている。アナログ映像入力(D端子、コンポジット端子)を除いた、HDMIなどの使用頻度の高い端子は背面に沿って接続するようになっており、壁にぐっと近づけたレイアウトでもコネクター類が邪魔にならないように配慮されている。

 さらに、コネクター部のカバーも用意されており、配線類を目立たせずにすっきりと設置できる。見た目の点でも優れるが、端子部などの清掃がしやすくなるというメリットもありそうだ。

接続端子部。B-CASカードスロット、SDカードスロット、USB×3、イヤフォン端子、HDMI×4、光デジタル音声出力、アンテナ端子×2などが配置されている。ビデオ入力、D端子入力だけ正面向きの配置だ
接続端子部のカバーを装着した状態。コード類は下部の開口部から出し、スタンドの後ろ側にまとめられる

DMR-UBZ1を使って、UHD BD「オデッセイ」を視聴する

 今回視聴に使ったソフトは、輸入盤UHD BDソフトの「オデッセイ」(原題:The MARTIAN)。リドリー・スコット監督、マット・デイモンの主演による火星を舞台としたサバイバル作品だ。国内では通常のBD版が発売されているが、国内版のUHD BDの発売は今のところ未定。この連載では読者が容易に手に入れられる作品を視聴ソフトとしたいと思っているのだが、今回は作品の面白さと映像、音響の質の高さを考えて輸入盤を使った。

 輸入盤は日本語字幕が収録されていないのが残念だが、UHD BDと通常のBD版がセットになっている。ちなみに通常BDの国内版は日本語吹き替え音声や日本語字幕があり、3D版もセットになっている。UHD BDの輸入盤は、海外サイトのAmazon.comなどで入手が可能だ。

オデッセイ(UHD BD米国盤:The MARTIAN)

 使用した再生機器は、BDレコーダのパナソニック「DMR-UBZ1」(約34万円)。同社のBDレコーダの最上位モデルで、大幅に強化されたシャーシの採用をはじめ、画質・音質に徹底してこだわっている。

 4K/60pのフルスペック規格に対応しているので、HDRはもちろんのこと、BT.2020の広色域などUHD BDのスペックをフルに発揮できる。4KテレビとBDレコーダの接続は、基本的にはHDMIケーブル1本でOK。とはいえ、これらのモデルを使うユーザーならば、もう1系統あるHDMI出力を使い、サラウンド対応のホームシアター機器も使うだろう。DX950シリーズは、内蔵スピーカーも決して手を抜いているわけではないが、省スペースなインビジブルタイプとなっており、映像にふさわしいレベルとは言い難い。高額モデルでもあり、ホームシアター機器を備えたユーザーが買うことを前提としているのだろう。

DMR-UBZ1

 さっそく、「オデッセイ」の再生を開始。冒頭の火星に嵐が襲来する場面あたりを見ながら、画質周りの設定を確認していく。最初に気になったのは、画面の映り込み。スタジオが白い壁になっていることもあり、宇宙空間などの暗いシーンでは画面への映り込みが気になった。画面輝度の高い薄型テレビということもあり、明るい環境で見てみようかとも思ったが、結局いつも通りに照明を落としてほぼ全暗に近い環境で見ることにした。

明るい場所での映り込み具合。スタジオが白い壁のためリビングに置いた場合の参考になるだろう。映像がやや暗めになると映り込みが目立ちやすい

 画質モードは、シネマプロを選択。スタンダードなどのモードもなかなか忠実感のある映像だったが、照明を落とすと映像のギラつきが出てしまう。シネマプロは初期設定でもかなり見応えのある映像になっており、画面全体がやや明るいくらいだが、このままでも十分だと思った。結果的に少し暗部を締めるために「黒レベル」を「-2」としているが、これは好みの範囲の調整だ。その他の項目もほとんど初期値のままだ。

 直下型LEDバックライトのエリア制御を行なっている「バックライトAI」も、初期値の「中」のまま。最初に感心したのが暗部再現の優秀さで、漆黒の宇宙空間を黒浮きなど皆無で再現。星々のきらめきや太陽の光を受けて白く輝く宇宙船ヘルメスのディテールなどは、さすがはHDRと言えるダイナミックな描写だ。

 試しに「バックライトAI」をいじってみると、「オフ」では黒浮きが発生し、宇宙空間も全体に黒が浮いてしまう。「弱」にすると黒浮きはかなりおさまってくる。「強」はさらに大胆で、黒浮き皆無に加えて明部もより強く発光する。が、暗室ではさすがに明るすぎて眼が痛くなる。「中」でもエリア駆動による不自然さはほとんど気にならなかったので、初期値の「中」のままで、黒レベルを少し下げて好みに合わせたわけだ。

DX950の映像調整メニュー。黒レベルを少し下げたほかはほぼ初期値のまま。「ビビッド」や「カラーリマスター」などは初期値で「オフ」となっている
DX950の映像調整メニューその2。このあたりの高画質機能もすべて「オフ」がデフォルト設定。モニター的な調整となっているのがわかる
DX950に付属のリモコン。基本的なデザインは従来のまま。音声入力ボタンやNETFLIXボタンなどが用意されている。

 いろいろと試していて気付いたのは、どうやらHDR信号の入力時とテレビ放送や通常のBDソフトなどのSDR信号の入力時では、同じシネマプロでも設定値が変化すること。実際には、SDRの映像をHDR風に再現する「ダイナミックレンジリマスター」などの項目も増える。このため、HDR信号の入力時は色域選択も「Rec.2020」が選ばれている。

 すべてを比較して確認しているわけではないが、ガンマ補正などもHDRとSDRに合わせて最適化されていると思われる。画質調整は誰もが使うわけではないので、映像再現の傾向が大きく変わるHDRとSDRで自動的な最適な状態に切り替わるというのは便利なところだろう。

 ちなみに色域選択では、いわゆるテレビ放送用の規格(BT.709)をはじめ、さまざまな映像規格に合わせることが可能。マスターモニター的な正確さを求める人にとってはありがたいところだ。

画質の詳細設定のメニュー。ここも初期値のまま。HDR信号の表示時では、色域選択も自動で「Rec.2020」になっている
色域選択の項目を表示。テレビ放送向けの「Rec.709」をはじめ、デジタルシネマ規格の「DCI」など、さまざまな色域規格が選択できる

火星に取り残されたマーティンが、不屈の精神でサバイバルを開始

 画質調整が落ち着いたところで、冒頭から再び視聴。火星の真っ赤な大地でミッションを行なうアレス3のクルーたちを嵐が襲う。夕焼けの光景にも近い雄大な大地が、強烈な砂と風で視界を失っていく様子は、映画館での印象以上に怖ろしい。HDR映像は太陽光を浴びた宇宙服の質感や砂を浴びて汚れたヘルメットの輝きなどが強まり、4K解像度の緻密さと相まって、極めて精密感のある描写となる。だが、その威力を感じるのは目の前が真っ暗になったとさえ感じる嵐の到来後の暗さが一層際立ったこと。印象としてはかなり薄暗く、何も見えなくなるが、HDRでは暗くなっても見通しはいい。ダイナミックレンジに余裕があるので暗部の再現性がとても優れており、おかしな言い方だが、何も見えない様子がよく見えるのだ。

 ディスプレイによっては黒浮きで暗部の再現性が損なわれるので、HDRは画面全体が明るく浮かび上がってしまって、視認性は良いが黒の締まりや映像が弛んだ印象になると感じることがある。このあたりが、HDRが特に液晶ディスプレイにとって手強いところだろう。だが、DX950はLEDバックライトのエリア制御を精密に行なうことで、黒浮きを解消。真っ暗なのに見通しは良いという、HDRならではの映像を見事に再現した。

 このLEDバックライトは、パナソニックの自社開発によるもの。ユニークなところでは、LEDを個別に点灯制御するエリアを壁構造で仕切り、隣接するエリアへの光漏れを抑えた構造を採用している。もちろん、区切られたエリアが中央は明るく周囲は薄暗いというような輝度ムラが出ないような工夫も盛り込まれている。これによって、白の均一性も高いレベルに維持しながら、エリア駆動の緻密な制御によってダイナックレンジの大幅な向上を実現しているのだ。

 さらには、使用する白色LEDも赤色の蛍光体の材料を見直し、より鮮やかな赤を再現できるようにした。これはBT.2020に対応するための色域拡大の技術でもある。火星の赤い大地の場面は全体に夕焼けのような赤みがかったトーンになるが、その中で活動する宇宙服のオレンジが黄色くなったり、赤くならずにきちんとオレンジで再現される。そうした色の再現性も、嵐の後の暗さと怖さを感じさせるのに貢献しているだろう。

 飛来したアンテナが激突し生体モニターが故障したため、マーク・ワトニーは生死が確認できない状態になり、脱出のためのMAVも強風で転倒寸前。同僚たちはやむなく、彼を置いて脱出した。そして、嵐の去った火星にはマーク・ワトニーだけが一人取り残された。砂に埋もれた状態から彼は意識を取り戻し基地へと戻るが、この場面に限らず、4K解像度の精細感には圧倒される。

 この作品のマスターデータの解像度は2Kで、UHD BD化にあたって4Kへのアップコンバート変換が行なわれている。そういう意味では質は高いが、4Kコンテンツというありがたみは少々薄い。しかし、UHD BD版を見てみると、火星の大地の砂の細かさ、傷ついたマーク・ワトニーの顔や体、さまざまなディテールが実に緻密だ。

 この理由としては、UHD BDでは映像データがHEVCで最大100Mbpsで収録できるという点が大きいだろう。ちなみにBDはMPEG-4 AVCで最大30Mbps前後だ。MPEG-4 AVCよりも圧縮効率の高いHEVCで、転送レートも3倍以上となるだけに、4K映像本来の緻密さが豊かに描き出されるのだ。UHD BDは、タイトル数がまだ10数本しかないのはもちろん、再生機器も高額なものしかなく、HDRを楽しむには対応した4Kテレビが必要、と、なかなかにハードルが高い。だから、現状は様子見を考えている人は多いだろう。

 しかし、UHD BDの映像自体は一見の価値ありだ。いずれは手の届く価格での再生機器も登場するのは間違いないし、HDR非対応のディスプレイでも4Kコンテンツとしてもトップクラスの情報量の豊かな映像を楽しめるのだから、まずは再生機器を手に入れてディスプレイのHDR対応は後追いで検討するのがうまい方法だと思う。

火星でジャガイモ栽培。科学と知恵を駆使したサバイバル

 火星に取り残されたマーク・ワトニーは、植物学者である自らの知恵と科学を駆使して、いずれ枯渇する食料を自ら栽培しようとする。このあたりのくだりは一番の見どころと言える部分。そんな彼の活動が火星の様子をモニターしていた地球のNASAに発見され、彼を救出するためのミッションが開始される。

 こうして物語は火星のサバイバルと、地球で彼を救うために奮闘するNASAの面々、宇宙船で地球へ帰還する同僚たち、それを見守るほぼ人類全員の様子を交互に映し出していく構成となる。こうしたシーンの切り替わりでは、それぞれの場所の雰囲気の違いが豊かに描かれる。これは、劇場やBD版でも十分にその場所ごとに異なる光と影のニュアンスが感じられたが、HDR化されたUHD BDはそれ以上の違いだ。あまりにも印象が異なるが、シーンの意図が変わってしまうのではなく、作り手が目指していた本来のイメージそのままという感じだ。

 たとえば、火星の基地内に射し込む温かみのある光、暗闇を照らすLEDライトの冷たい光、いずれも強い光なのだが、それぞれのニュアンスがはっきりと違う。そして、青く輝く地球の美しさ、NASAのあるアメリカや、中国、ロンドンといった世界の都市の描かれ方も極めてリアルなことに驚く。

UHD BD「エクソダス 神と王」は6月8日発売

 個人的に感じているHDRの魅力は、こうした強い光のニュアンスの違いがよく出ること。光の差し方だけで季節がわかってしまうような、見たままの印象に近い映像なのだ。UHD BDでは、「エクソダス 神と王」も発売予定だが、輸入盤を見た印象ではこちらもなかなかの出来。光と影による演出が巧みなリドリー・スコットの作品では、HDRはものすごく相性が良いと思う。

 光と影、つまり明暗のダイナミックレンジが広いだけではない。色の豊かさも肝心な要素だ。地球の空や雲の表情は格段に豊かだし、赤一色と言えそうな火星の大地も思った以上にカラフルだ。パナソニックでは、豊かな色を再現するための高画質エンジンとして、「ヘキサクロマドライブ」を搭載している。色の3原色(RGB)とその中間色(MYC)の6軸で色を制御する技術だが、暗部での色のくすみや明部での明るい色の階調まで精密に制御していることがポイントだ。

 だから、漆黒の宇宙空間でも色が抜けないし、太陽光を浴びて輝く宇宙船や船内の真っ白い壁も、形状や触った感触がわかるほどにニュアンスが豊かだ。4Kの高精細と、明暗のダイナミックレンジ、そして豊かな色、これらが高いレベルでバランスすると、映像のリアリティーが格段に高まる。これぞ、4Kコンテンツだと思う。

 4Kテレビの登場初期は、4Kコンテンツも高精細で撮影されただけだが、残念ながら解像度の高さはテレビの間近で見ないと伝わらない。テレビ売り場でちょっと遠目から眺める程度では4Kテレビの良さがわからないと感じていた。ここ最近の4Kテレビが売り上げも好調になっているのは、テレビとコンテンツの両方が解像度と明暗と色のバランスの高さを向上してきたためだと思う。これならば、遠目からでも明らかに今までとは異なる映像であると気付くだろう。

難航する救出ミッション、不屈の意志で生き抜く彼は、地球に生還できるか?

 彼のサバイバルは、次から次へと困難やトラブルが降りかかるし、救出ミッションも難航する。彼はそれでも不屈の精神で乗り越えていくし、彼を救出するためにNASAの面々も不眠不休で作業を進めていく。このあたりのテンポの良さは見事なもので、退屈する場面などまったくないほど全編が面白い。最終的には別人と思えるほどに痩せてしまうマーク・ワトニーだが、ひどく落ち込むこともあるが、決して地球へ生還することを諦めない。過酷なサバイバルであるのは間違いないのだが、それでも見ているのが辛くなるようなことはなく、持ち前の陽気さとディスコ・ミュージックが絶妙な愉快さを加味してくれる。

 退屈な時間を過ごすときに音楽は欠かせないものだが、残念ながら基地に残っていたのは船長の私物の音楽ファイルで、それがよりにもよってディスコ・ミュージックだった。まったく趣味ではない音楽に悪態をつきながらも、それでも基地内や移動する車両の中でディスコ・ミュージックが鳴っている。どの曲も40代以上の人ならば聴き覚えのあるヒット・チューンなので懐かしい感じもするし、その時のシチュエーションに絶妙に合った選曲がされているのも見事。なかでも一番好きなのは、デビッド・ボウイの「スターマン」。スターマンが空で待っているという歌詞に合わせて、救出ミッションが進んでいく様子はゾクゾクするほど感動的だ。

 当然ながら優れた音も欠かせない作品だが、今回はDX950の内蔵スピーカーでの試聴。その内蔵スピーカーの音質についても少し触れておこう。内蔵スピーカーは、下向きに配置された中高音ユニットと、低音用のウーファー、パッシブラジエーターを備えたもの。アンプ出力は40W+40Wだ。クセっぽさは少なく、ダイアローグは明瞭だし、中低音もわりとしっかりとしている。映像に比べると非力に感じるのは仕方がないが、テレビ放送のニュースなどの音声を心地良い音量で楽しめる、聴きやすい音だ。

 また、「バーチャル3DサラウンドIII」を採用しており、内蔵スピーカーだけでも擬似的なサラウンド再生が可能。画面の中央で聴いていると、広がり感や後方への音の回り込みはなかなか良好で、豊かな包囲感が得られる。ちょっと人の声にまでエコーがかかったような感じになるのが気になったが、残響の付加でもやもやと聴きにくくなることはない。これで十分などとは間違っても言えないが、冒頭の火星の嵐やクライマックスでの火星からのMAV打ち上げと宇宙船とのランデブーの雰囲気は味わえる。

 本作は派手な音響ではないが、場面の雰囲気をしっかりと伝えるリアルな音だし、いくつかある爆発の場面の迫力を味わうには、本格的なサラウンドシステムと一緒に楽しみたい。DX950を検討している人ならば、これは必要不可欠のオプションとして考えるべきだろう。

HDRの良さやUHD BDとの相性の良さは随一の完成度

 パナソニックは、UHD BDの規格策定にも積極的に加わっており、それはいち早くUHD BD対応プレーヤーを発売できたことからも明らかだ。DX950も開発段階で、UHD BDと足並みを揃えた画質のチューニングをしてきているはずで、実際、UHD BDソフトを見たときの映像の仕上がりでは、他社を大きく上回っていると思う。

 特にHDRの明暗のダイナミックさ、光のニュアンスの再現性は見事だ。当然他社も指をくわえて見ているわけではないので、今後の4Kテレビの高画質化に拍車がかかるのは間違いない。UHD BDという新メディアの登場で、4Kテレビの画質は一気に次のレベルへ到達した。その成果をいち早く味わえるのが、パナソニックのDX950シリーズというわけだ。

 念のため、パッケージに同梱されていた通常のBD版で、フルHD映像からの4Kアップコンバートの実力も確認してみた(DMR-UBZ1でアップコンバートせず、フルHD信号で出力)。精細感をあまり欲張らず、S/N感と自然さを重視した映像で、UHD BDの後では、特に遠景の見通しの良さや立体感に差を感じるが、他社の4Kアップコンバートと比べても大きな見劣りはない。こうした見やすさを重視したバランスは、パッケージソフトなどの質の高い映像は4K解像度のものが増えると考えたものだろう。地デジ放送などならば、ディテールを欲張らずにノイズをうまく抑える方が見やすいので、使い勝手は良いだろう。

 もちろん、UHD BDだけでなく、Netflixをはじめ、動画配信サービスへの対応も万全。アプリ形式なので、新サービスへの対応もできると思われる。今後、映像コンテンツは動画配信が主流になっていくと思われるが、こうしたインターネット機能についても以前からパナソニックは充実した機能を持っているので安心だ。

DX950の「アプリ一覧」の画面。Netflixをはじめ、各種の動画配信サービスに幅広く対応している

 薄型テレビの買い換えサイクルは7年ほどと言われているが、僕はバックライトにLEDを使ったタイプの液晶テレビは10年以上使えると考えている。つまり、今後薄型テレビの買い換えはもっと長くなるだろう。メーカーにとっては悩ましい面もあるが、良い製品を長く使えるのはいいことだ。DX950はかなり高額なモデルだが、長く使えるならば、そのぶん多少高くても良いのではないかと思う。HDRの完成度の高さや総合的な画質の実力的にも飛び抜けているので、数年で画質的に見劣りを感じてしまうようなこともないと断言できる。まずは店頭などで、今までの4Kコンテンツとは明らかに違う表現力の高さを確認してみてほしい。

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鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。