“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第553回:46倍ズームと強力手ブレ補正、パナソニックHC-V700M

~しかも広角28mm。ワイドから高倍率まで高画質~


■ビデオカメラの意義を問う

パナソニック「HC-V700M」

 デジタル一眼やミラーレス一眼でハイビジョンクラスの動画が撮れるようになるに従って、動画撮影のすそ野もずいぶん広がりを見せてきた。その一方で、じゃあ従来のビデオカメラって一体なんなの? という疑問が多くの人から湧いてくる。ビデオカメラはその答えを出さなければならない。

 パナソニックはその一つの答えとして、高倍率ズーム、そして高機能の手ぶれ補正を想定したようだ。この2月に発売された春モデルのうち、今回は単板でのミドルレンジとなる「HC-V700M」(以下V-700M)をお借りしている。店頭予想価格は11万円前後だが、ネットでは7万円強といったところだ。

 従来高倍率ズームは、画質にはこだわらない低価格モデルやSDモデルの得意技であった。というのも、昨今のトレンドはご存知のように広角なのだが、レンズ設計上、高倍率ズームと広角は両立できないからである。

 V700Mは、ミドルレンジモデルでありながら光学26倍、iAズームで46倍を実現、しかもワイド端は28mmである。まさに広さと倍率を実現したモデルだ。

 新開発のセンサーの能力と合わせて、高画質高倍率を実現したV700Mの実力を、早速テストしてみよう。



■大きなレンズを備えたコンパクトボディ

 パナソニックのこの春のラインナップだが、最上位モデルとして3MOSの「X900M」、その次に1MOSモデルとして「V700M」が来る。V700Mの内蔵メモリは64GBで、同機能でメモリー容量が32GBの「V600M」もある。そしてエントリーモデルがV300M、V100Mと並ぶ。

 さて今回のV700Mだが、売れ筋のミドルクラスとして色々新開発の部分が多いモデルだ。まずボディだが、前モデルの「TM90」とサイズ感やデザインテイストは近いが、マイクやLEDライトの位置が変更され、かなり設計が変わっていることがわかる。

 まずレンズは35mm換算で28.0~717.4mm(動画時)の光学26倍ズーム。テレ端で開放F値1.8と、高倍率にしてはかなり明るいレンズ設計となっている。レンズ脇にある穴は別売の3Dコンバージョンレンズ「VW-CLT2」(実売38,000円前後)に対応するためのものだ。3D撮影はサイドバイサイド形式となる。

ミドルクラスで高倍率ズーム、V700Mワイド端28mmながら光学で21倍ズーム

 広角で26倍を実現する秘密は、動くレンズ群が2つあることだ。レンズ全体で5群となっており、そのうち2群と4群を動かしてズームを行なう。これにより、従来よりも大幅に短いボディ内で高倍率ズームが可能になった。

 左下はビデオ用のLEDライト、レンズ上は静止画用のフラッシュだ。マイクは鏡筒部の上にある。なお上位モデルのX900Mでは虹彩絞りを搭載したが、V700M以下では従来型の菱形絞りである。

 さらにセンサー領域での読み出し領域を変え、超解像技術も用いてズーム領域を稼ぐiAズーム利用時では、トータルで46倍ズーム。35mm換算で1,288mmとなる。静止画で言ったら超望遠だ。

 それだけの望遠になると手ブレ補正が気になるところだが、今年春のモデルは昨年春モデルよりも手ブレ抑制度を10%アップさせている。さらに補正軸は、従来の縦横ひねり、縦横移動の4軸に加え、Z軸方向の回転も補正するようになった。もちろんZ軸はレンズシフトではなく、信号処理による補正である。これもあとで試してみよう。

 さらにセンサーも新しくなった。1/2.33型MOSで、総画素1,530万画素、そのうち動画の有効画素は258~355万となっている。 前モデルのTM90が1/4.1型で総画素約332万だったので、大幅に画素が増え、撮像面積も広くなった。

 高画素化すると一つ一つの画素が小さくなるので、動画撮影のように画素を間引いて絵を作る場合には感度が不利になる。そこで新センサーは、カラーフィルターとフォトダイオードの間にある配線層を薄くすることで、フォトダイオード受光部に光を入れやすくした。

 さらにフォトダイオードの体積を大幅に増やす事で、1つ1つの画素の感度を上げている。ただ画素が5倍近く増えているので、面積が広くなったことと画素感度が上がったことの2つの要素を足しても、相対的にはおそらく前センサーと同じぐらいの感度ではないかと思われる。

 液晶モニタは約46万画素の3型ワイド液晶。タッチパネルである。GUIは左端にまとまっている「くるくる回転メニューバー」が特徴的だ。昨年のモデルはレビューしていないが、GUIも若干変わっているようだ。

液晶内部にコネクタ類を集約画面左が「くるくる回転メニューバー」設定メニューは全画面取り切りとなった

 液晶内側には、HDMIやAVマルチ端子がある。外部マイク端子もここにあるが、そうなるとマイクを付けたまま液晶画面が閉じられない事になる。

 アクセサリーシューは、背面に別パーツを差し込むようになっている。ライト系は内蔵なので、外部マイクを使うというのが一番想定される使い方だが、常時必要としない人の方が多いので、取り外せるというのも一つの考え方だろう。

差し込み式のアクセサリーシュー取り付けるとシューだけ出っ張る

 バッテリは付属の標準タイプならボディにピッタリサイズになっている。充電器は付属せず、ACアダプタを繋いで本体充電となる。

撮影モード切り換えはスライドスイッチ式SDカードスロットは底面


■単板でも十分な解像感を実現

 ではさっそく撮影してみよう。パナソニックは三板ということで、正直単板のミドルレンジをなめていたところはあるのだが、光学ズーム領域での解像感はなかなか大したものだ。レンズ、センサー、画像処理のコンビネーションがよく、テレ側でのギッチリ感がすごい。

テレ側でもぎっちりした解像感発色もなかなか綺麗だ

 

【各モードの動画サンプル】

モードビットレート解像度/fpsサンプル
1080/60p28Mbps1,920×1,080/60p 
108060p.mts
(41.6MB)
HA17Mbps1,920×1,080/60i
ha.mts
(30.5MB)
HG13Mbps
hg.mts
(23.1MB)
HX9Mbps
hx.mts
(15.9MB)
HE6Mbps
he.mts
(11.3MB)
iFrame28Mbps960×540/30p
iframe.mp4
(48.4MB)
編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の
保証はいたしかねます。 また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますの
でご了承下さい。
【動画サンプル】
zoom.mp4(59.9MB)

28mmから1288mmまでの驚きのズーム領域
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 ワイド端28mmは昨年のモデルからすでにそうなっているが、そこからの46倍ズームはすごい。iAズーム設定でテレ端からワイド端の間をズームしてみたが、どこからが光学でどこからが電子なのか、映像を見るだけではその繋ぎ目はわからない。ストロークが長く、どこまで寄れるんだ、どこまで引けるんだという驚きがある。プロ用レンズならともかく、この小さなボディでこれだけのストロークを実現するというのは驚きだ。

 iAズームのテレ端は、光学のみの時に比べて多少拡大感はあるものの、色収差が少ないので救われる。若干の荒れを云々するよりも、これまで撮れそうになくて諦めていた距離の映像が撮れるというメリットの方が大きい。

 改良された手ぶれ補正は、これだけのテレ端でも十分に動作する。いくつかハンディで撮影してみたが、35mm換算で1,288mmを手で持っただけでここまで動画として撮れるというのは、まさにデジタル一眼ではできない撮影である。

 また、手ぶれ補正は三脚使用時にも役に立った。録画ボタンを押すときの揺れも吸収してくれるので、絵としての使いどころが拡がるというメリットがある。

 歩きながらの撮影でも、新しくZ軸方向の補正もできるようになったので、まるでレールを敷いて撮影しているようである。


【動画サンプル】
stab.mp4(37.5MB)
【動画サンプル】
stab2.mp4(29.4MB)

Z方向への補正も加わったことで、レベルが上がった手ぶれ補正三脚あり、三脚なしの撮影比較。ここまで揺れなければ三脚いらずだ
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 テレ端では、なかなかいいボケ味を見せる。ただ残念なことに、せっかくのいい絵も菱形絞りの影響で、ボケの形がソロバンの玉みたいな形になるのが残念だ。

 レンズはなかなか高コントラストで、逆光補正やコントラスト視覚補正を使うとフラットになってしまうので、勿体ない感じがする。もちろん人物撮影では威力を発揮すると思うが。

 フレアの出方はかなり派手だが、これぐらいの条件下では仕方がないだろう。フレアはカットの中で日差しの表現として使えるので、ある程度は許容すべきである。ただそれも菱形になってしまうので、あまりいい見てくれのいいレンズフレアとは言えない。

ボケ味もいいが、残念ながら菱形絞りの影響が出るレンズフレアも菱形なのが残念

 感度が気になったので、おまかせiAで室内撮影を行なってみた。さすがに60pでの撮影ではシャッタースピードが60から下がらないので、黒の部分で増感で稼いでいる感じが見て取れる。

【動画サンプル】
sample.mp4(197MB)
【動画サンプル】
room.mp4(57.9MB)

動画サンプル。iAズームのカットもあるが、編集しても画質変化はそれほど感じない
室内の感度はおまかせiAでは若干増感しすぎか
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 ろうそくでの撮影では黒はそこそこ落ちていて悪くないが、色味とコントラストが変だ。誕生日のシーンなどでろうそく撮影はアリだと思うので、もう少しこのあたりがフルオートで上手く撮れるようになると、ユーザーに喜ばれるだろう。



■隠れた人気機能、「おまかせムービースライドショー」

 では再生側の機能をチェックしてみよう。普通は撮影したらパソコンに取り込んで編集、ということになると思うが、パナソニックのカメラはそのあたりで若干他社と違ったアプローチを見せている。

 まず映像の取り込みだが、パソコンに接続するモードを選ぶと、カメラ内の映像は読み出し専用モードとなる。従ってWindows標準の画像の取り込み画面には、「取り込み後に削除」のチェックが出てこない。

 WindowsのAVCHDの取り込みは、AVCHDフォーマットのファイルストラクチャは無視して、内部のMTSファイルだけしか取り込まない。このため、「取り込み後に削除」を行なうと、カメラ内にファイルストラクチャだけ残って映像の本体がないという状態になる。パソコンへの取り込みでは削除させないようにすることで、カメラ内のデータの整合性が壊れないようにしているようだ。

「おまかせムービースライドショー」設定画面

 もう一つ、これは以前から入っているのだが、「おまかせムービースライドショー」という機能が実は結構利用されているという話を聞いたので、試してみた。これはシーンのハイライト部分を抽出して、自動編集してくれる機能である。

 子どもがいる家庭ではビデオをわんさか撮るのだが、撮りっぱなしになって、もうどうしようもない状態になる。だがこの機能を使うと、そこそこイイ感じに編集してくれて、しかもその結果を保存できるので、「もうこれでいいや」という家庭も結構あるらしい。

 やり方としては、4つのモードから演出を選択し、あとは使いたいシーンを選択するだけだ。シーンの選択では、撮影モード別、日付別、マニュアルで選択といった方法がある。


使いたいシーンをマニュアルで選択スライドショー条件を設定表紙もプリセットから選択可能

 マニュアルでシーンを選択して「ナチュラル」で自動編集してみた。編集マンの目から見れば一部分「なんでそこ?」というところもないわけではないが、そこそこ見られるように作ってくれる。

 出来上がったムービーは本体内に保存されるが、SDカードに書き出すこともできる。AVCHDかMP4かを選べるが、両方というわけにはいかないようだ。ここではいったんAVCHDで書き出し、別途コピー機能を使ってMP4に変換したものと両方を掲載しておく。

【動画サンプル】
00070.mts(89.8MB)
【動画サンプル】
s1010001.mp4(9.32MB)

AVCHDフォーマットで書き出したサンプルMP4に変換したサンプル
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい


■総論

 V700Mはコンパクトながら、高倍率ズームを実現した、なかなかやるじゃん、というレベルのカメラである。単板だが発色や解像感もいいし、機能的には最上位モデルとほぼ同じ機能が使えるところもメリットだ。

 46倍のiAズームはなかなか強力で、これまでは「まあ無理だろう」と諦めていたところにも届くだけの倍率になった。しかも手ぶれ補正がかなり効くので、三脚なしでも思いついた時にトライできる。

 ボケもそこそこ綺麗でいい絵が撮れるだけに、菱形絞りなのは残念だ。虹彩絞りは、まだ最上位モデルにしか載っていない。他社の特許に抵触しないように動的な虹彩絞りを後から設計するのは大変だったろうが、虹彩絞りの搭載は他社に比べて約3年遅れただけに、ここは中級クラスにも最初から載せて欲しかった。と、これだけしつこく書いとけば次は載せてくれるかもしれない。

 GUIとしては、「くるくる回転メニューバー」はなかなか面白いアプローチだ。単にタッチするだけではく、スライドさせるという操作を持ち込んだ点で評価できる。このスライド操作は、再生側のサムネイル操作ではよく見られていたが、撮影側で取り入れたのは珍しい。

 ただここに登録できる機能は限られており、充実のカメラ機能にアクセスするためには結局メニューに入っていかないといけないのがもどかしい。撮影補正機能だけをまとめたメニューバーが欲しいところだ。

 「おまかせムービースライドショー」は、ライトユーザーに評判が高い機能であり、パナソニックのカメラを買う一つの動機となっている。自動編集はこれまで多くのメーカーがトライしたが、一定の評価を得るまでには至らなかった。だが普通のユーザーから評判を聞くようになったということは、見えないうちにすそ野は広がっているということだろう。

 V700Mはポイントが地味なカメラなので、店頭でどれぐらい訴求できるかわからないが、虹彩絞りじゃないという点を除けば、満足度は高いカメラと言えるだろう。

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パナソニック
デジタルハイビジョンビデオカメラ
HC-V700M

(2012年 2月 15日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。

[Reported by 小寺信良]