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オーディオ機器“買う前に借りる”。フジヤエービックが挑むレンタルサービス

オーディオ機器は高価なものなので、“本当に自分が気に入る音なのか試聴してから買いたい”と思うのが普通だ。しかし、お店が遠かったり、目当ての製品が置いてなかったり、そもそも店員さんに「聴かせてください」と言い出すのも結構な勇気が必要だ。試聴のしやすさでは、都市部で大規模試聴イベントも時折開催されるが、そこに行くのもなかなか大変だ。

そんな状況を変えそうな気になるサービスが12月にスタートした。フジヤエービックの「お試しレンタル」だ。その名の通り、オーディオ機器を自宅で、ゆっくり試せるものだ。

フジヤエービックと言えば、東京の中野にあるオーディオ機器の販売店。「ヘッドフォン祭」などのポータブルオーディオイベントも主催し、ポータブルオーディオブームを牽引してきた立役者でもあるので、地方の読者にもお馴染みだろう。

しかし、“お店がレンタル?”“買わなくていいの?”と、疑問も浮かぶ。どんなサービスなのか、フジヤカメラ店 フジヤエービック 営業本部の石曽根誠統括部長、ONZOの知場啓志CEOに話を聞いた。

左からフジヤエービック 営業本部の石曽根誠統括部長、ONZOの知場啓志CEO

ヘッドフォン祭に来られないお客さんに……がキッカケ

中野サンプラザ

前述の通り、フジヤエービックは中野サンプラザで「ヘッドフォン祭」を長年開催しているほか、よりディープな「ポタ研」も開催、多くのポータブルオーディオファンを集めてきた。しかし石曽根氏によれば、「遠かったり、スケジュールが合わないなどで“行きたくてもイベントに行けない”という声は以前から多く頂いていました。かといって、地方での開催にも限度があります。レンタル事業の必要性を感じており、以前から模索はしていました」という。

そしてコロナ禍となり、一時はヘッドフォン祭のリアル開催も難しい状況に……。いよいよレンタル事業を、という状況になったが、やろうと思ってすぐ開始できるものではない。

「小売店がレンタル事業をやるというのは、解決すべきハードルが高く、お客様にご迷惑をおかけせず、スムーズなレンタルサービスを実施するには、システムや人員も含めてしっかりとした体制を整えなければならなかったのです」(石曽根氏)という。

そこに現れたのが、既に月額2,046円で様々なオーディオ機器が“借り放題”のオーディオサブスクサービスを既に提供している、ONZOの知場氏だ。

ONZOは、自社でオーディオサブスクサービスを提供している一方で、新たなサービスとして、フジヤエービックのように既に事業を行なっているECサイトに、“レンタルサービスを追加する”ソリューション「marvle(マーブル)」を立ち上げていた。

知場氏は、ONZOが提供する“サブスク”と、marvleが提供する“レンタル”では、製品を借りるのは同じだが、「提供する価値が異なります」と語る。

「サブスクは、“いろいろある製品を、沢山聴いてみたい”という方が多く、使いたい時にだけその製品を使う“シェアリング”のイメージです。一方でレンタルは、製品に興味を持っている方が“買うかどうかわからないけど、とりあえず聴いてみたい”からレンタルする。その結果、気に入ったら購入を検討する……つまり“レンタルを起点として販売に繋げる”という試みで立ち上げたのがmarvleです」(知場氏)。

ユニークなのは、marvleという名のレンタルサービスがスタートするわけではない事だ。「marvleはあくまでイネーブラー、黒子のような存在で、既に存在しているECサイトさんの、機能を拡張してレンタルサービスを追加していただくものです」(知場氏)。

家電のレンタルとしては、既にRentio(レンティオ)など、幾つかのサービスが存在するが、それらは自身のプラットフォームでレンタルサービスを提供している。一方で、marvleは、フジヤエービックのようなECサイトを窓口として、そこにレンタル用プラットフォームを提供する企業向けのサービスだ。

つまり、我々消費者はmarvleを意識せず、フジヤエービックのECサイトで、イヤフォンを買うのと同じ感覚で、「このイヤフォンをレンタルする」を選ぶとレンタルできる。そして、実際のレンタルサービスは、フジヤエービックに代わって、既にオーディオサブスクでノウハウを持っているONZOのスタッフが提供する……という仕組みだ。

フジヤエービックのECサイトで商品を表示したところ。右下に販売価格が記載されているが、さらに下に「お試しでレンタル」ボタンが登場している。ここからレンタルの手続きができる

知場氏は、「ONZOのようなスタートアップにとって、乗り越えなければならない大きなハードルは“在庫を抱えるリスク”です。そこで、既に在庫を持ち、ECサイトをやられている方々に、レンタルのプラットフォームを提供し、商品のスタイルを変えていただこうと考えたわけです」と語る。

一方で、フジヤエービックは商品の在庫を持っているが、レンタルサービスの体制構築がハードルだった。両者が出会った事で、フジヤエービックがmarvleを使い、レンタルサービスを開始する事になった、というわけだ。

「秋のヘッドフォン祭 2022」で披露されたAstell&KernのハイエンドDAP「A&ultima SP3000 Silver」。この製品もレンタルサービスの対象

具体的には、レンタルサービスを実施するモデルにおいて、フジヤエービックの在庫から“レンタル用”としてONZO側に製品を貸し出す。フジヤエービックのサイトでレンタルのオーダーが入ると、ONZOがユーザーへと発送。ユーザーから戻って来たら、クリーニングなどを行ない、次のレンタルオーダーを待つ……という流れだ。

レンタル商品が厳重に梱包してユーザー宅へ
返送は同封の返送用伝票で
戻ってきたレンタル品はしっかりクリーニングされ、新たなレンタル先へ

サービス開始時のレンタル商品のラインナップは後述の通り。配送料は無料。試した結果、気に入り、購入したいと考えた場合は、レンタル品を買うのではない。その製品の新品をフジヤエービックで購入する際に、レンタル料金分がお得に買えるクーポンがプレゼントされる。つまり“買うとなった場合は、レンタルした代金が実質無料になる”というわけだ。

石曽根氏はラインナップについて、「例えば低価格な完全ワイヤレスイヤフォンなどは、量販店さんでも試聴できます。人気モデルはもちろんですが、フジヤエービックならではのラインナップとして、高価だったり、希少価値の高い製品も試せるようにしていきたいと考えています」と語る。

「ラインナップする際は、オーディオメーカーさんに『この商品でレンタルをします』と確認をとってからスタートします。来年初頭には、聴く機会が少ないカスタムイヤフォン試聴(ユニバーサルタイプでの試聴)も開始したいですね。カスタムをオーダーする前に、家でじっくり聴いていただき、気に入ったらお店に来ていただいたり、例えばヘッドフォン祭のブースで型採りをして、オーダーしていただくのも良いかもしれません」

人気商品でも、いずれは販売終了となる。そうすると、自ずとその商品のレンタルサービスも終了となるのだが、その際には、フジヤエービックがリユース、つまり中古の買取販売も実施している事が強みになる。レンタルが終わった商品を、中古品の在庫として活用できるわけだ。

AVファンの“製品選び”の味方に

ヘッドフォン祭などを取材していると、注目製品の試聴に長い列が出来たり、整理券が配られたり、3分間など試聴時間が制限される光景をよく目にする。少しでも多くの人に聴いてもらうために必要な事だが、もう少しゆっくり聴きたかったとか、開放型なのでまわりが騒がしいとイマイチ音がわからなかった……なんて事もあるだろう。

しかし、レンタルサービスがあれば、例えば「ヘッドフォン祭で発表した新製品、自宅でじっくり聴きたい人は今日からレンタル可能なので利用して」というような提案も可能になるかもしれない。

遠くてイベント行けないけれど、ニュースやSNSで気になっていた製品をゆっくり試せる、というのはAVファンには朗報だ。現在はポータブルオーディオ機器がメインだがユーザーからの要望も踏まえて、レンタルラインナップは拡充される予定。製品選びのツールとして活用できそうだ。

「お試しレンタル」紹介ページ

【12月サービス開始時のラインナップと7泊8日時の料金】

  • Astell&Kern A&futura SE180 SEM1 Moon Silver 8,500円
  • Astell&Kern A&norma SR25 MKII Dark Silver 5,800円
  • Astell&Kern A&ultima SP2000T Onyx Black 13,000円
  • Astell&Kern A&ultima SP3000 Silver 19,800円
  • Astell&Kern KANN MAX Anthracite Grey 8,500円
  • Astell&Kern AK ZERO1 4,500円
  • qdc Dmagic Solo 2,700円
  • Astell&Kern×Campfire Audio PATHFINDER 13,000円
  • qdc TIGER 10,000円
  • ULTRASONE ISAR 2,700円
  • ULTRASONE METEOR ONE 2,700円
  • ULTRASONE edition15 13,000円
  • ULTRASONE Signature MASTER 7,000円
  • ULTRASONE Signature NATURAL 5,500円
  • ULTRASONE Signature PULSE 5,000円
  • Astell&Kern ACRO CA1000 Moon Silver 11,000円
  • Chord Electronics Hugo 2 Silver 14,000円
  • Chord Electronics Mojo 2 Black 6,000円
  • Astell&Kern HC2 2,700円
  • Chord Electronics Poly Black 4,500円
  • Chord Electronics CHORD 2go Silver 7,500円
  • Chord Electronics CHORD 2yu Silver 5,000円
山崎健太郎