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マランツの“ぶっ飛んだミニコンポ”に、別格の“Hi-Fi兄貴”登場。「MCR 60n」が凄い

マランツ「MCR 60n」

AV Watchを長年読んでいる読者は、ミニコンポ市場に異彩を放つモデルがあるのをご存知だろう。オーディオメーカーのマランツが、ミニコンポなのにピュアオーディオとして本気で作り込み、ステレオアンプなのに何故か4chもアンプ搭載したバケモノ「M-CR612」だ。

マランツ「M-CR612」

発端は2008年発売の「M-CR502」。当時店頭では、他社のミニコンポが派手なドンシャリサウンドやデザインで競っていたが、「他社のようにセールス活動にお金かけられないし、ぶっちゃけそんなに売れないだろうから、どうせなら“マランツらしいものを作ろう”」と、単品コンポのつもりで開発し、ステレオコンポなのに4chアンプを搭載。2ウェイスピーカーのツイーターとウーファーを別々のアンプで、バイアンプ駆動できる製品として投入した。

社内から「そんなミニコンポ売れるわけない」という声が挙がる中、音質にこだわるユーザー達が目をつけ、販売台数が徐々に拡大。海外では販路の関係で、音質をちゃんとチェックができるオーディオショップに置かれた事もあり、人気が爆発。2015年に発売されたM-CR611では、音質をちゃんとチェックできるオーディオショップにたくさんおかれた事もあり、人気が爆発、大ヒットモデルに。

そして現行機種「M-CR612」は、4chアンプをフルに活用したパラレルBTLドライブまで可能になった。“爪痕を残そうとフルスイングしたらホームランになった”みたいな話だが、決してまぐれ当たりではない。「小さくても音の良い一体型コンポが欲しい」と思っている消費者が沢山いたから実現した偉業と言えるだろう。

M-CR612の兄貴分となる、新製品「MCR 60n」

そして、そんなユーザーから「もっと凄いモデルを作って欲しい」という声が届く。そう言われたら作るしかない。前置きが長くなったが、今回聴くのは、M-CR612の上位機種、その名も「MCR 60n」(176,000円)。すましたデザインに騙されてはいけない。中身はM-CR612を超えるバケモノだ。なお、このカテゴリーの製品では珍しい5年保証がついている。

新たな筐体に、機能を満載

MCR 60n

MCR 60nの中身を見ていこう。

280×303×111mm(幅×奥行き×高さ)というコンパクトな筐体に、アンプ、CDプレーヤー、ネットワーク(HEOS)、Bluetooth、USBメモリー再生、FM/AMラジオ、HDMI eARC/ARCによるテレビ音声再生、MMカートリッジ対応Phono入力まで搭載している。要するに、MCR 60nとパッシブスピーカーがあれば、CDから配信音楽、レコード、テレビの音まで楽しめる。

外観はM-CR612とは違う、まったくの新規デザイン。どちらかというと、マランツが既に発売しているCD無しのネットワークアンプ「MODEL M1」を少し大きくしたような印象だ。

MCR 60n

MODEL M1と同様に、天面は「Waved Top Mesh」と呼ばれる、ステンレス製のメッシュで構成。底面にもスリットを設け、そこから取り込んだ空気を、天面メッシュから放出して放熱する。小さな筐体に強力なアンプと多機能を搭載しているので、放熱にも工夫が施されている。

天面は「Waved Top Mesh」
底面。樹脂筐体であっても密閉構造にしないこだわりで、外周のスリットから空気を取り込んでいる。インシュレーターは、筐体内部のスチールシャーシに取り付けられており、外に見えている底板は樹脂のカバー

CDプレーヤーは、CD-RやCD-RWに記録したMP3ファイルやWMAファイルも再生できる。Hi-Fiオーディオで培ってきた技術を活かし、ディスクに記録された信号を高精度で読み取るという低重心ドライブメカを採用している。

HDMI eARC/ARC端子でテレビとHDMI接続すると、テレビ放送の音をMCR 60n + スピーカーから再生できる。Netflixなどの配信サービスで映画を見る時や、ゲームでも活用できる。

背面。HDMI eARC/ARC端子も備えている

サンプリング周波数は192kHzのリニアPCM信号(2ch/7.1ch)に加え、7.1chまでのDolby Digital信号も入力可能だ。入力信号にサラウンド処理を行ない、ステレオスピーカーで臨場感豊かなサラウンドサウンドを再生するバーチャルサラウンドも利用できる。

HDMIコントロール機能(CEC)にも対応しているので、ボリューム操作など、基本的な操作はテレビのリモコンからも可能。家族がAV機器の操作に慣れていない時でも、MCR 60nを活用できる。

テレビとも組み合わせられる

ネットワークオーディオの「HEOS」を搭載。ストリーミングサービスやインターネットラジオ、NASやパソコン、USBメモリーに保存した音源も再生できる。配信サービスはAmazon Music HDやAWA、Deezer HiFi、Qobuz、Spotify、SoundCloudなどに対応。Roon Readyにも対応する。再生対応ファイルは、DSDが11.2MHzまで、PCM系は384kHz/24bitまで。

AirPlay 2やBluetoothもサポート。受信だけでなく、Bluetooth送信もできるのが便利。例えば、深夜に家族が寝たあとで、テレビで見る映画のサウンドを、MCR 60nからBluetoothヘッドフォンに送信する事も可能だ。ワイドFM対応のFM/AMチューナーも搭載する。

MM型のカートリッジに対応するフォノイコライザーを搭載するのも見逃せないポイント。マランツらしく、音にもこだわっている。フォノイコは、レコードからの小さな信号を増幅するため、高いゲインを持つが故に、周辺回路からのノイズの影響を受けやすい。そこで、フォノイコライザーを他の回路から独立した基板上にレイアウト。回路全体をシールドケースで覆って、ノイズの影響を受けないように工夫している。

フォノイコライザー(MM)搭載で、レコードプレーヤーとも接続できる

注目のアンプ部

MCR 60nの内部で再注目はアンプ部だ。M-CR612譲りの強力なアンプ部を、上位モデルとしてさらに進化させているからだ。

具体的には、M-CR612よりも、新しいデジタルアンプ・ソリューションを採用。さらに、アンプの“要”と言っていい電源部を、M-CR612よりも大幅に強化している。簡単に言えば、“アンプとしての格”が上がったカタチであり、力強さや、豊かな表現力を追求すると共に、大音量で再生しても電源電圧が低下しないようになり、余裕を持ってスピーカーが駆動できるようになったという。

これに加え、ローパスフィルターに専用設計のOFCインダクターを搭載する事で、可聴帯域における歪率も改善。透明感も高めたそうだ。

定格出力は65W + 65W(4Ω)。2chのアンプだが、8chのデジタルアンプ・ソリューションを搭載しているのはM-CR612と同じだ。スピーカー出力としては4ch分を搭載し、そのすべてに対して、1chにつき2つのアンプを用いるBTL方式で駆動している。つまり“デフォルトがBTL駆動で、それが4ch分あるアンプ”というわけだ。

デフォルトがBTL駆動になっている

4ch分の出力があるので、接続するスピーカーがバイワイヤリング対応の場合は、高域用と低域用のスピーカーユニットを、それぞれ個別のアンプで駆動するバイアンプ駆動が可能だ。この方式の利点は、大きく振幅するウーファから発生してしまう逆起電力が、戻ってきて、ツイーターに影響を与えるのを防げ、音質向上が期待できる。

バイワイヤリング対応スピーカーの、ターミナル部分

ただ、このバイアンプ駆動ができるのは、接続するスピーカー側がバイワイヤリング接続に対応している場合のみ。では、シングルワイヤリング接続しかできないスピーカーでは、4chスピーカー出力の内、2ch分が“宝の持ち腐れ”になってしまうのかというと、そうではない。2chを遊ばせないモードが「パラレルBTLドライブ」だ。

シングルワイヤリング接続のみのスピーカーはこのようになっている
上がバイアンプ接続の模式図。下がパラレルBTLの図

どのような接続かは、図を見るとわかりやすいが、接続は2chのシングルワイヤのまま、残りの2chを加勢させるような接続となり、アンプの駆動力をさらに増強。スピーカー駆動力の指標となるダンピングファクターは、通常のBTLドライブに比べ約2倍となる。

単品コンポとMCR 60nを聴き比べる

このように、機能やアンプの特徴としては、M-CR612と似ているものの、HDMI eARC/ARCを新たに追加し、アンプと電源のグレードも大幅強化。筐体デザインもまったく異なるカタチになったのがMCR 60nと言える。M-CR612の上位機という位置づけではあるが、M-CR612の“小型なミニコンポなのにパワフル”というエッセンスを踏まえて、新開発された“省スペース一体型Hi-Fiコンポ”と言ったほうが正しいだろう。

そのため、MCR 60nがM-CR612よりも高音質なのは当たり前だ。MCR 60nが競う相手は、もはや単品コンポではないか。そこで、マランツの単品コンポ6000シリーズから、プリメインアンプ「PM6007」(82,500円)、CDプレーヤー「CD6007」(68,750円)を用意。MCR 60nと聴き比べてみた。

左からプリメインアンプ「PM6007」、MCR 60n
CDプレーヤー「CD6007」

使用するスピーカーは、バイワイヤリング対応のBowers & Wilkins「805 D4」。

Bowers & Wilkins「805 D4」

まず、アンプはPM6007、CDプレーヤーはCD6007を使用。805 D4に、付属のジャンパーケーブルを取り付け、シングルワイヤリングで聴いてみる。CDで再生するのは、デンマークのジャズ・ボーカリスト、シーネ・エイの「We've Just Begun」だ。

評価の高い6000シリーズだけあり、サウンドは本格的なHi-Fiだ。冒頭トランペットの音はグッと前にせり出し、ウッドベースの中低域は肉厚でパワフル。音の質感は全体的に柔らかめだが、身を任せたくなる心地良さがある。

では、MCR 60nで鳴らすとどう変わるだろうか? スピーカーのジャンパーケーブルはそのままで、シングルワイヤリング接続。MCR 60nのアンプモードは、4chの出力をフル活用するパラレルBTLドライブを選択した。

パラレルBTLドライブモードを選択

音を聴くまでは、「いくらMCR 60nが最新機種だからと言って、相手は単品コンポだから、さすがに6000シリーズの方が上手だろう」と思っていたのだが、MCR 60nの音が出た瞬間に呆気にとられる。

冒頭のトランペットが「スパーンッ」と鋭く、クリアで、トランジェント良く飛び出してくる。ウッドベースの低音にも締りがあり、沈み込みも深い。ボーカルやホーンセクションの輪郭も明瞭で、高音も気持ちよく突き抜ける。一体型の強みなのかもしれないが、音の解像度の高さや、鮮度感においては、MCR 60nの方が勝っていると感じる。電源を大幅に強化した効果も実感する。

さらに驚くのは、音場の広さだ。一般的に、小型の一体型コンポは音場も狭くなりがちなのだが、MCR 60nではそのような弱点がまったく見当たらない。トランペットやボーカルの響きが、左右だけでなく、後方の空間にも広がっていく様子がよくわかる。非常に開放的なサウンドなのだ。

ローパスフィルターの改良も効いていると思われるが、天面をステンレス製メッシュにした筐体構造も、この開放的なサウンドに寄与しているのだろう。

バイアンプ接続も試す

では、バイアンプ駆動になると、どう変化するか。805 D4のジャンパーケーブルを外し、MCR 60nの4ch出力を活かし、ツイーターとウーファーを、個別のアンプでバイアンプ駆動してみた。

サウンドは“激変”と言って良い。情報量がアップし、ベースの弦の動きや、ボーカルの口の開閉など、音像の細かな部分がクッキリと聴き取れる。ドラムのハイハットを、かすかな音で「チンチン」と優しく叩くスティックの動きも目に見えるようにクリア。ジャンパーケーブルによって、解像度が低下していたことが如実にわかる。これを一度聴いてしまうと、ジャンパーケーブルには戻れないというくらいの違いがある。

HEOSでネットワーク再生もテスト

次に、HEOSのネットワーク再生機能を使い、Qobuzから「米津玄師/IRIS OUT」も再生したが、広大な空間に、コーラスやSEなど、様々な音が広がり、それらが明瞭に定位する。解像度の高さだけでなく、ベースの低域に押し出しの強さ、ズンズンという沈み込みの深さがあるため、疾走感の中にも安定感がある。

フロア型の「801 D4」は、開発時のチューニングでも使われた
801 D4をMCR 60nでバイアンプ駆動
マランツのサウンドマスター・尾形好宣氏

805 D4を難なく鳴らしてくれたので、現実的な組み合わせではない価格差だが、フロア型の「801 D4」も接続してみよう。というのも、マランツのサウンドマスター・尾形好宣氏は、チューニングの時には801 D4を使っていたそうだ。接続はバイアンプのままだ。

「Submotion Orchestra/Variations」を聴くと、10インチのウーファー×2をしっかりと駆動し、ズシンと量感のある低音を出していて驚く。不必要に膨らまず、キレの良い低音であり、ユニットをしっかりと制動できている。

10万円台の一体型コンポで鳴らしているとは、到底思えない。電源強化がアンプにとって、非常に重要だというのがわかる。

最後に、HDMIを使って、ライブBlu-rayも楽しんでみよう。サントリーホールで録音された、ジョン・ウイリアムズの「John Williams in Tokyo」から、お馴染み「帝国のマーチ」を再生した。

HDMIからの再生でも、サウンドはクリアで、音場も広い。オーケストラを聴くと、MCR 60nの総合力の高さがよくわかる。音の広がりや、観客席の拍手などから、ホールの空間の広さが伝わってくる。その空間に、楽器がズラッと広がり、それらの音像もシャープに描写する。それでいて、音がバラバラにはならず、まとまりの良い音楽としてグッとこちらに迫ってくる“熱さ”もある。アンプの駆動力が高いだけでなく、解像度の高さ、SN比の良さといった部分も、高いレベルを実現している。

MCR 60nはどんな人にオススメか

MCR 60nを購入したら、最初はブックシェルフスピーカーと組み合わせる人が多いと思うが、そこから、大型のフロアスピーカーにステップアップしても、十分対応できる駆動力をMCR 60nは備えている。そういった意味で、オーディオの世界へ、気軽に入れる一体型Hi-Fiコンポとしてオススメしたい。

同時に、“使いやすさ”“わかりやすさ”もMCR 60nの魅力だと感じる。例えば、マランツには、CDプレーヤーは搭載していないが、HEOSやHDMIを備えた「MODEL M1」というよりコンパクトなHi-Fi一体型コンポもある。

MODEL M1は、スマホなどのHEOSアプリからの操作を前提としており、本体に電源ボタンも無い。どちらかというと、スマホやタブレットに慣れた人にマッチするコンポだ。

MODEL M1

一方のMCR 60nは、HEOSアプリからの操作もできるが、リモコンが付属するし、本体の操作ボタンも充実している。写真だとわかりにくいが、天面に備えたボリュームボタンは、プラスとマイナスで少しだけボタンの高さが変えられており、指先に伝わる感触だけで「あ、こっちがボリュームアップだな」というのがわかるようになっている。

MCR 60nに付属するリモコン
天面のボリュームボタン。プラスとマイナスで若干高さが異なる

フロントパネルには、タッチ操作だが、シンプルでわかりやすいアイコンで「再生/一時停止」や「トレーオープン/クローズ」などが並ぶ。この、直感的に手を伸ばして操作できるわかりやすさ、使いやすさは、MCR 60nの大きなポイントだ。

アイコンにタッチして、CDトレーをオープンし、配信されていない音楽CDをケースから出してトレーに乗せる……といった作業も、「これから音楽を楽しむぞ」という気持ちを盛り上げてくれる。こういった作業も含め、オーディオ趣味を楽しみたいという人にも、MCR 60nは魅力的だろう。

もちろん、前述の通り、単品コンポを組み合わせたシステムと比較しても、負けない音質も大きな魅力だ。レコードプレーヤーを追加して、よりディープに音楽を楽しんだり、テレビとHDMI接続し、2chでホームシアター化したり、ゲームのサウンドを強化するような使い方もできる。小型の一体型だから……と、何かを諦める必要がない。“万能でディープ”なのが、MCR 60nの特長だ。発売日が10月2日なので、気になる人は週末にお店で聴いてみてほしい。

山崎健太郎