レビュー
小さいのに超パワフル、マランツ個性派ミニコンポ「M-CR612」に驚く
2022年7月8日 08:00
この数年、音楽との距離がとても近くなった人は多いだろう。その最たる理由が、定額制の音楽ストリーミング配信サービス(音楽サブスク)の登場。そこにコロナ禍が重なり、増えたおうち時間に「気軽に音楽を楽しもう」と音楽サブスクに加入し、スマホで毎日好きな楽曲を聴こうと考えるのも自然な流れといえる。
しかし、せっかくの音楽をスマホのスピーカーで聴いているならもったいない。いくら高音質を謳う端末でも、所詮は“スマホの音”の域を出ない。スマートスピーカーやBluetoothスピーカーを使う手もあるが、多くはモノラルでサイズもコンパクト。スマホよりは高音質だが、音質に限界がある。聴いているうちに「もっと迫力のある音で楽しみたい」とさらに上を求めたくなるだろう。
そんな、“音楽を気軽にいい音で楽しみたい”ニーズにハマる製品が、マランツのミニコンポ「M-CR612」(99,000円)だ。小型で価格が手ごろで使い勝手にも優れていながら、オーディオ好きをも唸らせる機能を備えて音が良い。そんなM-CR612のグッとくるポイントを、実際に使いながら紹介しよう。
ミニコンポなのに高級オーディオ並の機能と性能
M-CR612は、幅280mm×奥行303mm×高さ111mmとコンパクトなボディでありながら、CDプレーヤー、ハイレゾ音楽ファイルプレーヤー、ハイレゾ対応ネットワークプレーヤー、インターネットラジオ受信機、Bluetoothレシーバー、AM/FMチューナー(ワイドFM対応)、光デジタル入力、フルデジタルパワーアンプを内蔵している。1台でどんな楽しみ方もできる、オーディオの入門に最適なオールインワンコンポと言える。
小さいので“音質も入門用”と思われるかもしれないが、それは大間違い。M-CRシリーズは、老舗ピュアオーディオブランドのマランツが、“マランツブランドを冠する最小システム”として音質、機能、サイズにこだわっており、そのコンセプトがウケて、人気シリーズになっている。
歴代モデルのいずれも、ミニコンポ市場で高いシェアを獲得しており、一世代前の「M-CR611」は2年以上もトップを堅持していたそうだ。今回紹介するM-CR612は、熟成をさらに重ねたシリーズ5世代目。上級機の開発で培ったノウハウを惜しげもなく投入し、フルサイズの本格オーディオに引けを取らないほど音質と機能を強化したことが高く評価され、2019年の発売以来、常に圧倒的なシェアを誇る大ヒットモデルとなっている。
先にも述べたように本機は、機能てんこ盛りだ。そのため、魅力は書き尽くせないほど多いが、ここでは敢えて次の3点を挙げたい。
- (1) 上位機譲りの高性能アンプを搭載
- (2) ハイパワー出力の「パラレルBTL」に対応
- (3) HD対応の音楽サブスクを気軽に楽しめる
1つ目のポイントは搭載する高性能アンプ。出力は最大60W+60W(6Ω)と、このサイズでは最強クラスを誇る。回路が左右対称のフルバランスかつフルデジタル仕様のため、CDやストリーミング配信などのデジタル信号を入力から出力までをデジタルのまま処理する。途中にアナログ変換を挟まないため、情報の損失がない。これが、音の鮮度の高さに大きく寄与する。このハードの能力を引き出すために活用されたのが、同社が誇る最上位プリメインアンプ「PM-10」をはじめとする高級機の開発で培ったノウハウだ。
とりわけ、徹底しているのが低ノイズへ対策。これまで、パワーアンプを制御するPWMプロセッサーの電源を他の回路と共有していた。これを独立させ、ローノイズタイプとすることで電源からくるノイズを低減させた。また、CD再生用のクロックには高級SACDプレーヤーと同じ位相低雑音クロックを採用。メイン基板とネットワーク基板に低ESR(等価直列抵抗)の電解コンデンサーを用いるなど、価格を考えるとあり得ないほどの充実ぶりだ。
「パラレルBTL」によりスピーカー選びの幅が拡がる
続いて、2つ目のポイントが「パラレルBTL」への対応だ。2chのアンプなのだが、なんと8ch仕様のアンプICを搭載している。これを、BTL接続(ブリッジ接続)することで、左右2組ずつ合計4系統のスピーカー出力とした。BTLとは2ch分の出力をブリッジしてモノラルアンプのように1系統で駆動させる方式で、出力や音質を高める効果がある。つまり、ノーマル状態で既に高い駆動力を有しているわけだ。
このBTL状態の2系統を並列(パラレル)化し、1系統で出力するのが「パラレルBTL」である。4組のアンプの能力をフル活用することで、余裕を持ってスピーカーを駆動できるのが利点だ。他にも、4組のアンプそれぞれで左右チャンネルの低域と高域をそれぞれ駆動するバイアンプ(バイワイヤリング)接続や、4台のスピーカーそれぞれに出力するマルチアンプもサポートする。
パラレルBTLのメリットはまだある。組み合わせるスピーカーの幅がグンと拡がるのだ。
パラレルBTLはスピーカー側の端子が1組のシングル接続でOK。バイアンプはツイーター用端子とウーファー用端子それぞれにケーブルをつなぐ、バイワイヤリング接続で利用する。一般的にシングル接続のスピーカーは比較的安価で、店頭価格がペア1万円台から選べる。対するバイワイヤリング接続対応スピーカーはシングル接続のスピーカーより割高なうえ、ケーブルも2セット必要。バイアンプ駆動させるにはややハードルが高いといえるだろう。
それが、パラレルBTLの対応によって、シングル接続のスピーカーでもパワフルに駆動できるようになった。つまり、無理してバイワイヤリング対応スピーカーを買わなくても、シングルワイヤリング・スピーカーであっても、8chアンプをフルに活用できるようになったわけだ。
超便利なHEOSアプリはオーディオ入門者こそ使うべき
3つ目のポイントは、HD対応の音楽サブスクを気軽に楽しめること。M-CR612は、デノン/マランツが開発したワイヤレスオーディオシステム「HEOS」テクノロジーを搭載する。これにより、スマホやタブレットのHEOSアプリをコントローラー代わりに、ホームネットワーク上にある音楽ファイルや音楽サブスクサービスを再生できる。対応する音楽サブスクは定番のSpotifyやAWA、そして6月より追加料金なしでHD楽曲を楽しめるようになったAmazon Music HDなどがある。
HEOSアプリの設定と操作は本当に簡単だ。本機とスマホを同じWi-Fiに接続し、アプリを起動する。自動でネットワーク内の対応機器を検出してくれるので、そこから「M-CR612」を選び、「ミュージック」タブに切替える。再生可能なサービスやソースが表示されるので、ここからサービス→曲やプレイリストの順で選んでいくだけ。音楽再生に係わる操作はほぼアプリで完結できる。レスポンスも上々で、それこそ音楽サブスクアプリのように画面上からストレスなく操作が可能。オーディオ入門者こそHEOSを活用すべきだ。3つのポイントを紹介したところで、いよいよM-CR612のサウンドを確かめていこう。
パラレルBTLで劇的に音質アップ
試聴は筆者の自宅で行なった。スピーカーには、バイワイヤリング接続に対応するBowers & Wilkins(B&W)の「607 S2 Anniversary Edition」(607 S2 AE)を組み合わせた。サイズや価格でマッチしているのもあるが、ノーマル/パラレルBTL/バイアンプの駆動の違いを確かめる狙いもある。
自宅内の複数の場所で試したが、実際の利用シーンをイメージして、リビングで本棚として使っているラックの上に置いて、主にテストした。ただし、スピーカー直置きだと振動でラックが共振するため、インシュレーターを用いている。
いざ置いてみると、品の良いデザインとカラーが北欧系を意識した我が家に驚くほど馴染んでいる。インテリアにこだわりのある家族も、「落ち着きがあって可愛くて、このままここに置いておきたいくらい」とデザインを絶賛していた。
まずは、「ノーマル駆動」で本機の実力を探っていきたい。再生したのは、ブルーノ・マーズのCD『24K Magic』から表題曲。ボーカルとコーラスが幾重にも重なったイントロは、再生力に乏しいと音が混ざって聴こえやすいが、本機は1つ1つの音が情報量に富みクリアー。トランジェントの高さも相まって音の濁りが一切感じられない。ベース音はややタイトで弾むように、リズムを刻む。高域は滑らかに伸び、刺さるような感覚はない。また、音の定位が明瞭で、ボーカルがスッと前に位置し、その周囲を他の音が包み込む。まるで目の前にステージがあるようだ。
続いて、同じくCDでビル・エヴァンス・トリオの名盤『Waltz For Debby』から1曲目の「My Foolish Heart」を再生する。ハイレゾ音源かと思うほど音の鮮度が高い。音の定位が的確なため、ピアノの繊細で生々しい音色が空間に広がるように感じられる。他にも数曲を聴いたが、いずれも音がクリアーで滑らか。
ノーマル駆動のまま、ソースをAmazon Music HDに切替えて『Waltz For Debby』を再生する。この曲は96kHz/16bitのいわゆるハイレゾ音質で配信されている。CDと比べて音の密度感がグッと増す。空間もスッと広くなり、没入感が高くなった。この曲はライブを収録したものだが、時折聞こえる観客の談笑や食器の当たる音がCDではノイズのように思える場面があったが、こちらではリアルに感じられる。この違いをしっかり描き分けられるほど、素の性能が高いことが分かった。
ここからは、Amazon Music HDのソースを中心に聴き比べることにした。まず聴いたのが、9月15日に配信がスタートしたばかりのYOASOBIの新曲「大正浪漫」(96kHz/24bit)。小説「大正ロマンス」を題材にした楽曲で、YOASOBIらしい軽快な曲調で切ない恋模様を描いている。こういう新譜をすぐ聴けるのが、音楽サブスクの醍醐味だ。ノーマル駆動のサウンドは、中高域のきめが細かく、ボーカルは滑らかで透明感がある。バックでは締まりのあるバスドラムとピアノが跳ねるように奏でられ、軽快さを形作っている。サビの後から入るバンドネオンの質感が秀逸で、軽くなりがちな音にしっかりと芯を持たせている。
続いてノーマル駆動のままTVアニメ「東京リベンジャーズ」のOPテーマでOfficial髭男dismの「Cry Baby」(48kHz/24bit)を聴く。非常に転調が多いのが特徴で、さまざまな表情を確認できる。低域から高域までのレンジが広く、ハイトーンなボーカルは気持ちよく伸びている。低域は締まりがあり、曲全体の落ち着いた印象につながっている。全体的にウェットなサウンドだが、音のトランジェントがよいため、重い雰囲気はない。
ここで、駆動を「パラレルBTL」に切替える。残念ながらHEOSアプリからはハード的な設定ができないため、リモコンで「スピーカー設定」メニューから「パラレルBTL」を選ぶ。再び「Cry Baby」を再生すると、音が出た瞬間、思わず「おお」と声を出してしまった。全体的に力強さが増し低域がグンと厚く、キレ味鋭くなる。情報量が増え、サウンドの彫りが深くなったばかりか、しっとり感がありながらも華やかさが加わる。音場も一段広くなった印象だ。同じ機器で再生していると思えないほど劇的に迫力がアップしている。シングル接続でここまで分厚い音が出るとは、にわかには信じられない。面白いのが、ノーマル駆動よりもAメロはしっとり、Bメロはフラット、サビは攻撃的と曲調ごとの特徴がより際立ったこと。これこそ、駆動力が上がったことで表現力も高くなった証拠だろう。
最後に設定を「バイアンプ」に切り替え、ケーブルも2セットをつなぐ。パラレルBTLからさらに、中高域の情報量が増えて、音場がグンと広がる。音がより明瞭で鮮度が高くなり、スピーカーと自分の間にあったカーテンがなくなったようだ。低域は力強さを保ったまま、繊細な表情まで見せるようになる。サウンドに奥行き感が出るのも特徴で、ドラムやベースはやや後方にボーカルやギターはさらに一歩前に出てくる。他にもロックやクラシック、ジャズなど数曲を楽しんだが、ボリュームを上げてもピーキーに感じられる部分は一切なく、駆動力は余裕たっぷり。20万円クラスの高級オーディオで聴いているような上質さだった。
今回の組合せではバイアンプ駆動がベストだったが、シングル接続で気軽に迫力あるサウンドを楽しめるパラレルBTLも侮れない。そんな、嬉しい悩みを楽しめるほどパラレルBTLの能力が高いことを実感できた。
テレビとの組み合わせは試すべき。映像の迫力が格段にアップ
本機は、あらゆるソースで音楽を楽しめる。ここでも、他のソースを試してみたい。最初はスマホやノートPCなど、様々な機器と連携出来るBluetoothだ。スマホを接続して、Amazonプライムの動画を再生する。手元の小さい画面を見ながらで不思議な感覚だが、サウンドは迫力たっぷり。遅延はゼロではないが、大きく違和感のある場面はなかった。
せっかくならこのサウンドをテレビで楽しめないだろうか。そう考えて、テレビと光デジタルで接続してみた。これが効果絶大。音の筆致が太くなり、音が前に飛びだしてくる。テレビの周囲でスカスカ鳴っていたサウンドとは雲泥の差だ。映画もアニメも音楽番組もバラエティーもこんなに音情報があったのかと改めてわかり、映像の迫力や没入感が数段高まったように思える。家族共々映像を見るのが楽しくなった。
「M-CR612」はオーディオ入門者に扱いやすく、中級者以上でも納得の機能とサウンドを備えている。そして、何よりもコストパフォーマンスが極めて高い。税込定価99,000円と額面だけ見れば高く感じられるが、このサウンドと多機能を他のオーディオ機器で揃えようとしたら、数倍はくだらないだろう。それほど、クラスを超えた高音質と多機能を備えているのだ。まさに、音楽が好きで今まで音楽サブスクをスマホやBluetoothスピーカーで聴いていたような人にピッタリの製品。シンプルかつコンパクトなシステムながらも、音楽サブスクを聴き倒せるからだ。
(協力:マランツ)