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公取委が音楽用CDの流通に関する懇談会を開催
-2005年1月の還流防止措置開始に向け、対応を検討


9月7日開催


 公正取引委員会は7日、著作権法の改正に伴い2005年1月より施行される音楽CD等の還流防止措置についての懇談会を開催した。

会場風景

 音楽CD等の還流防止措置については、もともと、日本のレコード会社がアジアなどの海外向けに発売している日本人アーティストのCDが、そのまま日本に逆輸入され、国内盤の同タイトルよりも安価で販売される、「還流CD」を規制するために制定された。音楽CDの価格は各国ごとの物価に応じて異なるため、価格の安い還流CDにより、アーティストやレコード会社の正当な利益が損なわれないよう保護することを目的としている。

 しかし、一定条件の下で海外からの輸入制限が行なえるようになることもあり、公取委では「音楽CD市場における競争や消費者利益に与える悪影響が懸念される」とし、今回の懇談会を開催した。

 懇談会の参加者は、落合誠一氏(東京大学大学院教授)を議長に、泉川昇樹氏(日本音楽著作権協会常務理事)、岡田羊祐氏(一橋大学大学院経済学研究科助教授)、岸井大太郎氏(法政大学法学部教授)、関根啓子氏(全国消費者団体連絡会消費者関連法担当)、ポール・デゼルスキー氏(HMVジャパン株式会社社長)、中山信弘氏(東京大学大学院法学政治学研究科教授)、生野秀年氏(社団法人日本レコード協会常務理事)、ピーター・バラカン氏(ブロードキャスター)、水原博子氏(日本消費者連盟事務局長)、矢島靖夫氏(日本レコード商業組合理事長)の12人。また、公取委から、野口文雄取引企画課長と、山本康孝取引部長、大胡勝相談指導室長が参加した。


■ 還流阻止は再販制度との2重保護か?

 公取委の山本康孝取引部長は、「再販については一応の決着(公取委では、平成13年3月の段階で、“廃止が望ましいが、廃止についての国民的同意が形成されていないため、当面存置することが相当である”と結論している)を見ているが、再販制度の中でさらに還流防止を含む輸入権が導入された。再販という保護制度の中で、さらなる保護を生むことは2重保護となる」と問題点を指摘。「1月の施行後もきちんと監視していかなけらばならない」と語り、「実際の運用についてどのようにウォッチしていくべきなのか、再販制度のあり方も含めて議論したい」と議論を切り出した。

 日本レコード商業組合の矢島理事長は、「還流措置の本質は、文化の国際交流を音楽をつうじて促進するということ。アジア地域の人に日本の文化を伝えていくことが目標で、交流促進のためにどうしたらいいのか、ということが重要となる。物価水準の違う国にライセンスを出すには相手国においての物価水準に近い価格設定が必要。交流のためには還流防止が必要となる」と本来の目的が“音楽を通じた国際交流にある”と強調し、公取委のスタンスについて「(還流措置の)根本に触れていないのが寂しい」と非難した。

 また、関根啓子氏は、「還流防止措置を法制化したことで、JASRACなどの関連団体なども含め値下げに努力すると表明していた。いままでの努力があるのだったら教えていただきたい」と問いかけた。RIAJの生野理事は「音楽産業が元気になることで、消費者に還元するような取り組みを考えていく。ただ、法制化は1月なので具体的な方策は施行後以降になる」という。

 還流防止措置の導入に当たって、音楽CD再販制度との2重の優遇措置となっていることもあり、水原氏などから再販制度の継続を疑問視する声も聞かれ、「おまけやポイントサービスの導入などで、再販は半分崩れているのではないか?(水原氏)」との指摘もあった。

 これらの疑問に対し、矢島氏は、「再販制度では、新聞、書籍、雑誌、レコードを対象に、多種多様な選択肢を全国統一的な価格で提供できている。販売店の本音は、サービス券はやりたくない。しかし、当局の強い要請で、多種多様で弾力的なサービスをやっている。われわれと同じようなサービスを新聞や書店がやっていますか? 」と音楽業界の努力を強調した。

 岸井氏は、「再販制度があるところで、輸入権をいれると、価格維持機能が強力に発揮されるということは明確で、輸入権を導入している国で再販制度がある国は無い。2重機能は明白で、再販価格を前提とした、輸入権による価格コントロールは容易となる。そのため、再販による利益、再販によって維持される利益を相殺するような形で、輸入権を制限する必要があるのではないか」と提案した。


■ 輸入CDに関する運用面での不安

 また、還流防止措置の導入に伴い、還流CD以外の欧米の輸入盤も対象となりうる可能性が指摘されている。著作権法第113条第5項では以下の5つの要件を設定しているが、これらの要件を満たしたものが、還流防止措置の対象となる。

  • 日本で既に販売されている音楽レコードと同一のレコードであること
  • 日本での販売が禁止されている音楽レコードであって、かつ輸入者がその事情を知っていること
  • 日本で頒布する目的での輸入であること
  • 日本で最初に販売されてから政令で定める期間を経過していないこと
  • 還流により、権利者の利益(=ライセンス料収入の確保)が不当に害されること

 欧米などの洋楽輸入CDについては、RIAJの生野理事が「(要件で規定されている)不当に利益を害する範囲に入らないと考えている。基本的にはストップしないだろう」と述べて、5大メジャーについては口頭ないしは文書での確認を得ている旨を説明。

 しかし岸井氏からは、5大メジャーからの回答に法的拘束力がなく、「経営者であれば、そのような状態では事業を行なえない」と指摘。生野氏は「国会での付帯決議(欧米諸国からの洋楽の輸入が阻害された場合、還流防止措置の見直しと適切な対応策を講じる、との文章を含む)もあるので、(5大メジャーの確認を)どう評価するかということ」という。

 HMVのポール・デゼルスキー社長は、「アジア市場の発展のために、還流防止措置を導入するというのは、物価水準なども考え合わせて理解できる。しかし、この種の規制の問題は乱用/悪用が起こりうるということ。還流措置は価格統制に使うこともでき、価格の高騰や輸入できるタイトルの制限などの懸念がある」という。

 また、「(洋楽CDに関する問題を防ぐべく)法案成立時に付帯決議をまとめた。しかし、実用面での懸念は議論されていない。現在HMVだけで12万5,000タイトルを輸入しているが、輸入禁止を見極める税関で、具体的にどのようなCDが止められるのか、対応は決まっていない。付帯決議があっても、税関の対応が不透明だと業者は安心して輸入できず、その結果、実質的な輸入規制となる可能性があり、大きな懸念だ。既に残された時間は少なく、細かいことが決まらないまま1月の施行を迎えることは非常に危険だ」と述べ、施行時のガイドライン作成が急務であるとの認識を示した。

 なお、公取委の大胡氏によれば、「施行に向けて、文化庁では税関における取り扱いについて検討しており、施行時には取り組みについての通知を出す」という。

 なお、JASRACの泉川常任理事は、権利者から見た還流防止措置について解説。「作家の観点から見ると、アジアの販売価格は低く料率も低い。小売価格の一定率あるいは、卸売価格価格の一定率をもらっているが、同じ作品でも中国で販売された場合、作家への支払いは日本の3割弱になる。韓国、香港は日本のほぼ半分で、(これがそのまま還流すれば)権利者の利益が不当に害されているといえると思う。一方米国では、95%、英国は100%以上、フランスでは120%で、作家への報酬という観点からみても欧米盤が(要件の)“権利者の利益を不当に害する”には当てはまらない」との見解を示した。

 中山教授は「(還流防止措置は)当初は5年間なり期限を区切った時限立法の予定だった。維持するかやめるか、という点は継続して検討すべき課題」という。また、「法的には洋楽盤も止めることはできる。あくまで業界の約束でやらないといっているが、逃れたい人はさまざまな手段を考えてくるもの。(業界では法案ができたことを受け、アジア市場での積極展開を謳っているが)“本当にアジア市場に進出できるのか”といったことも含め、今後検討していく必要がある」と述べた。

 なお、次回の懇談会は来春を目処に同メンバーで行なう。1月の施行後の運用状況チェックなどが予定されている。

□公正取引委員会のホームページ
http://www.jftc.go.jp/
□音楽用CD等の流通に関する懇談会の開催について(PDF)
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/04.august/040827.pdf
□関連記事
【6月14日】RIAJ、著作権法改正法案の成立を受け依田会長がコメントを発表
-「付帯決議を真摯に受け止め、適切な運用を図る」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040614/riaj.htm
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-洋楽輸入盤は従来通り販売する。不買運動は誤解
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040608/handt.htm
【5月18日】RIAJ、洋楽輸入盤の輸入規制についてRIAAの見解を確認
-5大メジャーは「洋楽レコードの輸入を止めることはない」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040518/riaj.htm

(2004年9月7日)

[AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]


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