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26日より開幕したNHK放送技術研究所を一般公開する「技研公開2005」。その中で多くの来場者の注目を集めているのが、走査線4,000本の超高精細映像システム「スーパーハイビジョン」だ。 このスーパーハイビジョン、昨年の技研公開で一般公開された後、3月より開催中の愛知万博にも出展されている。HD映像の16倍の情報量を持つ、解像度7,680×4,320ドットの映像を450インチのスクリーンに投写。音響には22.2チャンネルのサラウンドシステムを採用しており、次世代の映像/音響システムとしてデモンストレーションを行なっている。
今年はそのロードマップが公開され、2025年の本放送開始に向けて、取り組みを本格化させていくという。ロードマップによれば、家庭への伝送システムの試作/実験を2008年に、家庭への放送技術を2011年、実験放送を2015年、家庭用ディスプレイ/音響装置開発を2020年に終え、2025年の本放送を目指す予定。 映像フォーマットは、7,680×4,320画素/フレームレート60Hzのプログレッシブ。音声は22.2ch出力でのデモが行なわれており、特に今回は「家庭を意識した」という大相撲の映像などを用いて、その迫力と精細な映像をアピールしている。また、本放送を目指した伝送システムについても既に検討を開始しており、現在は21GHz帯衛星放送が最有力候補として検討されているという。 今回の技研公開に合わせて、会場デモのほか、スーパーハイビジョンの映像/音声に関する研究発表が行なわれ、取り組みの一端が明かされた。 ■ 21GHz帯衛星伝送の最大の障害は雨
現在、スーパーハイビジョンの伝送で検討されている21GHz帯衛星放送について、NHK放送技術研究所の峯松史明氏が研究報告を行なった。 スーパーハイビジョン信号は非圧縮のままだと約50Gbpsの伝送速度が必要となる。現在の衛星デジタル放送で利用されている12GHz帯では、1チャンネルあたりの最大伝送速度が約52Mbpsで、スーパーハイビジョン放送の実現は難しく、新たな伝送路の開拓が検討されているという。 21GHz帯は、日本全国を1つの衛星でカバーできるほか、まだチャンネルのプラン化が行なわれておらず、広帯域チャンネルとして確保できる可能性が高いため、有力視されている。なお、光ファイバによる伝送についても検討されているが、コストを考えると衛星放送が圧倒的に優位になるという。 NHK技研では本放送開始時までには、圧縮符号化技術の進歩により、伝送速度は約200~400Mbps程度にまでは抑えることができると予想。200Mbpsに圧縮できた場合は最大3チャンネルのスーパーハイビジョン放送が行なえるという。採用するコーデックや、変調方式などは今後の検討課題だが、もっとも危惧されている点は、「降雨による減衰」。
現行BSデジタルの12GHz帯との比較例では、dB値で約3倍の減衰が見込まれている。多少の雨では問題ないものの、集中豪雨や局地的な雨、台風などの際には衛星放送の受信ができない可能性が高いという。現在の45cm受信アンテナを現行BSデジタル放送で利用した場合は、放送に影響する降雨減衰の発生時間は1年間に約3時間程度だが、21GHz帯放送の場合は、その10倍の35時間に及ぶ見込み。そのため、降雨減衰補償技術の導入が必須となるという。 具体的には、番組データを時間的に拡散して伝送/蓄積し、後でデータの欠落や誤りを補正する「長周期インターリーブ伝送」の採用と、降雨域に応じて、送信電力を増力する「可変ビームパターン」の2つの対策が検討されている。 このうち、可変ビームパターンは、激しい降雨が、短時間かつ散発的に発生することに着目し、雨が降っている地域向けに送信電力を増力して、降雨減衰を補償するというもの。全国一律に増力すると、中継器を含め、衛星規模が大きくなりすぎるために現実的ではないが、衛星放送受信に影響するような強い降雨は、局地的にしか起こらないため、ある一定時間、特定箇所に増力することが現実的な対策という。 NHK技研では、フェーズドアレー給電反射鏡アンテナを用いた、可変ビームパターン放送衛星システムの開発を行なっている。フェーズドアレーアンテナは、大型反射鏡と複数の小型TWTを束ねた給電アレーから構成され、個々のTWTの出力と位相、振幅を調整しながら、それぞれの出力を空間合成することで、全放送エリアをカバーしながら、強い雨が降っている地域にのみ局所的に増力できるという。 降雨地域の判定は、気象庁による短時間降雨予報値(地上5km四方)などを利用する予定。この1時間の雨量予測値を利用して、1時間の雨量が3mmを超えた場合などの条件と照らし合わせて送出電力を決定する。
■ 22.2chで上下の音像移動の構造とスイートスポット拡大を図る
スーパーハイビジョン用の22.2ch音響システムについては、NHK技研の火山浩一郎氏が研究報告を行なった。22.2chシステムの特徴は、水平方向(中間層)の10チャンネルに加え、上層の9チャンネル、下層の3チャンネルと、2つのLFEなど、垂直方向の音場効果に着目したこと。火山氏も「(研究を始めるにあたり)まず、上方にスピーカーを置いたらどう聞こえるのか検証したかった」という。 従来のITU-BS775-1に準拠した5.1chシステムや6.1ch/7.1chシステムなどでは、前後左右の音の往来には対応できるものの、上下の音像表現が難しい。特に、スーパーハイビジョンの大型スクリーンでは、対象映像の上下の動きを表現するために、上下の音像移動を作り出すことで、臨場感を高めることができる。例えば「聴衆の上方から天使が舞い降りる」などの場面の再現が可能となる。 さらに、スピーカー数が多く、1チャンネルへの依存率が下がるために、最適なリスニングポイントが広がり、客席後方などでも臨場感を維持した音響再現が行なえるという。
NHK技研では、この22.2chシステムと5.1chシステムの比較などを実施。音響専門家17人、音大学生4人の計21人に、NHKホールで録音したオーケストラ演奏を素材として比較したところ、前方5ch構成や、上層スピーカーの効果の高さが確認できたという。 また、上層スピーカーの最適な高さ(仰角)について調査したところ、前方のスピーカーは、45度を境に効果が飽和傾向となり、後方は45度以上での変化は無かった。そのため前方のスピーカーの仰角は客席中央から見て約45度に設定した。一方、側方のスピーカー高については、90度までほぼ一定に効果が上昇するため、天井にも1チャンネルを追加し、上層9チャンネルとしているという。 民生機器向けの展開などについては、小型スピーカーの開発協力や、7.1/5.1ch、ステレオへの最適なダウンミックス方法の検証/開発などを予定している。
今回のデモでは、大相撲など実際の放送で馴染みの深いコンテンツが追加されたこともあり、愛・地球博のデモなど比較しても、スーパーハイビジョンが身近になった印象を受ける。本放送の開始目標が20年後の2025年とかなり先のため、今後どう変化していくかは未知数ではあるが、放送の未来の一端を感じさせるデモになっている。 □NHKのホームページ (2005年5月27日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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