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製品化を目前にし、ハリウッドのパートナー獲得など、連日のようにニュースが飛び交う次世代光ディスク。基調講演もHD DVD/Blu-rayの同日開催となった。 ParamountがBlu-ray Disc参入を発表するなど攻勢をかけるBD陣営に対して、HD DVD陣営では講演テーマを「HD DVD is Real!」と設定。ROM規格のみ成らず、書換型でもプレーヤー/ドライブ/メディアの用意が揃った「現実的なHD記録/再生規格」としてのHD DVDをアピールした。 ■ 書換型は1層15GB/2層30GBのHD DVD-RR(仮)に移行?
東芝 上席常務待遇 デジタルメディアネットワーク社 山田尚志 首席技監は、最近のHD DVDの動向を解説した。9月27日に発表された、MicrosoftとIntelのHD DVD支持表明に加え、中国市場でのHD DVDベースの光ディスクの規格化、「長虹」、「アモイ」の中国大手2社によるHD DVDの支持の獲得などを明らかにした。 また、各地でのデジタル放送の開始と、フラットパネル化、テレビの大画面化などのディスプレイ環境の変化により、「薄型テレビは40型以上のサイズが増え、最近はフルHDの製品も発売されている。“テクノロジーオーバーシュート”と呼んでいるが、DVDのSD画質ではテレビの表示品質に追いつかない現象が起きている。“今すぐ”HDのコンテンツが求められており、HD DVDの高精細を訴求するには追い風ともいえる」と現状を分析。 さらに、国内や北米でのDVDの市場が2005年に減少傾向となったこともあり、「HDへの移行の時期で、環境は既に整いつつある」という。今後の課題としては、「ディスク製造は既に問題無い。あとは、オーサリング環境の整備に注力する必要がある」とした。
さらに規格化の最新状況を紹介。新たにHD DVD-ROMやHD DVD-Rの基本構造を継承しながら、書換可能とした「HD DVD-RR」の規格化作業が始まったという。 アプリケーションフォーマットについては、HD DVD-Video Recordingが、10月のSteering Committeeで承認される予定。なお、著作権保護技術の「AACS」については、10月中に規格書を発行予定で、鍵の発行やライセンスも11月よりスタートする。 注目されるのは、書換型の新規格「HD DVD-RR」。書換型の規格としては既にHD DVD-RWのVer.1.0が策定されており、1層20GBの容量を実現。従来は、2層化に向けて規格化作業を進めるとアナウンスされていたが、HD DVD-RRも同様に書換型のHD DVD規格となる。なお、HD DVD-RRは仮の名称で、今後変更の可能性が大きいという。 従来のHD DVD-RWについては、ランドグルーブ記録の採用により、高密度/大容量化を図っていたが、一方で層間の干渉などを理由に、2層化が難しいという問題が指摘されていた。HD DVD-RRでは、HD DVD-Rをベースにし、ランドグルーブ記録をやめており、多層化もあまり難しくないという。そのため、新たな書換型規格として提案された模様だ。
日立マクセルディスク製品事業グループ アドバンスドディスク事業部 設計部の田村礼仁副技師長は、HD DVD-Rの2層化技術やHD DVD-RRについて解説した。 HD DVD-Rについては、スピンコート成膜可能な記録膜の採用や、Low To High記録などの技術を紹介し、DVD-Rの製造ラインとほぼ同工程で検査工程の変更のみで製造できるメリットを紹介。2層化も貼り合わせ工程として、それぞれ別に作成したL0、L1ディスクを貼り合わせる逆積層法を採用し、良好な再生特性を実現しているという。 書換型のHD DVD-RRは、HD DVD-Rと同じフォーマットをベースに、2層対応の相変化材料と逆積層2層化により、2層化を実現。記録容量は1層15GB、2層30GBで、1層に関してはHD DVD-RWの20GBより少なくなる。
HD DVD-RRという名称については、「仮の名称。将来的にはこちらをRW、今のRWをHD DVD-RAMとかにするかもしれない」という。また、HD DVD-RWの今後については、「2層の規格化はしない可能性もある(山田氏)」とした。
BD-REの大容量に対抗すべく、ランドグルーブ記録による大容量化を目指していたHD DVD-RWは、発表当初の容量は1層20GB/2層40GBとしていたが、その後20GB/32GBに修正、規格化を進めてきた。しかし、2層化が難しかったことに加え、HD DVD-RRではトラックピッチなどがHD DVD-Rと共通になるため、ピックアップの対応がシンプルになるなどのメリットが大きいため、新規格として提案された模様だ。 実際に、CEATEC出展製品におけるHD DVD-RWのサポート状況は、「ほぼ製品版」という東芝のHD DVDプレーヤーについても「おそらく再生できない」とのこと。そのほか多くのメーカでも、「ディスクが無いので検証はしていない」というメーカーが多く、サポートするメーカーは少ない。実質的にはHD DVD-RRが書換型メディアとして製品化されるようだ。
HD DVD-RRメディアついては、HD DVDプロモーショングループのブースで各社が出展している。リコー(1/2層)、Prodisc(1層)、マクセル(1/2層)、imation(1/2層)、三菱化学メディア(1/2層)がメディアを参考出品。HD DVD-RWについては、Ritek(1層)、Prodisc(1層)、富士写真フイルム(1層)などが出品している。 HD DVD-RRの規格化については、9月のSteering Committeeで、規格化作業の開始がアナウンスされ、現在は「特性は確認できており、1層2層も早期の規格化が期待できる」としながらも、年内の規格化は難しいという。正式バージョンとなるVer.1.0は、来春以降となる見込み。 そのため、東芝が12月に発売を予定しているHD DVDプレーヤーについては、暫定的な対応となるほか、春に発売予定のレコーダについても、「ドラフトに沿って製品化し、後日ファームウェアアップデートでの対応となる可能性もある」という。 ■ ハイブリッドディスクとManaged CopyがMSサポートの決め手
また、9月29日にHD DVDサポートを表明した、Microsoft Windows Client Division Worldwide Media StandardsのPatrick Griffisシニアディレクターは、「次世代ディスクでは、パーフォマンス、機能、コンシューマニーズを満たすことが重要だ。Microsoftは、HD DVDだけがこれらの要求も満たす選択だと考えている」と切り出し、HD DVDをサポートする6つの理由を解説した。 まず、第1の条件は「HD DVD/DVDハイブリッドディスクサポート」。2006年3月には利用可能となる見込みで、「1枚のディスクにHD映像とSD映像を記録でき、HD DVDプレーヤーに加え、従来のDVDプレーヤーでも再生できる。消費者の将来を保証する重要な要素だ。ディスクの立ち上げ時にハイブリッドディスクを用意できるのはHD DVDだけだ」と語り、その重要性を強調した。 第2の条件は、「HD DVDでは、合法的に全てのディスクにおいて、コンテンツのセキュアなコピーを認めている」という点を指摘。「各ディスクで、家庭内でのネットワーク環境におけるセキュアなストリーミング再生や、HDDへのコピーをサポートしている」としている。 これらは、AACSのフレームワークで規定される「Managed Copy」のサポートによるもので、BD陣営ではBDでも対応と反論しているが。Griffis氏によれば、「この機能を必須(mandatory)にしたMandatory managed Copy(MMC)はHD DVDのみ」とのこと。MMCの対応により消費者の使い勝手向上や、新しいコンテンツビジネスが期待できるという。
3点目は「量産コストと製造施設の準備」。従来のDVD製造ラインを活かし、最小限の投資で量産できることを強調したほか、既存設備の転用が容易なため「量産設備の確保が容易」という点もメリットに挙げている。 4点目はディスクの容量について。同社が29日で発表したニュースリリースでは、「BD-ROMは25GBしか用意できない」としたため、BD-ROM側の強い反論を呼んだが、「HD DVD-ROM 30GBは2006年3月に間に合う唯一の選択肢。レプリケータも既に準備が整っている。BD-ROMの50GBは準備が整っていない」と語り、ROM容量も重要な要素との認識を示した。
5点目は、HD DVDプレーヤーのコスト。「現在北米市場のDVDプレーヤーのうち、75%は中国で製造されている」という事例を紹介し、中国のOEMメーカーのHD DVDサポート体制について強調した。 6点目には、同社も規格化に携わった「iHD」などのインタラクティブ機能を挙げ、「iHDはHD DVDに最適化してデザインし、80以上のシナリオを用意した。ピクチャインピクチャやインターネット接続などよりインタラクティブなコンテンツを実現できる」という。 また、ハリウッドも「ほぼ全てのスタジオが、iHDには好意的。また、HD DVDのパテントプールに含まれているため、高額なライセンスフィーも必要ない」という。「Microsoftは、HD DVDは現実的(Real)、そして準備も整っている(Ready)と確信している」とスピーチを締めくくった。 ■ PCでのDRM処理やアナログ出力についても解説
また、NEC 第一ストレージ事業部の早津亮一 統括マネージャーは、「PCアプリケーションから見たHD DVD」と題して講演。PC市場でのHDニーズの動向や、HD DVD-ROMパッケージのアナログ出力制限について解説した。 PC業界では、Intelの「デジタルホーム」や、MicrosoftのWindows Media Center EditionなどのAV機能やホームエンターテインメント志向が高まっており、一方、家電業界ではテレビの大画面化や、HD化が進み、IT/CE業界の双方からHD映像に対する需要が高まっていると分析。 さらに、映画産業においても、海賊版対策からより強固な著作権保護機能を求める声が高く、「HD対応した新しいプラットフォームが求められている。このニーズを“すぐに”提供できるのがHD DVDだ」とHD DVDの意義を解説した。
また、DVD市場の立ち上がりを例に引き、「再生システムとしては、PC用ドライブが安価だったこともあり、DVD市場はPCから先に立ち上がった」とし、HD DVDでもPC用ドライブが市場を牽引すると予測。さらに、PCのCPUもマルチコアやメディア関連機能の強化、Windows VisitaにおけるシステムレベルのDRM、ビデオカードでのHD映像の再生支援機能搭載など、PCでのHD DVD(ACCS)対応は進んでいるという。 AACS対応のため、プレーヤーソフトやドライバに関しても暗号化処理などの実装が求められるが、ソフトウェアプレーヤーは、InterVideoやCyberlink、Neroなどが開発中。また、「Windows Vistaが2006年の年末に発売されるが、VistaでもこのDRM処理のサポートを期待している」とMicrosoftに呼びかけた。
しかし、まだ問題も残されている。早津氏は、HD DVDのPCでの再生について関する最大の問題は「ディスプレイ」という。AACSでは、原則としてHDコンテンツの出力に関してはHDMIやDVIなどのデジタルインターフェイスで、HDCPを用いた暗号化処理が要求される。しかし、現在のところHDCPに対応したPCモニタはほとんど発売されていない。 そのため、「このままだとほとんどのPCでHD DVDの映像を見られない」。そのため、時限的にアナログ出力も認める方向で検討されており、「今後3~5年程度はアナログ出力が可能となる見込み」という。 また、NECのHD DVDドライブについては9月から量産準備を進めており、10月後半には生産対応できる。出荷はOEM先次第だが、「2005年中にはHD DVDドライブ搭載PCや、アフターマーケット向けのドライブ発売も行なう」としている。 ■ HD DVDをパッケージ市場の起爆剤に
東芝エンタテインメントの加藤鉄也CEOは、HD DVDにかける期待を「HDの普及」、「海賊版の排除」、「3パッケージソフト市場の活性化」の3つの視点から語った。 デジタル放送の普及により、DVDの画質を放送が上回る「逆転現象」が生まれている。「テレビ以下のクオリティでは欲しいモノもなかなか買えない。パッケージソフトとしての市場を構成できない。HDクオリティが既に必要になっている」という。また、AACSによる強固なコピー保護も「切望している」。 さらに、JVAのビデオソフトの売上集計を例に引き、「2008年までDVD市場は伸びるというが、大いに疑問。ヒットタイトルが無いこともあるが、(JVA統計で)今年の売上が前年を上回ったことがない。市場を刺激するために、新しいメディアが必要。ハードとソフトの新しい市場で次の現象を起こすために、HD DVDが必要だ。市場への大きなインパクトを期待しいている」と、市場の起爆剤としてのHD DVDへの思いを語った。 □CEATECのホームページ (2005年10月5日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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