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光ディスクのエキスパートが語る「HD DVD支持」
-「BDは時期尚早。ディスク製造の優位は揺るがない」



 次世代光ディスクの動向は、ここに来て俄然動き始めている。これまでROMを基礎としたHDビデオパッケージビジネスの展開しやすさを武器にしてきたHD DVD陣営だが、先日、パラマウントピクチャーズがBlu-ray Disc(BD)でのソフト発売を表明した事が、大きなきっかけになっている。

 しかしそれより前に、先月ハリウッドへの取材を行っている途中、様々なところでHD DVD推進の旗振り役でもあるワーナーブラザースの“揺れ”を強く感じた。その揺れは、マイクロソフトとインテルのHD DVD支持表明で一時的に収まったかに見えたが、HD DVDのプロモーションにおいて行動を共にしてきたパラマウントのBD支持表明後、また大きく揺れ始めている。

CEATECのHD DVDブースは、光ディスクメディアメーカー、コンテンツオーナーなど、各所の協力を得て驚くほどの材料を並べて見せた

 そのような状況の下、日本で行われたCEATECのHD DVDブースは、逆風が強くなってきているにもかかわらず、光ディスクメディアメーカー、コンテンツオーナーなど、各所の協力を得て驚くほどの材料を並べて見せた。

 直接、HD DVDと利害が重ならない各社からの協力を得るには、相当の努力が必要だっただろう。まさに執念とも言えるブースである。

 だが、もしワーナーがBDでのソフト発売を決定すれば、次世代光ディスクを巡る対立も終わりを迎えることになる。最も腰が重いNBCユニバーサルも、動かざるを得なくなるだろう。

Lieberfarb & AssociatesのRick Marquardt氏

 こうしたHD DVDに対する逆風の中で、HD DVDの優位性を声高に叫ぶコンサルタント事務所がある。それがLieberfarb & Associates, LLCだ。この事務所は、かつてワーナー幹部でDVD規格成立において活躍したWarren Lieberfarb氏が設立したものだ。そのLieberfarb氏は、9月中旬に行なわれたイベントDigital Hollywoodにおいて「近い将来、どちらか一方の(HD DVDを示唆)規格に収斂するだろう」と述べて話題になった。

 次世代光ディスク規格での対立が深まる中、映画コンテンツ事業や光ディスク事業のエキスパートを集めている同事務所が、なぜ不利と見られるHD DVDを支持しているのか。ディスク複製事業に詳しい同事務所のRick Marquardt氏に、その理由を訊いてみた。

 本題に入る前に、同事務所の立場について説明しておく必要があるだろう。同事務所はワーナーと東芝のコンサルタント業務を行なっており、各次世代光ディスク技術の評価や事業戦略についてアドバイスを送っている。つまり極めてHD DVD側に近い位置にある。

 従って話の内容も、東芝やワーナーが主張してきたHD DVDに関する説明とほぼ一致する。

(以下、敬称略)


本田:まずRickさんのバックグラウンドについて簡単に自己紹介していただけますか?

Marquardt:「私は元々、純粋に光ディスク複製に関するエンジニアでした。CDの製造技術を皮切りに、CD-ROMに関してタイムワーナーの中で関わっています。その後、Laser Discのプロダクションマネージャーもつとめています。2001年にはライテックのCEOという職も経験しています。主に20世紀FOXやコロンビア映画(SPE)などと仕事をしていました。その後、大手ポストプロダクション兼ディスク複製事業者のDeluxeでDVD事業関連の仕事をしています。そして8月からは、過去の経験を生かして光ディスクの製造に関連したコンサルティング業務を現在の事務所で担当しています」

本田:HD DVDとBDの対立が続き、このまま何も起こらなければ、両規格から互換性のないHDパッケージソフトが登場することになるでしょう。リックさんの視点から見た、このビジネスの展望を訊かせていただけますか?

Marquardt:「多くの人は、まだHD市場は立ち上がらないと考えていましたが、HDTVは従前の予想よりも早く北米の家庭に浸透してきており、今後も予想よりも早く普及するでしょう。DVD事業が収益の面で伸び止まる中、映画スタジオなどコンテントオーナーは、新しい収益を求めてHDパッケージソフトをリリースしていきます」

本田:HDビデオパッケージのビジネスを立ち上げる上で、どちらの規格が優位だと考えていますか?

Marquardt:「HD DVDの方が優位でしょう。理由は比較的容易にDVDとのハイブリッドディスクを作れるからです。ハイブリッドディスクならば、HDビデオパッケージの市場を、ハイブリッドディスクがない場合に比べ、2倍の速度で拡大することができると予想しています」

本田:ハイブリッドは試作レベルではBD側も発表を行なっていますよね?

Marquardt:「まずHD DVDの2層30GバイトのROMプレスコストですが、これはDVDの僅か15%増しでしかありません。しかもほとんどのディスク複製業者が、HD DVDに対応したプレスラインを既に持っています。ハイブリッドにすると確かにコストは上がりますが、HD DVDのハイブリッドは仕組みとしてDVD18(両面2層づつの4層ディスク)と同じで、これは既に技術として存在します。いくつかのスタジオは、HD DVDでのハイブリッド化を検討しています。対してBDのハイブリッドは十分な検証データが存在しません」

本田:両面ディスクはレーベル面を印刷できないため、映画スタジオもエンドユーザーも嫌うのではないでしょうか?

Marquardt:「プリントの有無は確かに問題かもしれません。DVDでの両面メディアは確かにあまり好まれていません。最終的には映画スタジオ自身がどう判断するかですが、HDビデオパッケージの市場を立ち上げるためには取り組むのではないかと考えています」

本田:BDとHD DVD、それぞれについて、どんな優位性があると考えていますか?

Marquardt:「この事業は光ディスクの複製だけで成り立っているわけではありません。オーサリングではHD DVDはソフトウェアの構造がDVDと似ているため、容易に開発が可能になるでしょう。インタラクティブ機能に関しても、Webアプリケーションの開発者ならばスグに慣れる事ができます。一方、BDはJavaでのプログラミングが必要であり、新たにトレーニングが必要になります」

Marquardt:「また中期的にビジネスを考える時、製造キャパシティの問題は忘れることはできません。HDビデオパッケージはいずれ普及するでしょうが、計画的に普及させることは難しい。HD DVDの場合、DVDの製造とHD DVDの製造を必要に応じ、同じラインでスイッチすることが可能です。つまり、売り上げ動向のムラに影響されず、複製装置の稼働率を高くできる。BDは製造装置の稼働率が最初のうち、とても少ないものになるでしょう。どちらがビジネス面でリスクが少ないかは自明です」

本田:BDを支持する企業は、BDの容量面での将来性を強く打ち出しています。

Marquardt:「多くの人が勘違いをしているのですが、BD-ROMの2層(50GB)とHD DVD-ROMの3層(45GB)は、いずれも2プロセスで反射層を生成しますから、ざっくりと言えば、どちらも同等のコストだと考えられます」
(註:BD2層は反射層を作った基板の上に中間層を重ね、そこに反射層を作って、さらにカバー層を作る。HD DVD2層は同じ厚みの基板2枚に反射層を作っておき、片方の基板の上に中間層を作って反射層をさらに作ったあと、2枚を貼り合わせる)

Marquardt:「おおむねHD DVDの2層30Gバイトは98%の歩留まりがありますが、BDの2層はまだデータがありません。しかしBDの2層が可能なら、HD DVDの3層も同等のコストで作ることができるでしょう」

本田:しかしHD DVDは全体の厚み偏差こそマージンが大きいものの、同一円周での厚み誤差が厳しいと言われています。このあたりは中間層を生成する上で問題になりませんか?

Marquardt:「全体の厚み偏差はHD DVDの場合5%まで許容しますが、BDは3%ですから厳しいのはBDです。また、中間層の厚み誤差はHD DVDが3層で1.75ミクロン、これに対してBDの2層は1.5ミクロンで、こちらも厳しいと見ています」

本田:DVD複製事業大手のCinramは、BD-ROMの製造コストはもはや大きな問題ではないと話しています。この点はどう思いますか?

Marquardt:「BD-ROMに関しては、正確な歩留まり評価、品質評価を行なおうとしても、データが存在しないため、現実の数値がわかりません。高い、安いといった問題ではなく、データそのものがない事が問題なのです。現実の製造ラインでの抜き取り検査も行なわせた例がありませんし、歩留まりの値を確認することもできません。製造ラインはガラス越しです。データがない事には評価ができない、評価外というのが我々のスタンスです。キチンと出来ているのであれば、それを見せてくれればいいだけです。抜き取り評価ができなければ、ビジネスとしての判断は下せません」

本田:つまり、Lieberfarb & Associatesでは、BDはデータ不足で経営判断を下すには至れないという判断なのでしょうか?

Marquardt:「私は2000年当時、タイムワーナーで様々な新メディアを評価してきました。その経験から言えば、BDはまだ時期尚早と言えます。またBDにはマスタリングの問題もあります。BDはピット長が150ミクロン、これに対してHD DVDは200ミクロンです。光学的な露光でピットを生成する場合、物理的な制限から180ミクロン以下のピットをキレイに造ることは難しいのです」

本田:ソニーが開発したPTMを用いればローコストに原盤制作が出来るのでは?

Marquardt:「PTMはまだ新しい装置で、実業務での実績がありません。データが存在しない技術を経営判断に盛り込むことはできません。対してHD DVDは、通常のマスタリング装置で原盤制作ができます。PTMは装置自身の価格が高い上、等速でしかマスタリングできません。しかし従来の方法ならば3倍速です。作業効率から言えば3倍、低コストとも言えます。遅く、実績がなく、高価な装置でマスタリングをしなければならない。あなたが経営者ならば、どちらの方法を選びますか?」

本田:では、それほど明らかにHD DVDの方がディスク製造面での優位性なのにも関わらず、ディズニーや20世紀フォックスはBDを選んだのしょうか?

Marquardt:「それは彼らに訊かなければわかりません。私が言えるのは、HD DVDの製造プロセスが、とてもコントロールしやすいという事です。将来、どんなに製造技術が進んだとしても、元々のマージンが大きいHD DVDの方が高い信頼性のディスクを製造できる事に変わりはありません。コンシューマに安定した品質のメディアを大量に提供する上で、このアドバンテージは無視できるものではありません。私はBDのコストが下がらないと言っているのではありません。いつかコストは下がるでしょう。しかし、両者の大きな差は将来も存在し、それは次世代光ディスクが普及し、マスに向けて量産しなければならなくなったとき、今よりもずっと大きな差になるということです」

本田:数あるハリウッドのスタジオの中でも、20世紀フォックスはとても保守的で、なおかつ技術的な評価を冷静に、慎重に行う会社でしょう。その20世紀フォックスは、ディスク複製コストは問題ではないと話しています。

Marquardt:「これは確証があるわけではなく、あくまで個人的な意見ですが、CinramがFoxに、Tecnicolorがディズニーに、それぞれ正しい情報を与えていないのではないでしょうか。ディスク複製ベンダーは、新しいメディアの方がビジネスにしやすい。また、ディスク製造面以外の部分で、BDを評価しているのかもしれません。ディズニーならば容量、PCベンダーは将来の容量増加、FOXはコピープロテクションを強く求めています。しかし、ユーザーはローコストに高品質なROMディスクが欲しいだけなんです。シンプルに製造できる事はとても重要で、多くの人にとってメリットのあることです」

本田:お話を聞いていると、ほぼそのまま東芝とワーナーの戦略に一致します。そうした事が、両規格を評価する上で影響していませんか? たとえばCinramやTechnicolorは、NDAベースでBD-ROMの製造歩留まりに関するデータを所有しているようです。

Marquardt:「我々にとっては、データがあるかどうか。そこが大きな鍵です。データが存在しない規格についての議論はできないでしょう。我々はコンサルティングファームであり、的確な判断ができるからこそビジネスになっています。正しい判断を行うことで事業的に成長してきました。だからこそ、バイアスのない判断ができます。光ディスクの製造に携わって20年です。政治的な動きはともかく、ディスク製造の技術的な評価に関して、判断に間違いはありません」

□HD DVDプロモーショングループのホームページ
http://www.hddvdprg.com/jpn/
□Warner Brosのホームページ(英文)
http://www.warnerbros.com/
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(2005年10月7日)

[Reported by 本田雅一]


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