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次世代光ディスクでは、大容量化に伴う映像の高精細化に加え、インタラクティブ機能やネットワーク対応などの様々な特徴を有しているが、クオリティの向上については映像のみならず、音質面でも大幅な向上が期待される。
中でも注目されるのは従来のDVDで中心となっていたドルビーデジタル/DTSのような非可逆圧縮コーデックでなく、ドルビーは「TrueHD」、DTSは「DTS-HD Master Audio」という可逆圧縮(ロスレス)コーデックを用意したこと。つまり、次世代ディスクにおいて、音質を重視した作品は、これらのロスレス音声が収録される可能性が高い。
ディスクフォーマットごとの対応の詳細などは特集記事で紹介しているが、今回、ドルビーラボラトリーズ 日本支社にて、ドルビーの新ロスレスコーデック「TrueHD」の概要を伺うとともに、デモを体験した。 ■ 原理的には非圧縮のマスターと同音質を実現 ドルビーTrueHDは、DVDオーディオで利用されているロスレスコーデック「MLPロスレス」を大幅に機能拡張したもので、ドルビーデジタル・プラスの上位コーデックに位置づけられている。 TrueHDは次世代ディスク向けの新ブランドとなるが、映画会社などによる「MLP(Meridian Lossless Packing)という技術名より、次世代のHD映像にふさわしい名称を」という意向を受けたものという。 最大の特徴はロスレスコーデックということ。原理上はマスターと同等の音質を実現可能となる。圧縮率はソースの種類や内容により異なるが、現在のDVD向けマスターで多く用いられる24bit/48kHzの6chソースの場合、約6.9Mbpsのソースの約半分3.4Mbps程度まで圧縮できるという。 サンプリングレートは最高192kHz、チャンネル数は最大8ch(192kHz時はBD-ROM 6ch/HD DVD 2ch)までサポートする。ピークビットレートは18Mbps。VBR(可変ビットレート)を採用しているため、無音部の多いソースであれば、その部分の圧縮率は向上する。ソースごとの圧縮率の例については表を参照して欲しい。 映画以外にも、ライブやミュージックビデオなどでは24bit/96kHzを6chで収録可能となっている。また、ドルビーデジタル(DD)と同様のダイナミックレンジコントロールや、ダイアローグノーマライゼーション機能なども備えている。
表を見ると、サンプリングレートよりも、ビット長が16bitから24bitに向上した際の圧縮率の低下が気になる。これはビット数が増えるとノイズ成分が増え、圧縮時の相関性検出が難しくなるためという。
今回は、24bit/48kHz収録の映画や音楽を5.1chで再生するデモが行なわれた。機材は市販のIntel Core Duo搭載のiMacから、MOTUのFireWireインターフェイスに接続。そこからデノンのAVアンプにアナログ接続して5.1chで出力した。スピーカーはB&Wで、サブウーファはVelodyne。 映画は「ワイルド・スピード×2」、「スパイダーマン2」などを上映。スパイダーマン2のダイアローグの奥行き感や、ワイルド・スピード×2のエンジン音の厚く重い響きなど従来のドルビーデジタルからの着実な向上を感じさせた。 また、音楽ソースとしてはサンフランシスコ交響楽団によるストラヴィンスキー「火の鳥」のデモも行なわれた。 なお、デモ用に使われたソースは、主にQuickTime HDに映像とデコード済みの音声を取り込んだものだったが、さらに、同社のTrueHDに対応した製作ツール「Dolby Media Producer」でTrueHDの音声データをリアルタイムでデコードして再生し、実際にリアルタイムでデコードできることも確認できた。 また、デコードした音声をマスター音源をオーディオワークステーションの「Nuendo」上でコンベアし、完全にデータが一致することも示された。 TrueHDは、BD-ROMのオプション規格で、HD DVD-ROMでは2chの必須規格となっているが、DD+の上位コーデックとして「音にこだわる作品に採用して欲しい」とのこと。すでにビデオアーツから発売されるキース・ジャレットやリー・リトナーのHD DVDで、TrueHDの採用が予告されているなど、実際にその音を聞ける日も近そうだ。 今のところTrueHDをそのままデジタル伝送して、AVアンプなどから出力することは出来ないが、それでも原理上非圧縮でマスター品質となる音を家庭で体験できる日が近づいている。こうした面からも次世代ディスクへの期待は高まる。 ■ 製作環境の準備も進む
また、ドルビーではこれらの製作環境についても準備を進めている。業務用のエンコーダなど、同社のプロダクション向け製品は、従来ハードウェア製品がメインとなっていたが、今回TrueHD向けの製作環境としてMacintosh用のエンコーダ/デコーダ、ツールを統合した「Dolby Media Producer」を今春より発売予定という。価格は販売代理店やシステムにより異なるが100万円程度の見込み。 従来はオーサリング終了後に別のスタジオにてエンコード作業を行なうなどで、輸送の手間や、連絡の不手際などによるチャンネルアサインのミスなどが発生していたという。しかし、ソフトの製作環境もProToolsなどソフトウェア上で行なわれるようになったことから、ソフトウェア化によりオーサリング工程の最終段でエンコード作業が行なえることから、スタジオのワークフロー全体の改善も見込まれるという。 Media ProducerはProToolsなどのプラグインとしてではなく、単体のアプリケーションとして動作。現在はMacintosh用のユニバーサルバイナリ(Intel Mac/PowerMac対応)のベータ版が完成しており、すでにプロダクションなどへの提供を開始している。また、今後はWindows版の開発も進めていくという。
□ドルビーのホームページ ( 2006年3月28日 ) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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