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「CEATEC JAPAN 2006」基調講演レポート
東芝 西田厚聰社長「HD DVD/SED/ナノテクでイノベーション」


東芝の西田厚聰代表執行役社長
10月3日開催

会場:幕張メッセ


 CEATEC初日の基調講演には、東芝の代表執行役社長であり、CEATECの主催元のひとつである情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)の会長を務める西田厚聰氏が登場。

 「Real HD ワールドからはじまるデジタルライフ・イノベーション」と題し、ハイビジョンによる高品質の映像コンテンツを楽しめる「Real HD」視聴環境の実現、そして、デジタル技術、電子デバイス技術、ネットワーク技術との融合によって、新たな価値を提供できるデジタルライフの変革について説明した。


■ HD DVDやSEDでイノベーションを推進

 冒頭、西田社長は、21世紀におけるイノベーションは、グローバル化によって規模が巨大化していること、そして、映画、テレビ、VTR、そして、ハイビジョンといった映像がもたらした数々のイノベーションに触れながら、「今後も、引き続き、映像がイノベーションのドライバになる」と位置づけ、デジタルライフ・イノベーションの社会に対する影響力の高さを訴えた。

 西田社長によると、メディア関連市場は、2010年まで年率6.6%で成長を遂げ、1兆8,300億ドル(約200兆円)の市場規模に達すると予測。放送、映画が引き続き映像分野の2大コンテンツとして成長すること、インターネットによる映像配信サービスが開始されることなどが、この牽引役を務めると説明した。

 とくに、HDデジタル放送とHDTV受像器の普及が今後の鍵になるとして、「HDTV受像器の所有世帯数は2010年には、全世界で1億620万世帯となり、現在の3倍規模になる」とした。

 また、西田社長は、「HD DVDは、21世紀の新たなイノベーションの好例である」とし、HD DVDによるハイビジョン映像を公開。ハリウッドのコンテンツをデモストレーションしながら次のように説明した。

 「HD DVDは、待ち望まれていたHD映像のパッケージメディアである。世界統一で使える規格であり、コンシューマ、コンテンツホルダー、メディアメーカー、端末メーカーのあらゆる人たちがWIN-WINの関係になれる。今年、東芝は、HD DVDによる戦略的な映像商品群を投入しており、ここには、131年に及ぶものづくりのノウハウ、長年培った東芝の高品質映像技術と、21年間取り組んできた東芝のノートPCの技術を結集した。今後も新たな時代のイノベーションを推進していく」とした。

フルHD製品によるイノベーションを推進 CEATECの東芝ブースでは、国内向けのHD DVDプレーヤー2モデルや、USBの外付けHD DVD-ROMドライブも参考展示されていた

 また、SEDに関しては、「薄型に続く、テレビの新たなイノベーションであり、薄型化、大画面化、低消費電力、高画質化によって、HDTVの理想を追求したい」と語った。ただし、SEDテレビの具体的な発売時期などについては言及しなかった。


■ ナノストレージや燃料電池にも言及

 今回の基調講演では、大手電機メーカーの社長の講演にしては珍しく、技術的な解説に時間を割いたのも特徴だ。

 西田社長は、「新たなイノベーションの実現に向けては、いままでの10~100倍の処理量やメモリ・ストレージ容量が必要となること、充電なしで何日も駆動する超低消費電力、持ち歩いても疲れない小型高密度高性能な端末の登場、セキュアな情報通信環境が必要。だが、関係者の間では、現行の技術では限界があるといわれている。これを突破するのがナノテクノロジーである。これは日本が得意とする技術だ」と述べた。

東芝の「ナノ・イノベーション」

 さらに、「様々なナノテクノロジーへの挑戦のなかで、東芝が取り組んでいる先端トランジスタ技術、ナノストレージ技術、DMFC(燃料電池)、量子暗号通信技術の4つを紹介する」と、同社のナノテクへの取り組みについて言及した。

 先端トランジスタ技術では、「これまでのトランジスタは、微細化技術によって、消費電力をあげずに、演算処理速度の高速化と、高密度化を両立させてきた。しかし、40ナノ世代以降のトランジスタでは動作に問題が生じる。ゲート電極の下にある酸化シリコン絶縁膜が薄くなりすぎ、漏れ電流が発生。これが、消費電力を高めてしまう問題につながる」と指摘。

 「微細化がすすみ、さらに漏れ電流が増えると、スイッチング動作がきわめて不安定になるという課題もある。これまで使われてきたものに変わる酸化シリコン絶縁膜が求められてきたが、LaAIO3という素材を用いることで、漏れ電流を大幅な抑制することができる。ナノレベルの素材およびプロセス技術をシリコン基板上に実現することで、低消費電力でありながら、高性能、大容量のメモリーの実現ができる。また、基礎研究の段階だが、電子1個で動作する究極の低消費電力に関する研究も進んでいる。これは、すでに室温での動作検証が完了している」とした。

 また、ナノストレージ技術に関しては、「昨年、垂直磁気記録方式を用いた製品を投入したが、その記録密度は1平方インチあたり100Gビットを越えており、1Gビットの記録サイズは100ナノメートル以下になっている。だが、今後、1平方インチあたり1兆ビット(テラビット)の記録密度を実現しようとすると、媒体上に磁気記録したビット情報の熱的な安定性が問題になる」という。

 「そのため、媒体上の磁性体薄膜をナノドットメディア方式にする必要がある。ナノドットメディアの開発は国の支援を受けているが、現在、ナノスケールの技術を使い、磁性粒子をきれいに並べた構造を大面積で作ることに成功しつつある。これにより、ドットアレイ構造において、粒子ごとにビット情報を記録していくことができ、1平方インチあたり1テラビットの記録を実現できる。この結果、0.85インチの超小型HDDのなかにDVD並の映像を20時間録画できるほか、HD DVDの映像も記録できるようになる」とした。

先端トランジスタ技術 ナノストレージ技術 ナノドットメディア方式

DMFC(ダイレクトメタノール型燃料電池)

 DMFC(ダイレクトメタノール型燃料電池)については、「出力を増加させること、高効率で発電させることの両方が課題。DMFCでは、水素イオンと電子を生みだなど、ナノスケールで起こる一連の化学反応を、精密に制御する技術の確立が必要であり、材料技術とシステム技術の融合でこれが実現される。これによって、燃料電池を搭載した情報端末は、いよいよ時間と空間からの開放されることになる」とした。


量子暗号通信技術

 量子暗号通信技術に関しては、「ユビキタス情報社会では、情報通信のセキュリテイが保証されないと、驚きと感動を享受したり、安心・安全な社会を築くことはできない」と前置きし、「現在、ビット情報を光の最小単位である単一光子のストリーム上にのせ、光ファイバー中を送信する量子暗号通信が注目されている」と述べた。

 その内容として、「盗聴が行なわれると、光子には量子力学の不確定性原理が働き、正しいビット情報が読みとれなくなるという特徴がある。暗号鍵を盗聴することが不可能な通信方式である。英国ケンブリッジの当社研究所で、デリケートな光子を安定的に動かす技術を確立しており、映像情報を、この方式で暗号化し、送受信することに成功している。ネットワーク基盤のなかに組み込まれることも遠い将来の話ではない」とした。

 西田社長は、こうしたナノテクノロジーに加えて、無線ネットワーク技術の進展が、ユビキタス時代の進展には重要であるとし、「無線LANも100Mbpsを超えるブロードバンド利用が可能になるほか、MIMOと呼ばれる次世代高速無線LAN技術により、今後は、どこでも映像コンテンツを見ることができようになる」とした。

 最後に西田社長は、「新たなイノベーションの追求のためには、ナノテクをはじめ、様々な技術と知恵の融合が必要。東芝も地球内企業として、業界や国を超え、グローバルな視点でコラボレーションしていく」と締めくくった。


□CEATEC JAPAN 2006のホームページ
http://www.ceatec.com/2006/ja/visitor/
□関連記事
【2005年10月4日】「CEATEC JAPAN 2005」基調講演レポート
「電子情報技術のイノベーションが創造する新しいライフスタイル」
東芝 取締役会長 岡村正氏
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20051004/ceatec05.htm
【CEATEC JAPAN 2005レポートリンク集】
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/link/ceatec.htm

(2006年10月3日)

[Reported by 大河原克行]


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