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TDKの低価格フラットパネルスピーカー「Xa-Master」を聴く
-実売3万円とは思えないギターサウンド。GMM採用


12月20日発売

標準価格:オープンプライス


 TDKが12月20日に発売する2.1chフラットパネルスピーカー「Xa-Master(SP-XA160)」は、同社が開発した超磁歪素子(GMM)を使用した、新しい駆動方式のスピーカーとして注目を集めている。

 さらに、フラットパネルスピーカーとアンプ、サブウーファをセットにしたシステムながら、実売3万円という低価格も魅力。これまでPC用スピーカーを手掛けてきたTDKが、テレビやコンポとの組み合わせを想定したスピーカーをリリースするのも初めてだという。新要素の多く、どのような音が楽しめるのか気になるこのスピーカー、今回発売前に試聴する機会に恵まれた。


■ 独自の駆動方式を採用

SP-XA80

 TDKはこれまで、PCやポータブルプレーヤーなどとの接続を想定したアクティブスピーカーを多くリリースしている。特に、英New Transducers Limitedが開発したフラットパネルの表面全体に各周波数の振動を分布させる「NXT Surface Sound技術」を利用したフラットパネルスピーカーシリーズが特徴で、現行機種としてはSP-XA80/60/40がラインナップされている。

 新モデルは「SP-XA160」という型番からもわかるように、同シリーズの最上位モデル。そのため、別に「Xa-Master」という名前も付けられている。

 システムの基本は下位モデルと同じフラットパネルスピーカーだが、パネルを振動させる方法が従来と大きく異なる。ボイスコイルが動いて振動板を振幅させるのではなく、GMM(Giant Magnetostrictive Material/超磁歪素子)と呼ばれる素子が収縮する力でパネルを駆動する。

 磁性体に磁気を与えると、外形がわずかに変形する「磁歪」(じわい)現象を利用したもので、GMMはその変位量を従来の1,000倍以上(1,000ppm)に高めている。高速な応答性と、硬いパネルでも難なく駆動できるパワーが特徴。この素子を利用し、信号に対する追従性が高く、駆動力も両立させた「GMMエキサイタ」を開発。アクリルをベースとした3mm厚の特殊硬質パネルを駆動する。同社ではこのシステムを「AAPS」(Advanced Acoustic Panel System)と命名している。

 なお、接した素材を振動させ、スピーカーにするFOSTEXの「eA(エア)」にもGMMが使用されているが、このGMMも、TDKが開発したものを使用しているという。

GMMエキサイタ(左)とGMM素子(右) フォステクス「エア(eA)」 Xa-Masterのパネル中央にGMMエキサイタが搭載されている


■ トランジェントの良さが特徴。ギターが得意

フロント用のフラットパネルスピーカー

 システムはフロントスピーカーであるフラットパネルスピーカー2個と、アンプを内蔵したサブウーファで構成。フラットパネルスピーカーは、下部にミッドレンジのコーンユニットを搭載。1.5kHz~20kHzまでの中高域をフラットパネルで、ミッドレンジで1.5kHz以下の中域を補い、50Hz~200Hzまでの低域を13cm径ユニット搭載のサブウーファで再生する。システム全体の再生周波数は200Hz~20kHzだ。

 再生音は非常に特徴的で、なによりもまずトランジェントの良さに驚かされる。音の立ち上がり/下がりがハイスピードで、曖昧な音が出ない。駆動力の高い素子で硬いパネルを動かしているため音圧も高く、音の1つ1つが力強く飛んでくる。素早さと相まって音楽がイキイキと聴こえる。「鳴りっぷりが良いシステム」という第一印象だ。

 元気なだけでなく、繊細な描写も得意だ。コーンユニットを搭載したスピーカーと比べ、付帯音が少なく、余計な響きが無い。そのため、普通のスピーカーでは埋もれてしまいがちなギターの弦の動きが精密に描写される。早弾きや弦をまとめて鳴らすような場面でも、1本1本の弦の音がきちんとバラけるため、目に見えるような音像が楽しめる。

 音のキャラクターはコンデンサ型スピーカーに近い。だが、コンデンサスピーカーとは正反対に音が力強く、自作のバックロードホーンスピーカーを聞いているような感覚にも陥る。「未体験の音」と言って良いだろう。

 中域や低域は通常のユニットで駆動しているため、響きの成分も適度に取り入れられている。フラットパネルだけでは悪く言うと「解像度が高いが無味乾燥な音」になる恐れもあるが、ミッドレンジとウーファを組み合わせることで、トータルとしてバランスの良い再生が実現できているようだ。

ミッドレンジで1.5kHz以下の中域を補っている サブウーファには13cm径のウーファユニットを搭載 入力端子はサブウーファに搭載されている

背面のデザインが特徴的

 また、パネルの背面がオープンになっていることで、ほぼ無指向性を実現している。そのため、音像はややぼやけがちではあるが、試聴中にスイートスポットから左右の席に移動しても、音の聞こえ方はほとんど変わらない。リビングのテレビなどと組み合わせると使いやすいだろう。

 音圧が高いため反射音も豊富に出ており、立ち上がってスピーカーから離れても、音量が急激に下がることがない。リビングのテレビの前から台所などに移動しても、明瞭にテレビの音が聞き取れそうだ。ライヴ録音のCDを再生すると無指向性の特徴も相まって、2.1chスピーカーとは思えない広大な音場が出現した。

 以前、FOSTEXの「eA(エア)」をレビューした際、様々な素材をGMMで鳴らした結果、木製のテーブルが音質的に好ましく感じられた。今回のシステムでアクリルパネルを採用した理由について商品企画部 ペリフェラル商品企画課でスピーカーの商品企画を担当している下山秀一係長は「硬い素材を使うほうがパネルで再生できる帯域が高くなり、GMMで駆動する特徴を活かせる。鉄などでは硬過ぎ、木は逆に柔らかすぎて中低域の再生になってしまう。音質的な利点を追求してアクリルパネルに辿り着いた」という。


■ コストパフォーマンスの高いスピーカー

 アンプ部の出力は、フロント用に10W×2ch、ウーファ用に20Wを内蔵している。数字的には小さく感じられるが能率が高いため、一般的な家庭ではこの出力を使い切ることはほとんど無いだろう。サブウーファのレベルは±3dBで調節が可能。音量に加え、BASS/TREBLEの調整も可能なリモコンが付属する。

 サテライトスピーカーの外形寸法は180×180×643mm(幅×奥行き×高さ)で、30~40型程度の薄型テレビと組み合わせるとピッタリくるサイズだ。通常のスピーカーと比べて幅も狭いため、テレビラックの左右に設置しやすいだろう。重量は1台約2.8kg。

 弦楽器のシルエットをイメージしたという背面デザインが特徴。黒いスピーカーネットも付属している。パネルそのものが透明なため、通常のスピーカーと異なり、ネットを付けると逆に存在感が増してしまう。筐体はプラスチックベースで質感的にはチープだが、実売3万円という価格を考えると仕方のないところだろう。

付属のリモコン スピーカーネットをつけると存在感が増す

レコーディングメディア ビジネス・グループ 商品企画部 ペリフェラル商品企画課 スピーカー商品企画係の下山秀一係長

 入力はステレオミニを1系統と、RCAのアナログ入力を2系統の計3系統。いずれもサブウーファに入力端子を備えている。能率が高いため、ポータブルプレーヤーやPCと組み合わせても使いやすいシステムと言えそうだ。

 販路として下山係長は「従来のPCスピーカーコーナーではなく、薄型テレビの売り場で展開していきたい。シアターシステムとも競合できる価格帯なので、テレビの音のグレードアップと同時に、ホームシアターでも利用して欲しい」という。また、iPodなどのポータブルプレーヤーとの組み合わせも提案。「イヤフォンなどでしか音楽を聴かない、本格的なオーディオを体験したことがない世代にも使って欲しい」とした。

 アンプも内蔵して実売3万円という価格は非常にコストパフォーマンスが高い。PC用のアクティブスピーカーとしては高価だが、再生能力としてはPCスピーカーの枠を超えており、オーディオ用スピーカーとしても実用に耐えるレベルだ。なおかつ、コーンユニットを採用した通常のスピーカーでは、高級モデルでも出しにくいトランジェントや繊細な描写を実現しているのが興味深い。オーディオスピーカーとしては馴染みがほとんどない同社であり、3万円という価格はオーディオファンからは逆に「聴く前に切り捨ててしまう価格帯」かもしれない。だが、一聴の価値はあるシステムだ。

□TDKのホームページ
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□ニュースリリース
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(2006年11月29日)

[AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]


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