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松下電器産業株式会社の大坪文雄社長は10日、年頭記者会見を行ない、2007年度を初年度とする3カ年の中期経営計画「GP3」を発表した。昨年6月の社長就任以来、大坪社長体制での、初の経営方針説明となり、大坪体制の本格的な船出と位置づけることができる。 ● プラズマパネルの第5工場建設計画を発表。2009年5月より稼動予定 会見の中で、大坪文雄社長は、新たなプラズマパネル工場の建設計画を明らかにした。 松下電器と東レの合弁会社である松下プラズマディスプレイ株式会社は、現在、兵庫県尼崎市で稼働しているプラズマパネル工場の尼崎第1工場(プラズマ第3工場)、今年夏から稼働する予定の尼崎第2工場(プラズマ第4工場)の隣接地に、約2,800億円を投じ、2007年11月から着工。2009年5月から稼働し、第4工場に比べて約2倍規模となる年間1,200万台規模(42インチ換算)の生産体制とする予定。 延床面積は284,000平方メートル、6階建てとなる。現在、地権者との話し合いが最終段階にあるという。 「2009年には、販売計画が生産能力を上回ることになる。ここで手を緩めずに販売数量に見合う生産能力が必要だと考えた」(大坪文雄社長)としている。 一部報道では、茨木第1工場および茨木第2工場を閉鎖するとされていたが、「長期的な視点で見れば生産施設の陳腐化もあるが、モノが足りない現状を考えれば、閉鎖する必要はない。第1工場は試作ラインとして活用でき、第2工場は年間100万台もの生産規模がある。すぐに閉鎖することは考えていない」と否定した。 尼崎地域に最新生産拠点を集中させることについては、「集中オペレーションによる効率化を目指したもの。大きなガラス材料などの物流面でのメリット、高精細化、フルHD化に対する最新技術の共有という点でも、集中立地の方がメリットが多い。地元からの補助金の多い、少ないは関係ない」とした。 また、地震や台風といった天災によるリスク分散が行なわれないのではとの質問に対しては、「あらゆる角度から検証を行なった結果、集中立地でも、分散立地でも条件は同等との結論を出している」との見解を示した。
● 2009年度、売上高10兆円、ROE10%を目指す 中期経営計画「GP3」では、最終年度となる2009年に、売上高10兆円、資本利益率(ROE)10%の達成を目標として掲げ、グローバル規模での増販を達成しながら進化を続けていく「Global Progress」、グローバルで高収益をあげる「Global Profit」、世界で信頼されるブランドを実現する「Global Panasonic」を目指すことを示した。GP3の名称は、この3つの頭文字からとった。 また、社内的な目標として、営業利益率8%を掲げ、グローバルエクセレンス企業の条件のひとつとしている営業利益率10%を、2010年以降に達成するための足がかりにする考え。「GP3は、グローバルエクセレンス企業への挑戦権を得るための中期経営計画」(大坪文雄社長)とした。 GP3を成長に向けたフェーズチェンジと捉え、これまでの「躍進21」で取り組んできた構造改革、事業再編を軸とした計画から、「収益を伴った着実な成長」へと方針を切り替える。 また、躍進21計画で重視していた営業利益率、CCM(キャピタル・コスト・マネジメント)の経営指標を、GP3では、売上高、ROEを経営指標として掲げた。 「構造改革のフェーズでは、大規模な構造改革投資があり、純利益やROEではわかりにくかったため、営業利益を指標とした。だが、成長フェーズに転換したことで、経営活動全般の成果を求めるようになる。成長の指標として売上高で10兆円、資本収益性の指標であるROEで10%を目指す」としている。
● 海外2桁増販や、4つの戦略事業のシェア拡大などを重点テーマに GP3の重点テーマでは、「海外2桁増販」、「4つの戦略事業」、「継続的な選択と集中」の3点をあげる。 海外2桁増販では、2009年度までに約1兆円の売上増を計画する中で、約7割を海外事業が占めると予測しており、北米、欧州市場では3年間で3,100億円の増加、アジア・中国で3,400億円の増加を見込む。とくに、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)とベトナム市場においては、3年間で2,000億円の増加を見込むという。 「北米市場では薄型テレビを核にデジタルAV分野の大増販を図り、有力量販店との協業拡大などを図る。また、アジア・中国では薄型テレビやデジタルカメラの拡販に加えて、白物家電、美容・健康家電の重点市場と位置づける。東欧、中近東にも積極的な進出を図る」などとした。 4つの戦略事業としては、生活快適実現事業(Appliance Solutions)、半導体・デバイス事業(B.B.Devices)、カーエレクトロニクス事業(Car Electronics)、テジタルAV事業(Digital AV Networks)をあげ、それぞれの頭文字から「ABCDカルテット」と呼んだ。
成長の柱となるデジタルAV事業に関しては、プラズマテレビ、液晶テレビ、デジタルカメラ、Blu-ray Discレコーダ、HDVカメラの5つを重点商品として、今後3年間で約7,000億円の増販を目指す。 薄型テレビでは、2009年度グローバルシェア目標として、37インチ以上で25%のシェア獲得を目指す計画を明らかにしたほか、デジタルカメラでは2009年度に全世界で15%のシェア獲得を目指す。 「薄型テレビは、絶対に負けることができない事業。圧倒的なコスト力で液晶を凌駕し、全社の総力をあげて闘う。また、デジタルカメラは、内製キーデバイスによって高い収益性を確保しているビジネス。一眼レフカメラ事業の拡大と商品ラインアップの拡大によって、トップ3の一角を占める確固たるカメラブランドへの成長を目指す」と宣言した。
HDVカメラとBlu-ray Discは、デジタルAV事業における第3、第4の柱に成長させる方針を示し、「HDVカメラでは、SDカード対応のAVCHDカメラなどを起爆剤に、2009年度には全世界40%のシェア獲得を、また、Blu-ray Discでは、先行技術と圧倒的なコスト力によって、レコーダ、ドライブともに、全世界35%のシェアをそれぞれ目指す」としている。 これら、デジタルAV事業の重点5商品における海外販売比率は、現在の78%から、2009年度には約9割を占めることになるという。
カーエレクトロニクス事業は、現在7,500億円の事業規模を、2009年度には9,500億円へと拡大。1兆円規模の事業へと成長させる計画だ。自動車メーカーとのパートナーシップ強化による純正仕様商品の事業拡大、市販品である「Strada」のグローバル展開が鍵になるという。 生活快適実現事業では、松下電器と松下電工とのコラボレーションのほか、ドメインを越えたシナジーの最大化を図るために、生活快適実現事業強化プロジェクトチームを設置。白物家電などの個別事業で約2,400億円の増販、商品連携によるシナジー増販で1,800億円の増加を見込んでおり、2009年度には、現在の2兆6,000億円の事業規模を、3兆円にまで引き上げる計画だ。 半導体・デバイス事業では、強い業界・事業分野に集中することで、シェアナンバーワン製品の売上高構成比を現在の40%から50%に拡大する考えだ。今後3年間で、半導体では1,200億円の増加、その他デバイスでも同様に1,200億円の増加を目指すという。 松下電器では、2007年度には、V商品として76品目を選定。これだけで2兆1,000億円の売り上げを目指すという。 「社内目標である営業利益率8%に対して、AVCネットワーク事業では全社レベルの数字をあげることが極めて重要。白物家電は、少し上回ることが期待できる。また、半導体・デバイスにおいては高い数字が上乗せとなることを期待したい」と、これらの分野での収益確保を見込んでいることを示した。 一方、設備投資および研究開発投資に関しても、戦略的投資を継続する姿勢を見せ、プラズマテレビの生産体制の強化など、成長分野を中心に3年間で1兆5,000億円の設備投資を行なうほか、先行重点テーマへのリソース集中や、開発効率の向上を目指す目的で研究開発投資として1兆8,000億円を予定している。また、「ネット資金、金庫株を技術、知財、M&Aに対して機動的に投入していく。コア事業の強化という点で、より早く、より効率的であると判断すれば、時間への投資として、M&Aで補完していく」と語った。
また、課題事業といえる携帯電話に関しては、「2007年は個別の商品づくりに徹底的にこだわり、国内ナンバーワンの商品づくりにチャレンジしたい。2008年は、NECやTIとの合弁効果が現れる1年になるだろう。そして、2009年には3.5Gや、3.9Gが主流となることから、グローバル展開ができるチャンスがあればそこに乗り出したい」との見通しを示した。 なお、日本ビクターの株式売却の報道に関しては、「企業価値を高めるための施策を検討している。私個人としては、明確な考えを持っているが、今は何も決まっていない。決まっていないという点では、中期経営計画の数字のなかに含まれているということだ」とした。日本ビクターの件について、記者からいくつかの質問が出たが、大坪社長は、「決まっていないため、これ以上、なにも答えられるものはない」としてすへでの質問を退けた。 ● 「モノづくり立社」の方向性をさらに強調 大坪社長は、就任以来、「モノづくり立社」を、松下電器の方向性として示していたが、今回の会見でもその点に言及した。 「すべての活動は商品として結実する。モノづくりは、商品を生み出すプロセス全体である」との考え方を改めて示し、その上で、「モノづくり立社を実現する全社革新運動を推進する。4月にモノづくりイノベーション本部を設置し、商品を基軸に全体最適の取り組みを追求する。また、これをITの面から支援していくことになる。原価構築プロセスの高位平準化を目指し、原価の詰めを徹底的に行なう。この結果が原価を追い込み、利益を拡大することにつながる。増販しただけでは収益は得られない。しっかりと利益を確保するための原価力の徹底強化が必要だ」とした。 今回の経営方針の発表は、大坪社長にとって、初めての方針説明。就任会見や、決算発表など、これまで発言にはやや慎重だったのに比べると、姿勢を大きく転換し、具体的な数字を打ち出したことなどが評価される。中期経営計画の達成には、海外事業の成長が鍵を握るのは明らか。地域ごとに特性が異なる海外事業を、まんべんなく成長させることができるか、その手腕が注目される。
□松下電器産業のホームページ ( 2007年1月10日 ) [Reported by 大河原克行]
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