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3月23日、ついにApple TVが販売開始された。Apple TVは、2006年9月にAppleとしては異例といえる事前の製品発表(当時は仮称iTV)が行なわれた、Appleのリビングルーム進出に向けた戦略製品だ。iTunesとiPodでノンパッケージの音楽コンテンツで成功を収めたAppleが「いよいよビデオにやってくる」ということで、映画/コンテンツ業界でも、ある人は期待を、またある人は対抗する意志を語るなど、広く話題を呼んだ。 基本的には、iTunesに収録したコンテンツを再生するネットワーク対応のメディアプレーヤーだが、40GB HDDを搭載。単体でもiTunesと同期したビデオや音楽の再生ができる。 日本国内では、かなり昔からアイ・オー・データの「LinkPlayer」などのネットワークプレーヤーが販売されていたため、機能的にはさほど目新しさは無いようにも感じるが、iTunesという普及したプラットフォームとiTunes Storeという強力なサービスをベースに、Appleが開発した製品だけに、期待は高まる。 AppleStore価格は36,800円。既存のネットワークプレーヤーが2~3万円程度で購入できるが、HDDやHDMI出力、無線LANなどの仕様を考えれば、あまり高価には感じない。デザインやパッケージングを含めた、高級感の演出もAppleらしく、細かい配慮が行き届いている。
■ ユニークなデザイン。出力端子はHDMI、コンポーネント“のみ”
40GBのHDDを内蔵するほか、無線LAN、Ethernetなどのネットワーク機能、HDMI、コンポーネントなどの映像出力などを装備しながら、外形寸法は197×197×28mm(幅×奥行き×高さ)とコンパクト。ちょっと厚いフリスビーといった面持ちだ。 継ぎ目のほとんど見あたらない筐体の仕上げなど、モノとして、高級感を感じさせてくれる意匠がAppleらしい。HDDを内蔵しながらも筐体は28mmと薄く、既存のネットワークメディアプレーヤーと比べ、かなり小型といえる。重量は1.09kg。電源ユニットを内蔵し、ACアダプタが不要というのも設置性を考えれば非常に重要なポイントだ。 無線LANはIEEE 802.11nドラフト1.0に準拠、IEEE 802.11a/b/gにも対応する。背面にはEthernetのほか、HDMI出力、コンポーネント映像出力、アナログ音声出力、光デジタル音声出力、USBなどを装備。S映像やコンポジットなど一般的なビデオ出力には対応していないため、接続するテレビ/ディスプレイにHDMIやコンポーネント端子が必須となる。 また、Apple TVにはHDMIやコンポーネントケーブルは付属しないので、購入してすぐに使いたい、といった場合には、それらのケーブルを用意しておきたい。
■ 「同期」と「ストリーム」の2つのコンテンツ利用方法 初回起動時の起動時間は約1分。なお、Apple TVには[電源のON/OFF]という概念が無く、基本的には「電源入れっぱなし」で利用する。「AppleRemote」の再生/停止ボタンを約6秒長押しするとスタンバイに入り、スタンバイからの復帰は、1秒とかからない。 初期起動時に言語やネットワーク設定を行なう。有線LAN接続の場合は、通常のDHCPでIPアドレスを取得するだけ、無線LANの場合は、接続するアクセスポイントを指定し、パスワードを入力するだけで登録が完了する。ルータのフィルタリングルールによってはきちんと利用できない場合もあるので、注意したい。 Apple TVを利用する前にコンテンツの準備として、利用するiTunesのライブラリの登録、もしくは[同期]する必要がある。「ライブラリの登録」は、PC/MacintoshのiTunesをサーバーとして、Apple TVからストリーミング再生する方法、「同期」はその名の通りApple TVのHDDにiTunesライブラリをコピーする方法だ。 ・同期
同期は、iTunesのメインメニューの[ソース]の[同期]の項目から行なう。ここで「同期をオン」を選ぶとApple TVを接続したディスプレイにパスコードが表示される。その後、PC/MacのiTunesを起動し、[デバイス]として表示されるApple TVを選択すると、iTunes上にパスコード入力画面が現れる。この画面にApple TVが表示しているパスコードを入力すると、同期が開始される。100BASE-TXの有線LANで、約11GBのライブラリを同期した際の時間は約29分。 なお、Apple TVのHDDに保存するコンテンツは、PCから同期する必要があり、Apple TVのみにファイルを保存する、という設定はできない。つまり、Apple TVのコンテンツは必ずiTunesライブラリ上にも存在し、そのコピーがApple TVに転送されているのだ。あくまでiTunesを親とした同期先という扱いのため、Apple TV単体でiTunes Storeの楽曲やビデオファイルを購入する機能は備えていない。 また、複数のPCを同期先に指定することはできず、同期するPCを変更すると、HDDのコンテンツがすべて消去される。
・iTunesライブラリの登録
同期するiTunesのほか、Apple TVでは最大5台までのiTunesを登録/利用できる。登録は同期時と同じで、Apple TVの[ソース]から、[新規iTunesに接続]を選択して、パスコードを表示。このパスコードをiTunes側で入力するとApple TV側でサーバーとして登録される。 同期/登録したライブラリは[ソース]からそれぞれアクセス可能となっており、同期したファイルは[Apple TV]マークから、ストリーム再生用のライブラリは[○○のライブラリ]などと表示される。 基本的にストリーミングからの再生でも、HDDからの再生でも機能的にはほぼ同じ。ただし、写真についてはストリーム再生不可となっている。ストリーミングの場合、ネットワークを介すためにライブラリの呼び出しに1秒程度かかるが、その後は操作する上でほとんど違いを感じさせない。 ■ シームレスかつ高速な操作性。画質は良好
Apple TVの初回起動時に言語やテレビの解像度を選択する。解像度は1080i、720pと、1080i/50Hz、720p/50Hz、576p/50Hz、480pなどが用意され、メインメニューの[設定]からも変更可能となっている。なお、HDMIとコンポーネントの同時出力はできない。これらの設定や操作は、全て付属するApple Remoteを利用する。 起動すると、iPod的な操作画面が現れる。ソースとするサーバーを選択するために、[ソース]から選択。Apple TVロゴを選択すると、同期した(HDD上の)コンテンツを、[○○のライブラリ]を選択するとサーバーとするiTunesをソースに指定する。 メインメニューには、[ムービー]、[テレビ番組]、[ミュージック]、[Podcast]、[写真]、[設定]、[ソース]の各項目を用意。Apple Remoteの丸形ボタンの上下カーソルで項目選択、左右カーソルで階層移動、中央の再生/停止ボタンで、決定操作を行なう。メインメニューや、1つ上の階層に戻るためにはMENUボタンを利用する。
機能的にはシンプルで、UIのデザインはiPodとほぼ同じなので、iPodのユーザーであれば戸惑うことはほとんど無いだろう。 また、HDD上の同期コンテンツはほぼ瞬時に検索を開始できるが、iTunes上のストリーミングコンテンツは初回の接続時に、有線LANでも2秒ほど時間がかかる。また、iTunesからのストリーミングを行なう場合は、あらかじめPCやMacintosh側でiTunesを起動しておく必要がある。 ・動画再生機能
対応するビデオファイルは、MPEG-4 Simple ProfileとH.264/MPEG-4 AVC。H.264については640×480ドット/30fps/Baseline ProfileのLCバージョン、320×240ドット/30fps/最大Level 1.3のBaseline Profile、1,280×720ドット/24fps/Progressive Main Profileに対応。MPEG-4は640×480ドット/30fpsのSimple Profileをサポートする。 WMVやDivX、MPEG-2ファイルなどは、そもそもiTunesに登録できないため、Apple TVから再生することはできない。 H.264はiPod用のBaseline Profileだけでなく、PSP用のMain Profile動画も再生可能だ。また、iPod用動画作成ソフトは現時点でもたくさんあるので、それらを活用してApple TVで再生可能な動画は容易に再生できる。ただし、VGAやHDクラスのH.264ファイルが作成可能なソフトはまだ少ないので、本格的に利用する場合は、このあたりの環境構築をしっかり考えたい。 PCで録画を行なっている場合は、基本的にMPEG-2となるので、MPEG-2から640×480ドット程度のH.264に変換する仕組みを用意する必要がある。なお、バッファローのH.264キャプチャユニット「PC-MV9H/U2」で録画した640×480ドットのH.264ファイルも、高画質/標準/低画質の3モードとも再生できた。Apple TVのような周辺機器が増えることで、PCのキャプチャ製品でもH.264が再び注目を集めることとなるかもしれない。 操作はシンプルで、再生開始後は、Apple Remoteの左右ボタンの長押しで早送り/戻し、左右押しで前/次のファイルへのスキップとなる。MENUボタンで前の画面に戻り、円形ボタンの中央で再生/停止を行なう。途中まで観たコンテンツをそのポイントから再生する、タイトルレジューム機能も搭載しており、HDD上でもiTunesからの再生時でも同様にレジューム再生が可能となっている。
今回、Apple TVとソニーの40型フルHD液晶テレビ「KDL-40X2500」や東芝の37型フルHDテレビ「37Z2000」とHDMIで接続して試用した。ただし、KDL-40X2500のHDMI接続では、音声が出力されないなどの問題が生じた。動作検証リストの公開や、ファームウェアアップデートによる、接続トラブルの解消にも期待したい。 まずは720pのH.264ファイルを再生してみた。HDコンテンツだけありクオリティは申し分なく、操作レスポンスも良い。ネットワーク経由だと早送り/戻し時にバッファ時間が若干必要となるが、それでもさほど不満に感じることはない。ただ、こうしたHDコンテンツをどう用意するか、ということが課題となりそうだ。なお、画質設定機能などは特に備えていない。 また、初期のiTunes Store(iTunes Music Store)で配信されていたPixarのビデオやiPod/PSP用のQVGAのコンテンツは、さすがに40型の画面だと輪郭がガタガタでかなり見づらい。ただし、MPEG-2的な大きなブロックノイズが見られないため、QVGAを引き延ばしている割には悪くない。 米国のiTunes Storeで購入した「Pirates of the Caribbean: The Curse of the Black Pearl」を再生してみた。iTunes Storeでは解像度640×480ドット、ビットレート約1.5MbpsのH.264/MPEG-4 AVCファイルとして販売されているが、これがなかなか高品質。DVDに肉薄するクオリティといえる。 低ビットレートながら、精細感もDVD並みで、かつコーデックの特性ゆえか、ブロックノイズの少なさと暗部階調がきっちりと残っている点など、シーンに拠ってはDVDを越えていると感じることもある。「DVDを観ている」と言ってもほとんどの人は気づかないだろう。 ただし、現状、日本ではiTunes Storeにおいて、映画の配信が行なわれていない。北米におけるApple TVは「iTunes Storeの映画配信と連動した端末」といえるが、残念ながら日本においては主に自身が用意したテレビ録画番組や、自作のビデオがメインのコンテンツになるわけだ。早期に映画配信スタートすれば、Apple TVの魅力をより高めることとなると思う。 もっともWMV形式などでは国内でも多くのサービスがスタートしていながら、今ひとつ大きな市場を築けていない。そうした意味でも、Apple TVが市場の起爆剤となることを期待したい。 映画を直接ダウンロードすることはできないが、Apple TVからiTunes Store上の映画や人気コンテンツの予告編にアクセスし、ストリーム再生は可能だ。こうした無料コンテンツでApple TVの持つ可能性は体験できるのだが、それだけに映画をダウンロードできないのが残念と感じる。 TV番組という項目も、iTunes Storeで購入したテレビシリーズ用の項目のため、基本的に日本では使い道が無い。ただし、iTunes Storeにアクセスして人気テレビ番組の予告編をストリーム再生できる。 また、iTunes上や同期したPodcastコンテンツの再生も可能で、ビデオPodcastも再生できる。普段聞いているPodcast番組も、テレビやステレオシステムで聞くと、かなり印象が異なり面白い。
・ミュージック/フォト
音楽再生機能も、インターフェイスはiPodを踏襲しており、操作系もメインメニューやビデオ利用時と共通だ。ただ、音楽の場合は大量の楽曲が扱えることから、iPodのようなホイールではなく、順送り式のカーソルによる楽曲検索が億劫に感じることもある。 iPodと同様にプレイリスト再生やシャッフル再生も行なえる。楽曲の検索画面もアーティストやアルバムごとの検索が可能となっている。さらに検索画面でアルバムのジャケット写真をスライドショーで表示してくれるなど、iTunesのCover Flow画面を一歩先に進めたようなユニークな演出がAppleらしく、面白い。 なお、iTunes Storeで購入したミュージックビデオはビデオでなく、[ミュージック]から再生する。 サーバー上のiTunesコンテンツも、初回接続時以外はHDD上とほぼ変わらないレスポンスで利用できるなど、検索や再生操作で不満を感じさせることはない。非常に良くできたネットワークプレーヤーに仕上がっている。再生画面ではジャケット写真表示も可能だ。
テレビとの接続のほか、光デジタル/アナログ音声出力も備えているので、アンプなどと接続して、HDD/ネットワークジュークボックスとして利用できる。128kbps程度のMP3だと、それなりのステレオシステムと組み合わせると物足りなさを感じるかもしれないが、WAVやApple Losslessにも対応しているので、家庭用とポータブル用でコーデックを使い分けてもいいだろう。なお、イコライザなどの音質調整機能は備えていない。
写真機能はWindows環境の場合、同期したHDD内のコンテンツに限られる。また、任意の写真だけを表示する機能はなく、アルバム/スライドショー表示のみとなっている。 同時に再生する音楽の設定やスライドショーの時間、エフェクトなどかなり細かい設定ができる割に、1枚を選んで表示できないというのは寂しい。
■ 完成度の高い「リビングのiPod」。もう一歩先に期待 ネットワーク対応のメディアプレーヤーは、アイ・オー・データやバッファローなども発売しているが、デザインやソフトとハードウェアの融合、レスポンス、リモコンでのシンプルな操作性など、ふんだんにAppleらしさが盛り込まれている。 さらに、HDDを内蔵したことにより、サーバーを起動せずにもビデオや音楽が利用でき、価格も36,800円と機能を考えるとかなり安価だ。ビデオに関しては、対応コーデックが限られるのは残念だが、iTunesを中心としたマルチメディアソリューションとして、第1弾製品とは思えない完成度だ。22日の発表会では「リビングのiPod」として提案したが、確かにそうした操作感で使える製品に仕上がっている。 ただ、やはり「ビデオ」を活かすことこそApple TVの本来のコンセプトだろう。よりビデオを積極的に活用するために、iTunes Storeでの映画配信など、サービスの強化と、使い勝手の向上に期待したい。またiPodの様に、Apple TVとの併用を想定したH.264/MPEG-4 AVCキャプチャ製品やエンコーダなど、周辺環境が充実してくれば楽しみ方が広がるだろう。 □アップルのホームページ ( 2007年3月23日 ) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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