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DVDフォーラムは18日、「DVDフォーラムセミナー2007」を開催し、HD DVD/DVDの最新規格化動向や、「フォーラムでいま最も議論が集中している」というCSSによるコピー保護に対応したDVD-RへのDVDビデオ記録についての展開などが紹介された。 ■ 現行DVDへのHD DVDビデオ記録も実現へ
DVDフォーラム TCG議長の東芝 山田尚志氏は、フォーラムの規格化動向について解説した。 ネットワークを利用した提案が増えてきたことから、フォーラム内にDVDビデオのCSSダウンロードに関する「AH0-21」や、ネットワーク機能について議論する「AH0-23」という新しいアドホックグループを設立。「CSSダウンロードを含む、最新の動向を議論する」という。また、HD DVDビデオやファイルシステム、ハードウェア機器用の互換性ガイドラインなど、各規格のバージョンアップを報告した。
・ハリウッドもネットワークに注目 コンテンツ企業からの要求としては、「最近はネットワークダウンロードの要求が増えてきた」とし、HD DVDの著作権保護規格であるAACSのマネージド・コピー(Managed Copy)などについて説明。 マネージド・コピーは、ネットワーク経由で認証を行ない、HDDやHD DVD、メモリーカードなどへのコピーを許可するもの。山田氏は、「マネージドということで、“秩序ある”コピーを許すと考えてほしい」と述べ、メリットとして、「車や携帯、個人端末などへの持ち出し」のほか、「違法コピーを違法と定義できる」という点も訴えた。「DVDはコピーネバーで、それを私的にコピーしていいのか問題になってきた。しかし、コンテンツ側が正規のコピーをきちんと定義すれば、その違法/合法の議論が避けられる」と説明した。 ハリウッドの取り組みとしても、「まだ、ビジネスにはなっていない」ものの「DVDビジネスが飽和して、次世代DVDに対する期待が高まっている。ネットワーク専任のスタッフを用意するなど、スタジオの対応が変わっているという」。また、PCとの融合が真剣に考えられるようになり、「コンテンツ業界の“パソコンは敵”という風潮、抵抗が、薄くなってきた」という。
こうした現状を踏まえた上で、「フォーラムとしてはこれにあわせてディスクの規格を作っていきたい」とした。ただし、「既存のネットワーク規格との整合が必要となる。ディスク規格の定義だけでは互換性が保てなくなりつつある」などの課題も指摘した。 ・現行DVDへのHD DVDビデオ形式記録に目処
また、現行DVDに対するHD DVDビデオフォーマットでの記録についても進捗状況が報告された。MPEG-4 AVC/H.264やVC-1などの高圧縮コーデックにより、HDでも2層DVD-Rに2時間記録が可能なほか、「安価なメディアが利用できる」などの特徴を紹介。LSI化も進んでいるため、「レコーダの付加価値向上も図れる」とのことで、今後ロゴも定義する予定。 DVD向けのHD DVDビデオ記録ではファイルシステムにUDF 2.0を採用する。通常のHD DVD-Rでは、ファイルシステムにUDF 2.5を利用するが、「HDで記録したディスクを、既存のドライブで追記しないように、ディスクを認識させるため」という。 HD DVDビデオフォーマットの記録メディア用規格はほぼ確定しており、「VRフォーマットはすでに規格化済みで、9月中にほぼすべての作業を終了する。その後で製品化が可能となる」という。なお、同フォーマットの著作権保護規格はAACSを採用し、現在のCPRM対応DVD-Rメディアで対応できるという。
また、現行DVDを応用した、「ダウンロードDVD」の取り組みも紹介。CSSとCPRMを使った2つの方法が用意されている。DVD-RやRWにCSSやCPRMで保護機能を加えることで、DVDビデオのオンデマンドサービスなどを実現できるというもの。ともに、DVDビデオ形式のコンテンツにCSSやCPRMを適用し、著作権保護を施したDVD-Rを作成できる。
CSSを採用した「CSS Managed Recording」のメリットは、「現行の多くのプレーヤーで再生できる」こと。「CPRM Managed Recording」では、CPRMで保護されたDVDビデオフォーマットの記録が許可されている。
山田氏は、「ビジネスとしてCSSとCPRMとどちらを使うのかという問題がある。片方だけでいいのでは? という話もあったが、セキュリティ上はCSSよりはCPRMのほうが高い。日本の場合だとCPRMのプレーヤー/レコーダが多いので、どちらでも使える。アメリカだとやはりCSS。これらは規格ができているので、あとは市場に任せたい」と説明した。なお、CSSを使ったダウンロードについては、今回のセミナーの大半の時間を割いて、各業界から取り組みが説明されている。 また、中国独自のHD DVDフォーマットについては、物理スペックは承認済み。OMNERCとの合意文書は6月に承認されており、調印待ちという。製品化は2008年8月の北京オリンピックが目標で、2008年の3月ごろには対応製品の登場が見込まれるという。山田氏は、「ビデオCDのように、場合によってはうまくいくかもしれない。マーケットとしては購買力がある人が2億ぐらいいるので、大きな市場になることを期待しています」とした。 ■ AACS正式版も年内に発行 WG-9議長を務める東芝の石原淳氏は、AACSなど著作権保護技術の最新動向について説明した。
CSSやCPRMのDVDビデオ適用などの新しいルールを紹介したほか、HD DVDで採用している著作権保護規格AACSのアップデートについても解説した。 AACSを利用したHD DVDコンテンツ保護では、HD DVDビデオ形式での、HD DVD-R/RWに記録や、HD DVD-VR形式でのDVD-R/RW/RAMへ記録を用意している。また、AACSについては、2006年1月より暫定のライセンスが発行されているが、恒久ライセンス仕様の策定作業も「終わりが見えてきた。年内にはライセンス開始できる見込み」という。 恒久ライセンスでは、新たに以下の追加が図られる。
ウォータマークについては、VeranceのVCMS/AVウォーターマークを採用。ライセンスも開始された。2つのウォーターマークが定義されており、1つは、劇場で撮影した違法コンテンツ向けの「Theatrical No Home Use Mark」。検出されたコンテンツは再生禁止とする。もう1つの「Consumer Mark」は、検出した際に、AACSの承認するフォーマットで、正規コピーを示す情報があればそのまま再生。それらがない場合、一定期間音声出力を停止する。
また、マネージド・コピーは、画質やコピー範囲、個数、料金などをコンテンツ提供者が指定可能だが、基本方針としてフル画質で全範囲、1個としている。また、マネージドコピーのためには、各タイトルディスクには国際規格の番号(ISAN)が必要。また、コピー個数管理のために各ディスクにはシリアル番号(PMSNなど)が必要となる。 マネージドコピーでダウンロードしたHD DVDビデオコンテンツを、既存のHD DVD-ROM(Prerecorded Videoフォーマット)に類似した形式でディスクに記録可能とする「Prepared Video」も定義。ダウンロードしたコンテンツをHD DVD-R/RWなどにバックアップ可能となる。 なお、恒久版AACSでは、ドライブとホストの間のインターフェイスバス上で暗号化して保護する機能も追加される。暫定版AACSでは、一部のPC用再生ソフトの実装の問題から、AACSの暗号鍵(Title Keyなど)が流出する事例が発生したが、この対策によりPC環境でコンテンツを平文で取り出すことは不可能となるという。
■ ネットワーク機能を強化するHD DVD WG-1議長を務める東芝の三村 英紀氏は、HD DVDビデオの「アドバンストコンテンツ」の特徴について紹介。HD DVDではDVD相当のナビゲーション機能を提供するスタンダードコンテンツと、より新しい体験の提供を目指した「アドバンスドコンテンツ」の2種類が定義されている。
既存のHD DVDビデオタイトルの多くがアドバンスドコンテンツとなっているが、今後はネットワーク機能を採用したタイトルの増加が見込まれる。 ネットワーク機能については、目的に応じて3つの「ビデオオブジェクト」を定義。メイン画面を止めてトレーラなどを表示する「Substitute Audio/Visual」、吹き替え言語などに利用し、映像/音声などに同期して言語を表示できる「Substitute Audio」、オーディオ/ビデオの追加用の「Secondary Audio/Video」の3種類で、ネットワークを利用したさまざまなコンテンツ強化に対応可能としている。 マイクロソフトの堀 明宏氏は、アドバンスド機能を実現する「HDi」について解説。XMLやCSS、SMIL、ECMA Scriptなどのオープンな規格を採用し、Webデザイナーなどでも扱えるような、シンプルな技術としたほか、マイクロソフトでも各種テストツールを提供しサポートしていくという。 また、HDiは、HD DVDのディスク固有ID(BCA PMSN)にあわせたサーバー挙動の制御にも対応しており、特定量販店で販売したディスク用のメニューの提供なども実現可能という。
メモリーテックの大塚正人氏は、HD DVDビデオ「FREEDOM」に実装されたPinPやネットワーク機能を紹介。 HD DVDでは、ネットワーク機能が最初から必須となっているが、FREEDOMを皮切りに、今後ネットワーク対応ディスクの登場が予想される。そのための互換性の問題も心配されるが、「現在、テストツールを開発中で、我々もラウンドロビンテストに参加している。ツールを間もなくリリースし、世界中の各プレーヤーでの互換性を確保する方針」という。 ■ 「DVD Download」へ関連業界が期待
また、今回のセミナーで最も時間を割いて説明されたのが「CSSダウンロード(DVD Download)」について。 フォーラム内では「DVD Download Disc for CSS Managed Recording(CSS-MR)」と呼ばれており、市販DVDビデオで使われている著作権保護技術である「CSS」を用いて、DVDビデオ形式のコンテンツをDVD-Rに記録する。CSS付きのDVD-R記録に対応したことで、サーバー上の専用コンテンツをダウンロード販売し、キオスク端末や家庭内のPCなどでDVD-Rに書き出すなどの新しいビジネス展開が期待される。 ドライブメーカーやコンテンツホルダ、メディアメーカーなど関連各社が、CSSダウンロードの技術的特徴や、ビジネス展開への期待を語った。 ・CSS付きDVD-Rで、既存プレーヤーとの互換性を確保
WG-6議長のパイオニア谷口昭史氏は、CSS-MRのコンセプトを「CSSのかかったDVDビデオをネットやサービス事業者を通じてDVDメディアに記録する」と紹介。開発の留意点としては、「現行のDVDプレーヤーでの再生互換性」が一番の重要なポイントで、さらに「現在のDVDビデオのビジネスに新たなセキュリティ問題を起こさないこと」とした。 CSS-MRのアプリケーション規格は基本的にDVD-R for Generalを拡張したものとなる。ただし、いくつかの重要な規定変更を含むため、DVD-Rとは明確に区別する方針で、DVD-Rとは別の仕様書を用意し、ロゴも専用の「DVD Download」を新設定した。すでに規格化作業は完了しており、ロゴやライセンスは9月をめどに開始予定。「すでにスペックは決まっており、スケジュールどおりにライセンスを開始できるだろう(DVD FLLC 新岡氏)」という。 従来のDVD-Rと区別する最大の要因は、CSS-MRに対応した専用のディスクが必要となること。DVD Downloadでは、既存のDVDプレーヤーでの再生互換性を高めるため、メディアを識別するためのBookTypeを[DVD-R]ではなく、[DVD-ROM]に変更。理由については、「まっとうなメーカーのDVDプレーヤーでは、DVD-RにCSSがかかっていたら再生しないように設計されているため。DVD-ROMとして認識されるように仕様を決めた」としている。 さらに、Groovewobble規定を変更し、ウォブル周波数は現行DVD-R規格の2倍とした。これらの変更のため、CSS付きのDVD-R作成時には、CSS-MR対応のドライブで専用のディスクを利用しなければならない。 また互換性に関する問題として、DVDフォーラムでは、未記録のCSS-MRメディアを、既存の記録型DVDドライブに入れると不具合が発生する可能性がある、と警告。さらに、記録済みのCSS-MRメディアは、既存の記録型DVD機器では適切に認識できないため、DVDプレーヤー以外では利用しないように告知している。
さらに、CSS-MR対応DVD-Rディスクは、ビジネスモデルの違いにより2種類が用意される。というのも、DVD Downloadでは、流通事業者の提供サービスやキオスク端末など事業者が、専用端末を用いてディスクの注文販売を行なう「Manufacture on Demand」(MOD)と、消費者がネットの専用サービスからコンテンツを購入/ダウンロードし、ユーザー自らPCなどでCSS付きのDVD-Rを作成する「EST(Electric Sell Through)」の2種類が想定されており、メディアもMOD用とEST用が定義されているためだ。
EST用のディスクでは、CSSのキーとなる「CSS Secure Disc Key set」がプリライトされている必要がある。また、リードインのプリライトの有無などの違いがある。記録速度は6/8倍速がいずれも必須となっているほか、ESTのみ2/4倍速にも対応する。これは、「ESTでは、(ノートPCなど記録速度の遅い)スリムドライブでの利用が想定されるため(三菱化学メディア 石原旬氏)」という。 三菱化学メディアの石原旬氏はCSS-MR対応メディアの特徴を解説したほか、「生産時の注意点として、通常のDVD-Rと、CSS-MRのMOD用、EST用の混入防止などの課題がある」と説明。「メディアメーカーとしても新規ビジネスのチャンスと考えている。チャレンジに積極的に取り組んでいきたい」とした。 今後の規格化状況については、「2層規格についての要望が多く、最も重要な課題として今後取り組んでいく(パイオニア谷口氏)」としている。なお、8cmディスクについての規定はなく「要求も無かった」という。
・次世代ディスクとダウンロードが「DVD後」のビジネス
DVDフォーラム FLAG議長のワーナー・ホーム・ビデオ 長谷亙二氏は、コンテンツ業界からのDVD Downloadへの期待について語った。 米国市場の調査では、2004年にDVDプレーヤーの売上がピークを迎えた後、売上が下降している。また、DVDビデオソフトについても1年遅れの2005年をピークに減少傾向となり、2007年1-6月の米国のビデオソフト売上は前年比で16.7%減という結果となったという。 長谷氏は、「傾向としては上げどまり。結果として損益が低下しており、DVDが儲からない商売になってきた。次世代のBlu-ray/HD DVDにいきたいが、準備は整っても本格的なビジネスにはなっていない。次世代はもちろん極めて重要だが、“その次”に期待しているのが、ダウンロード」という。 「映画を見逃した、とか、昔の作品を見たいというニーズはある。しかし、販売店も棚が足りず、新作が中心になってしまう。一方、体育館のように広大なDVD売り場で欲しいタイトルが見つけられないというのも問題。店舗展開にはさまざまな課題がある。さらに、旧作や一度販売をやめてしまったタイトルは再DVD化は難しいなど、ニーズに応えられない状況がある」という。 ワーナーでは約6,600のタイトルを保有しているが、そのうちDVD化しているのは「実は1,500タイトル」。しかも、200タイトルはグラスマスターが劣化したため廃棄しており、「今、DVDとして用意できるのは1,300タイトルだけ。5,300本が消費者の手に渡らない。この問題をなんとか解決したい。その手段としてダウンロードを熱烈に推進したい」と説明。「(BD/HD DVDの)HDタイトルとダウンロードの2本立てで、“DVD後”のビジネスにつなげるべく、積極的に取り組みたい」と意気込みを語った。
・各業界が「ダウンロード」に期待 また、DVD Downloadについてのパネルディスカッションも実施された。
CRPMによるダウンロードも規格化されたが、ワーナーの長谷氏は、CSSを中心に考えている理由について「(米国などのプレーヤー普及状況から)CPRMのハードウェアの普及率とCSSとでは桁が違う。母数の大きいほうから進めたいというビジネス上の判断。まずは、事業者を対象にしたMODからサービスを始めたい」という。 また、東芝の三村氏は、「技術的にはどちらもDVDビデオが扱える。台数はCSSが多いが、セキュリティをどうやって考えるかということ。著作権保護機能としてはすでに破られているCSSよりCPRMが強い。また、CPRMのダウンロードはESTを前提に、イメージデータをどうやって扱うかまでを完全に定義している。一方、CSSはビジネス状況に合わせて対応できるよう、データの送り方など細かな規定は行なっていない。MODやESTでも柔軟なサービス構築ができ、さまざまなビジネスチャンスが考えられる」と説明した。 太陽誘電の新井氏は、「メディアの信頼性は、特に心配いただかなくても問題ない。しかし、メディアだけでなく、システム全体でいままでのドライブで新しいメディアが認識できないという課題はある。また、ESTとMODの区別、通常DVDとCSS-MRとの区別という問題、そのコストがどうなるのかというのも課題です」と語る。価格については、「現行のDVDよりは高くなる。何パーセントというのはまだ検討しているところ(三菱化学メディア 石原氏)」。 また、流通の協力が得られるのか、という疑問については、日本での課題もあるが、まずは、「米国が中心になるだろう(ワーナー長谷氏)」とする。また、「米国では、大手量販から薬局まで興味を示している(三菱化学メディア 石原氏)」とのことで、「写真の現像サービスみたいなもの、と考えられている。スーパーなどに設置した端末で、タッチパネルで写真を選んでオーダー。15分後ぐらいに買い物を終えてカウンターに戻ってくると、写真が用意されている。それがDVDになるというだけという理解のようだ」という。 □DVDフォーラムのホームページ ( 2007年7月18日 ) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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