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高画質と新機能を創造する松下のBlu-ray研究拠点
-「パナソニックハリウッド研究所」見学記


パナソニックハリウッド研究所


 Blu-ray Discを積極的に推進する松下電器産業。その米国における技術開発拠点と呼べるのが、パナソニックハリウッド研究所(PHL)だ。北米におけるBlu-ray Disc推進の拠点となるとともに、ここから生み出された高画質化技術の多くが、パナソニック製品に導入されている。

 PHLは、松下電器産業による'91年のMCA(現Universal Studios)を買収後に、ユニバーサル・スタジオ内に設立されたHDテレシネセンターを前身とし、映画フィルムのデジタル変換や、画像圧縮、オーサリング、デジタルシネマの研究などを現地のスタジオと協力して進めている。

 International CES閉幕後、PHLを訪れ、PHLの歴史とともに、パナソニック製品に生かされた各種技術について話を伺った。


■ Blu-rayの一大拠点へ

PHL露崎所長(左)。松下電器産業 蓄積デバイス事業戦略室 小塚室長(右)

 パナソニックハリウッド研究所が現在の体制となったのは2001年。初代のPHL所長を務めた松下電器産業 蓄積デバイス事業戦略室の小塚雅之室長によれば、当初は「デジタル画質の評価を行なうための研究所を作る、という役割はあったものの、それ以外に会社から“これをやれ”という指令は特になかった」という。

 そのため、SDカードを利用した新しいコンテンツ流通への取り組みや、現在のBlu-rayにつながるHDビデオディスクの研究や、ハリウッドの各スタジオへのコンセプトの紹介などを行なっていたという。ただし、2001年からの数年間はDVDビデオの市場が本格的に立ち上がり、大きなビジネスになっていく過程であったこともあり、新しいハイビジョンビデオディスク規格へのスタジオの反応は鈍かったそうだ。

 しかし、HDのテレシネが行なえる施設が、当時のハリウッドで珍しかったことや、DVDオーサリングスタジオ「DVCC」を抱えていたこともあり、スタジオ関係者との交流は深まっていたという。そのため、画質評価や研究を進めるだけでなく、Blu-ray Discの実際のエンコードやオーサリングなどの業務も手がける現在のPHLの体制が築かれてきた。「パイレーツ・オブ・カリビアン」や、「ファンタスティックフォー」といった大作のBDビデオもここで制作されたものだ。

 PHLの露崎英介所長によれば、PHLにおけるBlu-ray Discへの取り組みについて、「とにかく新しいものを創造していく。そのためにスタジオと協力する環境。これが部品や製品開発においても違いとなって現れる」と説明する。新しいものとは、タイトル制作におけるマスターやエンコード技術。そして、再生するハードウェアの画質、機能などあらゆる点における技術のこと。露崎所長は、「私の夢ですが、映画館の体験をそのまま自宅で体験できるようにしたい」と語る。そのための技術の蓄積と、各所との技術連携こそが、PHLの役割というわけだ。

 では、ここからPHLから生まれてきた技術というのはどういったものなのだろうか? そして、ハリウッドに大規模な研究所を構える理由とはなんだろうか?

スタジオと門真の機器開発をつなぎ、新しい技術を生み出すのがPHLの役割 PHLによるBlu-rayの高画質化技術 PHLによるBDのインタラクティブ技術開発


■ パナソニック製品に導入されたPHLの高画質化技術

PHLでは、380型の大型スクリーンで画質確認を行なう

 PHLにおいて、際立って目立つのが、高画質化への取り組みだ。

 画質評価や各種作業には、32型のマスターモニターに加え、65型フルHD/PDPを利用。さらに、最終的な画質チェック用の設備として、クリスティの2K/DLPシネマプロジェクタと380型の超大型スクリーンを用意。映画館以上とも言えるこうした環境も、「BDのために作った」という。

 PHLの柏木吉一郎副所長によれば、「30型程度のモニターでは、BDの情報量のすべてを確認することは難しい。画質を追いこんで調整していくのには、大きなサイズが必要だが、380インチであれば一画素が4mm角のサイズで確認できる。この違いは非常に大きい」という


マスターモニターやPDPも使用している クリスティの2Kプロジェクタで380型投射を行なう

・High Profileの導入

PHL 柏木副所長

 このPHLから生みだされたのが、MPEG-4 AVC/H.264のHigh Profileだ。既におなじみかもしれないが、MPEG-4 AVCのHD映像向けのプロファイルで、技術開発からMPEGにおける標準化に至るまで、同社が貢献した技術である。

 High Profileの研究に力を入れだしたのは、2002年に行なわれた次世代DVDのための画質評価の後からという。ハリウッドの「ゴールデンアイ」と呼ばれる画質専門家を集めて、行なったテストにおいては、AVCよりもMPEG-2のほうが、遥かに高評価だったという。

 当時のAVCでは、フィルムグレイン(フィルム特有の粒子状のノイズ)が消え、ディテールが落ちたように見えてしまうことから、スタジオ関係者の評判が良くなかったという。そのため、BDの規格化作業当初は、MPEG-2がコーデックの中心となることが見込まれていた。

 しかし、柏木氏は、当時のスタジオ関係者の評価に納得しつつも、「10年も後に開発された技術が、悪いわけがない。素養は明らかにAVCのほうがいいはず」と感じていたという。そして、「今後10年、15年使われ続ける技術になる。可能性を追求すべき」と考え、MPEG-4 AVCの高画質化に着手した。

 1年以上の研究の結果、量子化マトリックスの追加などが行なわれた。そして後日のスタジオ関係者による評価では、MPEG-2の24Mbpsに対し、AVCの12Mbpsで同等。AVCの15Mbpsでは元映像との区別ができないとの評価を受け、MPEGにおいて正式に規格化。BDにおいてもHigh Profile対応が行なわれた。

 こうした研究成果と、High Profile関連のノウハウをいち早く集めた結果、同社のレコーダやムービーカメラなど、多くの製品がHigh Profileに対応して、市場に投入された。これが最終製品に生かされたPHLの研究成果の一端といえる。

 また、High Profileによるエンコードでは、High Profileを熟知しているからこそ、なにをどう変えれば、良い効果が得られるかが理解できる。つまり、エンコード時には、ワンシーンごとに作業を行なうが、画質設定に関わる無数のパラメーターの扱い方、ノウハウの蓄積によって最終的な画質は大きく変わってくる。

 こうした制作時のノウハウは「職人芸」の領域だが、Blu-ray Discの規格化に深く関わる研究施設ということもあり、PHLは、スタジオから最高のクオリティや新しい機能を求めるディスク制作を依頼されることが多いという。「FOXやDisneyは、発売するタイトルは多くないものの、これはというタイトルには力を入れる(小塚氏)」とのことで、前述の「パイレーツ」などのタイトル制作をPHLが担当したのも、それらの制作能力を認められてのことだ。

 実際に、380型のスクリーンに映画「ファンタスティック・フォー」のシーンを画面を斜めに分割して、非圧縮映像と約20MbpsのAVC映像を投射。その比較が行なわれたが、確かにその差はわからない。1m以内に近づくと、確かに違いがあるように見えてくるが、その優劣について判別するのは難しい。

 柏木氏によれば、違いが出るのは「フィルムグレイン。グレインは確かに違いが出る。しかし、380インチのスクリーンでも数メートル離れれば分からない」。このレベルでの追い込みを行なうが故に、一画素、一画素を確認できる大型スクリーンという環境が必要となるわけだ。

・ブルーレイDIGAに導入されたクロマ処理技術

 また、最終製品に導入されたという点では、最新のブルーレイDIGA「DMR-BW900/800/700」で、実際に搭載された高精度色信号処理技術もPHLによる成果の一つだ。

 「クロマアップサンプリング」として知られる、色情報を各画素ごとに予測補完する技術について、PHLでのタイトル制作時や画質評価に使う際のアルゴリズムをそのままDIGAに導入しているという。

 詳細は本田雅一氏のレポートで解説されているが、柏木氏によれば、「初期のプレーヤーでBDビデオを再生したところ、現場でみている絵とかなり違うので驚いた」という。その問題を調べた結果、色信号処理の及ぼす影響を確認。「1枚のフレームだけでも処理によりかなりの違いが出るが、これが動画になると大きな違いとなって現れてくる」。

新BDレコーダ/プレーヤーに搭載したクロマアップサンプリングによる確かな画質差が確認できた

 実際に、同一ディスプレイで、同技術を導入したDIGAと他の再生機で比較視聴を行なったが、顔の表情の立体感や、肌理、繊細な洋服の折り目などのディティールなどに、顕著な違いが感じられる。“そこにある”情報の違いが、容易に見てとれるのだ。「Disneyの新しい(本編再生開始時に再生される)ブランドロゴ画面でも、星の数、輝きの違いがわかる」という。

 パナソニックの画質設計の基本を、柏木氏は「ディレクターの意図をそのまま出すこと。マスターの精細感を最大限に残したい」と語る。ある意味、当たり前の考え方であるのだが、マスター品質を本当に知ることが、画質設計に大きな違いをもたらす。

 例えば、同じBD関連製品でも、初期状態で強いノイズ低減処理がかけられている製品もある。こうした「絵作り」により、比較的小型のディスプレイで、見栄えがいいといった場合もあるが、フォーカス感や精細感が失われる。「できる限りマスターに忠実に」という、そのマスターの品質の深い理解、どこまで忠実に生かすかというノウハウは、実際にBDビデオタイトル制作を手がけているからこそわかる。その基準を理解しているからこそ、それを最終製品にフィードバックできるというわけだ。


■ タイトル制作におけるこだわり

PanasonicのBD映画タイトル開発の歴史

 また、BDの画質面だけでなく、機能面でもPHLによる開発力が生かされている。BDのインタラクティブ機能であるBD-JAVAを利用した最初のタイトル「リーグ・オブ・レジェンド 北米版(The League of Extraordinary Gentlemen)」もPHLにより制作されるなど、インタラクティブやネットワークなどといった拡張機能についても、常に最新の技術提案を目指しているという。

 今回CESで出展された、BD-Live「エイリアン VS プレデター」のシューティングゲームもPHLで制作されたものだ。これは、ネットワークを介して、同じBDタイトルの所有者同士が、任意のキャラクターと武器を選択し、相手を攻撃。与えたダメージなどのポイントを競うというものだ。ちなみに、現在の設定では「(映画の)シナリオで実際に使った武器が一番強い(森美裕主幹技師)」という。

 最初のBD-Liveタイトルは2008年の第1四半期中の発売が予測されるが、同社では、BD-Liveに対応した新BDプレーヤー「DMP-BD50」も他社に先駆けて投入する方針を明らかにしている。こうしたフォーマットをリードする動きも、ソフトウェアとハードウェアの両輪がそろってこそといえるだろう。

2台のBDプレーヤーとディスクを利用したBD-Liveのデモ

 制作現場も一部公開されたので、その模様も簡単に紹介しよう。

PHL内で各種オーサリング作業が行なわれる

 映像圧縮はコンプレッションルームと呼ばれる部屋で行なう。多くのタイトルでは、1シーンごとにエンコード作業を行なうが、どの画面にどれくらいのビットレートを割り当てるかなど、実際の映像を見ながら検討を行なう。作業時間はタイトルによって異なるが、大体2週間程度という。

 各種オーサリングやBD-JAVAコンテンツの設計、プログラミングもPHL内で行なわれている。現在のBlu-rayについて、特に注意しているというのがBD-JAVAの互換性問題。汎用的なJAVA言語を用いて、インタラクティブ機能や各種機能を実現しているが、そのために動作に問題が生じる機器がでてくる。

 発売済みのBDプレーヤーの多くが、かなりの頻度でファームウェアアップデートを行なっているが、これらもBD-JAVAの互換性問題に対応するためのものが多い。DVDでもそうだったが、規格上はソフトウェア/ハードウェアともに正しく作ってあっても、現実の実装では、ある特定の組み合わせで動かない事例がある。フォーマットの立ち上げ時期に散見される事例であるが、PHLではこの互換性問題に積極的に取り組んでいるという。

 PHLでは、BD-JAVA用のテストプログラムを開発し、各プレーヤーの検証を行なうとともに、制作中のディスクについても、動作確認を行なっている。先進的なBD-JAVAを積極的に手がけるPHLにとっては、非常に重要な取り組みだという。

 これらの作業で、まったく動かない、あるいは動作に問題があるという場合は、各プレーヤーメーカーに連絡し、修正を依頼する。JAVAの処理速度は再生機の性能に依存するため、起動時間に大きな差が出たり、動きが滑らかなプレーヤーと、そうでないプレーヤーがあるが、「基本的にはきちんと目的の動作が行なえれば、問題ないと判断している(森主任技師)」という。

 オーサリング工程を通過したディスクは、BD-R化された後、QCルームと呼ばれる専用の部屋でメニュー構成や互換性、字幕の正誤などのチェックが行なわれる。特にBDでは、多数の言語を収録している作品が多いこともあり、同工程を担当するのスタッフの多くは、複数以上の言語に堪能なのだという。このQCルームを通過したディスクが、BD-ROMのプレス工場に届けられ、ディスクの量産が行なわれる。

BD-JAVAのテストプログラム 各社のプレーヤーで互換性を確認 QCルームディスクの最終確認が行なわれる


■ コンテンツとハードの両輪が開発力を支える

DisneyとPanasonicは共同でBDのプロモーションを全米のショッピングモールで実施

 PHLで培った技術やノウハウは、BDだけでなく、VIERAやプロジェクタ、ムービーカメラなど、さまざまなパナソニック製品に取り込まれている。これが、他社に対するアドバンテージとなって最終製品に現れる。

 また、単に技術的な要素だけでなく、マーケティング活動などにスタジオや関連各社と共同で取り組む際にも、PHLが拠点となっている。例えば、現在北米の各ショッピングモールで、Disneyと共同で行なっているBDのプロモーションツアーも、現地の拠点としてスタジオと密に連絡を取り合える、地理的要因があるからこそといえる。

 小塚氏によれば、「“ハリウッド村”の中にこうした拠点を持っていることが重要」という。「例えば、DVDの市場が大きくなったら、ハリウッドに“DVDプロデューサー”という職業が生まれた。DVD特典用に撮影現場の模様をDVDに収めたり、インタラクティブゲームを作ろうという新しい種類のクリエーターで、規格時には考えてもいなかったような、様々なアイデアを出してくる。こうしたクリエーターに技術的に“できる”、“できない”と助言したり、一緒になって考えて作る、規格に生かしていく。こうしたクリエーターとエンジニアがお互いに影響し、インスパイアされる環境が、製品だけでなく全体的なパナソニックの力になると考えている」。

 つまり、ハリウッドのニーズ、クオリティ、文化を“共有”する。そのノウハウを製品に生かしていくとともに、スタジオやハリウッドの面々にフィードバックすることで、新しい機能やサービスを創造していく。それが、PHLがハリウッドにある理由といえる。

□松下電器産業のホームページ
http://panasonic.co.jp/index3.html
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( 2008年1月18日 )

[AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]


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