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ポータブルプレーヤーの近年のトレンドと言えば、フラッシュメモリの低価格化による、メモリ型の伸長や小型/軽量化とともに、カラー液晶の搭載によるビデオ対応があげられる。以前は、大型液晶と大容量HDDを搭載した最上位モデル用差別化機能だったビデオ対応が、iPod nanoやウォークマンA810、gigabeat V/T、ZENなど、売れ筋の製品に広がっている。 本格的にビデオを見る製品としては、3型以上の液晶を搭載したiPod touchやウォークマンA910、PSPなどがある。しかし、これらの“ビデオプレーヤー”に感じる物足りなさは、対応コーデックの少なさだ。例えば、iPod系はMPEG-4 AVC/H.264(AVC)とMPEG-4 SP、ウォークマンはAVC、gigabeatやZENはWMV対応と限定されている。MP3でもAACにでも何でも対応するオーディオに比べると寂しいものがある。 コウォンジャパンの「COWON A3」は、それらの機器と比較すると出色の対応ビデオコーデック数を誇る。DivX 3.11/4/5/6と、XviD/WMV/MPEG-4 SimpleProfileに加え、MPEG-1/2と、AVCに対応。AVCはモバイルからハイビジョンまで様々な機器で採用されている流行りのコーデックだが、地上アナログ放送の録画との親和性を考えると、MPEG-2対応も非常に強力な訴求点だ。 COWON A3には、内蔵HDDが30GBの「A3-30G-SL」と60GBの「A3-60G-SL」の2モデルを用意し、直販価格は30GBが49,800円、60GBが59,800円。決して安くはないものの、韓国メーカーらしい対応フォーマットの広さは魅力的だ。また、最大720pまでの映像再生に対応し、コンポーネント映像出力も可能など、強力なビデオ再生機能を搭載するほか、ワンセグチューナ「A3-OS1」(直販価格9,800円)をオプションで用意するなど、幅広いAV環境に対応するユニークなプレーヤーとして、期待できそうだ。
■ 高精細なWVGA液晶搭載。インターフェイスも充実
同梱品は、ACアダプタやAVケーブル、コンポーネント対応AVケーブル、イヤフォン、USBケーブル、CD-ROM、ストラップなど。 前面の液晶ディスプレイは、4型/800×480ドット/1,670万色表示。2005年発売モデル「COWON A2」の4型/480×272ドットと比べると、サイズは同じながら大幅に高精細化されている。 基本的なボタンレイアウトや操作体系はCOWON A2を踏襲している。電源ボタンは本体右脇で、その上部にストラップホールを用意。出力1W×2chのステレオスピーカーを上部に備えている。ヘッドフォン出力や、AV入/出力、コンポーネント/S映像専用端子、USBホストなどのインターフェイスは本体左脇にまとめられている。 USB端子はホスト機能に対応。付属のホストケーブルを用いて、デ ジタルカメラ画像の取り込みなどが行なえる。USBの脇の端子は形状はUSBミニだが、コンポーネント/S映像出力用となっている。本体下面にはHOLD/液晶表示/AV出力切替のためのスライドスイッチを用意している。 外形寸法は133.4×78.5×22mm(横×縦×厚み)、重量は280g(バッテリ含む)。iPod touch(110×61.8×8mm/120g)と比較すると、やや厚く、重量はかなり重い。重量があるうえHDD内蔵型なので、落下防止のためのストラップは必ず使いたいところだ。
電源を投入すると、メインメニューが立ち上がる。ビデオ/オーディオ/フォト/ドキュメント/ファイル一覧/ワンセグ/FMラジオ/レコード/再生履歴/設定の各項目が表示される。WVGA液晶ということもあり、非常に高精細かつ色鮮やかだ。 メニューの操作は、右上の4方向ジョグレバーを使って各メニューを選択。レバーを押しこむことで決定動作とする。基本的な操作はこのジョグレバーと、その下のBACK、A/B/Cの4つのボタンを利用する。 メニュー検索については、基本的にフォルダ構造をそのまま表示する。例えば、ビデオメニューの場合は、VIDEOフォルダ以下が階層表示されるだけというシンプルなものだ。音楽でもPHOTOでも同様なので、転送時にきちんと管理して、指定のフォルダ内に転送を行なっておきたい。 フォルダ管理がしっかりできていれば、あまり戸惑うことはないだろうが、パソコンに疎い人などにはわかりにくいかもしれない。なお、メインメニュー起動時にBボタンを押すと、メニューのスタイル変更も可能だ。
■ MPEG-2再生など強力なビデオ機能。DivXは720p対応
それではメイン機能と言えるビデオを再生してみよう。2.3GBの動画ファイルの転送時間は約6分2秒。転送時間自体にはストレスを感じない。 対応動画形式は、DivX 3.11/4/5/6と、XviD/WMV/MPEG-4 SimpleProfile、MPEG-1/2と、MPEG-4 AVC/H.264(MainProfile)に対応。対応解像度はコーデックにより異なるが、最高1,280×720ドット/30fpsまでサポートする。 COWON A3では、プラットフォームにTIの「DaVinci」を採用。強力なプロセッサパワーを生かして、多くのコーデックに対応している。
DivXについては720p(1,280×720ドット)/30fpsまで対応している。Stage 6にアップロードされている動画を中心にDivXを再生したが、拡張子.divxのファイルが問題なく再生可能で、.aviのファイルも再生できた。DivXの認証も取得しており、DRM付きのDivXファイルにも対応する。 720pファイルでは、時折動きがスローモーションのようになってしまうことがあった。しかし、4型液晶で見るHD映像はなかなかインパクトがある。なお、720/60p動画ではコマ落ちがかなり発生、1080pのDivXの再生を試みたところ、「解像度が高すぎます」とのエラーメッセージが表示された。 WMVにも対応。320×240ドットや640×480ドットのファイルであれば問題なく再生できる。Windows Mediaホームページの720p/1080pサンプルの再生を試したが、720pについてはフレーム落ちしてしまい、1080pは再生できなかった。 AVCについては、iPod用やPSP用の動画ファイルが再生できた。なお、HDVビデオカメラ映像をソースに、BDレコーダのソニー「X90」やブルーレイDIGA「DMR-BW900」で作成したAVC動画ファイルや、東芝のHD DVDレコーダ「RD-A301」のHDRec機能で作成したAVC動画ファイルは、当然ながら再生できなかった。 COWON A2からの大きな強化ポイントと呼べるのが、MPEG-1/2対応だろう。特にMPEG-2については、パソコンなどで録画したMPEG-2ファイルをそのまま再生できる点は大きな魅力だ。カノープス「MTVX-WHF」で録画したMPEG-2ファイルを転送してみたが、特に問題なく再生できた。ビットレート15Mbpsのファイル再生時には若干読み込みに時間がかかるものの、問題なく再生可能だった。 自作DVDビデオから抜き出したVOBファイルも再生できたが、早送り/戻しができないものがあった。キャプチャカードで録画したファイルも一部の番組では早送り/戻しができないものがあった。なお、HDVで撮影したm2tファイルは再生できない。 また、再生中には、アスペクト比などの変更が可能。再生時にBACKボタンなどに触れるとOSDが表示され、ここでBボタンを押すと、設定変更項目が画面下部に現れる。4方向ジョグレバーの上下でアスペクト/字幕/字幕トラック/字幕同期/字幕カラー/拡大表示/音声トラック/3D Stereo/再生速度/LCD輝度/画面キャプチャ/探索間隔の各項目を選択でき、ジョグキーの左右で設定値が変更できる。アスペクトは自動/16:9/4:3の3種類用意、LCD輝度は10段階で変更できる。
外部出力にも対応。本体下部のスイッチで、液晶表示とAV出力を切り替えられる。また、設定メニューで、コンポジット/S映像出力とコンポーネント映像出力を切り替え可能だ。 出力画質も問題なく、ポータブルプレーヤーとして持ち運ぶだけでなく、録画番組やダウンロードした動画ファイルなどを蓄積し、家庭内のさまざまな環境で楽しむためのAVプレーヤーとして使っても面白い。
■ ワンセグチューナは移動時の感度に不満。アナログキャプチャ機能も搭載 また、オプションのワンセグチューナ「A3-OS1」を利用することで、ワンセグの視聴/録画に対応する。チューナの外形寸法は28.6×13×43.6mm(幅×奥行き×高さ)で、USBでCOWON A3と接続する。チューナ部に伸縮式のロッドアンテナを装備する。
メインメニューで[ワンセグ]を選択し、ワンセグプレーヤーを起動。チャンネル情報取得後に、液晶右側にチャンネルリストが表示される。チャンネルリストは縦軸で表示されるのだが、4方向ジョグレバーでのチャンネル切り替えキーは左右に割り当てられているので、直観的に操作できない点が残念。なお、ワンセグ視聴時のジョグレバー上下はボリューム変更が割り当てられている。
ビデオ再生時と同様の操作で、アスペクト比の切り替えなどが可能。チャンネル切り替えのレスポンスは受信環境にもよるが、3~5秒程度だ。 ワンセグの感度はまずまずで、千代田区内の編集部ではほぼ問題なく全チャンネルが視聴できた。ただし、移動中の安定性が低く。京王線内では停車すると映像を見られるものの、電車が動きだすと映像が乱れ、視聴できなくなることが多かった。携帯電話やPSP用のワンセグチューナと比べても、移動時の安定性は今一つと感じた。 EPGにも対応するが、データ放送には非対応。EPGは、ワンセグプレーヤー起動中にBボタンを押して、液晶下部に設定変更メニューを表示し、ジョグレバーの上下で[EPG]の項目を選択。レバーを右に倒すと視聴中のチャンネルのEPGが表示されるという作りになっている。直観的に呼び出せないのであまり使いやすくはない。ここで、Aボタン[新規作成]を選択すると録画予約が行なわれる。 番組は、メインメニューの[ビデオ]の[RECORD]-[1SEG]以下に録画される。再生時にはかならずチューナを接続しておく必要があるほか、A3以外の機器に転送し、録画した番組を視聴することはできない。 機能としては充実しているのだが、大きめのボディのCOWON A3に、外付けチューナをつけてまで外出先などでワンセグを見たいという感じにはならない。移動時の受信安定性も今一つなので、いっそのこと家庭内で録画用と割り切って使ったほうがいいだろう。
もうひとつのビデオ関連機能の特徴と言えるのが、ASF形式(MPEG-4/MP3)のビデオ録画機能。メインメニューの[レコード]-[ビデオ入力]で、外部入力端子に接続した機器からの映像録画が可能なっている。 録画解像度は720×480ドット(3/2/1Mbps、800kbps)、640×480ドット(3/2/1Mbps、800kbps)、352×240ドット(800/500kbps)、320×240ドット(800/500kbps)が選択できる。外部入力検出録画や、タイマー録画などが無いのが残念だが、アナログダビングできるのは魅力的だ。 また、ライン録音機能や、FM/ボイスレコーダ機能も搭載。WMA形式での録音が行なえる。ライン録音についてはロスレスコーデックのFLACによる録音も可能だ。
■ シンプルな音楽プレーヤー。強力な付加機能群 オーディオ機能はシンプル。フォルダをブラウズして楽曲を選択すると、ミュージックプレーヤーが起動。フォルダの昇順に再生される。MP3/WMA/OGG/WAVのほか、AACやAC3、Apple Lossless、True Audio、Monkey Audio、MusePack、Wavpackなどの再生に対応する。 MusePackやTrue Audio、WavPackに対応したポータブルプレーヤーは、COWON A3が世界初なのだとか。個人的には使ったことはないが、こうした細かいコーデックへの対応が、COWONならではといえるだろう。Apple Lossless対応も魅力的だ。 操作は[ビデオ]モードとほぼ共通で、ジョグレバーを中心に楽曲を検索し、中央に押し込んで決定。特殊な機能は無く、フォルダをそのまま表示してブラウズするだけなのだが、操作はシンプルでレスポンスも良い。液晶の高解像度化により、フォルダ以下の11行もの表示が可能なので、一覧性が非常に高く、使っていて気持がよい。 音質も良好で、BBE、Mach3Bass、MP3Enhanceなどの高音質化機能も搭載するため、好みにあわせて使い分けたい。全てOFFでも基本的には問題ない。ヘッドフォン出力は32mW×2ch。また、ステレオスピーカーも内蔵しており、設定メニューから出力先をいずれかから選択できるほか、ヘッドフォンの抜き差しに連動して、スピーカーのON/OFFを行なう[自動]も選択できる。
また、フォトビューワ機能も搭載。フォルダを選択して、ジョグレバーで決定するだけでJPEGファイルのなどの表示が可能。レバーの左右で、前/次のファイルに移動できるが、COWON A2よりも大幅にレスポンスが向上している。また、スライドショー機能も備えている。 USBホスト機能によるデジタルカメラからのデータ読み込みや、FMラジオ、テキストビューワ機能も備えているなど機能的には非常に充実している。バッテリは専用のリチウムポリマーで、動画再生時(WMV/320×240ドット/30fps)の連続駆動時間は約7時間、音楽再生時(MP3/128kbps)は9時間、ワンセグ視聴時が約5時間30分。
■ 個性的なビデオプレーヤー 多くのビデオ対応プレーヤーが、配信サービスとの連携や洗練されたユーザーインターフェイスやデザインに向かう中、ひたすらに対応コーデックを増やすという「COWON A3」のアプローチは、際立って個性的に映る。 万人向けを狙った製品ではなく、かなりマニアックなユーザー向けとはいえるが、さまざまなユーザーの贅沢な期待に応えるユニークなプレーヤーと言えるだろう。特にDivXやMPEG-2のポータブル利用を考えている人にとっては非常に魅力的な選択肢だ。 価格も49,800~59,800円とかなり高価ではあるが、iPod touch(8GB 36,800円、16GB 48,800円、32GB 59,800円)とは全く違った方向性で、ポータブルビデオの新しい可能性を提案する製品といえるだろう。 □コウォンジャパンのホームページ (2008年2月8日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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