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総務省の情報通信審議会 情報通信政策部会の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会 第39回」が13日に開催された。ダビング10の開始日についての報告のほか、地上デジタル放送における新しいコンテンツ保護のありかたについての検討結果報告が、同委員会の技術ワーキンググループから行なわれた。 ■ 技術でなく法制度による著作権保護の仕組みを検討 現在のデジタル放送の著作権保護システムは、暗号化技術を中心としながら、「技術と契約」により、ルールが遵守されるように定めている。 具体的には、放送事業者が放送コンテンツにコピー制御信号(COGなど)を多重化した上、スクランブルを施して送信。そのスクランブルの解除のためにはB-CASカードが要求される。コンテンツの保護規定(ARIB規格TR-B14)を遵守した受信機に対して、B-CASカードの支給契約によりカードを貸与する。もし、保護規定を守らない機器を製造/販売した場合は、この契約の解除によりカードの貸与を停止し、機器の販売を不可能とするしくみだ。 だが、コンテンツの保護規定で定められた「制御情報への反応」を無視する機械(無反応機)の販売が確認されていることもあり、現行方式のような「技術的エンフォースメント(TE)」だけでなく、法律によりルール遵守を強制する「制度的エンフォースメント(LE)」の具体化について、委員会内に設けられた技術WGで検討を進められてきた。 合計11回の技術WGの検討を経て、今回の報告が行なわれた。なお、本報告は参加者間での結論に至ったものではなく、現時点の話し合いのまとめとして放送事業者委員から提出された。 技術(TE)、制度(LE)の双方とも、「対象の受信機すべてに対して、一定のコピー制御を確実に遵守させる」という目的において違いは無い。しかし、目的の達成手段については、TEにおいては現行方式のように民間の契約解除により対処を行なうが、LEの場合は法的措置により対処するものとなる。 課題としては、TEがコピー制御のためのスクランブルと維持コストが必要。一方のLEを導入する場合、放送のスクランブル解除が想定されるが、事前抑止効果(技術的にルールを越えるコピーはできない)が無くなるという問題がある。 また、LEの場合、「違法行為を行なったメーカーに対する刑罰をその抑止手段とすることは、規制強化で、不適当ではないか」という意見や、「平成11年の産業構造審議会合同会議において、“無反応器に対応するよう機器メーカーに対して法的に強制することは、技術の進歩を止めてしまう恐れがあり、規制は行なわないことが適当”と報告されている。地デジ放送においても何らかの特殊制度が認められるべきでは無く、特例を作るべきではない」との意見があるという。後述するが、この点については他の委員からの反論が相次いだ。 対象機器についても、TEの場合は「受信機」だけとなるが、LEの場合は状況が変わってくるという。ノンスクランブル放送となるため、公開情報を用いて無反応器を製造できるほか、受信機そのものではなく、「部品」として提供して、それを消費者が簡単に組み立てて受信機にできるなどの抜け穴が考えられるためだ。そのため、どのような形態の受信機ないしは部品を「対象」とするのか、という判断基準などを考える必要があるという。 遵守が求められるルールについては、TEとLEともに、「認定された方式に対し、誰がどのように認定するか」、「認定の基準」などの課題は共通。TEの場合は鍵情報漏えいに対する対策が、LEの場合は認定基準などに構造用件が含まれるのか、義務づける技術に対しての必須特許の扱いなどに課題があるとする。 また、ルールに違反した場合は、TEの場合は、現在のB-CASの仕組みのように民間の契約ベースで処理を行なう。違反製品については契約解除権を持つものが判断し、場合によっては裁判遂行も担当する。一方のLEでは、認定技術を用いていないなどの違反に対する罰則を法で規定し、その対象者は「販売目的での製造」、「販売」、「輸入」していた者となる。違反機の把握は放送事業者の市場調査によるが、違反の判断は警察権、裁判遂行は検察が行なうこととなる。 こうした論点を挙げながら、両方式における「コンテンツ保護」と「ユーザー利便」のバランスや、目標達成効果と負荷のバランスについて、WGと委員会で検討していく。 ■ 現行B-CAS見直しなど、具体案を求める声 「議論はいろいろな意味で続いており、あくまで放送事業者からの案」(委員会の村井主査)としながらも、委員からは異論が相次いだ。 消費者団体の代表からは、「素朴な疑問として、地上放送にスクランブルが必要なのかと思っていた。B-CASカードというスクランブルの仕組みで、家庭に何台も普及するものに、なぜそんなにコストをかけるのか。また、事実上の(コピー制御のための)ハードルになっているのかも疑問。皆が同じ鍵(B-CAS)をもっている。鍵がひとつのマンションのようなもの。そこに疑問をもっているので、解決するために法規制がいいと思っているわけではない。技術的に解決するというが、B-CASの手間がデジタルへのハードルになってる。専門家でないと繋げない。だから、テレビはデジタルでもアナログで見ている、というハードルになってる。これを解決する方法を、この後の議論で、私たちにわかるように説明してほしい」(長田委員)との意見が上がった。 別の消費社団体の代表からは、今回の説明について「実効性の確保のためになにがいいのかということを細かく説明いただいたが、技術以外はやりたくないよ、という印象を受けた。利用者の視点ではないと思う。技術で契約当事者の合意でいい、民民でやろうということでやってきたが、コピーワンス、ダビング10もいろいろと問題がある。“技術は任せてください”というが、技術エンフォースメントについても(法制度と同様に)国民的な合意が必要ではないか。また、平成11年の古い一部の意見を持ってきて、(LEを)やらない理由を並べられた。公共の電波で、高付加価値の番組を消費者に提供するために(デジタル放送を)やらなければいけないというが、全ての消費者がそれに賛成しているわけではないく、消費者が望んで、地デジがはじまったわけではない」(高橋委員)と、技術エンフォースメント重視の提案と疑問の声をあげた。 また、権利者団体の代表は、「平成11年の意見をもってきて、さらに“地デジに特殊性を認められるものではない”というが、これからは5,000万の受信機で、デジタルのコピーができる。それでこの産構審の意見があるから制度エンフォースメントはできないというのは、権利者としては反対」とし、「TEの崩壊について説明されていない。TEの崩壊が問題だからLEの議論をしている。TEでやっていくべきで、新しい方式を考えているんだという提案がありましたが、だったら、B-CASに変わる新しい方式をこの場でぜひ発表していただきたい。皆が買わざるを得ないという、地デジの特殊性がある。これを民民でやろうというのはいかがなものか。いまもB-CASカードが増え続けている。そのままにして一体いつどうやって新しい方式を採用するのか、ぜひ説明いただきたい」(椎名委員)と現行制度の見直し案の提示を呼びかけた。 これらの意見を受けて、放送事業者からも「皆さんの意見はごもっとも。あくまでも比較検討のベースで、放送事業者からのニュートラルな資料です。踏み込みが足りない部分はご容赦いただきたい。個人的には産構審で何を言われようが、地デジは特殊。それは大前提に考えなければならない。コスト負担、大量のカード、これらの危惧はわれわれももっている。これをベースにこれから検討をさらに深めていきたい」(植井委員)との意見がでた。 また、「技術と制度をうまく組み合わせないと、みなが納得できないのではないのか」(大山委員)との意見のほか、「今の方式がセキュアかどうかでいうと、そうではない。だとすると、技術でどういうふうに改良してプロテクションしていくかという提案が無い。100%セキュアな仕組みは無いが、技術的にまずくて、それでもTEでいくのであれば、どこをどう改良していけばいいのか、常に改良していく必要があるはずだ」と見直しの具体案を求める声なども上がった。 □総務省のホームページ ( 2008年6月13日 ) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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