◇ 最新ニュース ◇
【11月30日】
【11月29日】
【11月28日】
【Watch記事検索】
「メーカーは“偉大なる将軍様は絶対”と言っているのと同じ」
-補償金問題で権利者会見。「ダビング10譲歩は大人な対応」


6月24日開催


 デジタル私的録画問題に関する権利者会議28団体と、社団法人日本芸能実演家団体協議会加盟61団体は24日、地上デジタル放送の新録画ルール「ダビング10」開始決定に至るまでの経緯や、私的録音録画補償金制度に関する主張などを行なう記者会見を開いた。

 会見を行なうのは、5月29日の「“ちゃぶ台返し”会見」(実演家著作隣接権センター 椎名和夫氏談)以来となるが、今回の会見までの間にJEITAの補償金問題に対する見解の発表(5月30日)や、権利者団体からJEITAへ公開質問状の送付(6月16日)、文科省と経産省がBlu-rayを補償金の対象とすることで合意(6月17日)、ダビング10の開始決定(6月19日)と、多くの出来事があった。会見ではそれを振り返りながら、権利者団体の意見を述べるという内容となった。

実演家著作隣接権センター 椎名和夫氏

 まず、椎名氏は6月16日に発表した、JEITA宛の2度目の公開質問状の質問事項を詳しく説明。「補償金制度は私的複製が際限なく行なわれることで権利者に重大な経済的損失が生じる場合に、それを補償するもの」というJEITAの見解を、「誤った認識である」と指摘。「際限無く行なわれるコピーは違法行為であり、補償金はそれまでを補償するものではない。著作権法第30条に基づき、個人・零細の私的録音録画に対して補償するもの。著作権保護技術はその範囲を超えないようガードしているものであり、“補償金制度の必要性”と“技術的にコンテンツの利用をコントロールすることが容易になっていく”ことは相反するものではない」と指摘。

 ほかにも、「補償金制度の縮小廃止の方向性が見えないと言うが、“有料配信は補償金から除外してはどうかという話し合いが進められており、この部分が縮小にあたる」。「HDDレコーダはタイム/プレイスシフトだから補償金の対象にならないと言うが、MDや録音用CD-R/RW、録画用DVD-R/RWの時代でもタイム/プレイスシフトの使い方はあった。それがHDDになったから補償金は必要無いというのは合理性が無く、根拠を示すべき」など、質問の内容を丁寧に解説した。

 その上で、「JEITAは2007年11月に我々が出した質問状には、私的録音録画小委員会の席上で返答するとしていたが、未だに回答が無い。今回の質問状に関しても、同様の返答を頂いているが、(小委員会の席上で)まともな回答が得られる保証は無い。前回と合わせて質問は14項目になる」と、メーカー側の対応に不満を募らせる。

 その上で、こうした公開質問状を今後も出していく姿勢を強調。「制度の本質に関わる質問だと考えているので、今後も質問の山を重ねていこうと思う。それに対し、闇雲に自らの意見を繰り返し、しまいには役所を使って圧力をかけてくる、そんな我を通すメーカーの姿を見て皆さんがどう思うか、非常に興味がある」(椎名氏)。

 「(メーカーの姿勢は)例えるなら“偉大なる将軍様は絶対です”と言っている人に、“いや、将軍様も人間じゃないですか”と語りかけても“将軍様は絶対です”としか返事をしないような状況と同じ。意見の対立などというものではなく、質問に答えないということは対話を拒否しているということで、当事者性を失っていると思う。“今後も真摯に議論していく”と言っているが、姿勢は“問答無用”だ。(マスコミに向かって)皆さんにはそのあたりをよく報道して欲しいと思っている」(椎名氏)。

□関連記事
【6月16日】権利者89団体が補償金問題でJEITAに2度目の公開質問状
-23日までの回答を要求
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080616/cf.htm


■ 「ダビング10の譲歩は消費者への問いかけ」

 急転直下とも言える「ダビング10」開始決定への流れの発端となった、Blu-rayへの補償金導入。椎名氏は「事前に何も聞かされておらず、極めて驚き、即日にリリースを発表した」と振り返った上で、6月17日に発表した「“BDの指定がデジタル放送に着目したものであるか明確でない”、“すでに文化庁が提案している補償金制度の枠組みに関する今後の取り扱いが明確でない”という理由で、どれだけの意味を持つものか判断できない」との指摘を繰り返す。

 「両大臣のコメントを読み返しても、“非常にグレーだな”という印象を持っている。BDを補償金の対象とすることも、もっと早い段階で現行法での指定が行なわれてしかるべきもの。それゆえ、BDを(補償金の対象に)指定しても何の解決にもならないと主張した次第」という。

 しかし、ダビング10の実施が急遽決まったのは、19日の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会 第40回」において、椎名氏自身が「この際、ダビング10に限っては、補償金と切り離し、本日この場においてダビング10の実施期日を確定してはどうか」と発言したことがキッカケになっている。椎名氏によれば、村井主査から「“BDが補償金の対象になってもダビング10の議論は前進しない”とは言っても、期日は迫っている。何か知恵は無いかね?」と言われ、譲歩を決めたという。

 「権利者団体の中でも“なぜ譲歩したのか”、“補償金の議論進める上で、重要な駒を失ったじゃないか”という声もある。しかし、ここまで常軌を逸している相手(JEITAなどメーカー側)と、同じ土俵でツッパリあっても生産的要素が感じられないと判断した。そんな状況の中で、周囲の迷惑をかえりみず、自らの立場を貫いても誰も褒めてくれないだろうと考えた。同意しないこともできたが、検討委員会の中でこの問題をクリアできるのは権利者だけなので、ここはあえて逆を行った。再三メーカー側が言っていた“消費者重視”と、我々の言う“消費者重視”のどこがどう違うのか、皆さんにはよく見比べて欲しい。これはユーザーのための制度でもあるので、ユーザーの理解をえることが最終的には重要。以前我々は“消費者は本当にそれで良いの?”と問いかけたが、(今回の譲歩は)その問いかけの第2弾と思って欲しい」という。

 椎名氏は「(今回の騒動を)“戦い”や“闘争”と考えると意見もあると思うが、目指すべきは双方が納得できる落としどころだ。ただ単にセンセーショナルに引っかき回すだけでは意味がない。そういう意味で、今回の譲歩は我々の“大人の対応”であり、JEITAにもしっかり見習って欲しい。ダビング10はゴールではない。今後も長い目で見ながら、文化庁の審議会の場 で仕切り直しの議論を続けていきたい」と今後の抱負を語った。

 また、椎名氏は、急遽権利者側が譲歩し、ダビング10開始の期日確定を提案した後の影響について、「メーカー側もビックリしたと思う。“何故事前に察知できなかったのか”と怒っている役所の人もいたようだ」と語る。その上で「昨日、ダビング10が7月4日に決まっても、機器の対応の足並みが揃っていないという面白い記事を見つけた。以前、ダビング10が遅れた本当の理由は“メーカーと権利者の確執”ではなく、“メーカー側に事情があったため”という報道があったが、それが今になってリアリティを増している」と語り、マスコミに対し「今後、どのメーカーが、どのように対応できるかウオッチングすれば新たな記事のネタが出てくるんじゃないですか」と助言した。

 なお、ダビング10開始に向けて譲歩したことについて、「権利者団体の中で合意がとれているのか?」との質問に対し、椎名氏は「権利者団体の会合は明日(25日)の午前中に会議を開き、承認してもらうという流れになる」と語り、事後報告になることを明らかにした。

□関連記事
【6月19日】「ダビング10」開始日は7月5日ごろ。近日中にDpaが確定
-急転直下の決着。「ダビング10に限り補償金と切り離す」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080619/dub10.htm


■ 「補償金の縮小/廃止で得をするのはメーカーだけ」

日本音楽著作権協会(JASRAC)の菅原瑞夫理事

 会見後半では、日本音楽著作権協会(JASRAC)の菅原瑞夫理事が、補償金制度の仕組みを解説。「制度が生まれた'92年は録音用MDレコーダや録音用MD、CD-R/RW、録画用DVDレコーダなどが存在。そこからクリエイターに協力義務として補償金が支払われ、ユーザーは秩序ある自由な私的録音録画が行なえた。しかし、現在ではそれらの機器の利用は少なくなっており、支払われる補償金は少なくなっている」という。

 その上で「メーカーはDRMにより管理された複製と対価の支払いを実現することで、補償金を縮小/廃止しようと言う。しかし、それでは“個々の人々の私的な複製行為に対しての補償”という、補償金制度が実現していた補償がクリエイター側で受けられなくなる。また、DRMを導入するにしても、今の時点で誰がその費用を負担するかはわからないが、クリエイター側が負担するとなると余分な費用が生まれてしまう」と指摘。

 「ユーザーにとっても、1つ1つの私的な複製までコントロールされることになり、結構面倒くさいことになる。“私的”と許容される範囲も狭くなってしまうだろう。また、再生や複製がコントロールされれば、その人の“好み(趣向)”の情報がどこかに管理されることになり、プライバシーの問題にまで行ってしまうのではないか」と語り、権利者とユーザーには損が多い選択だとする。

 「その中で、メーカーだけは補償金の支払い協定義務から開放され、機器の販売による一方的な利益は享受し続けられることにないる」と説明。「メーカーだけが得をするだけでなく、それは我が国の多様な芸術文化を育む環境、創造のサイクルを破壊することにも繋がる。そうなった時、その文化的な損失に対するメーカーの責任は重大なものになるだろう。我々はその責任について追及せざるをえない」と警告した。

 一方、集められた補償金の分配制度変更の可能性について、菅原氏は「補償金は個々の人々の複製行為を認識できないからこそ生まれたものだが、その中でも、どれだけコピーされたかという情報を入手し、分配のありかたを常に考えなければならないと思っている。技術的な面も含め、複製利用の状況が入手できれば検討したい」と回答。「それはDRMによる管理とは違うのか?」との質問に対しては「管理された複製という概念とは違うもの」と答えた。

補償金制度の縮小/廃止は、メーカーにのみ利益をもたらすものだという '92年の補償金制度の状況 メーカー側が主張する補償金制度の縮小/廃止がされた場合の図式

□デジタル私的録画問題に関する権利者会議のホームページ
http://www.culturefirst.jp/
□関連記事
【「ダビング10」対応状況リンク集】
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080207/dub10.htm

(2008年6月24日)

[AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]


00
00  AV Watchホームページ  00
00

Copyright (c)2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.