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2011年7月のアナログ放送終了まで3年を切り、今まで薄型テレビを牽引してきた大型だけでなく、20型程度の中小型サイズにおいても、機能を絞った低価格機や、さまざまな利用シーンにあわせた多様な製品の拡大が求められている。そんな中、今シーズン登場したのがフルHD解像度/1,920×1,080ドットのPC向けディスプレイながら、デジタルチューナを内蔵した製品だ。 三菱電機からは、3波デジタルチューナを搭載したマルチメディアディスプレイ「VISEO」の新モデル「MDT221WTF」が登場。アイ・オー・データからは地デジチューナ内蔵の「LCD-DTV222XBR」が発売された。 従来のPC用ディスプレイでは、フルHDを超える解像度の製品として、アスペクト比16:10/1,920×1,200ドットの製品が人気を集めていた。しかし、最近21.5~21.6型で16:9のパネルが多く供給開始されたようで、9月以降、各社から同サイズのフルHDディスプレイが発売されている。そのうち、デジタルチューナを搭載したのが今回紹介する2モデルというわけだ。 16:9というアスペクト比のため、Blu-ray Discやデジタル放送の映像をそのまま表示できる点など、AV用途での活用に期待がかかる。ただし、気になるのは液晶パネルの駆動モードがTNという点だ。一般的に液晶テレビでは、コントラスト表現に優れたVA方式や、広い視野角特性を持つIPS方式が使われる。一昔前のTN方式パネルや視野角や色再現性に難があるということで、基本的にPC向けという認識をされていたはず。このあたりを三菱、アイ・オーの両社がどう料理してきたかも気になるところだ。 また、価格面でもVISEOが実売8万円弱、アイ・オーが7万円弱。20~26型で、5万円台~10万円程度の大手メーカー製の液晶テレビとも直接競合する格好だ。今回、三菱とアイ・オーのデジタルチューナ搭載フルHDディスプレイを比較するとともに、22型の東芝製液晶テレビ「REGZA 22AV550」を用意し、その違いを探った。 ■ 地デジチューナ搭載ディスプレイ2種
両製品とも“ディスプレイ”を謳っていることもあり、基本的にはPC系の販路での販売を想定しているようだ。ただし、機能面ではいずれも“テレビ”と呼んでも問題ないほど、充実している。 まずは、両モデルの違いを表にして見よう。パネルサイズや解像度はほぼ共通といえるが、最も大きな違いといえば、「VISEO MDT221WTF」は地上デジタルのほか、BS/110度CSデジタルに対応した3波共用チューナを搭載していること。「LCD-DTV222XBR」は、地デジのみとなっている。 DVI-D入力やHDMI×2、D端子などの入力は備えているが、アイ・オーはPC入力のアナログRGB(D-Sub 15ピン)や光デジタル出力が省かれている。ともに100mmピッチのVESAマウントにも対応しているので、アームを使った設置も可能だ。 なお、比較対象として東芝「REGZA 22AV550」も用意した。パネル解像度は1,366×768ドットとなっているが、そのほかの仕様の多くはVISEOとよく似ている。さらに価格面でも約7万円と、アイ・オーとほぼ同じ、VISEOより若干安い設定となっている。「ディスプレイ」の機能を優先するか、「テレビ」をとるか、という利用方法の見極めにより、こうした製品も選択肢に入ってくるだろう。 なお、22AV550もTNパネル採用製品。調査会社のDisplaySearchの予測でも26型以下の液晶テレビにおいては、今後TNパネル採用が急拡大するとされており、このクラスの液晶テレビ/ディスプレイではTN採用がある種のトレンドとなりそうだ。
■ 3波共用+機能豊富な三菱「MDT221WTF」 まずは、三菱「MDT221WTF」の画質と使い勝手を確かめてみよう。
リモコンで電源を投入。起動時間は数秒で普通のテレビといった感覚。チューナのセットアップはシンプルで、地域を選択後、チャンネルスキャンを実行するだけ。このあたりは、デジタルテレビを設定したことがあれば、特に戸惑うことはないだろう。 テレビの基本操作にはリモコンを利用する。スピーカー下に専用のボタンも用意しているが、チャンネルの順送りやボリューム程度の機能しかないので、基本的にはリモコン操作がいいだろう。PCディスプレイではメニューを呼び出して、各種画質調整を行なえるが、MDT221WTFではこれらの操作もリモコンで行なったほうが手っ取り早い 入力切替は、リモコン上部のボタンで行なう。地上デジタル、BS、CS1/2、D-Sub、DVI-D、HDMI1/2、VIDEO1/2と、各入力ごとにボタンが独立していてわかりやすい。中央の10キーボタンは放送波を選択時でなければ機能しない。 入力切替ボタンが独立しているので、入力切替は非常に簡単だ。ただし、ボタンがかなり込み入っているので、時折ミスタッチしてしまうこともある。なにしろ、10キーやデジタル放送用の4色ボタンに加え、メニュー操作用のカーソルキーなど、普通のテレビより明らかにボタン数が多い。そのため、シンプルに「テレビ」として使いたい人にとってはやや使いにくさがあるかもしれない。 テレビ機能を使ってみる。チャンネル切替時間は2~4秒程度で、最近の液晶テレビと比較しても遜色ないレスポンスだ。
テレビ視聴時の画質モードは、「スタンダード」、「シネマ」、「スポーツ」、「アニメ」の各モードを用意。スタンダードを中心に視聴したが、色の鮮やかさ、深みが強く印象に残る。PCディスプレイの場合、色温度が高いやや青っぽい白で、色が薄味な傾向があると思っていたが、MDT221WTFは全く逆の絵作り。色温度が低めで、ある意味テレビよりも“こってり”とした色のりと、コントラスト感が特徴といえる。 南国の木々の緑の深みや鮮烈な赤色など豊かな色調を、立体感ある映像で表現してくれる。また、色温度が暖色よりで、ほかの製品と比較すると、NHKのニュース番組の背景の白などが、温かみのある白に見える。このあたりは好みが分かれるところだろうが、いままでのチューナ内蔵ディスプレイとは違う、「テレビらしさ」を感じさせる画質だ。 コントラスト感も十分で、今回試用した3製品でももっともコントラスト表現を意識した製品と感じた。画質モード[スタンダード]では、人の顔や物体の影などの陰影をかなりくっきりと出す設定となっており、見た目のコントラストや立体感の向上に寄与している。ただ、テレビドラマで、逆光の中で親子が手をつないでいるというシーンを見た際に、ほかのテレビよりも画面で顔がつぶれ気味に見えることもあった。 シネマにすると輝度が若干下がり、暗部階調も見やすくなる。コントラスト感は下がるもの、テレビドラマなどでもよりナチュラルな印象がある。やや暗めの部屋の場合、スタンダードよりシネマのほうが汎用的に使えそうと感じた。スポーツでは、かなり青みが強くなり、ほかのディスプレイに近くなる。 なお、HDMI接続時の画質モードは、ゲーム/シネマ/ムービー/PC/ルックアップ、D-SUB/DVIはスタンダード/IVテキスト/フォト/ムービー/ルックアップとなっており、入力系統にあわせた画質モードが用意されている。 液晶パネルがTNモード駆動というのも今回試用の3製品の共通点。低コスト化が図れると同時に色再現や視野角などには不利といわれるTN駆動だが、やはりその欠点を感じることもあった。実写系のコンテンツではそれほどでもないのだが、BDビデオ「ポーラエクスプレス」でそれが特に感じられた。非常に繊細なグラデーションと柔らかい色調が持ち味の作品だが、若干の偽色や擬似輪郭が見える。とはいえ、派手に出るというよりは近くで視聴するというディスプレイ的な使い方の場合に感じる程度で、画質モードの調整などでもある程度は緩和可能だ。 また、視野角の狭さも確かに感じられる。公称値では上下160度/左右170度としているが、特に上下方向は20度くらいでも色反転が生じる。こうした問題の対処法として搭載しているのが、「ルックアップ」モードだ。 色が反転しやすいという問題を改善するために、寝転がりながらの視聴など、下から見上げた際に色相が反転して白っぽく見えてしまう問題を改善するもので、2段階に調整が可能。ガンマカーブの調整などで、下から見上げるときに最適な色相になるように調整。「ルックアップ1」は下15度、「ルックアップ 2」は下30度から見上げた際に最適な画質で確認できるように調整される。 実際に試してみるとかなり効果を感じられる。リモコンだけで操作できるので、机上のVISEOを布団の中から見上げる、といった利用時などにはかなり効果を発揮しそうだ。
また、番組表やデータ放送対応など、デジタル放送関連の機能はほぼ全て備えており、さらに3波デジタルチューナを搭載しているなど、「テレビ」と銘打って販売されている同クラスの製品よりも充実しているほど。 通常の番組表だけでなく、任意のチャンネルを登録して、一覧表示する「お気に入り一覧」も装備。12チャンネル×4グループのリストを作成可能で、地上/BS/CSなど、放送波をまたいで、“よく見るチャンネル”をまとめることができる。特にCS特定のチャンネルなど、視聴チャンネルが決まっている人には便利な機能といえるだろう。 もちろん基本はPCディスプレイなので、パソコンを接続した際の表示にも問題は無い。PC用にスタンダード、IVテキスト、フォト、ムービーなどの専用の画質モードも用意している。また、注目モードとしては、PinP(子画面表示)も装備。PC入系とHDMI系の同時表示や同一入力系統の2画面表示はできないが、テレビ放送視聴時にはすべての入力系を親/小画面表示できる。パソコンならではの、ながら視聴などにも活用できる機能で、親/子画面切替や、表示位置切替もリモコンの専用ボタンから操作できる。
機能の充実振りは文句のつけようが無いが、一点難点をいうと、スピーカーの音質がいまひとつ。ユニット径やスピーカーボックスが小さいとはいえ、かなり薄っぺらい音という印象。出力は3W×2chだが、初期状態では音に芯が無いというか、頼りない音に感じる。 セリフなどを聞き取りやすくする「クリアボイス」を備えているので、これは基本ONがいい。中域の厚みというか安心感が出てくる。また、ステレオまでだが、光デジタル出力端子も装備しているので、外部アンプなどを活用するのも一つの方法だ。 ■ シンプルさが信条のアイ・オー「LCD-DTV222XBR」 アイ・オーのLCD-DTV222XBRも同様に試用してみよう。
リモコンのデザインはシンプル。チューナも地上デジタルのみとなるほか、データ放送に対応じていないため、赤/青/黄/緑の4色のボタンも省かれている。VISEOと比べるとかなりスッキリしている。 入力切替は、地上D、ビデオ、HDMI、PCのボタンが独立している。HDMI2を選択するときにはHDMIボタンを2回押す形となる。D-Sub 15ピンのアナログPC入力が無いため、PC入力は基本的にDVIのみとなる。ボタン数が少なく、PCディスプレイ+テレビのながら視聴という点では、アイ・オーのリモコンが使いやすい。 テレビ視聴時のチャンネル切替時間は2~4秒弱。VISEOと同時にチャンネル切替ボタンを押すと、0.2~0.3秒ほど早く切替が行なえる。とはいえ、体感的にあまり大きな差ではなく、いずれも十分なレスポンスといえるだろう。PCとHDMIやビデオ、地上デジタルの入力切替も2~4秒と不満は感じない。
地上デジタル放送の画質は、白ピークの輝度感が高く、VISEOと比較すると色温度が高めに感じる。色味も、こってりとしたMDT221WTFに対して淡いので一見するとインパクトが薄いのだが、実際に使ってみると目立ったクセが無く、しっかりと放送を楽しめる。 画質モードは、標準、映画、CGの4種類。標準を中心に視聴したが、各画質モードでの画質差はさほど大きくなかった。CGにすると色が強く、シャープネスを強調したような立体感が出る。三菱ほどの色の深みはないのだが、押しの強い映像になってくる。シネマは輝度がやや落ちて、暗部のディティール表現などは向上するが、スタンダードと顕著な差があるという感じでもない。基本は、標準もしくはCGで、暗い部屋などで映画という使い方、いいだろう。もちろんバックライト輝度やNRの強弱、色相などの細かい調整も可能だ。 VISEOと比較すると、とにかく絵作りの個性が逆方向。かなりあっさりとした画調なので、最初はもの足りなく感じたが、控えめなコントラスト表現で、BDビデオ「ポーラエクスプレス」での色滲みなどは少なく、落ちついた印象。PC入力も画質モード名は同じだが、画作りは若干変わっているようだ。 番組表は、リモコンの[現在番組]から呼び出す。このボタンを押すと、現在放送中の各チャンネル番組が表示され、ここで週間番組を押すと近い時間帯の番組を表示。週間番組選択中に前日、翌日の番組表を専用ボタンで呼び出すことも可能となっている。新聞的な「ラテ欄」に慣れていることもあるが、なぜこういう表示方法を取っているのかイマイチ理解しにくい。ただ、単純に今放送中の番組を確認するという点では[現在番組]の仕組みは悪くない。なお、データ放送用のBMLブラウザは備えていない。重要度にあわせて機能を省いて低コスト化を図っているのだろう。テレビを丸々再現しようとしているVISEOとのコンセプトの差を感じる。データ放送を求める人はさほど多くないので、その分のコスト削減というのは確かに理解できる。こうした点をどう評価するかが、2製品の選択の重要なポイントといえるだろう。 パソコンや外部入力と、テレビなどの子画面表示も装備。リモコンの専用ボタンで、親子画面切替や入力切替などが行なえる。
■ 2モデルの違いは。テレビ「REGZA AV」との比較 両モデルとともに、“液晶テレビ”のREGZA「22AV550」も試用した。
地デジ放送やBDビデオなどで比較視聴してみたが、画質の傾向は双方の中間から、ややアイ・オーよりといえる。色の深みや奥行き感など、特に地デジ放送においてうまくまとめられており、大きな不満はない。 パネル解像度は1,366×768ドットと2製品より低いのだが、地デジ放送を見ている限りほとんどその差は感じられない。ただ、PCを利用時のように50cm~1m以内ぐらいの距離でBDビデオなどを見ると、やはり情報量の差は認識できる。 前述の「ポーラエクスプレス」やWOWOWで録画した「スパイダーマン 3」のBDAVディスクなどを見てみたが、特にポーラでは、微妙なグラデーションにおける擬似輪郭や偽色が若干ある。REGZAでは少なめだが、この色表現の問題は各製品共通で確認できる。設定である程度減らすことは可能とはいえ、3年前の液晶テレビ「BRAVIA KDL-46X1000」よりも明らかに偽色が出やすいので、この点、まだ今のTNパネル採用製品では克服できていないポイントといえるのかもしれない。ただ、地デジ視聴時などではいずれの製品もほとんど大きな不満は感じなかった。
22AV550では、おまかせ、あざやか、標準、映画、テレビプロ、映画プロ1/2、ゲーム、PCファインの各画質モードを装備。こうした豊富なモードを活かして画質調整ができる点もポイントだ。その中でも使い勝手がいいのは「おまかせ」モードだ。周囲の明かりや見ている映像にあわせて、画質を自動調整し、任意にモード選択を行なうことなく、画質調整が可能な機能だが、その効果は非常に大きい。 例えば、VISEOでは「スパイダーマン 3」のBDAVディスクを視聴しているときに、“肌色が鮮烈だけれど、色ノイズが散見されて暗部ががつぶれがちなのでシネマモードにしたい”と判断し、モード切替をリモコンで行なうことになるが、こうした手間を省いてくれるのはうれしい。また、パソコンとの切替で輝度差が出てくる場合でも、適当に調節して、違和感をなくしてくれる。こうした「テレビ」としてのつくりのよさは、REGZAに一日の長があると感じる。もっとも、このクラスの液晶テレビで自動映像調整機能を備えているのは22AV550ぐらいなのだが。 また、スピーカーの音質や、テレビ利用時のリモコンの操作性なども優れている。一方で、PC入力に対してHDMIを利用するが、やはりパネル解像度の違いはいかんともしがたい。2画面機能も無いので、“ながら利用”という点では、他の2製品にやや見劣りする。
■ ユースケースにあわせた選択を VISEOは、3波デジタルチューナ搭載でデータ放送ブラウザなど、機能面ではまさに「テレビ」といっても差し支えない豊富な機能。一方のアイ・オーは、ディスプレイとしての基本機能に地上デジタルチューナを載せた格好だが、その分1万円ほど安く、価格面でのアドバンテージがある。PCディスプレイを中心に、デジタルチューナを搭載した2製品だが、製品コンセプトとしてはかなりの違いを感じる。フル機能のVISEOと、シンプル操作のアイ・オーという対決になるが、このあたりは実際の活用方法と照らし合わせた上で、なおかつ画質の違いもチェックしておきたい。 また、パソコンはおまけ的な位置づけであれば、REGZAのテレビとしての充実度はやはり魅力的。パソコン、テレビ、外部機器をどのように活用したいか、という点をしっかり検討することで、自分にあった製品が見えてきそうだ。ともあれ、フルHDの“中小型地デジ”ディスプレイに新しい選択肢が増えたということは歓迎したい。 □三菱電機のホームページ ( 2008年11月26日 ) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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