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世界初のガラス振動板採用スピーカー「玻璃音」登場
-ハリオグラスが1,600万かけ開発。ガラス楽器と共演


ガラススピーカー「玻璃音」
11月27日発表


 耐熱ガラスの食器や家庭用品などを手掛けているハリオグラス株式会社は27日、耐熱ガラスを職人技により0.5~0.8mmまで薄くし、振動板として利用したガラススピーカー「玻璃音」(ハリオン)を発表した。耐熱ガラスを使った世界初のスピーカーとして、特許も出願している。

サイズ比較

 同社が持つガラス工芸技術の研鑽と継承を目的としたプロジェクトであり、製品として販売する予定は現在のところ無い。製作には、ガラス成形職人を中心とした23名が参加。総製作費1,600万円(技術人件費500万/設備費900万/材料費200万)、3年8カ月をかけて完成させた。

 村上達夫専務取締役は「10台くらいの注文があれば、1,000万円くらいで作れるかもしれない」と語るが、技術デモ的な側面が強く、「興味を持ってくれるオーディオメーカーなどがあれば、ユニットの開発/販売など、協力して製品化を検討していきたい」としている。


■ 耐熱ガラスのトップメーカー

村上達夫専務取締役

 ハリオグラスは、'21年創業の老舗ガラスメーカーで、創業当初から一貫して耐熱ガラスを研究/開発/生産している。当初はフラスコやビーカーなどの理化学用ガラス器具を手掛けていたが、食器分野にも進出。自動車のライトに使うペスレンズや、大規模なものではノーベル物理学賞を受賞した小柴東大名誉教授の「カミオカンデ」の研究装置に使われたガラスにも、ハリオグラスの技術が使われている。AV機器との関係も深く、ソニーの1号型テレビに使われたブラウン管を、世界で初めて成形したのもハリオグラスだという。

 ガラスで作るのは難しい形状やサイズにあえてチャレンジすることをモットーとしており、2001年にはヴァイオリン、2004年にはチェロとビオラ、2007年には尺八もガラスで製作。ガラス独特の音色を披露し、話題を集めた。村上専務取締役によれば「これらの製作を通じて、“楽器は硬いことが良い音に繋がる”ということがわかってきた。そこで、“スピーカーの振動板をガラスにすることで、原音に忠実な音が出せるのではないか?”と考えたのが、製作のキッカケ」だという。

食器分野やブラウン管の成形、カミオカンデまで、様々な分野で事業展開している


■ ガラススピーカー「玻璃音」

手前にあるのがサブウーファ。その背後にある2基がツイータ、一番外側に並ぶ2基がミッドレンジ。背後にあるのはガラスの音をサンプリングしたシンセサイザー

 「玻璃音」は2.1chのシステムで、全てのユニットが個別の筐体に搭載され、個別にドライブされている。ガラス振動板を使ったユニットを内蔵したミッドレンジスピーカー2基と、サブウーファ1基、アクリル製振動板採用のツイータ2基で構成されている。ツイータの振動板はガラスではないが、エンクロージャはガラス製。ミッドレンジとウーファは振動板/エンクロージャのどちらもガラスで、ミッドレンジユニットは上方に向けて配置。放射した音を、円形のガラス拡散板で散らす、無指向性システムとなっている。

 システムの要は、耐熱ガラスを極薄に成形した振動板。作り方は、熱したガラスの“たね”に、息を吹き込み風船状にした後、型に入れ、大きな鍋のような形にする。その鍋底のカーブを描いた部分を切り出すため、周囲にダイヤモンドカッターで溝を付け、熱しつつ水を付けながら切断。お皿のような形状を切り出し、振動板として使用する。パルプコーンのユニットを分解し、振動板をガラスに付け替え、シリコンでドライバーと接続している。

 最初に風船状にする際、一気に膨らませると同時に、0.5~0.8mmという薄さまで引き延ばしていくところを職人技が支えており、その道40年のベテランが製作。割れやすいため、切断に成功するまでには試行錯誤が繰り返されたという。また、円錐形のエンクロージャもガラス製で、約15kgになるまでガラスの“たね”を大きくしていき、息を吹き込みながら成形している。

ガラスの“たね”を職人が成形。中央、および右の写真のような形状へと仕上げる
左の写真はダイヤモンドカッターで溝を付け、鍋の底の部分を切り出しているところ。中央の写真が切り出したガラス。これが右のようにドライバーに組み込まれ、振動板として使われる

 外形寸法と重量は、ミッドレンジが400×15,000mm(直径×高さ)で、30kg。ウーファが600×10,000mm(同)で、50kg。ユニットサイズはミッドレンジが16cm径(ガラスの振動板自体は13cm径)。ウーファが30cm径(同20cm径)。再生周波数帯域など、詳細な仕様については公表されておらず、「あくまで“ガラスで振動板を作ってみた”というモデルで、特性などを追求したわけではない」という。

ウーファユニットの画像。振動板が透明なので、マグネットなど、背後にあるものが透けて見えている。右の写真は実際のスピーカーに取り付けたところ
ミッドレンジのユニット部。上向きに設置され、音は拡散板で360度に放射される ツイータの振動板はアクリルだが、エンクロージャはガラス。形状もユニークだ


■ 音圧が高く、トランジェントの良い再生音

 通常のパルプコーンと比較した際の、ガラス振動板の利点は、湿気などの影響を受けにくく、剛性が高いため、低音域の力強い表現が可能になること。また、大音量再生時に振動板の振幅が大きくなり、空圧が増えても、ガラス振動板自体がほとんど歪まないため、音にも歪みが少ないという。「ガラスは“鳴る”か、(負荷がかかり過ぎて)“割れる”かのどちらか。どんな音量で割れるかを実験しているが、今のところ割れるほどの大音量は出せていない」という。

ガラスの音をサンプリングしたシンセサイザーを、ガラススピーカーで再生。ガラスのヴァイオリンとの共演が実現した

 再生デモには、作曲/編曲家で、ハーピストとしても活躍している朝川朋之さんと、バイオリニストで作曲家の川井郁子さんが参加。川井さんは、耐熱ガラス製のバイオリン「玻璃王(ハリオ)バイオリン」を手に登壇。朝川さんはシンセサイザーを担当。このシンセサイザーには、ガラスを叩いた音が音階としてサンプリングされており、演奏した音は玻璃音スピーカーで再生。ガラスのバイオリンとスピーカーが共演する形となった。

 音楽CDなどを再生したわけではないので、通常のスピーカーと比較するのは難しいが、パルプコーンユニットの音と明らかに違うのは音圧と解像度。硬い振動板が鳴るため、音の張り出しが非常に強く、小さな音でも発表会のホールに力強く響き渡り、個々の音が明瞭に聞きわけられる。低域も曖昧にならず、解像感が高い。TDKが2006年に発売した、3mm厚のアクリルパネルを使ったスピーカー「Xa-Master(SP-XA160)」を連想させる音だ。

 再生音全体ではハイ上がりで、前述した特徴と合わせると、明瞭で非常に現代的なサウンド。悪く言うと響きの乏しい、カサついた音にも聞こえるが、このあたりはエンクロージャの形状も起因しているだろう。高域の繊細な描写が魅力的で、チリチリ、キンキンというガラスならではの細かくて高い音が実に生々しく再生されるのはこのシステムならではだ。

 演奏後、朝川さんと川井さんは「高音の伸びが美しい」、「まるで教会で弾いているよう。いつまでも演奏していたいと思いました」と、ガラス独特の音色に魅了された様子だった。

左下にあるのがガラスのヴァイオリン。朝川さんと川井さんは、ガラス独特の音色に魅了された様子だった


□ハリオグラスのホームページ
(11月27日現在、この件に関する情報は掲載されていない)
http://www.hario.com/

(2008年11月27日)

[AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]


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