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カナル型やノイズキャンセル、ワイヤレスなど、さまざまな選択肢が増えているイヤフォン/ヘッドフォン。 ワイヤレスという点に注目してみると、ポータブル用ではBluetoothが主流といえる。一方ホームオーディオの向けでは、デジタル赤外線や2.4GHz帯の電波(RF)などで高品位に音声伝送が行なえるほか、サラウンド機能を盛り込んだホームシアター系ヘッドフォンが各社から発売されている。 ポータブルの代表例のBluetoothは、特に携帯電話とワイヤレス接続して、ヘッドセット利用している人はかなり多い。双方向性や、各種プロファイルの豊富さ、対応機器の多さから、人気を集めている一方、それほど“音楽用”として使われている印象はない。A2DPやAVRCPなどのオーディオ向けのプロファイルも用意されているが、伝送時に圧縮/伸張を伴うため、あまり高音質という印象がないことも理由に挙げられるだろう。 そんな中、ユニークな技術が登場した。それがKleerと呼ばれる無線音声伝送方式だ。米Kleerが開発した技術で、2.4GHz帯を使い、16bit/44kHzの音声を非圧縮で伝送できる。消費電力もBluetoothの約1/5~1/10と非常に少ないという。そのため、長時間再生や必要バッテリ容量低減による機器の小型化などが図れることが特徴としている。つまり、Bluetoothに対して、高音質/低消費電力で、新しい音楽プレーヤー用のリスニングスタイルを提供していこうというわけだ。 そのKleer技術を搭載し、日本で販売が開始されたのが、ゼンハイザーの「MX W1」だ。Kleerの搭載により、トランスミッタとイヤフォン部の間を無線化するだけでなく、左右のイヤフォンもそれぞれワイヤレス化してしまったというのも面白い。価格はオープンプライスだが、実売は6万円前後とかなり高い。期待の非圧縮音声技術を導入したMX W1をテストした。
■ 左右独立イヤフォン採用。付属品多数
パッケージはやや大きめで、同梱品が充実している。ステレオミニで音楽プレーヤーと接続するトランスミッタに加え、左右に独立したイヤフォン、さらに充電を行なうためのドッキングステーションやACアダプタ、充電ケーブル、交換用イヤパッド、トランスミッタをプレーヤーに固定するためのバンド、キャリングケースなどが付属する。また、ACアダプタはプラグ部を交換可能なユニバーサルタイプとなっており、交換プラグも4タイプ付属する。 Kleer技術が省電力とはいえ、イヤフォンとトランスミッタをそれぞれ充電する必要があるため、イヤフォンの同梱品としてはかなり多い。
左右のイヤフォン部には、容量40mAhのバッテリを内蔵。外形寸法は29×20.5×51mm、重量は10g。左右それぞれに充電端子を備えているほか、ユニットの下部にはLEDと、ペアリング用のボタンを装備する。 ユニット部は通常のインナーイヤータイプなのだが、その上に“Twist-to fit pad”と呼ばれるパッドを装備。このパッドを耳輪の内側に押し付けるようにして、ユニットとパッドの2点支持で固定するという仕組みだ。パッドは大きさや突起の形状などが違う3種類が付属する。 正直、実際に装着する前は「すぐに外れそう」と思っていた。しかし、実際はしっかりと固定されるので驚いた。ちょっと首を振ったり傾けたりした程度では全く外れそうな感じはしない。すぐに落ちてしまうような機構であれば、左右独立の意味も無いので当たり前なのだが、フィット感の高さは特筆に価する。 ただ、個人的差もあると思われる。標準のパッドを利用すると、左の耳は全力で走っても外れないぐらいしっかりフィットしているのだが、右側はやや不安が残る。そのため右だけ小さなパッドに変えたところフィット感はかなり向上した。何しろケーブルが無いので、「耳から外れる=落下する」ということ。故障や紛失の可能性も高まるので、イヤーピースの変更や装着角度の調整などで、最適なフィット感が得られるような工夫をしてもしすぎることはない。
トランスミッタは、ステレオミニプラグの入力を備えており、プレーヤーと接続できる。上部にペアリング/電源ボタンを装備する。外形寸法は40×40×13mm(縦×幅×厚み)、重量は16g。 プレーヤーを固定するためのゴムバンドも同梱されており、プレーヤーにあわせたバンドを選択できる。ただ、iPod touchやiPhoneのようなタッチパネル系のUIを採用しているプレーヤーの場合、バンドでタッチパネルを覆ってしまうので、操作しづらくなってしまう。
使う前にまずは充電が必要なのだが、この充電が少々面倒に感じる。というのも、左右のイヤフォンと、トランスミッタのそれぞれにバッテリを内蔵しているので、合計3つのデバイスを充電しなければいけないのだ。二股に分岐した充電ケーブルは、ACアダプタ充電のほか、USBによる充電にも対応。それぞれの機器の充電端子(2.5mmミニプラグ)に接続できる。 また、ドッキングステーションにイヤフォンを収納すれば、ACアダプタをドッキングステーションとトランスミッタの2つに接続するだけでも充電できる。また、ドッキングステーションにも充電池を内蔵しており、イヤフォンを3回充電できる。ステーションにイヤフォンを収納し、正面のボタンを押すと、ボタンのLEDがオレンジに点灯。充電開始する。 なお、ドッキングステーションでの充電時は、USB給電は行なえず、ACアダプタを接続する必要がある。ステーションのLEDがOFFになると充電が完了。充電時間は約2時間。 フル充電時の駆動時間は、イヤフォン部が約3時間、トランスミッタ部が約10時間となっている。実際の利用時では、約4時間強の連続再生でイヤフォン側のバッテリが無くなった。ドッキングステーションを持っていれば、外出先でもイヤフォンの充電が3回まで可能なので、トランスミッタとほぼ同等の時間再生できるというわけだ。この充電をうまくこなせるかどうかが、MX W1活用の最大のポイントといえる。
■ 各デバイスの電源操作などは面倒だが、音質には満足
イヤフォンとトランスミッタはあらかじめペアリング(相互認証)されて出荷されている。そのため、それぞれのデバイスの電源を入れると、相互にデバイスの情報を交換し、接続される。 イヤフォンの電源ON/OFFはユニット下のボタンの長押しで、約4秒押して、LEDがブルーに点滅するとONになる。OFFにする際も、約4秒長押し。LEDがブルーに点灯するとOFFとなる。またドッキングステーションに差し込むと、自動的に電源はOFFになる。 トランスミッタの電源ON/OFFも同様で、4秒長押しでLEDのブルー点滅でONに、LEDのブルー点灯でOFFとなる。また、5分以内に伝送先のイヤフォンが見つからなかった場合も、自動で電源OFFとなる。 それぞれのデバイスの電源をほぼ同時に入れないと、相互をうまく認識してくれないのが難点。ステーションからイヤフォンを外すときに自動で電源がONになるので、それにあわせてトランスミッタの電源を入れる、というのが一番スマートな運用方法だろう。 とはいえ、3つのデバイスのそれぞれで電源操作を行なう必要があるというのは、やはり面倒。また、動作状態を確認できるのもLEDだけなので、うまく認識できなかった時に、「現状どういう状態なのか」が把握しづらい。このあたりは利用時の課題と感じた。 とはいえ、実際に音楽を聴き始めると、頭の前後にケーブルが無いという状態は新鮮。Bluetoothヘッドフォンなどで、プレーヤーとイヤフォン部が無線化しているという点ではすでに多くの事例があるが、首を回しても左右イヤフォンをつなぐケーブルなどが引っかからないので“着けている感”が極めて希薄なのだ。 伝送距離は10m。カバンやバックの中にプレーヤー/トランスミッタを収納して、音楽を聴いていても、音が途切れたりすることは皆無だ。プレーヤーを自分の席において、100坪弱のフロアの、さまざまな場所で聞いてみたが、動きながらだと時折音が途切れるものの、止まっていればほとんどの場所で問題なく再生できた。一般的なポータブル用途で困ることはなさそうだ。 イヤフォン部は、通常のインナーイヤータイプのダイナミック型で、再生周波数特性は19Hz~20kHz、インピーダンスは32Ω。カナル型では無いので、遮音性はそれほど高くない。電車内などではそれなりに外部の音が入ってくる。ボリューム操作などの機能は全く無く、入力した信号をそのままワイヤレスで伝送するためだけに、Kleerを採用している。 iPod touchにトランスミッタを接続してテストしたが、音質も良好で、ダイナミックレンジの広さと、広めの音場が好印象。有線伝送と比べる術は無いので、非圧縮伝送が特徴というKleer技術そのものの評価というわけにはいかないのだが、すっきりと全帯域にわたって、情報が整理され、聞きやすい「音がいいインナーイヤフォン」という感触。圧縮しているような不自然なアタックの強さ、レンジの狭さは感じない。“サー”というホワイトノイズも皆無だ。ナチュラルで、有線でつないでいるといっても疑いを持つことはなさそうだ。
Kleerに対して、圧縮を伴うBluetoothとの比較も行なってみた。シグマA.P.OのiPod用トランスミッタ「SBT01」と、ソニーのBluetoothレシーバー「DRC-BT15P」に、普段使っているソニーのカナル型イヤフォン「MDR-EX500SL」の組み合わせて比較してみた。ホワイトノイズがかなり多いのが気になるが、イヤフォンの特性を活かした、低域の勢いのあるサウンドで驚いた。 個人的には、Bluetoothイヤフォンというと、数年前の情報量に乏しい製品のイメージが強く、あまりいい印象を持っていなかったのだが、思いのほか“使える”と認識してしまった。Bluetoothユニットからのリモート操作などKleerには無いアドバンテージだもある。とはいえ、イヤフォン直結時とBluetooth伝送をそれぞれ聞き比べてみると、違いはかなり感じられる。有線接続では、低域のバランスが整理され、中域の勢いが出てくるほか、明らかに情報量も豊か。とはいえ、Bluetooth接続でも不満は感じる音質ではなし、それ故実現される機能も多い。このあたりは求める機能と音質のトレードオフといえる。 伝送方式「だけ」を比べることはできないのが残念だが、確かにKleer/MX W1では無理をして伝送している感触が無く自然な音質を実現している。
■ 魅力的な“Kleer”技術。左右独立は新しい感覚
非圧縮無線伝送による音質の良さは非常に魅力的。さらに、左右独立イヤフォンのすっきりとした使用感が新鮮。“ケーブルが無い”だけなのだが、「こんなに感覚が違うのか」、と驚いた。そういう意味では、第1弾製品として、あえて左右独立型イヤフォンを導入してきたというゼンハイザーの狙いは正しいと感じる。 個人的にKleerは、1月のCESで話を聞いてから非常に気になっていた技術。その製品が実際に出ただけでもまずは歓迎したいし、そのポテンシャルは十分に感じられた。ただ、実売で5~6万円弱という価格にはやはり躊躇してしまう。また、トランスミッタ/イヤフォンの各デバイスごとに電源のON/OFFをし、充電作業を行なうという手間が発生する。ここをどのように解決していくかが今後重要になるだろう。 例えば、トランスミッタをプレーヤーに内蔵する、あるいはiPodやウォークマンのドック端子に接続してプレーヤーから電源を供給/連動するなど、もう一歩、使用前の手間を減らす工夫がほしいというのが正直な感想だ。それにあわせて価格がもう少し手ごろになったり、カナル型やイヤフォン交換タイプなどのバリエーションが増加すれば、魅力を感じる人も増えるだろう。ともあれ、ポテンシャルを感じさせる新技術の登場。今後の発展に大いに期待したい。 □ゼンハイザージャパンのホームページ (2008年12月26日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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