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CES開幕直前の1月7日(現地時間)、東芝経営陣に、北米市場でのビジネス状況や、今後の付加価値戦略、そして、ネットを主軸とした「HD DVDなきあとの映像メディア戦略」を聞いた。同社プレスカンファレンスで公開された情報とあわせ、「2009年に東芝が狙うところ」を分析してみよう。
■ シェア2位の背中が見えた? 東芝のAV事業の中でも、現在の主軸はもちろんテレビである。今回のプレスカンファレンスでも、説明の中心となったのはテレビ事業についてだ。しかし、アメリカは、景気減退の影響がもっとも深刻な地域の一つでもあり、高額商品であるテレビは、その影響を大きく受けている。 東芝アメリカ家電社の小坂明生社長は「2008年は市況が厳しく、個人消費も落ち、非常にチャレンジングな年だった。特に、9月から10月にかけては、テレビについても対前年比で15%近く落とした」と語る。とはいえそんな中でも、同社はテレビに関してそれなりの結果を残している。対前年比で2割伸び、「数少ない成長分野となった」(小坂氏)という。 元々同社は2008年、「北米でシェア3位・10%」を目標に戦ってきた。そのうち、シェア3位は実現された。東芝デジタルメディアネットワーク社 テレビ事業部の大角正明事業部長は、「一瞬だけ(アメリカでシェア2位の)ソニーの背中が見えた。今後、背中に“タッチ”できるかは、これからがポイント」と話す。
市場環境は相変わらず厳しい。2009年のアメリカ市場は「マーケット全体では5%程度の伸びにとどまる」(小坂氏)。「台数は伸びたとしても、単価は必ず下落する」(大角氏)という状況である。FPDの市場が、ここまで毎年数十%の成長率を維持してきたことを思えば、すさまじいまでの「急ブレーキ」といえる。
だが小坂氏は、「シェア3位維持、シェア10%、という目標は引き続き狙う」と話す。同社がその武器と考えているのが、新しいレグザのラインナップである。 大角氏は、商品投入の考え方を次のように説明する。「価格下落は間違いなく起きる。実際2008年の価格下落があるからといって、低価格モデルだけで勝負するつもりはない。性能重視のメインモデルもしっかりやる、というのが中心の考え方。そもそも、52型のモデルとはいっても、その中心価格帯はすでに1,900ドル近辺。ということは、もう超高級なものではない。本当に市場が求める機能に注力していきたい」と方針を語る。
日本では、東芝が販売するほぼすべてのテレビに「レグザ」ブランドがつけられているが、アメリカではミドルクラス以上の、240Hz駆動や部分駆動バックライト、ドルビーボリュームといった、機能的付加価値のついた商品にのみ「レグザ」ブランドがついている。大角氏のいう「メインモデル」というのは、このブランドネームがついた商品を指す。数量的にはもちろん、低価格モデルの方が多い。しかし、ミドルクラス以上を厚くすることで、単価下落を抑え、成長率を維持したい、という狙いなのだろう。 付加価値モデルで利益率を維持するという戦略は、どのメーカーも目指す基本的な路線である。だが、東芝の場合には、他社と大きく異なるポイントがある。それは、2007年後半以降続いている「超薄型化」の流れには乗らない、ということだ。前出の大角氏のコメントの中で「市場が求めるもの」という言葉が使われているのも、そのためである。 プレスカンファレンスにおいて、東芝アメリカ家電社・テレビグループ・マーケティング担当副社長のスコット・ラミレス氏は、超薄型モデル偏重の流れを次のように批判した。「LCDテレビが厚すぎる、なんて批判は聞いたことがない。価格を上げるためだけの薄型化じゃないのか。この市況の中で、それだけのためにコストを払ってもらえるとは思えない」。 そんな中で、あえて同社が超高級モデルと位置付け、注力するのが「Cell TV」である。大角氏は「「Cell TVは、本当のバリューを持つ商品としてやっていきたい。60型以上の大画面商品での付加価値・差別化戦略として考えている」と語り、その商品性に相当の自信を持っているようだ。既報のように、Cell TVはCellの処理能力を生かし、超解像やネットコンテンツの閲覧機能、そして地デジの「全チャンネル丸取り」など、非常に様々な機能を持つ。日本では今秋、「できれば9月、10月には」に発売され、アメリカ・ヨーロッパ市場でも、「東芝の会計年度としては本年中に発売したい」という。
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■ ネットコンテンツはWidgetで では、そのテレビに「映す」ものでは、どのような戦略を採るのだろうか? 東芝 デジタルメディアネットワーク社 テレビ技師長の徳光重則氏は、「ユーザーニーズの多様化している。事業戦略としては、欲しいものをいつでもどこでも見られるような、メディアインディペンデントを推進していきたい」と、技術開発の方向性を語る。
主軸となるのはHDDと、SDカードに代表されるフラッシュメモリだ。「HDDやSDカードで活かせる、東芝のシナジーを使ってユーザーに価値を提供していく」(徳光氏)という戦略だ。当然ながら、Cell TVはそのトップエンドに位置する。「そこで得られた新技術を、普及機種や映像商品へ展開していくこと、すなわち”Cell TVの遺伝子”を継承することもやっていきたい」と語る。ほかにも、2008年のCESでソニーが発表した「TranferJet」にも取り組むという。 ネットワーク戦略としては、Cell TVの他、同社が「Standalone Network Player」と呼ぶデバイスも手がける。これは、インテル/ヤフーが開発を主導する「TV Wigdet」サービスを利用するためのもの。将来的にはテレビなどの中に組み込まれる予定だが、まずは外付け機器での対応となる。また今回はじめて、この機器で、Windows Media CenterをLAN経由で利用する「Media Center eXtender」(MCX)にも対応する予定だ。 双方ともにネットワークのコンテンツを利用可能なソリューションであり、機能的な重複も多いような気がするが、同社デジタルAV事業部 DAV商品企画部 部長附 片岡秀夫氏によれば、「MCXはPCに蓄積した家庭内のコンテンツを見るためのソリューション。それに対し、TV Widgetは映像配信も含めたネットコンテンツ向けと考えている」とのこと。東芝としては両者を補完的に利用していく、ということであるようだ。
■ 「BDがないロスはない」
Cell TVでは、アメリカ先行ながら、4K2Kのディスプレイが搭載される。超解像技術についても、すでに投入済みの技術をさらに改良した形で、地デジから4Kへの超解像化を実現する予定だという。 他方で、すっぽり抜けているものもある。それは「HD対応のディスクメディア」だ。ご存じのように、東芝はBlu-rayに参入していない。現在もっとも高品質な映像の供給源となっているBDがないことは、「ハイエンドなAV商品」を売る上で、マイナスにはならないのだろうか? ネットワークに力を注ぐのは結構だが、ネットワークでの映像配信が、ディスクメディア並のマスに広がるには、まだ少し時間がかかるような印象もうける。 だが、東芝は強気だ。「BDをやっていないことのロスはない。やっていたとしたら、むしろ今頃もっと大変だったのでは」。東芝アメリカ副社長・内山善晃氏は、BDがないことがマイナスとはならない、という立場をとる。 「ちょうど1年前は本当に大変な思いをして、どうなることかと考えた。だが、あの時にああいう判断(HD DVDからの撤退)をして正解だったと思う。BDを手がけている企業は、拡販のためにお金をかけている。どう考えても儲からないだろう、という販促攻勢だ。その一方、経済環境は厳しいため、400ドルのプレイヤーが300ドルになってもまだ財布の紐が固いという状況になっている。確かにDVDも厳しい。ノーマル(アップコンバート非対応機)は数量が減っているが、アップコンバート対応機は前年比で伸びている。DVDを搭載した“コンボTV”も、市場のプレイヤーは少ないが、好調だ」。 「他方でネットワークは、あきらかに目の前に来ている印象を持っている。すでに若い層では、“ネットで流行のビデオを見ていないと話題についていけない”という流れになっており、2009年末までには、ネットコンテンツに対する要求が高まり、より簡単に使えるようになることが求められると予想する」(内山氏)。YouTubeに代表される、ネットの動画配信をもっと簡単に、高いクオリティで使えるようにする必要があり、そこを東芝が重視する……という戦略は間違っていないと考える。Cell TVではインターネットコンテンツの超解像も行なうことになっており、そのクオリティには興味をそそられる。
だが、だからといってディスクメディアは本当にDVDだけでいいのだろうか? 確かに、BDを手掛ける企業は価格下落への対応や販促にコスト負担を強いられているようだ。しかし、BDはあきらかに「トレンド」の一つであり、東芝が言うほど簡単に無視できるものではない。「世界最高のクオリティと機能」を誇るテレビを売るメーカーが、最もクオリティの高い映像を収納するメディアを無視する、というのは不自然なことだ。DVDとネットの間は、東芝が思うほど“狭い”ものではないと思うのだが……。
□東芝のホームページ (2009年1月9日) [Reported by 西田宗千佳]
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