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'18年の4K/8K本放送で何が変わる? 初の衛星左旋4K試験放送を見てきた
2017年4月6日 19:45
国内初の「左旋円偏波による4K試験放送」が、4月1日より始まった。放送サービス高度化推進協会(A-PAB)が、東経110度CSを利用した衛星基幹放送として、スカパーJSATの衛星を含む放送設備や4Kコンテンツを用いて行なう。
今回の試験放送は、'18年12月からスタートするBS/110度CSによる実用放送に向けて、放送設備や機器などの検証に活用される。現状では一般の視聴者が手持ちの4Kテレビで視聴できず、今後発売されるチューナが必要となるが、こうした注意点などは周知が進んでいない。そうした現状も踏まえ、改めて試験放送の概要と、今後の実用放送に向けた取り組みをA-PABが報道関係者へ説明するとともに、試験放送で使われているアンテナなどの設備が公開された。
現在のBS/110度CS放送は、それぞれの衛星から「右旋円偏波」(衛星から見て時計回りに回転する)で伝送される方式。この方式での伝送帯域は現在のチャンネルでほぼ一杯になっており、新たにチャンネルを追加したり、より高精細な(データ量の多い)映像を送るには足りない状況となっている。
'18年12月から予定されている4K/8K放送では、これに加えて「左旋円偏波」(反時計回り)での伝送も新たに開始。現在の衛星放送サービスの帯域である12GHz帯に、右旋/左旋の両方を収められ、1本の同軸ケーブルで右旋/左旋を同時に伝送できる
放送を4K/8Kに高解像度化することに合わせて、120Hzの高速表示や、RGB各色10bit/約10億階調の滑らかなグラデーション、明暗の表現を改善するHDR(ハイダイナミックレンジ)といった、トータルでの画質向上を行なう。
この実用放送に、NHKや、民放BS各局、スカパーなどが参入し、右左旋の両方を用いて、計19チャンネルが放送される予定。チャンネルは1月に認定されており、'18年12月1日よりNHKは8Kと4Kの2つのチャンネルを展開。それ以外の事業者は4Kチャンネルを放送する。
従来のアンテナ(右旋円偏波用)は、今回の左旋円偏波を利用した放送に対応しないため、新たな4K/8K放送の視聴には、左旋円偏波対応のBS/110度CS放送用アンテナへの交換や、伝送周波数帯域3,224MHz対応の受信機器(分配器や増幅器など)が必要。
アンテナやブースターなどの受信機器の一部は右左旋両対応のモデルは既に発売中。一方、左旋に対応するテレビチューナは、「'18年の実用放送開始に合わせて」各メーカーから発売される予定。こうしたチューナを今の4Kテレビに接続するか、対応チューナ内蔵テレビを用意することで、'18年の実用放送が観られるようになる。
なお、現在の家庭で利用されているBS受信システム(ブースターや分配器など)には、右旋用の中でも周波数が2,150MHzまでの対応機器と、2,600MHzまで対応する機器がある。このため、チューナやアンテナを交換した場合も、他の機器が非対応のために「一部のBS左旋チャンネルが映らない」事態も起こり得るという。
録画については、規格上は固まっているものの、今後発売されるチューナに録画機能が搭載されるかどうかが決まっていないため、「メーカーの商品企画による」と現時点では明言されていない。
4K/8K実用放送のチャンネル構成と開始時期
【右旋BS放送】
7チャンネル(4K)
BS朝日 '18年12月1日開始予定
BSジャパン '18年12月1日開始予定
BS日テレ '19年12月1日開始予定
17チャンネル(4K)
NHK SHV 4K '18年12月1日開始予定
BS-TBS 4K '18年12月1日開始予定
BSフジ '18年12月1日開始予定
【左旋BS放送】
8チャンネル(4K)
ショップチャンネル '18年12月1日開始予定
QVC '18年12月31日開始予定
映画エンタテインメントチャンネル '18年12月1日開始予定
12チャンネル(4K)
WOWOW '20年12月1日開始予定
14チャンネル(8K)
NHK SHV 8K '18年12月1日開始予定
試験放送は6.4mのアンテナから送信
これに先駆けて'17年4月から始まった試験放送は、新たな4K/8K放送の基本的な伝送路となる左旋円偏波の、一番高い周波数(IF帯3,224MHz)を使って行なわれる。2018年12月に開始されるBS/110度CSによる実用放送に向けた4K/8K放送の受信や伝送システム、受信機器の開発、試験、検証などの活用を目指す。放送内容は、スカパーが提供する「総合娯楽番組」としている。放送時間は午前11時~午後5時の1日6時間。
使用衛星は、JCSAT-110A(東経110度CS)、トランスポンダはND23(中央周波数12.711GHz)。伝送方式は高度広帯域伝送方式、シンボル数は16.87805Mbaud(60スロット利用)。変調方式は8PSK。
送信アンテナは、スカパー東京メディアセンター屋上にある、110度CS用1号機(6.4m径)を使用。既存のアンテナに、従来の右旋用と新しい左旋用の2本のケーブルを配線するなどの工事を行なった。
4K試験放送デモ受信に使われていたのは、シャープ製8Kチューナ「TU-SH1000」を、今回の試験放送向けにカスタマイズしたもの。そこから4K対応テレビにHDMIケーブルで出力して表示していた。
試験放送は機器検証などを目的としているため、現時点で視聴できるのは、東京・江東区のスカパー東京メディアセンターの受信機などごく一部に限られ、まだA-PABでも視聴できないという。なお、現在の試験放送波はコピーフリーの状態となっている。
A-PABは、'16年12月1日に開始したBSでの4K/8K試験放送に続き、今回の左旋円偏波による4K試験放送を行なうことで、2018年に始まる4K/8K実用放送に向けて、受信環境構築の後押しを図る。
認知度向上が課題。放送は無料/有料が選べる仕組みを継続
新しい4K/8K放送についてはまだ認知が低く、A-PABがインターネット経由で行なった調査では、「販売中の4Kテレビ単体では新しい4K/8K放送が観られない」ことを知っている人はわずか6.5%だったという。
対応チューナは未発売だが、スカパーやパナソニック、DXアンテナ、マスプロ電工らが対応アンテナやブースターなど受信に必要な機器を製品化。「これから買い替える場合は、準備できる」状況となっている。
受信料金については、各放送事業者が設定するため、現時点では明確な料金体系は発表されていない。A-PABとしては「少ないチャンネルであれば無料、より多くのチャンネルを観たい場合はそれぞれの料金が必要、という従来のBS/CSの仕組みと大きくは変わらない」との認識を示している。
なお、新しい放送に合わせて、「クリーンな受信環境の維持」も推進する予定。同軸ケーブル同士を銅線が露出した状態で結ぶといった“直付け”をすると、その場所から電波が漏えいし、無線LANルータや他のワイヤレスブロードバンドなどを妨害する恐れがある。逆に、電子レンジなどからの電波が直付け部分に干渉があることで、受信障害が発生する可能性もある。そのため、直付けの場所を減らすことを目的に、JEITA(電子情報技術産業協会)が認定した「SHマーク」の機器(左旋/3,224MHz対応)を使用することを求めていく。
A-PABでは、実用放送開始に向けて、4K/8K周知啓発を行なう「テレビ受信向上委員会」の活動や、マンション管理業協会へのセミナー、日本CATV技術協会との協力した設備/施工事業者への周知などを行なう。
A-PABの土屋円専務理事は、1984年のNHK衛星放送開始以来の歴史を振り返り「CATV再送信という追い風もあって、今は衛星放送が受信できる家庭は4,000万世帯を超えているが、当初は1軒1軒にパラボラアンテナを付けることから始まったと聞いている。新しい左旋放送は今の受信機や宅内設備では受信できない。まさに1からのスタートとなり、30年前の先人の通った道を我々がこれから歩いていくという思いがある。CATVという有力な伝送手段もあり、今後普及していくと期待しているが、課題は多々ある。現在どういうことをしていくのか、今後、各事業者がどういう放送するのか、受信機がどういった形になるのか、といった情報を共有していきたい」と述べた。