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オーディオと楽器の発想が融合したアンプ&ピアノ。オンキヨーとKAWAI共同開発で起きた変化
2017年6月29日 21:21
オンキヨー&パイオニアマーケティングジャパンと河合楽器製作所(KAWAI)は29日、オンキヨーブランドのプリメインアンプ「A-9150」と、KAWAIのハイブリッドデジタルピアノ「NOVUS NV10」の発表会を共同で開催。オーディオメーカーと楽器メーカーそれぞれの技術とノウハウを投入して生まれた両製品の特徴などを紹介した。両社の開発者に、似ているようで異なる両業界のコラボで発見したことや、製品に活かされたポイントなどを聞いた。
オンキヨーのプリメインアンプ「A-9150」は、同社が重視する“動特性”向上のための開発で生まれた、500V/μsecを超えるスルーレートとMHz帯域までフラットなリニアリティを持つアンプモジュール「Discrete SpectraModule」をメインアンプの増幅に搭載。このモジュールと、DACの後段に搭載されているDIDRCフィルターは、河合楽器製作所(KAWAI)のハイブリッド・ピアノ「NOVUS NV10」にも採用された。
オンキヨーも、これら2つの技術を中心に、Novus NV10採用時に得た楽器のノウハウを採り入れ、さらにオーディオ用にカスタマイズしたものを、A-9150に載せているという。
A-9150は62,000円で7月上旬に発売。NOVUS NV10は10月6日発売で、価格は90万円。
グランドピアノの音を電子楽器で再現するための技術とは?
両社の提携は'15年に発表され、電子楽器など新たなカテゴリの製品開発を目指してスタート。コラボレーションの取り組みとして、'16年春にドイツ・フランクフルトで行なわれた楽器・音楽制作関連の展示会「Musikmesse」において、共同開発されたデジタルピアノのプロトタイプが参考出展された。その当時も「欧州のプレスや業界関係者から、『デジタルピアノなのにグランドピアノのようだ』とポジティブな評価を受けた」(オンキヨー&パイオニアマーケティングジャパンの荒木健社長)という。その後、量産化に向けて両社で開発を続け、KAWAI電子ピアノのNovus NV10が誕生した。
開発当初、河合楽器が目指したのは、同社グランドピアノの最高峰モデル「フルコンサートピアノSK-EX」の音を電子ピアノで実現すること。今年創業90周年となる同社の当時2代目社長だった故・河合滋氏が1999年に誕生させ、自らの名を冠した「Shigeru Kawaiグランドピアノ」の流れを汲むモデルが「SK-EX」。
同社の楽器製造本部 電子楽器事業部 開発課 商品開発担当 兼 商品企画デザイン室 主監の佐藤拓也氏は、「グランドピアノのSK-EXに近づけたいという思いを伝えた時に、『奥行き感や歪み感などに関する考えが一致していて、楽器とオーディオというアプローチは違うが、方向性が似ていると感じ、最終的に目指すところは一緒だった」と話す。
オンキヨーとの協業で特に進化したポイントとしては、「大きな響板を持つグランドピアノの音の奥行き感は、小さなデジタルピアノでは、これまではどうしても出なかった。これに対し、オンキヨーはDIDRCなどで解像度を高めることによって、音の空気感、奥行き感が出るということを示した。電子ピアノはどうしても『電子っぽい音』とよく言われるが、DSDでよく言われるような“生々しさ、空気感”を引き出してくれた。これで一歩、グランドピアノに近づいた」としている。
楽器は“面で音を出す”
オンキヨー開発陣に、楽器作りとオーディオの違いについて尋ねたところ、開発本部 開発技術部 第2開発技術課 主幹技師の北川範匡氏が挙げたのは「オーディオではスピーカーから音が出るのに対し、楽器は、ピアノ全体で音が鳴るように“面で音が出る”」こと。これを電子ピアノで実現するのが、NOVUS NV10開発で河合楽器が求めていたことだという。
北川氏は「我々は“音作り”をするメーカーではなく、“原音からどうやって情報量を引き出すか”をこれまで続けてきた。SNの良い環境で、SK-EXという原音の情報を引き出すための取り組みの中で、我々のノウハウと、河合楽器がこれまで続けてきたことがうまく噛み合った」という。
ピアノ開発で得られた、回路のパターンなどの様々な技術やノウハウがオンキヨーのプリメインアンプ「A-9150」にも引き継がれた。「ピアノとして音の表現が良い部分は、オーディオ的な表現も良かった。ピアノの表現力を良くする技術が、オーディオにも適用できることが分かった。
今回の製品で代表的な技術はDiscrete SpectraModuleとDIDRCフィルターの2つだが、この他にも、線処理や、振動対策など、音作りに関してできるこは多岐にわたる。今後も、両社で互いに得られることはたくさんある」(北川氏)と、様々な面で協業の可能性があることを示した。
ピアノ生演奏とアンプのアンサンブルも
河合楽器は、90周年に合わせて、電子ピアノだけでなく、グランドピアノ「GX-2 NA」や、アップライトピアノ3機種も発表。日下昌和専務取締役は、“世界一のピアノ作り”に向けて続いた90年を振り返り、「2代目社長の河合茂は、生前『企業も100年経たないと一流になれない』と言っていた。それまであと10年あるが、90周年として画期的なモデルを準備した。100周年に向け、さらに研究開発とサービス向上を目指す」とした。
発表会では、電子ピアノの「NOVUS NV10」と、プリメインアンプ「A-9150」による“アンサンブル演奏”も行なわれた。ラフマニノフピアノ協奏曲 第2番のオーケストラを、オンキヨーのリファレンスCDプレーヤー「C-7000R」とアンプのA-9150、スピーカーのScepterシリーズ「SC-3 スペシャルエディション」で鳴らし、それに合わせて、ピアニストの圓谷綾乃さんがNOVUS NV10を演奏。高解像度かつ音の立ち上がり/立ち下がりの俊敏さを持ちながら“デジタルくささ”を抑え、ふくよかな響きが伝わるA-9150と、鍵盤を力強く叩いた音から微かな余韻まで、グランドピアノを思わせるNOVUS NV10の音が会場を包んだ。
圓谷綾乃さんは、この演奏のほかに、古都・奈良を描いた曲「ムジカ・ナラ」も披露。「音色のコントロールや、場面によってはガラッと空気を変えることが必要で難易度の高い曲。NOVUS NV10を触った時、これだったら繊細な世界も表現できるのではと思って選曲した」という。弾いた感想としては「まさにグランドピアノと同じように、1つ1つの鍵盤に自然な重さがあり、普段の(指で鍵盤を)“つかむ”ような感覚の弾き方ができる。ペダルも繊細に反応して、きれいに音を繋げるだけでなく、細かいコントロールができる」と評価した。