西川善司の大画面☆マニア
第295回

驚異の電動レンズと内蔵センサー!XGIMI「TITAN」にプロジェクターの進化を見た!!
2026年7月3日 08:00
ここ数年、新興メーカーの“単板式DLPプロジェクター”の台頭が目立つ。特に近年、躍進著しいのは、超短焦点(UST:Ultra Short Throw)型のDLPプロジェクター製品群だ。
超短焦点プロジェクターは投写距離が短いため、設置占有面積を最小限にでき、同時に明るい映像を得やすい特徴を持つことから、ホームシアター入門者を中心に人気を集めてきた。
今回取り上げるXGIMIも、そういった超短焦点モデルで注目され、成長してきた中華系メーカーの1つだが、実はグローバルマーケットでは、ポータブルな小型ビジネスプロジェクターや、ホームユーザー向けのオールインワンタイプのスマートプロジェクターのメーカーとして、その地位を築き上げてきた過去がある。
実際、一般的な据え置き型のホームプロジェクター製品も、彼らのラインアップには常にあったが、先日リリースした「TITAN」のような、ハイエンド級のホームシアター向けプロジェクター製品を出すことはXGIMIとしては珍しい。
というわけで今回は、日本でも認知度を上げてきたXGIMIの上級ホームシアタープロジェクター「TITAN」の実力を検証することにした。価格は698,000円だが、XGIMIの公式ストアでは14% OFFの598,000円で販売されている。
1.高級感のあるデザイン。金属製の専用スタンドも付属
投写レンズは中央ではなく、正面向かって右にずれた位置に搭載される、アシメントリなデザインを採用する。
ボディは樹脂がメインだが質感はよく、上面は革シボのような質感。レンズのある前面には布のような質感のシートが貼り込んであり、インテリアとしてもなかなかの高級感がある。
本体サイズは441×345×158mm(幅×奥行き×高さ)。一般的な上級据え置き型プロジェクターのイメージに近い大きさだ。
重量は約11.5kg。梱包箱から取りだしての移動は、大人ひとりで楽に行なえるレベル。台置きはもちろん、本体を上下逆転させて、棚などの高い位置に設置する“疑似天吊り”もひとりでできるだろうだ。ただ、天吊り設置は安全を期してふたり以上で行なうことを勧める。
天吊り金具は、純正の「XGIMI Ceiling Mount Ultra」(42,980円)が用意されている。耐荷重は15kg。
天吊り金具のマウント部は、TITANの底面側に開いている4つのネジ穴にぴったりハマるようにデザインされている。取り下げパイプは伸縮に対応しており、一番縮めて20cm程度、伸ばしきって40cm程度。伸縮は4cmごとに4段階の伸縮調整用のネジ穴が空いている。
天井側のマウント金具は15cm×15cm。曲げ関節が付いているので、壁に金具を組み付けての壁マウントも可能だ。
本体底面に開いている4つのネジ穴の間隔は、一般的なプロジェクターと大きくは変わらない。耐荷重条件さえ適合すれば、汎用の天吊り金具も使えそうだ。
なお、天吊り金具以外にも、フロアスタンドタイプの「XGIMI X-Floor Stand Ultra」(39,980円)も用意されている。
TITANには、高さ調整が可能な、これまた質感のいい金属製スタンドが付属している。一般的なプロジェクター製品ではネジ式のゴム足が実装されるのが普通だが、本機はおしゃれなデザインのスタンド形状になっている。
2.充実の全自動・電動調整システム!世界トップレベルかも?
50万円を超えるモデルだけあり、投写レンズは、電動フォーカス・ズーム・シフトの全てに対応する。
ズーム倍率は1.5倍で、投写比は1.2〜1.8:1。F値(絞り値)は2.0。シフト量は上下±100%、左右±40%。上級機に相応しいスペックだ。
投影可能な画面サイズは、16:9アスペクト比で60~300インチ。光の輝度は距離の二乗で減衰するため、輝度性能と照らし合わせた場合の画質性能が担保されるサイズは、最大150インチまでとなっている。
100インチ(16:9)の投影に対応する最短/最長の投写距離は、2.66m/3.99m。150インチだと3.99m/5.98m。ズームレンズ搭載型のホームシアタープロジェクターとしては不満はない。
ちなみに、XGIMIのサイトでは、GUIベースで投写距離と画面サイズをシミュレーションできる「XGIMIプロジェクションプランナー」が用意されているので参考にするといいだろう。
さて、このTITAN。電動レンズを制御する機能に関しては、日本メーカーの上級機と比べてもトップレベル、いやそれ以上の充実ぶりだと感じた。中華パワー恐るべし、である。
電動フォーカスについては、自動測距に対応したオートフォーカス機能が搭載されている。これが恐ろしく便利。フォーカス合わせのリモコン操作をするだけで、スクリーンと投写レンズまでの距離を自動で計測して、人間では難しい“ドンピシャ・バッチリフォーカス”を実現してくれる。
最初は「でもまあ、フォーカスは自分で合わせますよボクは!」と豪語していたのだが、最新テクノロジー信奉者でもある筆者としては、搭載されている技術を理解したあとでは「たしかに自動機能使っちゃいますわ」と降参せざるを得なかった。
自動フォーカスのどこが凄いのか、解説しよう。
TITANの自動フォーカス機能は2段構えになっている。まず、1段目を担当するのはTITAN前部に搭載されている“2基のToF式赤外線測距センサー”。TITAN側から赤外光パルスを照射し、パルスがスクリーンで反射されてToFセンサーに帰ってくるまでの時間経過で測距する。
こういったセンサーは以前、XRデバイスやジェスチャー入力式XRコントローラなどで使われることが定番だったのだが、TITANはフォーカス合わせのために搭載しているのだ。
ToFセンサーが2基もあるのは、それぞれのセンサーのカバーレンジが異なるため。TOFセンサー1は、最長6.5mまでの長距離測距に対応した自動フォーカス専用センサー。ToFセンサー2は、自動フォーカス用ではなく、前方2.5mの障害物発見に使われているという。
TITANは5,000ルーメンという一昔前の業務用プロジェクター並みの輝度があるため、その投写光を直視してしまうと、眼球の視細胞に悪影響を与えかねない。そのため、投写軸を遮る形で測距値が急激に変わったときは「人間が遮った」と判断し、瞬時に輝度を絞るアイプロテクション機能が発動するようになっている。
フォーカス合わせのみならず、アイプロテクションのためにToFセンサーをデュアル搭載するとは、なんとも贅沢である。
ToFセンサーの赤外光発振器は、VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser)型の面発光タイプが採用されている。これに回折格子や拡散レンズを組み合わせることで、円錐(コーン)形状の赤外線パルスを発振する。
スクリーンで反射された円錐形状パルスは、SPAD(Single-Photon Avalanche Diode)タイプのフォトダイオードで受光。簡単に言えば、解像度は粗いが2D平面的に測距するイメージだ。結果としては、TITAN本体の目の前の遮蔽物までの遠近の有り様を、かなり大ざっぱではあるものの、3D深度的なイメージで捉えていることになる。
なお、この円錐の広がり具合がセンシング画角に相当する。遠距離担当のToFセンサーは鋭い円錐形状で、近距離担当のToFセンサーは広い円錐形状で赤外光パルスを発振している。
感応角度は公称スペックには記載されていないが、筆者の実験(どのくらいの角度で邪魔するとアイプロテクションが働くか?)では、だいたい90度はある印象だ。
で、この贅沢なセンサー話、まだ続く笑
実はこのTITAN、デュアル式の赤外光CMOSセンサー……ようするに“ステレオ3D赤外光カメラ”も搭載している。なぜ赤外光(白黒)カメラが搭載されているのか? というと、スクリーンに投写されている“調整用映像を撮影・認識するため”だ。
カメラが2基あるのは、調整映像を2眼ステレオ撮影することで視差量を把握して、スクリーンの投影像までの距離分布を2D平面的に認識するためである。
つまり、デュアルToFセンサーの粗い2D測距の補償目的で、ステレオカメラの仕組みが搭載されている。これにより、自動フォーカスの精度はプロジェクターマニアが調整したフォーカスに優るとも劣らぬクリアな映像が得られるわけだ。
赤外光撮影された調整用映像は、測距目的だけでなく、その調整映像の写り具合(形状)を認識し、その傾きやはみ出し、歪み具合に応じて、ズーム率・シフト量、そして必要に応じて台形補正も行なう。こりゃあ、至りつくせりである。
さらに、スマートフォンへの搭載などでお馴染みの「IMU(慣性計測装置)」も内蔵されている。いわゆるジャイロセンサーと角速度センサーを一体化したユニットだ。
TITANが完全水平状態に対して、上下傾き(ピッチ)、水平傾き(回転)がどのくらいズレているか? を把握するためのもので、角速度センサーは本体の移動を検知するために使用している。
これらの機能に慣れてしまうと、今度プロジェクターを買い替えるときはこんな機能が搭載されているヤツがいいなぁ、と思ってしまいそうだ。
製品紹介ページを見ると、メインプロセッサ(SoC:System on a Chip)に「MEDIATEK製MT9681採用」と、結構大きくアピールされている。
せっかくなので、軽く素性を紹介しておこう。
MT9681は、ハイエンドテレビ向けの映像処理エンジンを統合し、高度なGUIプログラム実行にも対応したプロセッサだ。製造プロセスルールは12nm。
CPUは、ArmのCirtex-A73(4コア)。GPUは中級スマートフォンに採用される性能に匹敵するArm Mali-G57 MC1(1コア)だ。さらに、AIプロセッサ(推論アクセラレータ)としてNPUも統合している。
TITANでは、独自の画質調整に、XGIMI独自開発の「X1 AI」を活用しているという。MT9681は、基本的な映像処理エンジンやGUIプログラムの実行ほか、前述したような高度なレンズ制御に必要なコンピュータビジョン処理(おそらくNPU?)などを担っているのだろう。
本機はGUIのグラフィックスが華やかで、リモコン操作のレスポンスもキビキビしているのだが、恐らくそういった部分も、MT9681採用の恩恵と思われる。
3.エアーフローと消費電力について
TITANは、高出力レーザー発振器を搭載している関係で発熱量が大きい。そのためなのだろう、ボディのそこかしこにスリットが開いている。エアフローデザインとしては、正面向かって左側面が排気で、それ以外のスリットは全て吸気のようだ。
公称の動作音は、1m離れた位置で最大32dB。実際は室温との兼ね合いでだいぶ変わるそうだが、今回の評価が行なわれた環境(室音20度前後)では、最高輝度設定にしてもそれほど大きいとは感じなかった。
もちろん、動作しているかどうかの判断ができる程度の動作音は聞こえる。しかし本体の投写レンズの前方、1mくらいの着座位置では耳障りには感じない。側面排気なので、投写レンズ前に座っている範囲では、毛髪やうなじに温風があたることもなかった。
TITANは、出力12W×2基のステレオスピーカーを搭載している。
今回の評価では、TITANを視聴位置の後ろにあるシェルフに設置した都合上、高音質とは誉めづらい。仮に前方に設置して内蔵スピーカーを使うとしても、このレベルのプロジェクターを購入するならば、もっとしっかりしたサウンドシステムを揃えるべきだろう。
定格消費電力は最大500W。筆者所有のビクター「DLA-V90R」(輝度3,000ルーメン/440W)を超えるレベルだ。TITANは光源に2波長レーザーを使った5,000ルーメン級のモデルであり、消費電力の高さは致し方ないところか。
4.HDMI端子は2系統。1系統はVODドングルが占有
接続端子は背面上段、電源端子は背面下段にレイアウトされている。高級プロジェクターとしては珍しく、簡易操作パネルが電源端子の横にある。これは、視聴者の着座位置よりも本体を前に置いて設置した場合の使い勝手を狙ったものなのだろう。
HDMI端子は2系統。eARC対応であることや、10ビットカラーのYUV444、RGBの4K/60Hz/HDR(22Gbps)が伝送できると記載されていることから、HDMI 2.1対応と思われる。ただし、4K/HDR映像は60Hzが上限となっている点には注意したい。フルHDは240Hzまで対応する。自動低遅延モード(ALLM)にも対応する。
TITANには、スマートテレビ的な使い方をするための“Google TV対応ドングル(以下VODドングル”が標準付属してくる。調べた感じでは、販売地域によって付属してくる製品は違うようだが、今回の評価機では、HOMATICS製の「Stick 4K」が付属していた。
注意点としては、このVODドングルを利用するとTITAN側のHDMI端子がひとつ占有されてしまうことだ。こうした使い方が標準だというならば、HDMI端子はもう一系統は欲しかった。
なお、AVアンプを中心としたシアターシステムがある場合は、eARCを介し、音声信号をAVアンプへパススルーさせることが可能。もちろん、eARCを使わなければ、HDMI 1は普通のHDMI入力系統として活用できる。
USB端子は、USBデバイスの接続用。筆者が試したところでは、USBメモリーに収録したH.264やH.265でエンコードした動画を再生することができた。ホームパーティなどにおいて、参加者各自が上映したい動画をUSBメモリーで持ち寄る、なんて遊びができそうだ。
なお「MT9681はAV1デコードにも対応している」という情報があったので、ためしにAV1動画をUSBメモリーに入れて再生してみたところ、見事再生成功。大したものだ。
Wi-Fi 6(802.11ax)に加え、有線LAN端子も備えている。用途は明記されていないが、TCP-IPベースの制御を行なう「PJLink」には対応しているようだ。
Bluetooth 5.2機能にも対応。付属リモコンの通信ほか、ヘッドフォンやサウンドバーなどのBluetoothオーディオ機器とも接続できる。TITANの内蔵スピーカーをBluetoothスピーカーとして使う機能も用意する。
5.サクサク動くGUI。操作系のレスポンスは良好
リモコンはBluetooth接続。向きや遮蔽とは関係なく操作でき、レスポンスも速い。GUIデザインもどこかおしゃれだ。
前出のVODドングルにもリモコンが付属してくるが、TITANのリモコンだけでほぼ全ての操作が可能だ。ただし、VODサービス側の一部操作は、VODドングル付属のリモコンでないとうまく操作できない場合もあるので、目の届くところには置いておきたい。
ゲーミング向けの「ゲームエンハンスモード」は、ゲーム機もしくはゲームコンテンツの信号を認識すると移行する。リモコンの歯車(設定)ボタン長押しでも移行できる。
ゲームエンハンスモードにすると、「高フレームレート」モードが選択可能。解像度はフルHDに限定されるが、最大リフレッシュレートを240Hzまで引き上げることができる。
Leo Bodnar Electronics「4K Lag Tester」で入力遅延を測定したところ、4K/60Hzで32.8msだった。なお、所有テスターはHDMI 2.0までの帯域しか測定できないため、フルHD/240Hzモードの測定は行なえていない。
XGIMIでは「240Hzモード時は15msで、60Hz時の入力遅延の約半分になる」と説明している。計測結果と公称値には一定の信憑性がありそうだ。
とはいえ、60Hzで約33msという遅延は、60fps換算で2フレーム遅延という計算になる。一般的なゲーミングモニター製品が2ms未満であることを考えると、遅延はまあまあ大きい。
BENQ、ViewSonic、Optomaあたりのゲーミングプロジェクターは、すでに4ms台に到達しているので、XGIMIには次期モデルで4msに肉迫することを期待したい。
Dolby Vision対応、IMAX Enhancedモードについても触れておこう。
Dolby Visionは、言わずと知れたDolby Laboratoriesが策定した独自のHDR映像フォーマットだ。Dolby Vision形式では、コンテンツ側には最大1フレーム単位で階調メタデータが仕込めること、それを表示する映像機器には厳格なコントラスト性能が求められることが特徴だとされる。プロジェクターでDolby Vision認証を獲得したモデルが少ないのは、その要求コントラスト性能をプロジェクター機器で満たすことが困難だからだ。
ただ、近年増えているDolby Vision認証獲得のプロジェクター製品は、どれも、暗部の沈み込みを稼ぐのが得意で、外光遮断性能に優れたALR(Ambient Light Rejection)との組み合わせが可能な、超短焦点プロジェクターだったりする。据え置き型のロングスロー型プロジェクターでDolby Vision認証を獲得しているのはかなり立派だ。
実際、手持ちの4K Ultra HD Blu-ray『星つなぎのエリオ』を対応プレーヤーで再生したところ、冒頭のおしらせ画面から、Dolby Visionのロゴが表示されているのが確認できた。
ちなみに現状において、国内ブランドのプロジェクター製品でDolby Vision認証を獲得した製品は皆無である。以前メーカー2社にヒアリングした際は、「Dolby Visionに対応しなくてもHDR10対応で十分にDolby Vision相当のHDR表現ができるから」という返答だった。
しかし実情は「数が売れないプロジェクターではライセンス/検証コストの回収が難しいから」、と言うのが本当の理由だと筆者は思っている。だって、国内テレビ製品のほとんどでDolby Vision認証を獲得しているのだから。Dolby Vision対応コンテンツはVOD配信系に増えてきているので、そろそろ対応して欲しいものである。
「IMAX Enhanced」モードは、VODサービスなどのIMAX Enhancedコンテンツを認識すると、TITAN側の画質パラメータが、IMAXに最適化された色温度やガンマ、コントラストに自動で切り替わる仕組みだ。
最近の液晶プロジェクターは“3D非対応”が増えているが、DLP陣営は律儀に対応を継続してくれている。TITANも、ご多分に漏れず、3Dモードに対応していた。
3Dメガネ自体は、XGIMIの純正アクセサリーとして用意されているが、DLPプロジェクターはメーカー不問で「DLP-LINK」規格の3Dメガネが共通で使える。実際、筆者のDLP-LINK対応3Dメガネ(ノーブランド)を試してみたところ、問題なく3D立体視が楽しめた。
6.なぜ3板式DLPが民生向けに降りてこないのか?
TITANは、単板式DLPプロジェクターである。ということで気になるのは、DMDチップと光源タイプの組み合わせだろう。
まず、DMDチップはテキサス・インスツルメンツ(TI)が独占製造しており、対角0.78型「DLP780TE」を使っているものと思われる。普及機の0.47型DMDチップよりも画素サイズが大きく、画素開口率は90%以上。マイクロミラーのサイズは、0.47インチの5.4µmから、0.78インチでは7.6µm~9.0µmへと大型化している。DMDピクセルの振動傾斜角は±12度とされる。
パネル解像度はフルHD(1,920×1,080)。4K(3,840×2,160)表現は、フルHD画素を定位置(0,0)、右(1,0)、右下(1,1)、下(0,1)の4回分、回転するように振動させて時分割表示することで疑似的に行なう。
この時分割式の高解像度化には、TIの「XPR(eXpanded Pixel Resolution) technology」という名称が付けられている。2016年に登場した初代XPRは、2回分の斜め方向への時分割表示だった。
DMDチップは、4K/60Hz映像を表示する際、1秒間に60Hz×XPR4回=240回も画素表示を行なっている。単板式であれば、RGBの3回の時分割表示が必要になるため、240回×RGB=720回の時分割表示を行なう。
さらに、1/720秒≒1.39msの間に8ビットカラーや10ビットカラーの階調生成までを時分割で表現しなければならない。
時分割カラーは、DMD画素のオン/オフの2回駆動で行なうため……
8ビットカラー時
(1.39ms÷255)×(ON/OFFの2回)≒0.011ms
周波数は1÷0.011ms=91.7kHz
10ビットカラー時
(1.39ms÷1023)×(ON/OFFの2回)≒0.0027ms
周波数は1÷0.0027ms=368.0kHz
……という感じで、なんともすごい振動数でDMD画素達が時分割表示していることが分かるだろう(笑)。
ちなみに、映画館で使われている“3板式”DMDのDLPプロジェクターは1.38型の4KネイティブDMDチップを採用している。
その面積比は0.78型(DLP780TE)の約3倍(対角比の2乗)で、4KネイティブDMDの総画素数は、フルHD仕様の4倍だ。筆者の独自調べにはなるが、DLP780TEの単価が約300ドルだとすると、4KネイティブDMDチップは1枚あたり約4,000ドルはするらしい。
ソニーやビクターの4KネイティブLCOSチップはどうか? というと、これらは外販していないので単価は非公開だが、情報筋によれば、1,000ドル未満とのこと。
DLPプロジェクターがデビューしてから今年でちょうど30年。3板式DLPが民生向けに降りてくる気配が今も全くないのは、そんなコスト的な理由がある。
なので、4K表示対応の単板式DLPが“フルHDチップ”で時分割表示に甘んじ続ける未来は、まだ当分続くことだろう。
7.TITANの画質はどのレベルにあるのか?
気を取り直して、筆者にとっても久々の、単板式×高級DLPプロジェクターの画質をチェックしていこう。
まずは、UHD BDの画質評価ソフト「The Spears & Munsil UHD HDRベンチマーク」の「StarField」から。
この映像は、漆黒の宇宙背景の中を、輝点たる星が放射状に広がっていくテスト映像。液晶テレビだと、ミニLEDバックライトでも苦手なテストなのだが、TITANではどうか。
結論から言うと、液晶テレビよりは大部マシな見た目だ。宇宙の漆黒が深いからではない。輝点が5,000ルーメンものパワーで輝くため、暗部が黒浮きしていても、輝点の明るさに引っ張られて、人間の目にはハイコントラストに見えてしまうのだ。
ただ、漆黒の浮いた黒を注視すると、時間方向に何かうごめくノイズが見える。これの理由は後ほど解説する。
次に、ベンチマークソフトのデモリールを再生。混じりっけのない漆黒を背景に、ライトアップされた動植物が登場するシーンは特に素晴らしい。動植物の艶やかな発色には目を奪われるし、Starfieldで目に付いたノイズも感じない。混じりけのない漆黒が見えている。なぜか?……これも後述する。
自然風景や原生動物の姿もリアルに描かれている。背の低い樹木の葉を食む、焦げ茶色の水牛のボディのコントラスト感も良好。緑の葉々、その背景の深緑の樹林たちからは遠近感も伝わってくる。赤いチューリップや南国の両生類、爬虫類たちの純色の発色も鮮やかだ。
青空、夕日に覆い被さる夕闇前の橙色に染まる雲たち、雪原の凹凸の陰影、ある程度の輝度を伴った表現であれば、階調能力も自然である。
ベンチマーク映像の視聴にあたっては、Dolby Visionはもちろん、HDR10+やHDR10の600nit~1万nitまでの様々なピーク輝度の映像もチェックしたが、ディスプレイマッピングの性能は実に骨太。高輝度の階調が飛ぶことはなく、どのピーク輝度でもほぼ同じ見た目になるのは立派と感じた。
定点観測の映画『マリアンヌ』の冒頭シーンもチェック。なお、UHD BDの映画コンテンツは全て「FILMMAKER MODE」で視聴している。
夜の街灯や社交クラブのシャンデリアなどは、階調が飽和せずに、発光体の中の階調・ディテールも自然に描き出されていた。
偽装ロマンスが始まる屋上の夜空。本来は雲が見えるはずなのだが、黒に引っ張られてあまりよく見えない。注視すると、先ほどのざらざらしたノイズが見える……。
暗がりの中で他愛のない話を続けるブラッドピットの肌色は、灰色寄りでまるで蝋人形のよう。相手役のコティヤールの肌も、血の気が不足している。暗がりの肌色には違和感が残った。
せっかくなので、新作映画のUHD BDを2本まるまるTITANで視聴したので、そのインプレッションも書き記そう。
1本目は『Mr.ノーバティ2』だ。
冒頭の楽しげなバカンスシーンは彩度の高い表現が多く、TITANの色彩設計にハマっている。やはり明るいシーンでの人肌表現はよい。夜戦シーンの爆炎も、スクリーンから熱を感じさせるほどだ。
続いて映画『トロン:アレス』を視聴。この映画、全編を通して“赤”が基調になっていて、本機の赤色レーザーとすこぶる相性が良い。
例えば、現実世界にやってきた電脳世界兵器の赤色自発光ボティパーツや、電脳兵士が着る差し色の赤パッド、赤色に輝くレーザー兵器、電脳バイクが後ろに放出するオレンジ色の壁レーザーといった表現は、画面から飛び出して見えるほどの迫力を感じた。
思えば、TITANの製品Webページの配色はほとんど『トロン:アレス』の配色だ(笑)。XGIMIは、本製品を買ったユーザーに『トロン:アレス』のUHD BDをプレゼントすべきだ。そのくらい『トロン:アレス』はTITANとベストマッチなコンテンツと思った。
8.2波長レーザーで5,000ルーメンを実現できた秘密
ここまで読んで、気が付いた方も多いだろう。そう。TITANは、高輝度表現は得意なのだが、暗部階調の表現が苦手なのだ。
どうしてそうなるのか?
まずは、TITANが得意とする発色の良さと、高輝度性能の高さのワケを見ていこう。
TITANは、光源にレーザー光源を採用しているが、超短焦点プロジェクターに採用事例の多いRGB3波長レーザーではなく、RBの“2波長レーザー”を採用している。
前回の連載「2026年以降の映像技術解説・後編」でも触れたように、緑色のレーザーはまだ発光効率に改善の余地が残っている。このため、5,000ルーメンの白色輝度を実現するための青と赤に見合う緑色の輝度を得るには、蛍光体で変換した方が、消費電力や寿命の観点から有利だと判断したものと推察される。
蛍光体というキーワードを聞いて、カラーホイールを連想したDLPマニアは少なくないだろう。
実はTITANでは、2波長レーザーシステムを使っている関係で、DLP特有の回転ホイールメカニズムは二重構造を採用している。前段は蛍光体ホイールで、後段は通常のカラーホイールになっている。XGIMIによると、後段のカラーホイールは6セグメントとのこと。
前段の蛍光体ホイールは、緑色の蛍光体が塗布されている領域と、レーザー光をそのまま透過・拡散させる領域があるイメージだ。
青色レーザーは、蛍光体ホイールに対してレーザー光を照射し続けることで、青色光と緑色光を得る。透過部に拡散要素を盛り込むのは、レーザー光特有の斑点ノイズ(スペックルノイズ)を低減させる意味合いがある。
そして赤色レーザーは別経路で蛍光体ホイールをスキップさせるパターンもありうるし、レーザー光特有のスペックルノイズを低減させる目的で、赤色レーザーを蛍光体ホイールの透過拡散領域に通すパターンが考えられる。
TITANではどちらの設計が採用されたかのか不明だが、後者の場合、緑色蛍光体が重なりそうなタイミングでは、赤色レーザーの方はオフすることになる。
赤緑青の三色が出揃ったあとは、普通の単板式DLPプロジェクタのように、その白色光をカラーホイールに照射する。
いつものレファレンス画像とともに、白色光のスペクトラム、実測値から作成した色度図、EOTFカーブを以下に掲載する。なお、測定画質モードは「ビビッド」と「FILMMAKERMODE」の2つとした。
スペクトラムを見ると、いかにも「赤と青だけレーザーです」「緑は蛍光体で作りました」という感じの結果だ。緑のスペクトラムピークは低いが、スペクトルの分離感はそれなりにあるため、赤青はもちろん、緑の純色が綺麗だったのも納得できる。
色度図を見ると、ビビッドの方は量子ドット液晶に見劣りしないBT.2020色空間カバー率を達成しているように見える(暗部ボリュームはこうなってはいないと思うが)。
FILMMAKERMODEは、赤が弱いのが一目瞭然。暗めのシーンで肌色が足りないことと無関係ではないだろう。
EOTFは、参考程度に留めておいてもらいたい。プロジェクター機器のため、測定がスクリーンからの反射光で計測している。黒レベルは部屋の暗さと等価になり、レファレンスに沿うことはあり得ないためである。
9.暗部に見えたノイズを考察する
明るいシーンは良好なのに、暗いシーンは、4K/XPRの時分割シフトによるディザの影響なのか、かなりノイジーに感じることが多かった。
上でも述べたように、視距離を短くとると、やや色味を伴った暗部にノイズが見える。「この感じ……そういえば、2000年前後の最初期の単板式DLPに多かったなあ」と昔を思いだした。
それと同時に、「そういえば、このノイズ。2010年に差し掛かる頃に、だいぶ良くなったよな」という記憶も蘇った。DMDの振動周波数が上がり、階調力がアップしたのである。
しかし。フルHDパネルが“4度書き”をするようになってから、また再び目立ち始めてしまったように感じる。
発生条件としては、暗いグレー主体の背景に彩度がほんのり乗った、暗いオブジェクトが同居するようなシーンであること。そしてその際、画面の上から下に向かって横方向に伸びる、周期的な複数の帯がかすかに見え、その各帯は、上から下に向かって階調の濃淡が繰り返して見えるのだ。
想像するに、ノイズの発生理屈は以下のようになる。
DMDピクセルは、DMDミラーのパタパタ頻度、つまりパルス幅変調(PWM)駆動で階調を作る。しかし超漆黒状態からわずかに明るいような階調表現は、DMDピクセル単体でのフレーム時間内の時間積分的表現ではうまく表現できず、その結果、時間方向と空間方向のディザも織り交ぜてそうした階調を再現しようとする。これが、周期的な階調帯を見せたり、暗部のトーンジャンプや疑似階調のうねりを見せてしまうのではないか。
XPRによる疑似4K表示では370kHz回振動させているわけで、それに空間方向や時間方向のディザ(誤差拡散)も組み合わせたらノイズが見えることもあるかも…とは思えてくる。
上の映像は、ノイズを40倍スロー(約960fps)で撮影したものだ。ポーズ状態での撮影にもかかわらず、こんなに忙しく、時分割表示を行なっている。
空間分散ディザの影響も強いためか、瞬間瞬間、広範囲に全くパターンの違う階調情報を書き込んでいるのが分かる。これがノイズの正体だ。
ちなみに、上で述べたように漆黒の背景においては、黒ピクセルは、時間方向/空間方向、どちらのディザは発生せず、シンプルな漆黒ピクセルとなることから、こうしたノイズは消える。これで、Starfieldテストや、黒背景のデモリールでノイズが出なかったことにも納得がいく。
10.LCOSプロジェクターが暗部表現に強い理由
ソニーやビクターが発売しているLCOSプロジェクターの漆黒表現や暗部階調表現は、XGIMIのTITANに代表される単板式DLPプロジェクターと比べてどうなのか? を知りたい読者もいることだろう。
これについては、LCOS機の方が圧倒的に優秀である。LCOS機の漆黒表現の黒レベルは段違いで良いし、暗部階調表現は、直視型映像パネルに肉迫した、アナログ感のある階調表現になっており、ノイズはどこにも見えない。
技術的観点から、この違いも解説しておこう。
まず、単板式DLPでは、LCOSが活用する偏光のメカニズムを最初から捨てている(偏光板などを用いていない)。
これは、DLPが光の利用効率を最重要視しているためで、漆黒表現にしろ暗部階調表現にしろ、黒や暗部表現のために不要な光は投射軸から外す(逃がす)アプローチで低減させている。具体的にはライトアブソーバへ捨てられている。
TITANは、DMDチップ上の全てのDMDピクセルが±12度で傾く。プラス12度ではオン扱いとなり、光は投射軸へ反射する。マイナス12度のオフ扱いでは、ライトアブソーバーへ余計な光として逃がす。これが暗部階調や黒表現では重要な役割を果たす。
しかし、画素ミラーの±12度の範囲で傾く動作は連続的に行なわれるので、プラス12度からマイナス12度へ動いている画素ミラーも±0度あたりになるまでは、光源からの光を少なからず投射軸側に導いてしまっている。これがDLPプロジェクションシステムにおける重大な課題の遷移迷光というヤツだ。
DMDチップでは、DMD画素間の格子筋(要するに基板)でも反射迷光は起きるし、DMDミラーのエッジ部では回折光が迷光になる。DMDチップの保護カバーガラスでも反射迷光が起きる。こうしたバリエーション豊かな迷光が全て投射軸に出てくることで、DMDチップのネイティブコントラストは2,000:1~3,000:1くらいとなっている。これはIPS型液晶程度だ。
LCOSはどうかというと、偏光メカニズムを活用する関係で光源パワーを最初に少しロスすることを許容している。具体的には、光源からの光をS偏光に整えて、PBS(偏光ビームスプリッタ)を通じてLCOSパネルへと導く。P偏光とかS偏光とかは、振動方向が90度異なった光のことだ。
LCOSの画素は、いわばアナログ液晶シャッター的な役割を果たす反射型液晶で遷移迷光は発生しない。
反射型液晶画素では、その液晶シャッターの開き具合に比例してS偏光をP偏光に回転させる。この時、LCOSパネルに照射されたS偏光は、格子筋下の基板で反射したり、そしてLCOS画素もミラー画素なので、そのエッジでの回折による迷光は発生する。LCOSチップも保護ガラスがあるため、ここでも反射迷光が起きる。
いずれにせよ、反射型液晶に関与しなかった迷光はS偏光のままなので、PBSで遮断されてしまう。出てこられないのだ。出てこられるのは反射型液晶シャッターを通ってきたP偏光のみである。
だから、LCOSパネルは劇的に黒浮きが少ないし、暗部階調も直視型ディスプレイ並みに締まっているのだ。ネイティブコントラストは10万:1、その差は50倍だ。
11.XGIMI TITANはどんなユーザーにおススメか?
ひさびさの単板式DLPプロジェクターだったので、少々熱が入ってしまった。
今回の評価では、最新の単板式DLPプロジェクターの長所と、依然と変わらない弱点なども分かって、実のある評価機会であった。
最後にXGIMI TITANを選ぶべき、ユーザー像を提言したい。
上級機であるが、設置利便性は恐らく世界トップレベル。カジュアルに使うことを志す、上級志向な初心者ユーザーが合うと思う。最初のプロジェクターとして選ぶのもアリだ。とにかく、誰が使っても、一定のレベルの画質の映像が手に入る。
また完全暗室ではなく、薄暗い照明下で、おやつや食事などもしながら、大画面テレビ的に楽しみたいファミリーユーザーもいい。蛍光灯照明下でも、映像の内容はまあまあ見えるほど明るい。
一方で、筆者のような、疑似4Kの解像力がどうとか、暗部階調にディザノイズだPWMノイズだとか、そういう細かい部分を気にする人は向かない。また現在、LCOS機ユーザーの人も向かないかもしれない。
最後に、TITANの絶対的高輝度性能は3D立体視とは相性がいいことを付け加えておく。3D愛好家には、3Dブルーレイ視聴用として利用するのもアリ、かもしれない(笑)。














































































