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パナソニックが取り組む「ヨコパナ」の強化とは? 未来住空間創出プロジェクト「HomeX」開始

 パナソニックは、2017年4月1日付けでビジネスイノベーション本部を新設。同本部が取り組む「イノベーション量産化技術」の開発について説明した。このなかで、シリコンバレーにおいて、未来の住空間環境プロジェクト「HomeX」を開始していることを初めて明らかにした。

パナソニックの未来の住空間環境プロジェクト「HomeX」

 同社ビジネスイノベーション本部の馬場渉副本部長は、「イノベーションの量産化という言葉や、それを“技術開発”と表現したことに違和感を持つ人もいるだろう。少なくとも社内では驚きの声があがった。イノベーションを量産化し、それを支える技術を開発することで、製造業の新たな姿を提示したい」とした。

パナソニック ビジネスイノベーション本部の馬場渉副本部長

 また、「これまでの製品事業部制によるタテパナ(縦のパナソニック)を強くするだけではなく、これからは、ヨコパナ(横のパナソニック)によるクロスバリューイノベーションが重要になっていく」とした。

従来の製品事業部制による「タテパナ」(縦のパナソニック)
今後は「ヨコパナ」(横のパナソニック)によるクロスバリューイノベーションの実現を目指す

 さらに、「Panasonic Digital Platform(パナソニックデジタルプラットフォーム)」を発表。「昨日の経営会議で、パナソニック全体の共通の考え方として用いることを決定した。このプラットフォームをベースに、デジタル改革を行なっていくことになる」と宣言した。

「Panasonic Digital Platform」

未来の住空間を模索する「HomeX」。独自クラウドの利用拡大も

 HomeXは、ホームエクスペリエンスを語源としており、パナソニックが持つ白物家電、黒物家電、住設、住宅を組み合わせて、未来の住空間環境に向けたサービスを提供するプロジェクト。「白物家電、黒物家電、住設、住宅を持つ企業は、世界中を見渡しても、パナソニックしかない。これらの製品を単に縦に組み合わせるだけでなく、光や映像、音、熱などとも組み合わせる。ヨコパナ前提のユーザーエクスペリエンスとソフトウェアプラットフォームをゼロベースで設計するとともに、ハードウェアも再設計し、新たな住空間体験を提供することになる」と位置づけた。

 具体的な内容については触れなかったが、「新ビジネスモデル創出という未来から発想して、個別の製品やクラウドサービスはなにが必要か、ということを考えるプロジェクトであり、アプライアンス社やエコソリューションズ社と協業しながら、シリコンバレーで推進。顧客との共創によって取り組むプロジェクトである」とした。また、「HomeXには、スタートアップ企業の考え方を持ち込んでおり、住空間の未来をこれまでとは違った発想で考える10数人の体制で取り組んでいる。顧客とともに作るというのが基本であり、ずっとβ版という形のままかもしれないが、作っては見せ、見せては体験させ、そこからフィードバックを繰り返すという仕組みで取り組んでいく。それによって、品質を高めることができる」とした。

 一方、Panasonic Digital Platformは、2013年から活用しているものであり、Panasonic Digital Platformの中核となるPanasonic Cloud Platformを活用したサービスは、すでに、4カンパニー16事業部から21個のサービスが提供されているという。

 「BtoB、BtoCを問わず、テレビやエアコン、車載サービスなどの体験を、クラウドサービスとして提供する共通基盤であり、全事業部の約半分で利用している。タテパナの製品から出てきたデータを、ヨコパナのPanasonic Digital Platformで解析して、新たなサービスやビジネスを創出することになる。顧客向けサービスを、2倍速、3倍速で提供し、コストを5分の1で提供できるようになる共通基盤である」と位置づけた。

「ヨコパナ」に必要なテクノロジープラットフォーム

 具体的には、エアコンによる見守りサービスや、照明と空調を組み合わせた自然な目覚めができるサービス、テレビ向けの遠隔操作サービスなどのほか、太陽光発電パネルで発電した余剰電力を販売する際のサービス構築などに活用。「エアコンによる見守りサービスは、ビジネスイノベーション本部独自で行なっているものであり、ハード、ソフト、サービスを組み合わせたサブスクリプションモデルとして提供している。また、余剰電力の販売サービスの構築では、APIを活用することで、約2週間で立ち上げることができた。コストも3分の1に収まっている。サービス開始まで、6カ月以上かかっていたものが、3カ月で提供できるようになった例もある」という。

エアコンによる見守りサービス
テレビ向けの遠隔操作サービス

 スマートHEMSの事例では、家庭内の製品をつなげて制御。エネルギー監視サービスも提供しているほか、放送局向けには、報道用カメラで撮影した取材現場の映像を、リアルタイムで編集制作部門に転送。放送局全体のワークフローを改善するサービスも提供しているという。

スマートHEMSの事例
放送局向けの映像編集ワークフローサービスのイメージ

 「Panasonic Digital Platformは、これまでは使いたい人が使うという傾向が強く、さらに、自前主義が強い企業なので、こっちは別のものを作るという風潮もあった。だが、いいものは使われるようになる。今後は、Panasonic Digital Platformが共通基盤になっていく」とした。

 一方で、「このプラットフォームを活用して、世界トップ10のソフトウェア会社になるということは考えていない。この領域においては、パナソニックは、外に対し付加価値が提供できない。大切なのは、これを社内共通のプラットフォームとして、コモディティなものとして、パナソニック全体で使い倒すことである。これにより、具体的なサービス提供においては、徹底的にパブリッククラウドを活用することができる。パナソニックには、AWS、Azureの専門技術者がいる。APIを活用して、機器との連携やログ、セキュリティ、家電製品のクラウドサービスを行ない、迅速にサービスを提供する」とした。

 Panasonic Cloud Platformを活用したサービスは、現在、全世界100カ国で、180万台の機器が接続されており、108のAPIが提供されている。「現在、月10億件のAPIコールがあり、かなりの数にのぼっている。パナソニックでは、モダンなマイクロサービスAPIの構造を導入しており、AI、IoT、セキュリティなどを組み合わせて、BtoBやBtoCのカスタマイズ要求にも対応できる。ここまでモダンな仕組みが活用されていることは驚きでもあった」としたほか、「この共通基盤に、複数の家電製品のデータが蓄積されると、顧客の動向がわかる。すでに、75億件の生活ログが蓄積されており、これをもとにコトづくりを進めているところだ」とし、「IoT接続フェーズで得たデータを、ヨコバナデータ分析フェーズで分析し、それをもとに、新ビジネスモデル創出フェーズにより、価値の高いサービス提供に変えていくことができる」とした。

Panasonic Cloud Platformの広がり

 ここでは、一般的な企業が、プラットフォーム構築におけるリソース配分を、IaaSやPaaSなどのコモディティ化したプラットフォームに50%、IoTサービスの実現に必要な機能に45%に割いている一方、固有の価値を生む機能には、わずか5%しか割いていないことを指摘。「パナソニックが目指す姿は、固有の価値に80%を投資し、コモディティ化したプラットフォームには5%、IoTサービスの実現に必要な機能には15%に留めたい。世間の常識を徹底的に取り込み、IoTサービスに必要な機能を徹底的にコモディティ化し、固有の顧客価値を作り込むところに積極的参戦を図る」と述べた。

プラットフォームへの取り組みで固有の顧客価値を作り込む

モノづくりの経験を生かしてイノベーションを量産、新規事業創出へ

 馬場副本部長は、今年4月に、SAPジャパンのバイスプレジデントからパナソニックに転身。前マイクロソフトの会長を務めた樋口泰行氏とともに、IT業界のキーマンのパナソニック入りとして話題を呼んだ。馬場副本部長は、シリコンバレーに常駐し、ビジネスイノベーションを推進する中核的な役割を担っている。なお、同本部の本部長には、技術部門を統括する代表取締役専務の宮部義幸氏が就任している。

 ビジネスイノベーション本部では、顧客との共創や、オープンイノベーションなどを取り込みながら、モノ中心の事業開発から転換し、サービス中心の新たなソリューション事業の創出を目指す組織で、「サービス中心の新規事業およびIoTやAI技術に基づく新規事業を創出する」ことになる。

 サービス中心の事業化プロジェクトの起案および推進、若手人材育成プログラム「NEO」を運営する「プロジェクト推進室」、機器をネットにつなげ、顧客と直結するとともに、モノとモノをつなげることで新たな価値を創造と事業革新を行なう「IoT事業推進室」、AI技術やデータ解析によって、新たなソリューション事業を創出し、社会や生活の様々な課題解決に生かし、よりよいくらしを創造するために具体的なプロジェクトを推進する「AIソリューションセンター」で構成。現在100人のAI技術者を、3年後には300人体制に、5年後には1000人体制に拡大する計画を打ち出している。

 馬場副本部長は、パナソニックが、1953年に、創業者である松下幸之助氏が、独自の機械を考案、制作する部門中央研究所に機械部門を設置したことや、1963年には、生産技術研究所を設立し、民間企業初の生産技術専門の研究所をスタートさせたこと。さらに、1977年には生産技術本部を作り、全社の生産技術力向上とFA事業の確立に取り組んだ経緯に触れながら、「世界のモノづくりを牽引した背景には、ひとつひとつの製品の設計の善し悪しだけでなく、高い品質を維持しながら量産ができる生産技術があった。パナソニックは、それに対して、先駆けて取り組んできた。

 当時は、個別の機械の効率化はあっても、生産技術という手法をメソッドとして確立させ、それをあらゆるモノづくりに転用するという考えを持った人は少なかったはずだ。これと同じことをイノベーションでやりたい。モノづくりでやってきたことにヒントがある。いまは、コトづくりに、モノづくりと同じようなフレームワークがない。ひとつひとつのビジネスモデルなどにフォーカスするのではなく、思考回路やプロセスに適合した量産化技術を開発することで、パナソニックの企業規模ならではのイノベーションの量産化ができる」と述べた。

モノ(製品)だけでなく、イノベーションの量産化にも取り組む

 これは、シリコンバレー型の取り組みともいえる。

 「シリコンバレーが継続的に成長を遂げ、世界をリードしている秘訣は、ソフトウェアとか、ネットとか、かつてのシリコンにあるのではなく、思考技術であり、イノベーションを創出するプロセス技術、イノベーションを生み出す場所の提供する環境技術、表現技術にある。属人的なものや、一過性のものではなく、システマチックに生み出し続ける量産技術によって、実現しているものである」という。

 また、「パナソニックが掲げているクロスバリューイノベーションは、ヨコパナを実現するものである。クロスバリューイノベーションを量産化する技術が必要であり、それをテクノロジーとカルチャー、デザインの3つで実現していくことになる。だが、いきなりヨコパナといっても、縦のものが、横になるわけではない。イノベータージレンマを解消する必要もがある。横で完結するのではなく、縦を強化しながら、変えていくことが大切である。その仕組みを、技術開発することが必要である」とも語った。

パナソニックが掲げるクロスバリューイノベーションは、テクノロジー、カルチャー、デザインの3つで実現

 さらに、「かつては、オンライン媒体を始めると、紙媒体と競合するという懸念があったが、いまでは、オンライン媒体と紙媒体を一緒に考えるとが当たり前だ。リアルの店舗とオンライン店舗の位置づけに関する議論も同じである。パナソニックは、まだそうした発想の変化を乗り越えいてないかもしれない」などと述べた。