32/26/20型で省エネNo.1、「AQUOS D」のこだわり

-バックライトと光学フィルムの“ベストバランス”


AVシステム事業本部 液晶デジタルシステム第1事業部 商品企画部の中沢健一副参事

発売中

標準価格:オープンプライス

AQUOS Dシリーズ

 世界で初めて熱陰極管(HCFL)バックライトを採用したソニーの「BRAVIA V5」、年間消費電力量を半減させたパナソニックの「ネオ・プラズマパネル」、本日発表された東芝の倍速駆動対応の省エネREGZA「C8000」など、薄型テレビの省エネ性能競争が各社で激化している。

 そんな中、シャープも2月20日から、32、26、20型の液晶テレビとして業界ナンバーワンの省エネ性能を実現したという「AQUOS Dシリーズ」を発売している。このシリーズにはどのような省エネ技術が導入されているのか、AVシステム事業本部 液晶デジタルシステム第1事業部 商品企画部の中沢健一副参事に話を伺った。


■ バックライトと光学フィルムが省エネ化のポイント

 まず、「AQUOS Dシリーズ」の省エネ性能を見てみよう。従来モデルのD30シリーズとの消費電力と年間消費電力量の比較は以下の通り。32型では消費電力が約60%削減され、年間消費電力量も45%減少しているのがわかる。 

 モデル名

消費電力従来比年間消費
電力量
従来比省エネ
達成率
32型旧モデル LC-32D30約144W120kWh/年
新モデル LC-32DE5約60W58.4%減66kWh/年45%減303%
  
30型旧モデル LC-26D30約123W94kWh/年
新モデル LC-26D50約59W52%減65kWh/年30.9%減238%
  
20型旧モデル LC-20D30約72W66kWh/年
新モデル LC-20D50約55W23.6%減55kWh/年16.7%減200%

 液晶テレビの消費電力は、8割程度がバックライトで占められている。そのため、消費電力削減にはバックライトの改良が欠かせない。シャープでは熱陰極管(HCFL)ではなく、通常の冷陰極管(CCFL)を使用しているが、Dシリーズ開発にあたっては、ランプメーカーと協力し、発光効率を10%程度向上させた新型を開発した。
 
  同時に、その光が液晶に当たるまでに通る光学フィルムも新たに開発。フィルムの光利用効率は実に220%と、2倍以上もアップ。従来と同じ輝度の画面を得るためのバックライト光量を大幅に抑えることに成功したという。これは、バックライト用CCFLの削減に繋がり、具体的な本数は明らかにされていないが、32型の従来モデル「LC-32D30」と比べた場合、「LC-32DE5」のバックライト本数は約57%に削減されたという。
 

AQUOS Dシリーズはブラック系、レッド系、ホワイト系の3色カラーバリエーションを用意する。EPGやメニュー画面の配色も変更でき、ボディカラーに合わせた色味も選べる。写真は左から32型のブラック系、中央が20型のレッド系、→が26型のホワイト系

 

中沢健一副参事

 省エネ性能の強化において、中沢氏は「バランスが重要」だという。例えば透過率の高い光学フィルムの開発や生産にはコストがかかる。しかし、透過率が上がれば、少ない数のバックライトで十分な輝度を生み出すことができ、バックライト削減によるコストの減少で上昇したコストを相殺できる可能性がある。コスト面がプラスマイナスゼロになれば、輝度や画質を落とさず、消費電力だけを低減したテレビを生み出せるという仕組みだ。

 「光学フィルムにかけるコストと、バックライトで削減できるコスト。トータルでどちらが安くなるか、そしてどういった組み合わせが一番省エネになるかを追求していくことが大切なんです」(中沢氏)。

 中沢氏によれば、消費電力の削減は、環境負荷や電気代だけにとどまらず、様々な面に良い影響を与えるという。例えば発熱の問題。バックライトが削減されれば、それだけ排熱は減る。Dシリーズは背面に加え、上部に“横向き”に排熱口が設けられている。熱を効率的に排出するためには、上部に“上向き”に排熱口を設けたいところだが、そうするとホコリが入りやすくなるため、横向きに穴を開けている。発熱そのものが低減されたことで、横向きの穴でも安定動作が可能なのだ。実際、穴に手を近づけてもほとんど熱を感じない。こうした低排熱仕様はさらなる薄型化に繋がり、“設置の自由度向上”という商品力の強化にも結びついていく。

上部に排熱口を備えているが、ホコリが入らないよう横向きに付けられている。稼働時でも熱はあまり出ていない

  しかし、今後も省エネ競争が激化すれば、CCFLのバックライト以上の低消費電力が必要になる可能性は高い。中沢氏はHCFL採用の可能性について「1つの方向だと思うが、全部がそれに置き換わるかどうかはわからない。現時点では信頼性や寿命はCCFLの方が良いが、省電力と言う意味では確かにHCFLは優れている。今後ノウハウが蓄積され、技術革新も進めば、各社が採用することになるだろう」と語った。


■ 省エネに貢献する各種機能

 パネル部分だけにとどまらず、機能面での省エネも追求している。1つは「明るさセンサー」。他社でも採用例が増えている機能だが、「AQUOSは第1弾モデルから搭載している。標準の機能としてこれまで用意してきたが、お客様の省エネ意識の高まりに伴い、改めてご紹介する必要があると考えている」と、中沢氏はAQUOSの省エネへの取り組みの先進性をアピールする。

 フロントパネル下部にセンサーを備えており、周囲が暗くなると画面が暗くなるなどの輝度調節が行なわれる。32型の「LC-32DE5」の場合、通常の使用では消費電力は約60Wだが、センサーを手で覆うとバックライトが最低になり、消費電力は約30Wまで半減した。

通常視聴時の消費電力は50~60W程度正面にセンサーを備えており、手で覆って暗くすると輝度も低下輝度最低時の消費電力は32Wと半減する

 ほかにも、一定時間操作をしなかった場合に自動的に電源を切る「無信号電源オフ」、「無操作電源オフ」機能も搭載。画面を表示せずに、放送の音声や音楽のみを再生する「映像オフ」機能も用意。同モードでは16Wまで落ちるのが確認できた。他社のように人感センサーでテレビの前に人がいなくなると消画する機能などは無いが、「こうした機能をより選択しやすくするなど、機能強化を図っていきたい」(中沢氏)という。

映像を非表示にして音声のみを再生するモードも用意。消費電力は16Wまで落ちたフロントパネルに備えた明るさセンサーDシリーズではユーザーの声を反映し、スタンドの高さを2段階に調節できるようにした。CRTとの置き換え時に液晶テレビの方が高さがある事が多いためだという

 Dシリーズでは画質にも力を入れている。使用しているLSIは異なるが、上位モデルのRやXシリーズで培った技術を、小型のDシリーズにも投入。階調表現やI/P変換時の滑らかさを向上。ノイズリダクションも改良され、ノイズ成分を画面エリアごとに抽出し、シーンに合わせて高精度で低減しているという。

 音質面も強化。同社のテレビには従来から独自の1ビットアンプが使われているが、この回路を見直し。従来は1ビットアンプに入力する前に、デジタル信号をDACでアナログに戻して入力していたが、Dシリーズからはデジタル信号のまま入力。外部ノイズの影響を受けず、よりクリアな音を実現したという。1ビットアンプのサンプリング周波数は12.288MHz。


■ 各サイズで省エネのトップランナーに

 Dシリーズの投入により、32、26、20型で業界ナンバーワンの省エネ性能を実現したシャープ。今後は培った技術をより大画面のモデルにも適用していく予定だ。しかし、クリアしなければならない課題もある。

 例えばDシリーズはパネル解像度が1,366×768ドットで、フルHDではなく、倍速駆動モデルでも無い。特に倍速駆動は消費電力を上昇させてしまう大きな要因の1つだ。

 シャープのラインナップで1,366×768ドットパネルを採用した倍速モデル「LC-32GH5」は、年間消費電力量が113kWh/年。例えばこれを、本日発表された東芝「REGZA C8000」の32型「32C8000」(同解像度で倍速)と比べてみると、REGZAは95kWh/年に抑えている。

 中沢氏は「32型というサイズには、“フルHDが欲しい”、“倍速駆動が欲しい”、といった声以外に、“そうした機能はいらないと”いう声もあるなど、ニーズがわかれます。倍速を求める声は比率的にそれほど多くはありません」としながらも、「それでも倍速を購入条件にする人はいますので、倍速駆動のモデルでも省エネのトップランナーを狙いたい」と熱意を見せる。

 「技術的な事なので、各社抜きつ抜かれつになるとは思うが、32型だけでなく、シャープの1つのテーマとして、薄型テレビの各サイズで省エネのトップランナーを目指していきたい。また、消費電力の数字などで省エネ性能を表示してもお客様には実感が沸きにくい部分もあると思う。今後はプロモーションとして、省エネ性能をどのように表現していけばいいかも考えていきたい」と語り、引き続き省エネNo.1を追求していく姿勢を示した。


(2009年 3月 4日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]