ソニーのテレビ事業が見据える「次のイノベーション」

-ファインテック基調講演。3Dへの取り組みも


ソニー テレビ事業本部の石田佳久本部長

4月15日開催


 「第19回ファインテック・ジャパン」初日の4月15日に行なわれた基調講演で、ソニーの業務執行役員SVP テレビ事業本部長の石田佳久氏は、「“イノベーション”で切り拓く、ソニーのグローバルテレビビジネス戦略」をテーマに、ソニーのグローバルにおけるテレビ戦略について語った。

 今年4月から、テレビ事業本部を率いることになった石田本部長は、その立場になってから公の場に姿を表すのは今回が初めて。講演の冒頭に、これまでVAIO事業を長年率いてきた自らの経歴を示しながら、「テレビ事業の復活なしに、ソニーの復活はないと言われるなかで、いまのソニーのテレビ事業は、VAIOの草創期を彷彿とされる状況にある。VAIOは驚きと感動を与え続けてきた製品。テレビでも新たな取り組みをどんどん取り入れ、挑戦していこうと考えている」と切り出した。

 また、昨年8月に発表した新製品で、世界初、世界最薄、ブラビア史上最高画質などの最高技術を搭載したブラビアを発売したことに触れて、「人がやってこなかったことにチャレンジするのが、ソニーのDNA」と、今後もその姿勢を継続する考えを示した。



■ 需要回復に向けた3つの改革

 石田本部長は、昨今の液晶テレビの需要状況について次のように説明する。

 「昨年9月のリーマンショック以降、液晶テレビの需要も停滞感があり、短期トレンドとしては、引き続き需要は弱含みで、これから需要が急拡大の可能性は低い。だが、アナログ停波によるデジタル化の加速、デジタル化による商品ライフサイクルの短縮、一家に一台以上のテレビの普及などによる高い潜在需要、BRICs諸国への液晶テレビの普及といったプラスの材料がある」という。

 続けて「一度落ちた需要は底をついて、回復の兆しが出ている。長期的には年率10%以上の市場成長が見込まれるだろう。また、2009年前半(1~3月)はパネルが供給過剰の状況にあったが、これが引き締まりつつあり、2009年後半に再び需要が回復し、需給バランスが整う。地域によって、スピードの差はあるものの、景気回復のサインが見えれば、再び成長曲線を辿ることになるだろう」との見方を示す。

 こうした状況を前提に石田本部長は、「転換点を正確に見極めることが、ビジネスの成長を左右する。前準備をしっかりと進め、ブレーキからアクセルへと切り替え、迅速な行動を取ることが大切。そのためには市場動向を注視していく必要がある」などとした。

液晶テレビの市場成長予測

パネルベースでは回復の兆しも

大型TFT液晶の需要は'09年後半に回復すると予測

 ソニーでは、テレビビジネスの方向性として、「サプライチェーンの抜本的な改革」、「デジタル環境下でのあるべき商品づくり」、「商品価値の方向性シフト」の3つの柱を掲げる。

 今回の講演でも、これらの観点から説明が行なわれた。

 「サプライチェーンの抜本的な改革」では、全世界に12か所あった工場の再編に取り組んでおり、ベトナム、ピッツバーグ(米国)、一宮(日本)の3工場を閉鎖。それぞれマレーシア、メキシコ、稲沢(日本)に集約した。さらに、残った製造拠点と各国の販売拠点とを強固に連携させるサプライチェーンの構築に取り組んでいるという。

 石田本部長によると、現在、デジタル放送が導入されているのは全世界45カ国に達し、2010年度にはさらに30カ国増えることになるという。だが、放送方式や信号圧縮方式が複雑に組み合わさっており、メーカー側は、それぞれに細かく対応していく必要に迫られている。その点でも効率的なモノづくりに向けたサプライチェーンの構築は不可欠というわけだ。

ソニーの全世界販売計画

工場の再編も行なった

世界のデジタル放送開始状況

それまでの1/2の小型化を実現した小型シリコンチューナモジュール

 「デジタル環境下でのあるべき商品づくり」としては、まず、空芯コイルレスの自社製シリコンチューナーモジュールの開発をあげた。同モジュールは、従来品と同等の受信性能としながらも、約2分の1の小型化を実現。受信している放送波を妨害してしまうマルチパス妨害を大幅に低減することもできるという。すでに、国内向けには今年の春モデルから採用。海外モデルにも順次搭載していくことになるという。

 また、IPTVへの対応や、ビデオオンデマンドへの対応、ネットコンテンツへの対応のほか、国内では、FeliCaポートをブラビアのリモコンに搭載することで、アクトビラの決済をEdyやeLIOで行なえるといったサービスが可能になったことを紹介した。

 「インターネットは、テレビで行なうのか、PCで行なうのかと言われるが、ブラビアではシームレスにインターネットに接続できることを目指す。また、すべてのユーザーがPCを持って出先でネットに接続するわけではない。1人1台という点では携帯電話が優位であり、auの携帯電話からブラビアにビジュアルポストカードを直接届けるといった使い方も可能とした。距離や世代を超えた新たなコミュニケーションを実現することができる」と、プラビアと、ネットやモバイル端末との連携にも積極的に踏み出していることを示した。

 もろちん、DLNA Media Playerによるルームリンクもブラビアの特徴のひとつ。「レコーダー、カムコーダー、PCなどの各種機器とブラビアがつながることで、ブラビアの楽しみ方が広がる」とした。



■ 「環境強化商品第2章」へ。3Dへの取り組みも

 「商品価値の方向性シフト」では、マルチコンテンツ時代のユーザーインターフェースとして、XMB(クロスメディアバー)の強化を一例にあげた。

 今年春モデルから、「お気に入り」機能を追加することで、手元のリモコンを操作するだけで、好みのコンテンツを選べる手軽さが高い評価を得ているという。

 「カタログや店頭展示では、なかなかその良さが伝わらないが、ブラビアをご購入いただいた方からは、使ってみたのちに、大変高い評価を得ている」という。

「大型化、フルHD化の次」の商品価値を提案

 ソニーでは、昨年8月に発売した「世界最X」の製品群を投入してから、「大画面、フルHD化から次の商品価値を目指すことへと、方向性をシフトしている。新聞紙上では、パネルの調達やオペレーションばかりが取り上げられるが、技術こそが大きな柱」とし、世界初となった4倍速のモーションフロー240Hzによる高画質の実現、赤・緑・青の3色バックライトによる色再現性の拡大とともに、バックライト発光を部分的に制御し、100万:1以上の圧倒的なコントラストを実現するトリルミナスRGBダイナミックLEDの採用。そのほか、エッジライト方式白色LEDバックライトにより、薄さ9.9mmのディスプレイをを実現したことや、ワイヤレス機能の搭載によって多彩なレイアウトを可能としたことなどを紹介した。

 さらに、新たな付加価値として、石田本部長が取り上げたのが「環境性能」。昨年の同講演で、前任となるコンスーマー・プロダクツ・グループの吉岡浩プレジデントが、消費電力を半減すると宣言していたことを持ち出し、「パネルモジュールの高効率化をはじめ、細部に至るまで省エネ技術を結集した省エネを実現した。省エネは毎月着実に進化している」とした。

 実際、2009年の春モデルでは、2007年比消費電力半減を達成しており、引き続き、世界最省エネへの挑戦を続けているという。

 さらに、環境強化商品第2章として、環境商品ラインアップ強化、細管HCFLバックライト技術による低消費電力の実現、人感センサーによるインリジェントエコへの挑戦などの取り組みを紹介した。

前回の同イベントで宣言した、2007年製品からの消費電力半減を達成

消費電力削減の推移

今後の環境性能の取り組み

 「我慢するエコから、一歩進んだ賢いエコを実現する。人感センサーによって、ユーザーの使用状況を見ながら、賢く省エネすることができる」という。

 最後に、石田本部長が触れたのが、3Dへの取り組みだ。

 具体的な製品などに触れたわけではなかったが、「ソニーは商品化に向けて動きを加速している」を前置きし、「テレビというコンシューマ機器だけを作るのではなく、映画やゲームというコンテンツ、業務用機器で培ったノウハウを一体化して取り組むことができる。機器を単独で作るのでなく、ハードはソフトのことを考え、ソフトはハードのことを考える。そこに、ソニーの強みが発揮でき、そうした時代に入ってきたことを感じる」とした。

3D映像の方式

ソニーはソフト/ハード連携での3D戦略を掲げる“3つの約束”として「画質」、「佇まい」、「環境」へのこだわりを続けるという


(2009年 4月 15日)

[Reported by 大河原克行 ]