地デジの著作権保護新方式について議論

-早期導入では合意し、課題を整理


5月26日開催


 総務相の諮問機関である情報通信審議会は26日、「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会第53回」を開催。地上デジタル放送の著作権保護方式の見直しについて、作業の進行状況と今後の目標について報告された。

 同委員会では、地上デジタル放送のコピー制御やエンフォースメント(実効性の担保)の見直しについて議論を進めており、前々回には現在のB-CASの「カード方式」の見直しを前提とし、新方式の導入に向けて作業することを確認。B-CASと併存する形で、著作権保護機能をソフトウェア化やチップ化して技術仕様を開示する方向で、早期取りまとめに向けて検討を進めることとなった。

 約1カ月の間に委員会内に設置された技術検討ワーキンググループ(WG)で議論を進め、今回ロードマップが示された。ただし、具体的な実施時期については、地上アナログ放送停波の2011年7月24日からの前で「なるべく早期に」とするに留まっている。

 委員会の主査を務める、慶応義塾大学の村井純教授は、技術検討WGにおける検討経緯について説明。今回整理したポイントは、「ひとつは“導入までに関係者がやっておくことは何か”というToDoリスト。もう一つは“やらなければいけないことの相互関係”」とし、それぞれにおいてどれくらいの時間、コストがかかるかという算定を開始したという。

 技術検討WGにおいては、「地上デジタル放送の円滑な移行に向けて、利用者に対してB-CASと並ぶ新たな選択肢を拡大することが望ましく、可能な限り早期に、選択肢の具体化と、その導入を図る必要がある」という点において合意。この方針をもとに検討を進めている

 新方式導入への基本的な考え方は以下の通り。

     

  • B-CAS以外の選択肢としてソフトウェア方式などにより、コンテンツ保護に係るルールを遵守する者の全てに対し、「コンテンツ保護に係る技術仕様」の開示を制限しない
  • 基幹放送という性質上、善意の視聴者に影響を与えるようなオペレーションは行なわない
  • 新しい方式におけるライセンス発行、管理機関は、組織・運営上の透明性が確保されていることが重要で、非営利で透明性の高い法人であるべき
  • 技術と契約によるエンフォースメントでは対応できない範囲の対処については、制度的対応の検討が必要
導入までのプロセスイメージ

 技術については、現在の運用規定や省令などとの整合性などを考慮し、規格化を進める。B-CASとは独立した新方式として展開するものの、すでに販売済みのB-CAS向けの暗号化と併存するなどの課題の解決なども課題という。また、送信機の改修においても、費用や時間の面でのコスト計算なども始めている。

 技術方式を確定後、ライセンス発行機関を準備/設立。並行して、送信設備の改修や、受信機開発を進めるというロードマップが示された。そのための機器メーカーや放送局、新しいライセンス発行/管理機関などの役割を整理し、まずは技術と契約によるエンフォースメントにより対処できる範囲の検討を進め、早期明確化を図る。その後、運用開始までに現行法制度の実効性を検証し、例えば「適正な手続きを踏まずに鍵を取得し、受信機を販売製造した」などの契約当事者以外に対する対応が可能かなどについて、補完的制度の要否を含めて検討するという。

新方式導入に向けた「技術」、「契約」ごとの整理事項関係各者の新方式導入に向けた、ToDoリスト

 


■ 新方式の早期導入に異論はなし

 村井主査は、「技術検討WGではかなり具体的な話になってきている。前回頂いた課題の整理、前進ができたと考えている」とし、各委員に意見を求めた。

 消費者団体の代表(河村委員)からは、「説明を聞く限り、問題はないと感じた。新たにB-CASに代わるものを出すということでWGで一致している。なので、早くやってくださいとしか言いようがない」とし、「2011年に向けて、国民全員がテレビを買い替えなければいけない、生活困窮者には税金投入もある。これは通常のマーケットの論理だけの話ではない。今までは全てB-CASでなければいけないことが問題だった。ぜひスケジュールを早く示していただいて、チューナが配られる世帯や障害者世帯、所得の低い世帯などにも対応できるよう、透明な決定プロセスを経て、透明な機関が運営する、安価で選択肢を増やすものが出てくることを望んでいる」とした。

 権利者団体からは、「権利者としてはどういうやり方を採用しても、コンテンツ保護をきちんとしてほしい。不法利用に対する事前の抑止策と、事後の規制の厳格化、それを含めてシステム全体で堅牢で実効性のあるものにしてほしい。一方で、ユーザー利便性を少しでも良くする。その立場もかわっていない。なので、今回発表のプロセスには賛成。サクサクと進める時期に来ているのではないか」(椎名委員)とした。

 また堀委員は、「技術的な保護はあたりまえで、事前だけでなく事後の対応。違法でないけど脱法に対する抑止、強化もやってほしいという点が一貫して申し上げていること」とし、方式の見直しについては「便利になって、選択肢が増えて、安くなる。反対する理由はない。コンテンツのデジタル化以降の権利保護が国益に資すること。それを技術でカバーできるのであれば特段何が必要ということはない」とした。

 一方で、堀委員は委員会出席前に書店で購入したという「DVDコピー」をうたうムックについて言及。「“著作権保護されたDVDをコピーしてはいけません”、とか書いてあるが、1層のDVDはお笑いが多いとか、さまざまなコピーの仕方を紹介している。これは海賊業者が買う本じゃなく、海賊版が売れないから海賊業者も困っている。利益もなくコピーする情報漏洩家と情報漏洩収集家がいるので、海賊業者も困る。利益を得ているわけでないから”コピーして何が悪い。何で保護するんだ?  そう言うのであれば逸失利益を出せ”という。しかし、エンタテインメントや文化は工業製品じゃない。逸失利益を算定するのは難しい。ゴッホの絵を潰して、絵具と紙を返せばいいわけではない。だから、コピーを面倒くさくする、面倒くさいけれど解除した人には罰を与える、そういうことが必要だ」と訴えた。

 この意見については、「公共放送の録画とパッケージメディアを巧妙に一緒にして話すのはどうか。テレビ放送を録画することは何ら悪いことではない。大多数の国民、大多数が買うもので、その人たちが巻き込まれる。使いやすくて、安価で、選択肢が多いほうがいい」(河村委員)などの反論も出た。

 放送事業者からは「できる限りユーザーの利便性を高めるとともに、メーカーも受け入れやすくする。だから技術と契約によるエンフォースメントが軸になるが、必ずしも、技術、契約だけでなく、それにあわせて必要に応じて制度(法規制)も合わせて検討していく。いいものができていくのではないかと期待を持っている」(藤沢委員)とした。

 機器メーカーからは、「技術検討WGでは、私の感覚では“検討はほぼ終わったのではないか”と思う。あとは具体的な作業に移る段階ではないか。スクランブル解除の新しい方式を作るので、受信機メーカーは放送が開始されるまでは受信機の販売はできませんし、発売したところで映りません。したがって、運用開始日がいつになるのか。これが決まらないと受信機は発売できない。みなさんがおっしゃる通りにスケジュール感が重要。これをどうにつめて、早期に運用するのか。メーカーからいうと、選択肢の拡大などの点でも新しい方式を期待する」(田胡委員)とした。

 また、「2011年7月24日以前でできるだけ早期」という導入時期の目標については、「期限が入っていないとToDoリストは成立しない。ぜひ早く決めてほしい」(浅野委員)など多くの委員から意見がでた。

 村井主査は、「(技術検討WGにおいては)技術については、かなり具体的で実体がある議論が進んでいり、だいたいの技術的な検討は終わっている。どうして時期を決められないかというと、方式は決まっても、ライセンス発行機関の設立や運用が決まっていない。誰がどういう風に契約し、暗号鍵がどう扱われるかが決まらないと、受信機、送信機などでの仕組みやディティールが決められない。今決まっていないのは運用技術の部分で、時間、コストを勘案して、この部分について意思決定する必要がある。走れる(進められる)ところは走れるが、要所でバランスをとった意思決定が必要になる。そこまでは決まったというのが今回の趣旨」とした。


(2009年 5月 26日)

[AV Watch編集部 臼田勤哉]