B-CAS見直し案が具体化。ソフトウェア/チップなど検討

-6月の取りまとめを目標。小型カード規格化も


2月26日開催


 総務相の諮問機関である情報通信審議会は26日、「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会第49回」を開催。地上デジタル放送の著作権保護方式の見直しについて、検討の方向性などが報告された。

 2008年6月の情報通信審議会第5次中間答申において、地上デジタル放送のコピー制御やエンフォースメント(実効性の担保)について見直しを継続するように提言されて以来、現在のB-CASの「カード方式」の改善に加え、ハードウェアとして機器に内蔵する「チップ方式」、「ソフトウェア方式」の3つの方向が提案されており、技術と契約を使った新しいエンフォースメント検討を進められている。

 昨年10月以降、委員会の場や、委員会内に設置された技術ワーキンググループで検討が行なわれ、今回中間報告が行なわれた。委員会の主査を務める、慶応義塾大学の村井純教授は、「中間報告であり、結論ではない」としながらも、6月の中間答申に向けて「取りまとめの方向にもっていきたい」と議論集約の目標を設定した。

 委員会では、2008年12月の第47回で示された、「カード」、「チップ」、「ソフトウェア」の3方式についての技術WGにおける検討状況が、事務局から提示された。カード方式について現行B-CASを踏襲した方式として(1)、チップとソフトウェアを現行B-CASと異なる方式として(2)と整理。それぞれの方式についての検討状況は以下の通り。下表の「技術WGでの検討状況」部分が今回のアップデート項目となる。

 配布された資料の概要は以下の通り。

(1)現行B-CAS方式と同様の方式

方式概要備考課題鍵の管理者
カード小型化・カードを小型化
・受信機メーカーは受信機にカードを同梱して出荷
・ライセンス管理者はコンテンツ保護に関わるルール遵守を約する受信機メーカーにのみカードを支給。ライセンス管理会社がユーザーにカードを貸与
・現行方式と同様、受信機を購入した視聴者は、同梱されたカードを受信機に挿入した上で視聴
・商品企画の自由度向上
・視聴のためにカードの挿入が必要
・カードの所有権の所在、目的外使用の制限やカード紛失時の取り扱いについて視聴者の認知と理解が必要B-CAS
事前実装・受信機メーカー/販売店などでカードを受信機に事前装着した状態で販売(ユーザーは受信機購入後カードを脱着可能)
・ライセンス管理会社は、コンテンツ保護に係わるルール遵守を約する受信機メーカーにのみカードを支給。ライセンス管理会社がユーザーにカードを貸与
・購入した受信機でアンテナ接続やチャンネル設定を行なえば、そのまま視聴可能
・商品企画の自由度向上
・視聴のための、カード挿入が不要
・カードの所有権の所在、目的外使用の制限やカード紛失時の取り扱いについて視聴者の認知と理解が必要
・カードの貸与に係わる情報提供について、現行の「シュリンクラップ」方式に代わり、受信機立ち上げ時にクリック契約などの手段を用いる必要があり、視聴者において一定の操作が必要
技術検討WGでの検討状況
・メーカーの商品企画の自由度が高まえることで、消費者の選択拡大につながる可能性もあり、選択肢の一つとして引き続き検討
・ノートPCや携帯電話、ポータブル機器、車載などのニーズの可能性がある。(事前実装では浴室TVの可能性も)

(2)現行B-CAS方式と異なる方式(有料放送とは異なる方式)

方式概要備考課題鍵の管理者
チップ・コンテンツ保護の機能をチップに集約。受信機メーカーは部品としてチップを組み込んで出荷
・ライセンス管理会社はコンテンツ保護にかかわるルール遵守を約する受信機メーカーに対し、チップを供給することを条件にチップの製造を許諾
・購入した受信機で、アンテナ接続やチャンネル設定などを行なえば、そのまま視聴可能
・商品企画の自由度向上
・視聴のための、カード挿入が不要
・カード貸与ではないため、視聴者が認知し、理解する必要のある事項は軽減
・ライセンス管理者、チップ製造者、組み込みに係わる関係者の間で、それぞれの役割や、役割に応じた責任、目的やスキームに応じた技術方式などについて検討が必要必要
(未定)
ソフトウェア・ライセンス管理会社はコンテンツ保護にかかわるルール遵守を約する受信機メーカーに対し、コンテンツ保護機能に係わる仕様を開示
・受信機メーカーは仕様に沿った機能を受信機に搭載して出荷
・購入した受信機でアンテナ接続やチャンネル設定を行なえば、そのまま視聴可能
・商品企画の自由度向上
・視聴のための、カード挿入が不要
・カード貸与ではないため、視聴者が認知し、理解する必要のある事項は軽減
・コンテンツ保護に係わるルール遵守を約するすべての受信機メーカーに対して、受信機製造上必要な使用が開示されていることから、技術的透明性が向上
・ライセンス管理者は、受信機製造に係わる関係者の間で、それぞれの役割や役割に応じた責任、目的やスキームに応じた技術方式、などについて検討が必要
技術検討WGでの検討状況

・エンフォースメントに係る契約当事者に責任がある場合、当該契約のエンフォースメントとして、合理的範囲で一定の契約責任が問われるべきではないか
・技術方式については、「鍵が漏えいした場合の対処の在り方」、との観点から検討することが必要
・あわせて善意の(受信機)利用者に対し、悪影響を及ぼさないという観点での検討が必要

 (2)のチップ/ソフトウェア方式については、「コンテンツ保護にかかわるルールを遵守ものの全てに対し、RMPに係る仕様」の開示を制限しないと定めている。仕様開示を求めるすべての人に公開することで、B-CASで指摘された技術的な不透明性を排除する狙いという。

 ただし、より多くの人に仕様公開することとなるために、特に現行制度を含む制度的対応(法制度など)の検討も必要としている。例えば、適正な手続きを踏まずに鍵を不正取得して、受信機を販売/製造目的で製造、販売、譲渡した場合のように契約当事者以外の悪用については、制度的な対応が必要となるため、検討課題とされている。


 ■ 各業界代表者がB-CAS見直しに前向きに

 放送事業者の代表からは、「(技術WGの議論では)2のほうが“何となく好ましい”というニュアンスになっている。2枚目を拒否する理由はない(関委員)」ととする。ただし、「1については、今すぐの利便性という点がある。カードの小型化については技術的な規格を検討中。事前実装についてもノートPCや携帯電話、車載などで一定のニーズがある。引き続き検討していく」という。

 また、「放送事業者としては、カード方式であれば送出設備の改修の必要がない。だからといって(2)を拒否するつもりはない。具体的な技術論に至っていないが、委員会の方向付けがそうなれば、具体的な技術論を含めてどう実現するか検討していく」と語った。

 一方で、「2を選択すると、技術方式において鍵の漏えいがどうしても発生する。契約当事者以外が不正受信機をつくった場合などにどう対応するか。何らかの制度的な対応が必要」とした。

 別の放送事業者からも、「できるだけニュートラルな方式でやりたい。ソフトウェアなど(技術WGでも)新方式を多く議論している。多様な受信機を用意するのは、デジタル受信機普及の立場からも必要不可欠。今後、検討を踏まえて民間で実際の検討を行なうことになるが、委員会の指摘を踏まえて具体的な方式を定めていきたい(藤沢委員)」とした。

 機器メーカーの代表は、「受信機メーカーとしては、普及の観点から選択肢が増えることは歓迎すべきこと。時間軸の話でいえばカード方式で、カードの小型化はARIBで取り組んでいる。事前実装もスピード感を持ってやれる。一方、新方式であれば、たとえばソフトウェアでも物理的な制約はほぼゼロになる。前向きに検討していくが、最終的にはお客様に迷惑をかけない形をどうやっていくかが最後の大きな課題になる(田胡委員)」と語った。なお、新方式については、地上デジタルを前提に見直しを考えているが、「(地上/BS/110度CSデジタルの)3波でも技術的に使えないことはない(関委員)」という。

 消費者団体の代表からは、「消費者の夢のような意見では、“エンフォースメントのない無料放送も可能”と考える。それが一番選択肢が広い、消費者の権利が守られる」(河村委員)との意見も出た。また別の消費者団体の代表からは、「ダビング10を思い出しても3月ぐらいに新しい流れができ、4月ぐらいに結論を出さないと6月に間に合わない。増えた選択肢をどうとらえるのかが重要だが、放送事業者からも選択肢の拡大への前向きな意見が出ている。消費者が期待していることは、“ストレスなく、いかに低価格な受信機が普及するか”。現在はほとんどが3波受信機で、新方式は意味がないみたいな意見もメーカーの方から頂いたが、3波しかないという状況はよくない。小型化、事前実装されても不要な物を買わされてしまうのは、”イヤでも買わなければならない”国民の声には応えられない。B-CASと異なる方式を示していただいたことは非常に意味があると考える。新しい製品が市場に参入できるような環境を作ってほしいし、ここまで進んでいるのであれば、メーカーがいい意味で抜け駆けして新しいB-CAS以外の選択肢を作ってほしい。それをやらなければ独占禁止法に抵触する。地デジ移行の後もB-CASのまま行くというのはあり得ない。消費者が喜ぶ形が条件だ(高橋委員)」と語った。



■ 権利者団体からは補償金問題についても言及

 また、複数の委員が制度を含めた方法の検討について言及。権利者団体の代表からは、「チップにせよソフトにせよ、スクランブルが前提となる。スクランブルを外すことに、権利者が同意するわけではないとされているが、全く言っていない。権利者がスクランブル解除に同意しないという思い込みはやめてほしい。制度だけでどこまでできるのか、という姿も見せていただきたい(椎名委員)」と制度の提案を求めた。

 また、地上波放送について米国と日本の内容の違いや、ネット権への異論のほか、権利者団体による委員会への参加姿勢や補償金問題についても言及。「補償金問題については、パソコンで複製されたものが全世界に蔓延している状況がある。そうした飽和した状態でどうやってコンテンツと付き合っていくか、という根本的な議論が必要。極めて中途半端な妥協の産物であった補償金の文化庁提案が不調に終わったことはむしろ歓迎すべきことだが、ダビング10の実施に当たって述べられた“対価の還元”については、7月4日のダビング10実施の後、半年経っても約束が果たされていない。Blu-ray Discの指定についても、“アナログ放送を録画するBDにしか認めない”というおかしな主張があるメーカーによりなされて、進まないという状況が明らかになっている」とBDへの政令指定進捗の遅れを非難した。

 さらに、経済産業省の対応も非難し、「いつまでこんな不毛なことをやっているのか。中立であるべき省庁が、メーカーだけでなく、メディアやコンテンツも所管するはずの当事者だが、メーカーのいいなりで権利者に幅寄せするばかり」とし、さらに2月2日の慶応大学のシンポジウムで語られた経産省のメディア・コンテンツ課長の発言(「コンテンツ産業が儲かりたいから、政府も支援しろと言うだけでは、その辺の兄ちゃんが“ボクは大事だから支援してよ”と言うのと同じ」など) などをあげ、「コンテンツに対してこのような見識を持った経産省によって、文化庁のBlu-rayの政令指定案がこれからどうやって蹂躙されていくのか。これが広く世の中に明らかになればいいと思う。この国のコンテンツに係るルール作りを、流通や産業振興からきちんと当事者能力を持っている人で議論できる場ができることを期待したい。この検討委員会には今後も期待している」とした。

 


(2009年 2月 26日)

[AV Watch編集部 臼田勤哉]