「動画サイトは、CD購入などの音楽消費にマイナス」

-利用実態調査。消極層は「動画サイトで十分」


 東京大学の濱野保樹教授が座長を務める「動画サイトの利用実態調査検討委員会」は8日、動画配信サイトの利用状況調査や、音楽コンテンツのビジネスに与える影響などをまとめた報告書を発表。国民の7割が動画配信サイトを利用し、視聴されるコンテンツは多くが音楽であることなどを挙げている。

 同委員会は4月に設置。東京大学の学識経験者や、東京都地域婦人団体連盟、ヤフー、ニワンゴの代表者らが委員として参加している。オブザーバーは総務省、文化庁、経済産業省。事務局は日本レコード協会。

動画サイトの利用者数

 調査は郵送とWebのアンケート形式で2011年3月~5月にプレ調査/本調査の2回実施。対象はいずれも13~69歳で、郵送アンケートでは動画サイト利用経験者と利用意向者、Webアンケートでは利用経験者が回答している。有効回答数は、郵送がプレ調査2,767、本調査が1,603。Webがプレ調査7,767、本調査2,608。調査実施会社は三菱総合研究所。

 調査を元にした推計では、国民の約7割が動画サイトを利用しており、さらに国民の36%(動画サイト利用経験者の約半数)が、動画サイトからのファイルのダウンロードを経験。また、ダウンロードされている音楽関連ファイルの多くが違法と考えられ、音楽関連ファイルのダウンロード総数は年間12億回に上ると推計している。



■ 動画サイトは主に音楽関連の視聴に利用

動画サイトの利用状況

 動画サイトの利用人口について、国勢調査(人口)や郵送プレ調査結果と照らし合わせた推計では、インターネット利用者8,939万5,000人(13~69歳人口の95.2%)のうち、動画サイトを過去に一度でも利用したことがある人は6,914万1,000人(同73.6%)。最近1年間の利用者は6,341万1,000人(同67.5%)。動画サイトからのファイルダウンロードを経験している人は3,382万8,000人(同36.0%)、最近1年間のダウンロード経験者は2,658万9,000人(28.3%)としている。

 普段利用する動画サイトで最も多いのはYouTubeで、9割以上(Webが98.1%、郵送97.4%)が利用。次はニコニコ動画(同50.8%、32.7%)、GyaO!(同24.6%、13%)となっている。利用経験者の約半数が週1回以上使っており、10代は半数以上が「ほぼ毎日」利用しているという。平均視聴時間は全体で1日40~42分。

 視聴する端末は9割以上(Web 95.7%、郵送98.8%)がパソコン。携帯電話(Web 23.2%、郵送14.2%)やスマートフォン(同8.7%、10.7%)はまだ低いが、若年層においては、これらの端末の割合も高い。

利用者の年代構成、メディア利用など

 動画サイトでよく視聴されるジャンルは商業的な「音楽関連映像(邦楽)」が最も高く(Web 62.7%、郵送71.5%)、次は「個人や映像クリエイター等による作曲・編集・制作作品」(同38.3%、38.0%)、商業的な洋楽関連(同37.0%、32.1%)となっている。動画サイトの視聴時間のうち、約6割をこれら商業的な音楽が占めている。

 動画サイトで「音楽関連映像」を視聴している人は、主に「好きなアーティストの楽曲・映像」の視聴を目的としており、特に若年層はその傾向が強い。一方で「楽曲や音楽関連映像の購入・レンタルの検討」が目的の視聴層は、前者に比べて音楽への支出が多い傾向が見られる。このように、動画サイトは音楽商品の購買行動を補助/補完することが表れている。



■ 違法ダウンロードは増加傾向、動画サイトはCD購入などにとってマイナス

動画サイトの利用と、音楽に対する購買行動の変化

 動画サイトの利用経験者、ダウンロード認知者(動画サイトからファイルをダウンロードできることを知っている人)、動画ダウンロード利用経験者という順で絞っていくと、若年層がダウンロード方法の知識を有する割合が高い傾向がみられる。また、動画サイトの利用頻度・視聴時間が増加するにつれ、音楽パッケージや有料配信等、音楽への消費(支出)も高くなるという結果になった。

 動画サイトからダウンロードする理由としては、「いつでも好きな時に視聴したい」、「手元に保存しておきたい」との意見が最も多い。一方で「CD・音楽DVDの価格が高い」、「音楽配信の価格が高い」、「入手困難」といった理由も挙げられている。

 動画サイトからダウンロードされるコンテンツでは、「音楽関連映像(邦楽)」が最も多く、ダウンロード数は年間平均で63.4ファイル/人(Web調査)。「個人等による作曲・編集・制作作品」 (63.1ファイル/人)を除く商業的な音楽ファイルの合計は116.8ファイル/人となっている。

 動画サイトからダウンロードされたファイルのうち、違法ダウンロードと見られる商業的な音楽関連ファイル数(邦楽・洋楽)は、年間12.0億ファイルと推計。前年との変化に関する回答を元に「違法ダウンロードと想定される行為は今後も増加傾向にある」としている。

音楽に対する支出の変化の理由

 動画サイトでの視聴で音楽の接触機会などは拡大し、音楽への接触に対して能動的な利用者には音楽への支出も増加傾向にあると分析。しかし、全体で見ると音楽への支出は減少傾向で、中でも「音楽になるべくお金をかけない方法で入手している層」は、動画サイトでの視聴が支出減少に影響しているという。

 音楽への支出が減った主な理由としては「動画サイトで十分楽しめる」ことが挙げられており、「音楽支出の消極層に対しては、従来の音楽の消費行動の一部を動画サイトが代替している」と推測。「全体としてプラスとマイナスを相殺すると、動画サイトは音楽CD/DVDの購入、レンタル、有料配信への支出にはマイナスの影響を与えている」との見方を示している。

 こうした見方を踏まえ、報告書では「音楽業界やインターネット業界をはじめとする関係者が、消費者に対して従来とは異なる新たな付加価値を提供できるサービスや商品の在り方を模索していくことが、音楽のクリエイティビティを最大化させ、それを消費者に還元していくための生態系を維持・進化させていくステップにつながる」と指摘している。



(2011年 8月 9日)

[AV Watch編集部 中林暁]