【CES】米Sony Electronics社長のラウンドテーブル開催
価格競争を追わず「画質/デザイン両立」などを目指す
米Sony Electronics社長兼COOのPhil Molyneux(フィル・モリニュー)氏 |
米国時間の10日に開幕した「2012 International CES」の会場にて、ソニーは日本人記者向けに、米Sony Electronics社長兼COOのPhil Molyneux(フィル・モリニュー)氏を囲んでのラウンドテーブルを開催した。
話題の中心は、米国市場でのテレビの状況や「付加価値」に関する考え方。コンシューマエレクトロニクスの苦境が伝えられる中での、ソニーの考えを聞いた。
■ 消費者とのコミュニケーションを重視、大型テレビの「価格競争」には参加せず
モリニュー氏は、「就任以降、消費者とのコミュニケーションを重視してきた。その中で、9つのタッチポイントがあると考えている」と語り、消費者との関係を見直すことからビジネスの改善を試みている、と説明した。
モリニュー氏(以下敬称略):商品のバリューをしっかりと伝え、そこから提供できる体験の価値でブランドバリューを生み出し、利益へとつなげていくことが重要です。就任以来250の店舗を回りました。実際になにが起きているのか、業界図がどうなっているか、競争関係を理解したかったからです。
結果分かったのは、販売を担当するパートナー、リテーラーとの関係が良かったとはいえなかった、という点です。売っていただく方々から、商品のバリューが正しく伝わっていなかったのです。消費者からの声も大切な情報でした。いい反響はもちろんですが、批判的な声もしっかりと分析し、これからどうやって「いい方向」に向けていくかを考える必要がありました。
その中でも大きな動きとして、ソニーが取り組んだのが、北米に40カ所存在する直営店「ソニーストア」のリニューアルだ。
モリニュー:2011年、ロサンゼルスのセンチュリーシティに、新しいパイロットストアを作りました。ここは、ひとことで言えば「ソニー・ワンダーランド」のような役割をもった店舗です。我々がここでしなくてはいけないことは、ソニーのビジネス・商品について、お客様に理解していただくことです。そのための店舗としてコンセプト設計を行ないました。現在までに、4つのストアを同じ方針で置き換えています。2012年には、ソニーストア全体をファインチューニングしていきます。リモデルする店舗もありますが、新たなロケーションに出店する計画もあります。
一般的な店舗の展示も変えました。リテーラーとの関係を見直し、ゼロから彼らとソニーの関係を作り直したのです。店舗のイメージ・ディスプレイも、明るいイメージに変えていきました。
このような施策が話題にのぼるのは、家電製品の「単価下落」がきわめて深刻な状況にある、という背景がある。特にアメリカ市場では、「テレビビジネスの難しさ」が問題になっている。60型を超える大型製品の市場が伸長したものの、極端な価格下落が起きているからだ。
モリニュー:アメリカ市場は、世界でもっとも競争が激しい市場です。このホリデーシーズン、競合の中には、65型の液晶テレビが1000ドルを切るようなものもありました。我々は今シーズンに入る前に、マーケットシェアを追うためにコストダウンすることはしない、と決めました。クオリティ・リテーリング(価値を認めてもらっての販売)に注力しました。ソニーは安価な市場には入らず、ソニー製品の持つバリューを正しくお客様に伝える手法を採りました。これが、この先のビジネスにも大切だと考えています。
結果、テレビの販売台数目標を2,000万台に下げたわけですが、そのことは他の商品分野に影響を及ぼしていません。例えば、デジタルイメージング商品については、いまだ圧倒的な強みをもっています。
アメリカでもいまだ受注残を抱える「HMZ-T1」。ソニーストアでは、店頭の外に商品を装着したスタッフが配置され、それをみた顧客が店に入ってくる……というサイクルも生まれているとのこと |
他方で、新しいディスプレイ商品にも注目が集まっている。日本でも秋に発売され、ヒットしたヘッドマウントディスプレイ(HMD)「HMZ-T1」は、アメリカでも人気だ。CESの展示ブースでも、テストする人の列が目立つ。
モリニュー:HMDはアメリカでも非常に注目され、高い評価を受けました。
残念なのは、きちんとした数を用意できなかったことです。タイの洪水の影響もあり、用意数が限られていました。アメリカでは、ソニーのオンラインストアと直営店限定で販売しましたが、それでも、現在もなおバックオーダーを抱えています。この製品のマーケティングについては、特にソーシャルメディアを活発に活用し、メッセージを発信しています。映画などにももちろん価値がある製品ですが、特にゲーム用に向いている、と判断しています。
CESで展示された「Crystal LED」 |
そしてもちろん、CES最大の話題は「Crystal LED ディスプレイ」の発表だ。サムスン電子やLG電子が有機EL・55型のテレビを展示する中、別のアプローチで遙かに(この表現は決して大げさではない)高い画質を実現したことは注目に値する。この新技術と、これまで手がけてきた有機ELの関係はどうなっていくのだろうか?
モリニュー:今回発表した「Crystal LED」は一つの未来です。発表後の反響も驚嘆すべきものです。他社がてがけている有機ELについても、技術はしっかりと持っていますし、特にB2Bマーケットでは好調です。この方向性で追求していくことになるかと思います。
ただし、Crystal LEDはあくまで技術発表ですので、どのような形で市場に投入するかについては、まだ言及できる段階にありません。
他方、サムスン電子やLG電子の有機ELテレビは、薄さを強調した、デザイン面で大きな価値を持つものに仕上がっている。ここ数年、特にアメリカ市場では、サムスン電子がテレビのデザイントレンドを牽引している。市場的にも、差のわかりづらい画質よりも、価格に裏打ちされたデザイン性を重視する方向性が強まっているのでは、との意見も大きい。だがモリニュー氏は、それを否定する。
モリニュー:ソニーには、デザインに関してすばらしい伝統があります。テレビ製品ではありませんが、このNEX-7などは、撮影するための機能性と美観が一体となった、すばらしい商品だと思います。ですから、テレビ製品についても十分にデザイン上の価値をご提供できるものと思います。
他方、Crystal LEDのような製品には、画質面での「WOWインパクト」があります。デザインとクオリティ、両方の価値が重要と考えます。
アメリカ市場であっても、昔から両方が大切とされます。それは以前から変わらず、今後も重要でありつづけるでしょう。
■ ソニエリ完全子会社化で始まる「新しい関係」、Google TV売上はアップデート後に伸長
ソニー・エリクソンは「ソニーモバイルコミュニケーションズ」に |
現在、家電の主軸はテレビなど過去の大型商品よりも、スマートフォン・タブレットなどの「新しい価値を持つ製品」に移りつつある。
ソニーグループとしては、これまでエリクソンとの合弁事業である「ソニー・エリクソン」が携帯電話事業を担当してきたが、エリクソンから株式をすべて取得し、ソニー・エリクソンはソニーの完全子会社となる。このことは、「新しい主力」であるスマートフォンなどにどのような影響をもたらすのだろうか?
モリニュー:ソニー・エリクソンが「ソニーモバイルコミュニケーションズ」となり、新しい関係を築くことになる点を、うれしくうけとめています。なぜなら、スマートフォンまで含めた様々な製品を「プロダクトファミリー」として提供できるようになることを、重要に思うからです。それにより、我々が伝えたいメッセージがクリアーになります。 将来の「相互に接続される」機器群については、コンシューマにとっては、統一されたユーザーインターフェースで、バリューを一体化した形で提供できます。
それらの機器で使われる「ソニーエンターテインメント・ネットワーク」(SEN)は、まだスタートしたばかりです。しかし、プロダクトに価値を付加する効果は十分に生まれていると考えます。現在は、マーケティング面でのチャレンジが必要です。なにができるのか、コンシューマに対してわかりやすく提示することが必要とされています。
Sony Tabletについては、市場からポジティブな反応をいただいていると理解しています。確かにホリデーシーズンに、一部で(価格を下げることを含めた)プロモーションを行ないましたが、そうしなければ売れないという状況ではなく、少なくとも北米市場では、消費者に価値を積み上げていっている過程です。
スマートフォンとタブレットに大きく関連する商品として、テレビのスマート化、いわゆる「スマートTV」が挙げられる。ソニーもテレビのネット対応をすすめているが、その一翼を担っているのが「Google TV」こと「Sony Internet TV Powerd by Google」だ。しかし昨年、この製品は評判が上がらず、大幅なディスカウントで売られることも珍しくなかった。ソニーにとって、Google TVは痛い反省材料だったのだろうか?
モリニュー:Google TVから学んだことはたくさんあります。あの製品は、顧客に新しい体験を提供しました。それは非常に価値あるもので、今後大きな可能性があります。しかし、それを消費者が理解するには相当な時間がかかるだろう、とも考えました。
しかし、Google TVは秋にソフトウエアの大幅なアップデートが行なわれたのですが、その後には、テレビもボックスもセールスが大幅に伸びたのです。よい方向に向かい始めたのだと思います。今年投入する新モデルは、もっと市場にとって魅力的な商品になると考えています。
(2012年 1月 11日)
[Reported by 西田 宗千佳]