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シャープとEMS最大手 台湾 鴻海グループが資本提携

−堺工場の液晶5割を鴻海へ。「単独の垂直統合は限界」


シャープ奥田次期社長

 シャープは、鴻海(ホンハイ)グループと、戦略的グローバルパートナーシップを締結し、液晶パネルおよび液晶テレビ、携帯電話事業などの分野で広範囲に協業することを発表した。

 堺工場の事業運営などを行なうSDP(シャープディスプレイプロダクト株式会社)に、鴻海精密工業(FOXCONN)の代表を務める郭台銘氏および他の投資法人などが約46.5%を出資。シャープの出資比率は現状の約93%から46.5%に下がる。また、ソニーが出資している7%については、提携後も7%の比率を維持するが、「ソニーとは引き続き協業を進めていくことになる」(シャープ・奥田隆司次期社長)とした。

 堺工場で生産する第10世代による大型液晶パネルを、2012年10月を目標に、鴻海精密工業が引き取りを開始し、最終的には引き取り比率を50%にまで高める計画。50%ずつの引き取りについては、引き取り責任が発生するものと位置づけた。また、液晶パネルや液晶テレビ分野において、両社をあわせた生産規模によるスケールメリットや部材調達力を生かし、グローバルレベルでのコスト競争力を実現することになるという。

 鴻海精密工業は、電子機器の受託製造サービス(EMS)の世界最大手に位置づけられており、液晶テレビなどのOEM生産などを受託している。

 「今後、SDPと鴻海精密工業は、ワンカンパニーとして共同で事業を行なうことになり、堺工場の操業安定化を実現する」(奥田次期社長)としたほか、「鴻海精密工業では、堺工場のパネルを、米国、中国向けのテレビの受託生産において使用することになるのではないか」と語った。

 また、シャープは、鴻海グループを割当先として第三者割当による新株式を発行。鴻海グループ全体では9.9%の出資比率となり、グループとしてシャープの筆頭株主になる。シャープへの出資比率は、鴻海精密工業が4.06%、鴻準精密工業が0.65%、FOXCONN(FAR EAST)Limitedが2.53%、Q-Run Holdings Limitedが2.64%となる。

 「中長期的な保有方針に基づき、関係構築を図るもの。協業スピードを早めるために、経営層を交えた両社の協議会を毎月実施し、業務提携が確実に実を結ぶことにつなげたい」とした。

 第三者割当で得る約665億円の資金については、「液晶および新規技術導入分野への投資に充当し、グローバルな競争力強化と中長期的な収益力回復につなげる」と語った。

 2012年4月1日付けでシャープの社長に就任する奥田隆司常務執行役員は、「シャープが持つオンリーワンデバイス、商品開発力と、鴻海精密工業が有する高い実装生産力、コスト競争力など、両社の強みを生かしたグローバルレベルの新たなビジネスモデルを構築し、市場にマッチしたコスト競争力のあるデバイス、商品のタイムリーな市場投入を実現する。1+1が、3にも、5にもなる提携へと発展させたい」と語った。


■ 単独の“垂直統合”は限界。中小型や携帯電話でも協業

 これまでにもシャープは、鴻海グループに、液晶テレビや携帯電話の生産委託や、液晶パネルの供給などを行なってきた経緯があった。

 3月27日午後5時から都内のホテルで行なわれた会見で、シャープの奥田次期社長は、次のように語った。

 「3月14日の社長就任会見で、私は世界の市場に向けて、オンリーワンのデバイスと商品を創出し、スピードをあげて、投入していくと語った。そのためには、ビジネスモデルの変換とグローバルで戦う仕組みづくりが重要であると申し上げた。具体的な内容については、改めて説明するとお話したが、今回はモノづくりの分野における変革の一端として、世界で戦う仕組みづくりを発表することになる。シャープは、オンリーワン商品を開発する技術はあるが、ここ数年は円高、六重苦と呼ばれる経営環境のなかにあり、新たなビジネスの創出や市場への対応力、スピード力が不足し、当社の強みを発揮することができなかった。こうした問題を解決するためには、これまでのようにシャープが、研究開発から設計、生産、調達、販売、サービスまでのすべてのバリューチェーンを手がけるのではなく、今後は、このバリューチェーンのなかに協業を含めることが大切になってくる。液晶分野においても、パネルの生産から液晶テレビに至るまで、すべてを自前で進めてきたが、競争環境が厳しいグローバル市場では、各国のニーズにあった商品をタイムリーに供給することが必要であり、シャープ単独の垂直統合では限界があった。そこで、シャープのオンリーワンデバイスや商品の開発力と、鴻海グループが持つ高い生産技術力、加工技術力、スケールメリットに伴うコスト競争力を融合することにした。両社の強みを生かしたグローバルレベルの垂直統合モデルを、一緒に作り上げることで、魅力的なデバイスや商品をタイムリーに市場に投入することができる」と語った。

 さらに、「鴻海グループでは、堺工場が生産する大型液晶パネルを高く評価しており、SDPとワンチームで事業運営していくことになった。堺工場では鴻海グループの引き取り分が加わることになり、高いレベルでの安定操業が維持できるようになる。シャープの液晶開発技術と、鴻海グループの生産、加工力の融合、そして両社のスケールメリットを生かした主要部材の安定調達、ワンチームとしての事業運営によるコストダウンを期待できる。シャープは、60型以上の大型液晶テレビを北米、中国、世界の主要市場に展開しようとしているが、今回の協業により、この動きはさらに加速されるものと考えている。鴻海グループでは、米国、中国市場向けの受託生産を行なっているテレビメーカーに対して、大型サイズの展開を進めることになる」と語った。

 このほか、「シャープでは、中小型液晶の事業強化にも取り組んでいるが、この分野でも両社の強みを生かす取り組みを加速していきたい。エレクトロニクス産業は、デジタル化、グローバル化、価格下落という厳しい環境のなかにある。近年は同業種や業態の近い企業間での連携も多いが、シャープは国籍や業態の枠に留まることなく、お互いの強みで補完しあい、グローバルで成功できる関係の構築が大切である。1+1が3だけでなく、5まで発展できるシナジー効果の発揮が、協業の要である。今回のパートナーシップにより、シャープが持つ技術力に加え、鴻海グループが持つ生産力を持つことで、コスト力あるデバイスと商品を、世界市場にスピードアップしながら提供することができる」などとした。

 加えて、「業務提携の範囲は、液晶パネル、液晶テレビのほかに、中小型液晶の応用分野、その他の幅広い分野まで考えられる。携帯電話などのモバイル端末機器においても、鴻海グループとの共通設計や、同じ工場を使うことでの生産の効率化、さらには調達の共通化により、生産規模によるスケールメリットを背景に大幅なコストダウンが図れる。今後も協業分野の拡大と業務提携をさらに発展させる」と述べた。


■ 日本は製造者から脱却し、研究開発とブランド構築を。鴻海精密 郭会長

ビデオでコメントした鴻海精密工業 郭台銘(Terry Gou)会長

 一方、鴻海グループのトップである鴻海精密工業の郭台銘(Terry Gou)会長は、ビデオメッセージを寄せ、「シャープグループと鴻海グループが結ぶ戦略的なパートナーシップをうれしく思う。9カ月に渡る、非常に詳細かつ有益な協議を経て、本日、2つの会社が両社の取締役会の承認により、資本投資を含む潜在的な協業分野をカバーする、強固で包括的な提携を行なうことで合意した。2つの会社は相互補完的な関係にある。シャープは世界的にも認知度の高いブランドのひとつであり、最先端テクノロジーの研究開発分野におけるリーダーである。鴻海は『ブランド企業』ではないが、我々が持つ機械、光学、電子技術と精密な製造設備を垂直統合し、活用してきた実績がある。両社の協業関係を拡大することで、様々な強みを生かし、優れた市場競争力を得ることができると強く確信している。両社の提携がもたらす相乗効果は、日本がかつての電子機器、コンシューマエレクトロニクスの製造者としての役割から脱却し、高度なテクノロジーの研究開発と国際的なブランド認知の構築を、先頭にたって牽引し、新しい役割を引き受けていくことを世界に対して、示すことになる。日本国内では円高や増大するコスト構造、高齢化社会の問題が、最良のディスプレイ技術を持つシャープにとって、大きな困難をもたらしている。一方、日本の外の市場では、シャープはアンフェアな競争にさらされており、事業利益を生み出すことが困難になっている。鴻海と広範囲におよぶ提携関係を結ぶことで、シャープの強みは最大化される。両社がともに生み出す相乗効果は、両社のみならず、我々の顧客、ひいては全世界の顧客にとって、Win-Winの関係をもたらす。テクノロジーやコストの効率化、開発期間の短縮、生産の柔軟性、カスタマーサービスといった広範囲におよぶ今回の新しい提携によって、両社がグローバルな課題や競争からの要請に応えられることを強く信じている。これは間違いなく成功する提携になる」とした。


■ 「シャープの強みは消えない。60型超の市場拡大」奥田次期社長

 質疑応答では、鴻海グループが液晶パネルの開発、生産を行なう奇美電子(チーメイ)に資本参加している件についての質問も出たが、「SDPとはセパレートした形で事業運営を行なうことになる。だが、将来的には、60型以上の大型と、50型以下をそれぞれに組み合わせた、総合的な取り組みが考えられる」とした。

 また、「今回の提携後も、シャープの生産工場を廃止することは考えていない。堺工場の人員体制などについては、今後検討していくことになる。中小型液晶分野での強みを生かして、新規事業を創出できる可能性あり、また様々な領域での協業は検討しているが、その内容については今後、別の機会に明らかにしたい」と、今回発表した領域以外への具体的な取り組みについては明言を避けた。

 提携の協議については、9カ月前から進めてきたが、「この3週間がピークの時間であった。今回の戦略的な提携によって、いかにビジネス分野で相乗効果をもたらすかについてフォーカスした形で議論を進めてきた。協業の膨らみについてが、9カ月前の議論との大きな違いだ」とした。

 そのほか、「鴻海にパネルを供給しても、シャープの強みがなくなるという心配はない。むしろ、60型以上のテレビ市場が拡大するとポジティブにみている。競合するよりも大きなポテンシャルを広げていくことが先決である。IGZOについては、シャープが開発しており、継続的に開発を進めていく。堺工場でIGZOを生産するかどうかは検討段階である。また、堺工場運営を共同で行なうことで、特許技術の流出を懸念する声もあるが、シャープがその特許技術を所有しており、流出の問題はない。パネルはシャープしか、設計、開発ができない。だが、モジュールについては協業の可能性がある。テレビ生産については、シャープの5つの海外生産拠点に比べて、鴻海の生産拠点の方が競争力があるとなれば、そちらを使うことも考えたい。それがなければ使う必要がない。シャープの工場の場合はモジュール生産を行なっており、鴻海の拠点はテレビの生産だけを行なっている。その点ではシャープの拠点の方が競争力があるともいえる。お互いのメリットを生かしながら臨機応変にやっていく」とした。

 また、奥田次期社長が言及した「垂直統合が限界を迎えた」要因については、「シャープ1社での垂直統合が限界に達したということであり、協業を含めた新たな戦略的な垂直統合モデルを、両社で作り上げていくことになる。そこにグローバルで勝てるシナリオがある。グローバルレベルの垂直統合では、共同設計を行なったり、共同で工場を使いこなすといったことのほか、共同で調達を行なうという点でのコストメリットが出る。メーカーの使命としてはオンリーワンのデバイスと、ユニークな商品を生み出していくことにある。単なるモノづくりではなく、市場創造型の商品づくりをメインにしながら、モノづくり革新を加え、競争力を高めていきたい」などと語った。


(2012年 3月 27日)

[ Reported by 大河原 克行/AV Watch編集部]