ソニー、世界初の積層型CMOSイメージセンサー「Exmor RS」

-画素と回路を積層して小型/高感度。スマホ/タブレット向け


積層型CMOSイメージセンサー「Exmor RS」の3モデル

 ソニーは20日、世界初の積層型CMOSイメージセンサー「Exmor RS」を商品化し、10月から順次出荷を開始すると発表した。スマートフォンやタブレット向けの製品で、3モデルを用意。さらに、各センサーを採用したイメージングモジュール3モデルも展開する。

 積層型CMOSイメージセンサー「Exmor RS」は、裏面照射型CMOSの支持基板の代わりに、信号処理回路が形成されたチップを使い、その上に裏面照射型画素が形成された画素部分を重ねあわせたもの。この積層型構造はソニー独自のものとなる。


積層のイメージ図

 従来のセンサーは、画素の領域と回路領域が同一平面上に存在しており、それをシリコンウェハの支持基板に貼っていた。積層型にする事で、支持基板の有効活用ができ、小型化が可能になる。「1/4型808万画素のSOCタイプでは40%程度のサイズが実現でき、CCDより小さいCMOSも作れる。また、画素と回路領域でそれぞれに特化したものが作れるので、高画質化などのメリットもある」(業務執行役SVPデバイスソリューション事業本部イメージセンサ事業部の上田康弘事業部長)という。

 なお、技術的には回路領域に凹凸があるため、画素と貼り合わせる時に、その凹凸を吸収しつつピッタリと貼り合わせるのが難しいという。画素領域と回路領域の電気的な結合方法は「基本的にTSV(Through Silicon Via:シリコン貫通ビア)のようなイメージの技術で行なっている」(上田事業部長)という。名称は従来の「Exmor R」に「S」をプラスしたものだが、この「S」は「スタック」の略。


左が1/3.06型有効1,313万画素のセンサー「IMX135」、右が1/4型有効808万画素のイメージングモジュール「IU134F9-Z」

 さらに、今回商品化される「Exmor RS」3モデルには、従来のRGB画素に、感度の高いW(白)を追加。独自のデバイス技術と信号処理により、画質を損ねることなく感度を向上したという。この機能は「RGBWコーディング」機能と名付けられている。

 また、撮影時に同一画面内で2種類の露出条件を設定。撮影された画像に信号処理を加えることで、ダイナミックレンジの広い画像を生成できるHDR(ハイダイナミックレンジ)ムービー機能も備えている。いずれのセンサーも1080/30fpsの動画撮影が可能。


「RGBWコーディング」機能HDRムービー機能
会場で行われた「RGBWコーディング」のデモ。右側が「Exmor RS」センサー左が「Exmor RS」センサー。ノイズも少なく、ノイズリダクション処理も改善されているというHDRムービーのデモコーナー
家の内側に露出を合わせると、外の景色が白飛びしてしまう外に露出をあわせると、内側の金魚や人形が黒つぶれHDRムービー機能では、白飛びも黒つぶれも抑えた動画撮影ができる

 3モデルのラインナップは1/3.06型で、有効1,313万画素の「IMX135」、 1/4型で有効808万画素の「IMX134」、カメラ信号処理機能を内蔵した1/4型で有効808万画素の「ISX014」。さらに、それぞれのセンサーに、オートフォーカス機構付きレンズユニットを搭載した、イメージングモジュールタイプも用意する。

 これらのイメージングモジュールは、業界最小となる1.12μm単位画素に最適化した新設計のレンズを採用。「IU135F3-Z」には、F2.2の明るいレンズを採用。「IU134F9-Z」は、薄型・小型化を実現。「IUS014F-Z」は、イメージセンサーにカメラ信号処理機能を搭載し、オートフォーカスや画質の調整機能を内蔵したオールインワン・タイプのイメージングモジュールとなる。

 各モデルの出荷時期とサンプル価格は以下の通り。

型番出荷時期(予定)サンプル価格
1/3.06型
有効1,313万画素
積層型CMOSイメージセンサー
IMX135
2013年1月1,500円
イメージングモジュール
IU135F3-Z
2013年3月8,000円
1/4型
有効808万画素
積層型CMOSイメージセンサー
IMX134
2013年3月1,000円
イメージングモジュール
IU134F9-Z
2013年5月5,000円
1/4型
有効808万画素
積層型CMOSイメージセンサー
ISX014
2012年10月1,200円
イメージングモジュール
IUS014F-Z
2012年11月6,000円
センサーの概要イメージングモジュールの概要
上田事業部長

 上田事業部長は、スマートフォンも含めた携帯電話のメインカメラ用イメージセンサ市場について、2013年には数量ベースで16億個を超える市場であると説明。その中で、ソニーのシェアは2013年に30%を達成できる見込みだという。

 しかし、イメージセンサーの単価は低く、13.4億個の市場(2012年)でも、金額ベースでは2,200億円程度で、平均単価は約170円となる。上田事業部長は、センサー以外にも、ソニーがレンズなどの実装(光学)面や、カメラ信号処理面での付加価値を提供できる差異化技術、様々なカスタムの要望に応えられる事などを説明。こうした技術を投入したセンサーを作る事で、「数百円のセンサーではなく、例えば1,000円分の仕事ができる、1,000円のセンサーを提供できないかと考えた」(上田事業部長)という。そこで、画質や省スペース、低消費電力などに加え、高機能を備えたセンサーを開発。「積層にする事でコストメリットもある。単なるセンサーを売る時よりも、大きな売り上げになるだろう」と展望を語る。


 生産は、中国の広東省・広州にあり、Blu-ray用の光学ピックアップなどを手がけているSony Electronics(Huanan)の工場にて生産ラインを稼働。熊本工場と合わせ、今後、十分な生産能力を構築・増強していくという。

 また、新しいセンサーの外販予定については、「基本的にはソニー社内のセット(製品)向けや、社外のお客様のニーズに合わせたカスタムを開発しており、そのカスタムセンサーをそのまま外販する事はないが、それらで培った技術は使っていく」(上田事業部長)とした。

映像情報活用シーンの拡大を見込む

 さらに上田事業部長は、「我々は、10年後にイメージャがどう進化しているのかを考えながら(技術の)仕込みをしている。現在のスマートフォンの波が一段落したら、次の波はどうなるのか? おそらく、家の中にあるデジタル機器は指先ひとつで制御できるようになる。自動車にも沢山のセンサーがついて、安心安全に走行できるようになるだろう。こうした世界を実現するためには、非常に高速で特殊な処理をするセンサーが、様々なところで必要になる。この市場規模はもっと大きなものになるだろう。そして、ここはソニーの半導体やデジタルイメージングが得意とするところ。皆さんに具体的なお話ができるよう、今後も頑張って行きたい」と、カメラやスマートフォンに留まらない展開を予告した。

鈴木智行本部長

 執行役 EVP デバイスソリューション事業本部の鈴木智行本部長は、デジタルイメージング事業が、ゲームやモバイルと同じ、ソニーのコア事業の1つである事。8月1日付けで、従来の半導体事業部とデバイスソリューション事業部が統合され、デバイスソリューション事業本部が誕生した事などを説明。

 「ソニーはこれまで、世界初のサービスや商品を生み出し、感動や喜びを届けてきた企業。しかし、最近はあまり出てこない。“ソニーの輝きは失われたのではないか”と言われることもある。ソニーの輝きを取り戻すべく、“デバイスからソニーを変える”という意気込みでやっていきたい」と決意を語る。

 さらに、CCDの開発初期には、「フィルムを超える」をスローガンに開発を進めてきた事を紹介。現在は「人間の目を超える」事が目標とされており、そのためには1億画素、4K2Kで240fpsの動画、0.1ルクス以下でも見る事ができる高感度、1,000fps以上の高速性能が必要になるという。しかし、鈴木本部長は、「これらの具体的目標をクリアできるという状態まで来ている」とした。


会場にはソニーのデジタルカメラやデジタルビデオカメラ製品と、それに使われている撮像素子がセットで展示された

(2012年 8月 20日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]