シャープ、上期赤字は3,875億円に。構造改革に成果

「収益確保を確実に」。成長ドライバーは「IGZO」


シャープ奥田隆司社長

 シャープは、2012年度上期(2012年4月~9月)連結業績を発表した。売上高が前年同期比16.0%減の1兆1,041億円、営業損失は前年同期の335億円の黒字から、マイナス1,688億円の赤字に転落。経常損失は208億円の黒字からマイナス1,972億円の赤字。当期純損失はマイナス398億円の赤字から、マイナス3,875億円の赤字となった。

 シャープの奥田隆司社長は、「売上高については、前回公表値を達成し、さらに全部門でおおむね前回予想に沿った実績。営業利益、経常利益、当期純利益は、下方修正となったが、事業構造改革の追加計上を除いた実質ベースでは、ほぼ計画通り。第2四半期の売上高は2011年度前半の水準に回復している」などとした。


上期連結業績概要部門別売上高。前回予想をクリア売上高水準は回復
AV・通信機器の業績

 部門別業績は、エレクトロニクス機器の売上高が27.1%減の6,328億円、営業利益が93.2%減の31億円。そのうち、AV・通信機器の売上高は41.7%減の3,385億円、営業損失が前年同期の153億円の黒字から、マイナス211億円の赤字に転落した。

 液晶テレビの販売台数は、前年同期比43.4%減の389万台。売上高は40.3%減の1,857億円となった。携帯電話の販売台数は33.5%減の273万台、売上高は43.0%減の983億円となった。

 だが、第2四半期の業績については、液晶テレビ事業の売上高は、第1四半期に比べて39.0%増の1,080億円、販売台数では33.8%増の223万台となっており、「ASEANなどの新興国市場での販売は好調」としている。


液晶テレビ携帯電話
液晶

 健康・環境機器の売上高は4.9%増の1,549億円、営業利益が12.6%の173億円、情報機器の売上高が0.3%増の1,392億円、営業利益が54.7%減69億円となった。

 電子部品は、売上高が7.7%減の5,870億円、営業損失が1,560億円減のマイナス1,516億円の赤字。そのうち、液晶の売上高が10.2%減の3,679億円、営業損失が1,225億円減のマイナス1,155億円の赤字。太陽電池の売上高は15.8%減の930億円、営業損失が38億円悪化のマイナス123億円の赤字。その他電子デバイスは、売上高が9.2%増の1,259億円、営業損失が296億円減のマイナス237億円の赤字となった。


健康・環境機器情報機器その他電子デバイス
通期見通しを下方修正

 また、2012年度の通期業績見通しを下方修正した。8月に続き、2回目の下方修正となる。

 8月公表値に比べて、売上高は400億円減の2兆4,600億円、営業損失は550億円減のマイナス1,550億円の赤字、経常損失は700億円減のマイナス2,100億円の赤字、当期純損失は2,000億円減のマイナス4,500億円の赤字とした。

 「第2四半期における構造改革追加対策費用を織り込んだことが理由」(奥田社長)としており、中小型液晶の棚卸資産評価損で120億円、電子デバイスの棚卸資産評価損で180億円、さらに大型液晶の事業構造改革に伴う棚卸資産評価損で534億円、太陽電池や電子デバイスの生産設備の減損損失で301億円、海外拠点の再編などで8億円、さらに業績修正に伴う繰延税金資産取崩で610億円の合計1,754億円の追加費用処理を実施したことが要因となっている。

通期部門別売上高通期部門別営業利益

 部門別では、エレクトロニクス機器の売上高が8月公表値に比べて、100億円増の1兆3,100億円、営業利益が10億円減の360億円。そのうち、AV・通信機器の売上高は200億円増の7,100億円、営業損失が20億円増のマイナス150億円の赤字。

 健康・環境機器の売上高は100億円減の3,100億円、営業利益は10億円増の330億円、情報機器の売上高が据え置きの2,900億円、営業利益が40億円減の180億円とした。

 電子部品は、売上高が400億円減の1兆3,800億円、営業損失が490億円減のマイナス1,640億円の赤字。そのうち、液晶の売上高が200億円減の8,800億円、営業損失が270億円減のマイナス1,320億円の赤字。太陽電池の売上高は300億円減の2,300億円、営業損失は40億円減のマイナス140億円の赤字。その他電子デバイスは、売上高が100億円増の2,700億円、営業利益が180億円減のマイナス180億円の赤字と見込んでいる。

 奥田社長は、「下期は、スマートフォン用の高精細中小型液晶や国内市場向け太陽電池などにより上期比で増収を見込んでいる。営業利益においては、上期の構造改革効果が見込まれ、第4四半期および下期トータルでの営業黒字化を目指す」とする一方、「第2四半期においては多額の追加損失を計上し、株主資本を大きく毀損することになった。前回の発表に続き、年間業績の下方修正を行なった点では、改めてお詫びする。事業構造改革を加速し、今後の収益確保を確実にすることが、現下の重要課題である。下期の営業黒字化、2013年度の最終利益の黒字化を必達目標として、全社一丸となって取り組む」とした。


■ 構造改革は順調。成長ドライバーは「IGZO」

 シャープの奥田隆司社長は、現在の同社に対する認識として次のように語る。

 「シャープは、多くの技術を持っている会社である。しかし、もっと技術の価値、資産をうまく回転させ、うまく収益に結びつけることができる、バイタリティのある企業にならなくてはいけない。PDCAをきっちりと行ない、決めたことをきっちりとやり、問題があれば、スビード感をもって、反省をしながら、軌道修正をしていく会社にしてきたい」とする。

 同社が目指すべき企業の姿として掲げているのが、新成長戦略とする「FUSION(融合)」である。

目指すべきイメージ

 FUSIONは、シャープが持つ技術力やデバイス開発力、商品企画力、販売チャネルなどの強みを生かして、部門の壁を越えて融合(FUSION)することを目指すのが基本コンセプトであり、これにより、世界の顧客の暮らしやビジネスを、より豊かで、より便利なものとし、感動を与える生活創造企業を目指すとしている。

 ここでは同社の事業を、健康・環境BU(ビジネスユニット)、デジタル情報家電BU、ビジネスソリューションBU、デバイスBUの4つのBUに分類。これらの技術、製品を活用し、グローバルへの展開やBtoBtoCやBtoG(公共)といった分野にも展開していくことになるとしている。

 「シャープは、なにで収益をあげるか。健康・環境や情報機器は安定的に収益をあげることができるが、規模が小さい。ひとつは、この規模をあげていくことが重要である。そして、なんといってもシャープの成長ドライバーとなり、これから収益を稼ぐのは、シャープのオンリーワン技術であるIGZOである。これについては、非常に多くのお客様から評価を得ている。IGZOには、タッチセンサーのスムーズな利用や、低消費電力化が図れることでのバッテリー寿命の長時間化を実現するという特徴がある。高精細化、フルHD化、500dpiといったようなものを実現しながら、省エネ化を図り、さらに進化を遂げていく。モバイルの流れにフィットした技術である。こうした技術同士をシャープのなかで融合させながら、新たな商品を作りだし、生活創造をする企業を目指したい。IGZOはシャープを救う独自技術である」とした。


前回公表値からの経営改善対策推進状況

 現在の主要分野における構造改革の進捗状況についても説明した。

 2012年8月2日に公表した経営改善対策では、4,000億円の対策目標を掲げたが、そのうち、大型液晶事業のオフバランス化については、1,100億円の年間目標をすでに達成。内訳は、SDP株式の鴻海グループへの一部譲渡で660億円、オフバランス化による借入金減少で440億円とした。

 在庫の適正化および固定資産の圧縮では、1,500億円の目標に対して、在庫削減で1,183億円、営業拠点や有価証券の売却で108億円の合計1,292億円を達成。また、設備投資の圧縮では、700億円の計画に対して375億円を達成した。

 第三者割当増資の669億円の計画については、まだ実行されていないが、「鴻海グループとの協議を継続しており、大型液晶や携帯電話などの事業協業は着実に進展している。実務ベースを含めて、私自身も先方のトップと意見交換をして、お互いの合意のもとで協議をしている。スピード感に問題があるということはない」などとした。

 これらの経営改善対策全体では、2,766億円を上期に達成しており、「年間目標に対しては約7割の進捗状況になっている」(奥田社長)と語った。

 また、AVシステム、ソーラーシステム、ディスプレイデバイス、通信システムといった主要事業分野における構造改革や、人件費削減や国内・海外子会社の固定費削減、不採算事業の縮小といったコスト構造改革、資産売却や、9月に主力2行によって設定された3,600億円のシンジケートローンなどによる資金の安定化、これらの着実に実行するための奥田社長を委員長とし、6つの分科会により構成する緊急対策委員会によるモニタリング体制の強化に取り組む姿勢をみせた。

 主要事業分野における構造改革では、「コア事業とノンコア事業を明確にし、いま抱えている課題を解決する」とし、AVシステムにおける事業モデルを従来の垂直統合から水平分業へとシフト。海外事業のオペレーションを抜本的に見直し、生産・開発・マーケティングの地産地消型へのシフトを図るほか、通信システムではIGZO技術を活用するなど、独自性を発揮した製品開発の促進、鴻海グループとの協業による新市場開拓に取り組む。

 ソーラーシステムでは、堅調な市場成長が見込まれる日本での体制強化のほか、収益性の追求を柱にした、セルおよびモジュール生産事業から、ソリューションビジネスへの転換を図る。また、大型液晶に関しては、「SDPへのオフバランス化による資産圧縮、稼働率向上が達成されており、足下では健全化してきている」などとした。

 ディスプレイデバイスについては、IGZO技術の優位性をベースに、大手顧客との関係強化をすすめ、「工場を最大限に活用して、需要を確実に捉え、収益拡大につなげる」と意欲をみせた。

主要分野における構造改革事業改善イメージ資金の安定化

 奥田社長は、AV・通信機器、太陽電池、その他電子デバイスの各事業をスリムな体質への転換へ図る「構造改革による黒字転換が必要な領域」と位置づけ、健康・環境機器および情報機器を「新カテゴリーの創出と海外展開強化による収益基盤の安定強化」とし、さらに、ディスプレイデバイスは、成長ドライバーと位置づけ、「ここは思い切り伸ばしていく」とした。

コスト構造改革

 また、コスト構造改革においては、2013年3月までに、約5,000人を削減する人員体制の見直しや、国内外の生産・販売体制の見直しにより、1,000億円以上の総経費削減に取り組むとした。

 さらに、現時点で、アセットライト化が順調に進んでいることを強調。2012年3月末に比べて、今年9月時点での棚卸資産は約2,000億円減少。総資産は約3,900億円減少したという。有利子負債は9月末の1兆2,060億円をピークに、来年3月には1兆250億円まで圧縮する考えを示した。

 奥田社長は、「新たな事業構造改革テーマについても引き続き検討を進めている。これらについては中期経営計画も含めて、2012年度中に改めて説明する」とした。

 鴻海グループとの協業が思うように進展しないなか、4,500億円規模の最終赤字への下方修正を発表したシャープが、果たしてどんな内容の次期中期経営計画を策定するのかが今後注目される。


(2012年 11月 1日)

[AV Watch編集部 大河原 克行]