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“音に包まれて”映画に没入。国内初「Dolby Atmos」を劇場で体験した
(2013/11/15 20:57)
既報の通り、ドルビーは劇場用シネマ音響技術の「Dolby Atmos(ドルビーアトモス)」を、11月22日より日本の劇場でも導入する。その第1弾が、TOHOシネマズが運営する千葉県の「TOHOシネマズららぽーと船橋」だ。
ドルビーアトモスの導入開始に先立つ15日、TOHOシネマズららぽーと船橋において、報道や関係者を対象とした説明会が開催され、デモ上映も実施した。
従来の倍以上のスピーカーで、“頭上の音”もリアルに
2012年4月に発表されたドルビーアトモスは、従来のチャンネルベースのミキシング方式と、オブジェクトベースのダイナミックなオーディオミキシングを組み合わせ、精密な音の定位や移動などを表現するほか、劇場内の位置に最適化した音場再現が可能となる劇場向けの音響技術。劇場では、サラウンドスピーカーに加えて天井のオーバーヘッドスピーカーを利用し、自然でリアルな音場を実現するという。詳細は、本田雅一氏による2012年の米国レポート記事を参照いただきたい。
国内での導入は、TOHOシネマズららぽーと船橋(千葉県船橋市浜町2-1-1)が初。同映画館は10スクリーン/約1,900席を備えるシネコンで、22日からの西館リニューアルオープンに伴い、従来の南館から移動して営業を開始する。
さらに、'14年3月20日に開業予定の「TOHOシネマズ日本橋」(東京都中央区日本橋室町2-2-1 COREDO室町2内)においても、導入することが決定。都内では最初の採用映画館となる。
ドルビーアトモス採用により従来と大きく変わるのは、数の多いスピーカーを活用して、音の移動や高低差などがリアルに感じられる点。例えば、今回オープンしたドルビーアトモス対応の「スクリーン4」は、スピーカーが左右に各9台、天井に9台×2列、前方に左右各2台とセンター、後方に8台の合計49台。これは、同映画館の従来のスクリーンに比べ倍以上とのこと。
また、このシアター4は、ドルビーアトモスの音響だけでなく、国内初という大型スクリーン「TCX」により映像も強化。TCXは、TOHOシネマズによる独自規格の湾曲型ラージスクリーンで、スクリーン4の画面サイズは壁の横幅ほぼ全てを使った縦約10m、横約19m。さらに、床や壁、天井、シートのカラーもダーク系に統一することで、スクリーン以外の光の反射を抑え、映像に没入しやすくした点も特徴としている。
今回、ドルビーアトモス対応の劇場で鑑賞したのは、既存の映画作品を編集し、内覧用に制作されたコンテンツ。約8分間という短いものだが、「パシフィック・リム」と「ホビット 思いがけない冒険」の見どころをピックアップした内容だ。
「パシフィック・リム」では、人型巨大兵器のイェーガーとKAIJUの戦闘シーンを視聴。視点が大きく移動するようなシーンでも音の定位がはっきり分かりやすいほか、イェーガーたちの周囲を飛ぶヘリコプターの移動も、映像と音がピッタリ合った形で聴こえた。音の定位だけでなく、金属同士の擦れる甲高い音や地響きのような振動音の迫力も存分に感じられた。
「ホビット 思いがけない冒険」では、洞窟の中で“どこからか聴こえてくる声”が、天井のスピーカー間の音の移動によって“本当にそこにいる”という存在感を増し、より不気味さを感じた。また、姿の見えないコウモリが頭上を飛ぶ様も、どこからどこへ飛んでいるかがちゃんと把握できる。こうしたリアルな音の定位の再現により、「個別のスピーカーから出る音」ではなく「劇場全体を包む」ようで、映像と音の一体感がより強まったと思える。短い時間ではあったが、ドルビーアトモスが持つ魅力の片鱗を体験できた。
スクリーンの「TCX」は、同規模の座席数のスクリーンに比べ大きさを約120%拡大したとのことで、“ほぼ壁いっぱい”に感じられる映像。床などをダーク系の色に統一したことにより、画面外に意識が行くこともなく、より作品に没頭できた。IMAXの横長とはまた違った臨場感だが、こうした作品が通常と同じ料金で鑑賞できるのであれば、採用劇場まで足を運ぶ価値はあると感じた。
なお、TOHOシネマズによれば、このスクリーン4の作品も他のスクリーンとチケットの料金は同じで、11月22日~28日までの間は、3D版の特別上映として、「スター・トレック イントゥ・ダークネス」と「パシフィック・リム」を、1,000円で鑑賞できる(3Dメガネを持っていない場合はプラス100円)という。12月13日からは、新作の「ゼロ・グラビティ」がこのスクリーンで上映される。
ドルビーアトモスで“制作者と観客をつなげる”
今回のイベントで挨拶したTOHOシネマズの瀬田一彦社長は、ららぽーと船橋のTOHOシネマズが、1988年に開業した当時を振り返り「シネコン(シネマコンプレックス)という形態が無かった時代に、邦画3社の映画が1カ所に入った、先駆けとなった先進的な映画館。今回新たな先進性を加えた」として、ドルビーアトモスやTCXの導入を紹介。既存のスクリーンについても、大画面のTCXスクリーン導入を順次拡大していくという。TOHOシネマズ ららぽーと船橋の支配人である長瀬暢宏氏も、「映画館ならではの体験をしてほしい」と期待を寄せた。
ゲストとして、米Dolby Laboratoriesから、Director,Market Development Cinema MarketingのStuart Bowling氏も登壇。「ドルビーアトモスは、世界で300スクリーン以上に採用されており、これからますます増えていく。この1年半で85の対応作品が作られた。ハリウッドからボリウッド(インドの映画産業)まで、世界中で高く評価されている。映画のストーリーテリングにとって、音は大変重要。アトモスによって、制作者と観客がつながって、ストーリーにどっぷり浸れる」と述べた。
なお、劇場がドルビーアトモスを導入するには、DCP(Digital Cinema Package)サーバーは、通常の2D/3D対応だけでなく、ドルビーアトモスにも対応した専用のサーバーを導入する必要がある。このサーバーに、制作会社が用意したドルビーアトモス向けにオブジェクトベースのミキシングを加えたリミックス済みの音声を入れて再生する形になる。
ドルビーアトモス対応映画の音声は、制作時に最大チャンネル数である64チャンネルを前提として作られ、そこから各スクリーンのスピーカー数などに最適化した形に変換して再生可能。これにより、劇場側は複雑な作業を必要とせず、各館に合った音声で聴くことができる。また、劇場ごとの音響測定をしなくても、広さやチャンネル数、座席数などをあらかじめ入力することで、それに最適化された形で再生できるという。前述のインフラ面さえ導入すれば、劇場としての運用に大きな違いは無いとのこと。今回のららぽーと船橋や、'14年3月オープンの日本橋に続き、既存のスクリーンや、他社の映画館についてもドルビーアトモスの対応拡大に期待したい。