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「'14年度は構造改革やりきり、TV事業を必ず黒字化」。ソニー株主総会、平井社長「変化へ対応遅れた」
(2014/6/19 14:26)
ソニーは、6月19日の午前10時から、東京・高輪のグランドプリンスホテル新高輪において、第97回定時株主総会を開催。平井一夫社長が、PC事業の売却や構造改革について説明すると共に、2014年度のテレビ事業黒字化に向け、強い決意を語った。
今年から来場株主へのお土産が廃止されたこと、ミニライブが行なわれなかったこともあり、出席株主数は4,666人。昨年は、1万693人と過去最高の出席数となったが、それに比べて約6割減となった。
また、開始から16分後には、議長を務めたソニー代表執行役兼取締役・平井一夫社長の事業施策説明時に、大きな声を出していた株主が、議長の指示に従わなかったとして退場を勧告する事態も起き、株主総会が終了するまで、平井社長は、何度も「ご静粛にお願いします」という言葉を繰り返すこととなった。
「2014年度は構造改革をやりきる」
午前10時からスタートした株主総会は、議長を務めたソニー代表執行役兼取締役・平井一夫社長の開会宣言に続き、代表執行役 EVP CFOの吉田憲一郎氏がソニーグループの2013年度連結業績報告を行なった。
吉田CFOは、エレクトロクス事業の課題などについても説明。「PC事業については厳しい業績が続いていた。業界全体が構造変化にあり、今後の市場成長が厳しいことから事業の収束と営業譲渡を決定した。アフターサポートを継続的に行なうとともに、事業譲渡がスムーズに行くようにしたい」としたほか、「課題事業である電池事業については、今後、スマホ、タブレット、ウェアラブルの需要拡大が見込まれる中で、リチウムイオン電池がソニーらしい製品を作るための原動力になると考えており、事業再建に取り組む」と述べた。
また、テレビ事業については、「2013年度も黒字化を達成できなかった。しかし、赤字額は2012年度の691億円から、257億円の損失へと改善している。コスト構造は確実に改善しており、今年7月の完全子会社化により、経営スピードを加速させ黒字化を実現する」とした。さらに、コア事業であるゲーム事業およびモバイル事業については、「昨年11月に発売したPS4が好調な売れ行きとなっており、2014年度も全世界で販売拡大する。また、モバイル事業では、販売台数の大幅増加、平均単価の上昇によって損益は大幅に改善し、ソニーモバイルコミュニケーションズは連結子会社化してから初めて黒字転換した。さらに、イメージング事業を中核となるイメージセンサーは、差別化技術としても他社に比べて先行している。ルネサス山形セミコンダクタ鶴岡工場を買収し、量産体制を整えた」とした。
一方で、「事業およびコスト構造を変えていく取り組みが十分でなく、遅れていた。これを解決するために、PC事業からの撤退や、エレクトロニクス事業の規模縮小を行ない、加えて事業内容の変化にあわせてコスト構造を変えていく。具体策としては、AV機器を扱っている販売会社のコストを、2015年度までに20%の削減し、本社固定費も2015年度までに30%削減する」と語り、「2014年度は構造改革をやりきる。社員一丸となって、スピードを緩めることなく、ソニーの変革に取り組む」と語った。
「2014年度のテレビ事業を必ず黒字化」
続いて、平井社長が今後の経営施策について約30分間に渡って説明した。
平井社長は、「私は社長就任以来、エレクトロニクスの再生を最重要課題と位置づけてきたが、エレクトロニクス事業の黒字は達成できず、大変申し訳なく思っている。だが、コア事業においては、成長の牽引役が出てきていると考えているが、これが赤字事業を埋めることができず、想定通りには進まなかったのが原因。変化への対応力がなく、スピードが遅れ、変化への打ち手が遅れた。だが、2014年度は構造改革をやりきる年。躊躇することなく、徹底して取り組む。目標を何度も修正したり、赤字を継続する体質を変える。何年かけて構造改革をやっているのか、という声も真摯に受け止め、構造改革は、来年度以降には先送りはしないという強い決意をもって取り組む。構造改革をやりきったあとには、自由闊達な社風のもと、新たな製品を生み出せる会社にしたい。ソニーを再び活力を持った会社にするためには、エレクトロニクス事業の構造改革、注力事業における重点施策への取り組み、新規事業の創出が大切であり、今日は、その点について話をしたい」と切り出した。
エレクトロニクス事業の構造改革については、まずはPC事業の売却について説明。「VAIOは、大切な事業であり、厳しい決断だったが、PC事業の収束を決定した。新たなVAIO株式会社によって、VAIOをご愛顧いただいてきた方の期待に応えてもらいたいと考えている。ソニーとしては、事業移行が円滑に進むようにしたい」と述べた。
また、テレビ事業については、「目標としていたテレビ事業の黒字化を達成できず、10年連続の赤字となった。これは大変重く受け止めている。新興国の成長鈍化、為替の影響などがあったが、こうした外部環境の変化に迅速に対応できなかったのが原因。継続性を持った事業とするため、コスト構造改革に取り組むのに加えて、4Kテレビによる付加価値の製品の投入、柔軟性のある運用を行なえる体質にする」と語りながら、「2014年度はテレビ事業は、必ず黒字化する。想定外のことがあっても、それに対応できる体質にする」と宣言した。
一方で、「エレクトロニクス事業に加えて、エンターテメンメント事業、金融事業もソニーにとって重要なビジネスであり、本業である。いずれ四半世紀以上に渡って行なっているビジネス。エンターテインメント事業と金融事業をさらに成長させ、エレクトロニクス事業を再生させることに力を注ぐ」とし、「エレクトロニクス事業におけるゲーム、モバイル、イメージングの3つのコア事業は厳しい環境にあるが、いずれもイノベーションを起こし、独自の顧客価値を提供できると考えている。とくにイメージセンサーと電池事業は、3つのコア事業を支える技術と位置づけている」と述べた。
また、ゲーム事業に関しては、「ナンバーワンの地位を維持し続ける」とし、「昨年11月に発売したPlayStation 4は、72の国と地域で導入。4月6日に累計700万台を突破した。また47タイトルのソフトウェアを投入して、2,050万本の販売実績がある。垂直立ち上げには成功した。今後は普及率をいかに伸ばすかが課題だ。今後はネットワークサービスの強みも発揮したい。PS4のネットワーク機能は日々進化しており、半分のユーザーが定額サービスであるプレイステーションプラスの加入者。ネットワークユーザーは、5,200万人以上の利用者があり、2013年度には2,000億円を超えるビジネスに育った。ネットワークサービスは、安定した収益源であり、新たな楽しみ方を提案できるものになる。今年、プレイステーション事業の開始から20年目を迎えるが、ハード、ソフト、ネットワークを含めて、PS4は最大の利益を生むプラットフォームになるだろう」と語った。
モバイルに関しては、Xperiaシリーズの販売台数が計画には届かなかったものの、売上高では前年比50%以上の成長を遂げ、収益を500億円以上改善し、黒字化したことに触れ、「2014年度はさらなる利益拡大を見込む。モバイル事業は急激な市場変化、需要の落ち込みにどう対応するのかが鍵となる。リスクと背中あわせの事業であり、市場変化にあわせて、柔軟に事業プランを変えていくつもりである。また、最上位機種をタイムリーに市場投入する一方で、Xperiaをより多くの人に利用してもらうめたに普及価格帯の製品も投入する。リスクへの対応と成長戦略をしっかりと行なっていくことが大切だと認識している」と述べた。
イメージング事業に関しては、イメージセンサーとカメラの強みを活かす一方で、電池の強みも活かす姿勢を強調。「イメージセンサーの強みは確固たるものにしたい。また、電池事業ではスマートフォン、タブレットのほか、ウェアラブルに強みを発揮する形にしたい。ソニーには、『デバイスでソニーを変えていく』という言葉がある。デバイスによって、ソニーらしい新たな製品、サービスを生みだす」と語った。
「イノベーションを生み出すソニーのDNAは健在」
新規事業に関しては、「ソニーの社員には、新たな製品への創造意欲と実力がある。そこにおいて、チャレンジする場を作るのが私の役割。既存の技術の枠や、事業の枠を超えたものを創出することも必要である。それを推進するための組織も作った。挑戦する意欲を持った若い技術者は、新たなソニーの原動力になる。ここから将来の柱になるものがでることを期待している」とした。
さらに、平井社長は、「2014年度にやるべきことをやり、結果を出さなくては、中長期の戦略を進めることはできない。私の責任として、2014年度の構造改革はやりきる。そして、2015年度には、エレクトロニクス事業の収益基盤を高めていく」と述べ、「ソニーがソニーらしくあるためには、感動をもたらす製品、人々の好奇心を刺激する製品を作りつづけなくてはならない」と語った。
ここで、平井社長は、6歳のときに父親と遊んでいる際のモノクロの写真を表示。「私の祖父も父もソニーのファンであり、多くのソニー製品を持っていた。この写真も右端に写っているのは、ソニーのオープンリール式テープレコーダ。私の笑い声を録音しようと、父が私をくすぐっているところ。この時、自分の笑い声が録音され、再生されるということに大きな感動を覚えた。その後も様々なソニーの製品によって、好奇心は刺激を受け、心を揺り動かした。ユニークであり、刺激を与える製品を、ソニーは作り続けなくてはいけない」とする。
さらに、コンパクトデジカメの「RX100」について触れながら、「最新のRX100III(RX100M3)では、開発チームに対して、サイズは一切変えず新たな機能を盛り込むように要求した。新たな機能を追加するとサイズは大きくなるものだが、私はソニーのエンジニアの可能性に賭けた。その結果、RX100IIIでは、サイズを変えずに、ポップアップ式電子ファインダーを内蔵してみせた。イノベーションを生み出すソニーのDNAは健在であり、エンジニアの底力を感じた。若い社員に対しては、お客様の視点でモノづくりをするように言っている。また、SONYという4文字をつけることができる製品になっているかどうかということを考えてほしいといっている。自由闊達な社風と精神は持ち続けていく。試練の時期であるが、構造改革をやりきることで、驚きと感動を与えるソニーの新たな道ができあがる」とした。
「エンターテインメント事業の分離や、上場の考えはない」
午前10時40分過ぎからは株主からの質問を受け付けた。
今回の株主総会における平井社長の発言に対して、「がったりした」という株主の質問に対しては、平井社長が直接回答。「テレビ事業が10年間赤字だったことについては、もっと早く迅速に対応し、積極的に踏み込んで対応することができなかったことは、重く受け止めている。PC事業については、撤退しなくてはいけないと判断し、すぐにディシジョンした。繰り返しになるが、今年度中に構造改革はやりきり、来年度は成長戦略に持って行くことが、経営陣の最大のチャレンジである。商品軸では、まだやらなくてはやらないことは沢山あるが、ここ2、3年、ソニーのエレキの製品はよくなってきたという評価もある。これは攻めの部分であり、苦しい中かでもエンジニアとともに取り組んでいく」と回答した。
また、今回の説明に対して「夢がない」という質問に対しては、「新たな技術や、新たな商品を投入していくことに取り組む一方、まったく違う領域にどう出て行くかも大切である。そのための組織を1年半前から動かしている。私が見た新たな技術を急いで製品化したものもあり、そのひとつが、「LifeSpace UX」において活用した4K超短焦点プロジェクタである。白い壁のあるところであれば140型以上のサイズで、4K画像を見てもらえる。壁が窓になるような提案にもなる。いままでの軸とは違う部分にもおいて、市場性はまだないかもしれないが、そこにも果敢にチャレンジしていくことが重要である」と述べた。
テレビ事業のコスト構造については、今村昌志業務執行役員SVPが回答。「テレビ事業においては、設計業務に関するコア領域に、エンジニアを集中し、ソニー以外が到達できる技術からは人員をシフトした。設計部門は、モノづくりの近くにあることが、イノベーションを起こしやすい。現在、テレビの生産拠点は、マレーシア、上海にあるが、東京・大崎の本社設計部門と連携を取るべく、マレーシア、上海の側に移り、一緒に設計を行なっている。物流に関しても改善を行なっており、大きなパネルのままで複数箇所を輸送するのではなく、設計部隊が製造拠点の近くいることで、大きなパネルの段階で、付加価値を付けるといった施策を取っている」と説明した。
また、ウェアラブル機器に製品化については、「電池の視点から差異化していくなかで、ウェアラブル機器に取り組んでいく。脈拍や睡眠状態を測るもの以外にも、体に身につけるものを開発している。電池を含めた形で、ウェアラブルを成長領域だと考えている」と述べた。
さらに、2012年のInternational CESで披露された「Crystal LED Display」については、「数年前のCESで参考展示したが、その後も新たなディスプレイのあり方は研究開発している。4Kテレビに代表されるように、黒の抜け、赤の表現力など液晶の性能が格段に向上している。今後も液晶は重要なデバイスである」などと述べた。
競合他社との差別化策については、平井社長が発言。「スマートフォン、テレビ、デジタルイメージングでも強い競合他社がいる。ソニーグループとしてどう戦っていくかを議論している。ソニーはモノづくりの会社。いかに強いモノづくりをやっていくか。他社に負けない商品を出していくことが大切である。テレビには、「X-Reality PRO」などのソニー独自の技術を搭載しているのもそのひとつ。また、ソニーグループとしてコンテンツの資産を生かしたネットワークサービスによって、新たな体験を届けることができるかが、ソニーの差別化になる」とした。
PCの故障が多発していること、修理に2週間かかるといった問題についての質問には、品質担当の加藤滋業務執行役員SVPが回答。「設計段階から長期使用に耐えるような品質を維持するための検査を行い、出荷する製品は1台ずつ出荷確認を行っている」と説明。平井社長は、「VAIOビジネスを収束することは大変残念であるが、これまで販売してきたソニーのVAIOは、日本、海外を含めて、ソニーが責任をもってアフターサービスおよびアップグレードを行なうことになる」と語った。
ソニーが、基幹技術のひとつとするイメージセンサーの進化については、「他社に比べて最先端の技術を常に搭載している。感動をもたらす画づくりを行なってきたのがソニーのイメージセンサー。今年はより高感度なセンサーが完成し、ソニーのカメラとなって登場してくる。ぜひ期待してほしい。技術の進化は、解像度、感度に加えて、スピードという観点がある。今後は動画で撮影することも増え、スーパースローモーションを活用することもある。ここが競争軸になってくる」と鈴木智行執行役EVPが説明。さらに平井社長は、「新たな高感度センサーを搭載したα7Sは、すばらしい体験ができる。今後は、人間の知覚を越えた新たな世界を提供していくことがテーマになる」とした。
エンターテインメント事業の分離については、「少数株主が入ると、当社の思い以外にどんな意見が出てくるのかといった対応も行なわなくてはならず、意思決定のスピードも落ちる。エレクトロニクス事業との連携、オペレーションの観点、利益貢献からも、エンターテインメント事業の分離や、上場の考えはない」(平井社長)とした。
PlayStation 4のソフトウェアのラインアップが少ないという点については、ソニー・コンピュータエンタテインメントのアンドリュー・ハウス社長が回答。「日本国内における日本発のソフトウェアについてはもっと開発すべきとの認識がある。だが、欧米では、PS4の開発に投資をしているメーカーによって、多くのすばらしいソフトウェアが登場している。ソニーには、人気ソフトウェアのひとつとしてKnackがあり、このキャラクターを大切にしていきたい。かつてのソフトウェアのなかでも、多くのユーザーが愛情を持っているキャラクターを、PS4のなかで体験してもらうようにしたい」と述べた。
ソニーの従業員が増減していることがイノベーションにどう影響しているのかという点については、「エレクトロクス事業における技術者は大事な資産であり、その成果が市場に出て、お客様に喜んでいただくことが大切である。だが、社内で新たなアイデアが発表されるが、商品につながらないのではモチベーションが落ちる。新たな組織によって、そうしたことがないようにしたい」と平井社長が発言。藤田州孝執行役EVPは、「技術者の採用、育成は極めて重要であると考えている。若いときからチャレンジすることができるということをソニーのなかに再び作り出す。この2年で18,000人近くの社員を削減し、そのうちエンジニアは数1,000人になる。だが、流出があってはいけない技術者はリテンションしている。人材こそ、ソニーの成長を維持する全てである」とした。
なお、第1号議案の取締役12名選任の件、第2号議案のストック・オプション付与を目的として新株予約権を発行する件については、いずれも可決された。午前11時39分には終了した。
また、来場株主へのお土産については、「本年より」と表記しており、来年以降も廃止を継続する考えを示している。