ニュース

東芝、'16年度に過去最高売上高へ。経営方針説明

TVなど構造改革推進。ウェアラブルディスプレイ開発中

東芝 代表執行役社長の田中久雄氏

 東芝は22日、2014年度経営方針説明会を開催し、2016年度には、売上高7兆5,000億円、営業利益4,500億円、純利益2,000億円を目指す計画を公表した。

 田中久雄社長は、「創造的成長を着実に推進し、2014年度には過去最高営業利益を達成させ、2015年度には過去最高純利益を達成する。そして、2016年度には、2007年度の7兆6,681億円を超えて、過去最高売上高を目指す。目標は7兆5,000億円だが、この中期経営計画は必ず達成する目標として、さらなる積み上げを指向したい」とした。

2013年度の業績概要
'14年度、'15年度、'16年度の目標。2016年度は、過去最高売上高を目指すという

 さらに、「これまでの公表してきた見通しは、毎年大きく変わるものだった。また、計画を達成しなかったということもあった。だが、2013年度実績では期初計画を上回り、期中の上方修正値もクリアしたように、打ち出した数値は必達する。今回発表した見通しも必達値として明らかにしたもの。利益はさらなる積み上げを狙う。余程の環境変化が起こらない限り、この数値は変わらない。来年の経営方針もこの数字をもとにお話しすることになる」と、公表値の達成に強い自信をみせた。

 2016年度には、電力・社会インフラ、電子デバイス、コミュニティ・ソリューション、ヘルスケアの各事業グループが、ROS(Rate of Sales/売上高利益率) 5%以上を目指すことを示す一方で、映像、家電事業を担当するライフスタイル事業グループでも、現在の赤字体制を脱却させ、「将来はライフスタイル事業グループを含むすべての事業グループでROS 5%以上を目指す」とした。

TV/PC/白物のライフスタイル事業グループは構造改革推進

 一方で、ライフスタイル事業グループは引き続き、構造改革を進める姿勢を示した。

ライフスタイル事業グループは構造改革を引き続き進めるという

 2013年度連結業績によると、ライフスタイル事業グループの売上高は前年比3%増の1兆3,138億円、営業損失は前年に比べて87億円悪化し、マイナス510億円の赤字。テレビ事業とPC事業は、通期で赤字となっている。

 東芝は昨年度、構造改革への取り組みを行なってきた。

 具体的には、テレビやPCをはじめとする映像事業と、白物家電事業とを統合し、ライフスタイル事業グループを新設。テレビおよびPCの事業構造改革として、対前年比100億円の固定費削減を実行。さらにテレビの海外生産拠点である中国の大連テレビジョンの終息、欧州の東芝テレビ中欧社の売却を行なってきた。

 「2013年度を振り返ると、白物家電はコスト力、商品力の向上を図り、下期は黒字化を達成し、それまでの赤字体質から脱却した。今後ROS 5%以上を目指す。映像事業も第3四半期には黒字化したものの、第4四半期は赤字となった。だが、下期は上期に対して大幅な損益改善を図っている。年間100億円規模の固定費削減効果もあり、映像事業は体質的には黒字化に目処がついてきたと考えている。だが、PC事業の構造改革はまだ十分とはいえない。一番の課題である」とした。

 PC事業に関しては、BtoB事業へのシフトを打ち出す。

 「PC事業は、下期は上期に比べて赤字幅は半減したが、まだ厳しい状況が続くと考えている。PC事業はBtoB強化により確実な収益体質の転換に取り組む考えである。バラつきの大きいBtoCでは、数や金額を追わない体制にシフトし、無理なビジネスはしないようにする。店舗に入れても、売れないと、その在庫の処分にするための費用が発生し、これが利益を圧迫する。将来的には、半分以上をBtoBにしたい。PC事業は、もう一段、聖域なき構造改革に向けて取り組むことを考えている。固定費の削減、商品ラインアップの変更、地域のポートフォリオの変更を含めた構造改革を予定し、ロスを出さない体質へと変える。そこにメスを入れる」と述べた。

 ライフスタイル事業グループでは、2014年度に1兆3,000億円の売上高を、2016年度には1兆4,000億円の売上高に拡大。「テレビ、PC、家電のすべての事業を黒字化する。日本およびアジアでのブランド力を生かし、とくに新興国を中心とした収益力強化を図る」と語り、開発リソースの増強や、ローカルフィット商品や差異化した商品の継続投入、家電と映像事業の連携によるミャンマーやカンボジアなどの新規市場への展開、アジア・中東への注力、重複機能の整理に取り組む考えだ。

 全社で過去最高の業績を掲げるなかで、収益性という観点では、最も厳しい状況にあるのがライスタイル事業グループだが、田中社長は、今後も、家電事業、テレビ事業、PC事業を継続する姿勢は崩さない。

 「とくに、テレビ事業、PC事業は厳しい事業である。撤退は簡単だが、黒字である限りやめる必要はない。テレビ、PCで培った様々な技術が、他の事業グループの商品に活用できる価値は大変大きい。赤字事業であれば継続する意味はないが、必ずテレビ事業、PC事業は黒字化を目指したい。PC事業も本年度黒字化を目指す。PC、テレビを単体でみるのでなく、様々な技術が、東芝グループのなかの製品、サービスに有効な技術となるように、事業を継続していきたい」と語った。

ヘルスケア事業は「2016年度までの成長領域」

 一方、電力・社会インフラグループでは、2014年度の売上高2兆円を2016年度に2兆3,000億円とする計画を打ち出した。低炭素化への取り組みのほか、海外事業の強化、原子力事業の収益の安定化などに取り組む。電子デバイス事業グループでは、2014年度の1兆7,000億円を、2016年度に2兆2,000億円にする計画とし、サーバー・ストレージにおけるフラッシュ化の進展により、エンタープライズ領域への取り組みを強化。ディスクリートおよびシステムLSIでは、これまでの国内および民生向けという体制から、海外、車載、産業、通信をターゲットにするという。さらに、NAND型メモリでは、物理的限界といわれる15nmの世界最小クラスのNAND型メモリの量産化に踏み出す。

 ヘルスケア事業グループでは、「2016年度までの成長領域」(田中社長)と位置づけ、2014年7月1日付けで、グループ内の関連事業を統合。ヘルスケア社を発足。2014年度の4,400億円に対して、2016年度には7,200億円の売上高を計画。画像診断事業では世界トップ3、CTでは世界1位を目指す。そのうち、新規ヘルスケア事業として、2016年度には1,900億円を計画。タブレットを利用したシニア向け在宅サービスの提供なども計画している。

 コミュニティ・ソリューション事業グループでは、2014年度の1兆4,000億円の売上高から、2016年度には1兆6,000億円を目指す。新興国での社会インフラ事業展開や、36プロジェクトの実証実験ノウハウを生かした、スマートコミュニティの実業化へを踏み出すといった取り組みを加速する。

ヘルスケア事業グループ、'13年度の実績と成果
ヘルスケア事業の成長戦略。画像診断事業では世界トップ3、CTでは世界1位を目指す

 また、リテール事業に関しては、POSグローバルナンバーワンの顧客基盤を生かしたソリューション事業を拡大。オムニチャネル対応ソリューションに取り組むという。

 また、ニュー・コンセプト・イノベーションへの取り組みとして、中赤外レーザーQCLやインフラヘルスモニタリング、植物工場、バーチャル試着システム「Coordinate Plus」といった仕組みを紹介。Coordinate Plusは、ラゾーナ川崎のKakimoto armsでの実証実験を行ない、2014年度下期の実用化を目指すことを示したほか、インフラヘルスモニタリングでは、メガネ型のウェアラブル・ディスプレイを実際に装着し、「これはグラスレス3D技術を応用しており、視線を遮るものがなく、図面や作業手順を見ながら作業ができる。実用化のハードルはあり、実用化の時期は決めていないが、社会インフラ用途を中心に活用していくことを検討している」と述べた。

ニュー・コンセプト・イノベーションの進捗状況。ウェアラブルディスプレイも開発中
高精度な人体検出技術や体型フィッティング技術を用いて、バーチャル試着を実現する「Coordinate Plus」
開発中のウェアラブルディスプレイを装着した田中社長。保守点検補助ツールとしての使い方が想定されている

 さらに、M2M技術の活用によって防災、交通、インフラ・機器保守、ヘルスケア、エネルギーマネジメント、リテールへの展開により、Human Smart Communityの実現に取り組む方針を示したのに加えて、水素を軸とした次世代エネルギーインフラ事業の強化に取り組み、「2020年の東京オリンピックの開催時には、日本のエネルギーインフラの先進性を世界に発信したい」と語った。

生産性向上プロジェクト「プロジェクトGAIN」

 さらに同社では、生産性向上プロジェクト「プロジェクトGAIN(Globl Action Innovative Enterprise)」を今年度から実行したことに触れ、「調達、生産、物流、品質、営業、開発、人的生産性、間接業務・拠点というすべての領域で、ゼロベースからプロセスを見直し、総コストの最適化、資源・資産の有効活用により、3年間で3,000億円の効果を創出する」と語った。

 また、海外売上高比率を2016年度までに63%に引き上げ、「外国籍従業員を、現在の9万人から、2016年度には10万人に、海外法人トップの現地化は現在の61%から、66%に高めたい」と語った。

生産性向上プロジェクト「プロジェクトGAIN」を今年度から実施
海外売上高比率を2016年度までに63%に引き上げ

 東芝の田中久雄社長は、「エネルギー」、「ストレージ」、「ヘルスケア」を3本の柱に位置づけており、その姿勢は依然として変わらない。

 「成長のエンジンは、バリュー・イノベーションと、ニュー・コンセプト・イノベーション。そして、アライアンスやM&Aは、ヘルスケア、ストレージ、エネルギーに重点投資を行なっていく。また、プロジェクトGAINで追加的資金創出を図る。稼ぐ力の向上と、効果的な投資判断でキャッシュを創出し、創造的成長と財務体質強化の両立を図る」と語った。

プロジェクトGAINで追加的資金創出を図る
ヘルスケア、ストレージ、エネルギー、3つの柱へ集中投資を行なう

 さらに同社では、5月22日付けで、「Human Smart Community」という新たなメッセージを発信。「人を第一に考え、安心、安全、快適な社会を実現する。そのためには、モノという製品売り切りの手法から、価値を提供する『モノ+こと』によって、お客様の課題解決を図る。製品とサービス、製品とセンサー、製品とICTの組み合わせで、新たな社会の実現を目指す」とし、「新たな“Lifenology”という造語を作った。ライフとテクノロジーを組み合わせた言葉であり、人々の豊かな生活を、モノとことによって生み出す」などとした。

新たなメッセージは「Human Smart Community」
製品売り切りの手法から、価値を提供する『モノ+こと』へ

(大河原 克行)