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「JASRACの健全な対抗軸に」。著作権管理新会社NexTone
イーライセンスとJRCが合併。新規参入を阻害しない
(2015/12/17 20:12)
著作権管理業務を行なうイーライセンスとジャパン・ライツ・クリアランス(JRC)の2社が合併し、2016年2月1日から株式会社NexTone(ネクストーン)として運営する。日本における音楽著作権管理は、現状JASRACの独占状態だが、NexToneは、ITの進化による著作権者の広がりや、ユーザーの楽しみ方の多様化に即して著作権管理を進化させ、「健全な対抗軸を目指す」という。
9月にエイベックス子会社のエイベックス・ミュージック・パブリッシング(AMP)が、イーライセンスに加え、JRCの株式を取得。事業統合に向けて協議を進めると発表していたが、今回、合併日や合併後の体制、新社名が決定。運営方針の概要などが紹介された。存続会社はイーライセンスで、代表取締役社長にはAMPとイーライセンスでの阿南雅浩社長が就任。会長はイーライセンスの三野明洋会長が、代表取締役COOにはJRCの荒川祐二社長が就任する。
NexToneの社名は、「次の音」のほか、New、Nippon、exchange、Togetherなどの意味を込めて命名。録音権、貸与権、出版権、放送、インタラクティブ、カラオケなど、著作権における11の支分権のうち、ライブハウスや店舗でのBGMなどの演奏権等を除く、10の支分権・利用形態の管理を行ない、数年内に全ての支分権・利用形態の管理開始を目指す。
エイベックス楽曲は原則NexToneへ。JASRACへの健全な対抗
両社は、JASRAC(日本音楽著作権協会)以外の著作権管理業務参入が認められた、2002年に事業を開始し、イーライセンスは、インディーズやゲームに強みを持ち、JRCは主にミュージシャンやアーティスト、アーティストマネジメントの立場から著作権管理事業を行なってきた。しかし、現状の取り扱い楽曲数は両社をあわせても10万程度でシェアは約2%。300万曲を超える管理楽曲を扱うJASRACに対して、大きく水を空けられている。
NexToneの新社長に就任予定の阿南雅浩氏は、両社の現状を「委託される権利者には、細かなサービスで支持を頂いている」としながらも、著作権委託者のAMP社長としての立場から考えると、「やはりJASRAC一社独占でのきしみ、不具合を感じており、健全な対抗軸が必要と考えていた。AMPが持つ10万曲や、年間3,000~4,000曲の新曲、そしてソニー・ミュージックやユニバーサル・ミュージックが、そこに半分でも1/4でも参加してもらえれば、真の意味での競争を展開できるのではないか」と、統合の理由を説明した。
ただし、統合後も2017年3月までは、イーライセンス事業部と、JRC事業部の2事業部制で運営される。これは、著作権管理業務における、著作権者との「著作権管理委託契約」と、テレビ局やレコード会社、配信事業者など利用者との「利用許諾契約」が2社において異なっているため。各種規定や契約を移行期間中に調整し、各権利者/利用者との説明や再契約を経たうえで、新会社2017年4月からNexToneに完全統合する計画。
阿南氏は、新会社の手応えとして早期に「シェア10%はいける」と説明。エイベックス ミュージック パブリッシングの10万曲の楽曲も新会社に移管する考えだ。
ただし課題もあるという。「JASRACに委託している10万曲を新会社に移しているが、委託先変更は、JASRACの約款上、3年に1回しか認められていない。年内が期限だがそれまでに、全ての権利者、共同出版社の署名捺印を集めて、12月28日までに提出しなければ、来年4月からの委託先変更がなされない。しかし、準備などが遅れ、同意を集める作業が始まったのは11月半ばから。書類を送って署名捺印して返してくださいという、乱暴なやり方で反省しているが、現時点で戻ってきているのは3,000曲程度。年末までに動かせる楽曲は5,000曲くらいと見込んでいる。次の3年を待つのか、あるいはJASRACさんに協力をお願いしたり、文化庁、文科省との相談の上で進めていきたい。ただし、JASRACのルールが悪いというわけではない。JRCもイーライセンスも似たような規約になっている」と語った。
また、委託先変更については、演奏権は新会社でも扱えず、権利者としてはJASRACと2重の管理が必要になるなど、手間が発生するという声や、放送も取り扱い始めたばかりで、「まだJASRACのほうが安心」という声もあるとのこと。こうした権利者への説明を続けていくという。
一方、強みとしては、著作権管理業務以外の周辺ビジネスとの連携をあげる。例えば、デジタルコンテンツ流通や販売プラットフォームの提供、ライブビューイング時のキャスティングを含めた提案、社内の権利処理や出金処理などの各種印税管理・計算システム込みの請負など、JASRACではできない付帯サービスも含めて、NexToneへの支持を呼びかけていく。
JASRACに代わる団体の必要性について、JRC社長でNexToneのCOOに就任予定の荒川祐二氏は、「透明性、柔軟性を強く意識し、デジタルテクノロジに積極的に対応していく」点を強調。阿南氏は、映像配信サービスの「dTV/BeeTV」や音楽配信の「UULA」に関わった経験を語り、「ストリーミングの料率が決まるまで2年半かかった。アーティストに、対価を幾ら支払えばいいのか。10%か、3%かがわからないと、ブレイクイーブンポイント(損益分岐点)が決められず、経営企画として成り立たない。『料率が高い』より『決めない』ことが一番困る。利用規定が、新たな音楽への参入を阻害してはならない。ライブビューイングでも同様に、支払額が決まらないため、入場料やアーティストへの還元額が設定が難しかった」と語り、NexToneではより柔軟に対応できることと、NexToneという対抗軸ができることで、JASRACの対応が柔軟になることへの期待を語った。