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オーテクの“白鯨”風新本社ビルが完成。ヘッドフォンなどが生まれる現場に潜入
(2016/1/12 20:37)
オーディオテクニカは12日、東京都町田市の西成瀬に新たに建設した新本社ビルを報道陣に披露。ヘッドフォンなど、同社製品の開発に利用する無響室などの施設も公開した。
新本社はJR横浜線の成瀬駅から徒歩15分ほどの場所(町田市西成瀬2-46-1)にある。成瀬街道に面しており、付近には成瀬事業所、特機工場、特機東京営業所などもある。同社は1962年に新宿で創業、1965年に成瀬へと本社・工場を移転。それ以来、この地に本社があったが、それを新たに立て直したものとなる。古くはレコードのカートリッジ、現在ではデジタルオーディオの時代に向けてヘッドフォン/イヤフォン、マイク、さらには寿司メーカーなどの業務用機器もここから生まれている。
地上5階建てで、敷地面積は5,327.84m2(1,612坪)、建築面積は2,719.24m2、延べ面積は6,838.16m2。建物は成瀬街道に面した側は背が高く、背後に向かって低くなっていくユニークな形状で、スピーカーのホーンユニットのように見える。
設計時のコードネームは「MOBY DICK」(白鯨)。確かに白いクジラのようにも見える。メインの建物の両脇に、食堂と設備ヤード用の2つの建物があり、計3つの建物で構成。これら2つは、メインの建物とは逆に、街道に向かって背が低く傾斜した屋根になっている。
また、本社の敷地自体にも奥に行くにしたがって3mの高低差があり、丘陵地帯である成瀬の地の特徴をデザインに取り入れた設計になっているのが特徴。設計は、早稲田大学の赤坂喜顕研究室が担当、設計施工は竹中工務店が手掛けている。
デザインの目標は、「国際レベルでのグローバルな展開を加速するオーディオテクニカの新たなフラッグシップを象徴する、美しく快適で生産性の高い、創造環境空間の創出」。ワークスペースの交流などの機能性や、光、風、地形といった敷地固有の要素を活用する技術性、旧建物の遺産を保存・再利用するなどした芸術性も方針として掲げ、基本設計に4カ月、詳細設計6カ月、'14年10月に着工し、今年の1月に完成。5年の歳月がかけられている。
建物の街道に面した側には事務室や会議室などを用意。逆側には製品開発を行なう技術系のルームと電波暗室などの設備がある。それを繋ぐような中央部分には、「LIGHT COURT(光庭)」と名付けられた太陽光がふんだんに降り注ぐスロープや階段がある。屋根には光を取り込む窓のような「スカイライト」が複数設けられ、LEDの照明と自然光を巧みに活用しているという。なお、営業部や広報部は 東京都文京区湯島のテクニカハウスにある。
技術部が入っているゾーンの奥には、部屋中に巨大な吸音材を貼り付けた無響室がある。壁だけでなく、天井と床、ドアの裏にも吸音材があり、床の代わりに音を透過するアミのようなワイヤーを張り、その上を人間が歩いたり、測定する機材の設置に利用する。
部屋のどこにも音が反射しないため、反射音の影響を受けずに、製品がどんな音を出しているか、また、開発しているマイクがどのように音を拾う能力があるかといった要素を検証できる。様々な製品で利用するため、利用のための予約は常に一杯の状態だという。
3m法電波暗室も製品開発に欠かせない設備。開発している製品がどのような電波を出しているか、規制されている電波を出していないかなどのチェックが行なえる。従来は、設備をレンタルしていたが、自前の電波暗室を持つ事で、より素早い製品開発にも貢献できるという。
シールドルームは電波暗室と異なり、周囲に存在する電波をカットした部屋の事。ワイヤレスで音声を伝送するマイク開発時などに、周囲の電波に惑わされずに、製品がキチンと機能するかをチェックできる。部屋に入ってみると当然ながら、スマホのアンテナは圏外になった。
事務室や技術者の執務室を含め、本社内部はフリーアドレスになっており、個人の決められた椅子と机はない。その日その日で、働きやすい場所で柔軟に働く形となっており、私物はロッカーに入れ、机の上に私物は置かないシステムだという。
エントランスには、創業者の松下秀雄氏が集めたという歴史的な蓄音機などが並ぶギャラリーを用意。会議室にも、松下秀雄氏が集めたアンティークの照明やガラスのレリーフなどが使われている。これらは取り壊す前の本社ビルの会議室や食堂などに使われていたものを再利用したもの。
オーディオテクニカと言えば、オーディオ機器だけでなく、寿司メーカーなどの食品加工機器、半導体や液晶パネル製造などにおいてホコリなどを除去する産業用クリーニング装置「テクニクリーン」も手掛けている。そうした機器が設置された特機ショウルームも用意している。