ミニレビュー
finalで10万円未満の密閉型有線ヘッドフォン「DX3000 CL」を聴いた。深い低域と広い空間表現が魅力
2025年12月16日 08:00
finalから登場した密閉型ヘッドフォン「DX3000 CL」。有線のヘッドフォンでは開放型ヘッドフォンを多く手がけているfinalでは久々の密閉型。そしてダイナミックドライバーを採用したDXシリーズから、10万円を切る79,800円で登場したこともあり、とても気になる。
DXシリーズでは、軽量かつダイナミックドライバーながら平面駆動型を思わせる高精細な音が特徴の「DX6000」が登場しているが、こちらは価格が248,000円。この価格差などを考えてもおそらく完全に別物なのだろうという予測はしつつ、さっそくお借りしてその音を体験してみた。
見た目はゴツいけど、装着感はふんわり軽め。音響フィルターも低反発素材!?
まず外観を見てみると特徴的なのはイヤーパッド。厚さ30mmで柔らかく、指で押すと沈み込むのだが、これが低反発素材になっている。眼鏡を掛けていても、ツルの部分を巻き込んでフィットするのだが、顔の方に押しつけられるのではなく、イヤーパッド側に沈み込んでいるため、痛くなりにくい。
側圧は大きなイヤーパッドが分散してくれるので、装着感も軽め。頭の形状に合わせてピタッと良い感じのところに収まってくれるような形で、これがけっこう心地良い。
あえて気になる点を挙げるとしたら、耳元に熱が篭もること。冬の今頃に時期であれば問題ないのだが、夏場も室内で普通にヘッドフォンを使う筆者でも、ちょっとこれは厳しそうだぞと思ってしまった。
そして面白いのがイヤーパッドの内側。ドライバーがある付近が低反発のクッション素材になっている。
一般的なヘッドフォンは、音が出るドライバーの前にバッフルが配置され、そこに音を通しやすくするため、メッシュの布などが貼られている。そのため、奥にあるドライバーの振動板が透けて見える製品も多い。
だが、DX3000 CLの場合は厚みのある低反発クッションが配置されており、思わず「これでは音がぼやけて聴こえるのでは??」と思ってしまう。しかし、この部分はしっかり音響フィルターとしての役割を持っているとのことだ。
開放型のような広い音場と量感たっぷりの低域、そして遮音性がすごい!!
早速音を聴いてみると、まず「これ本当に密閉型だよね?」と思うくらい音場が広い。自宅でほぼ毎日開放型のヘッドフォンを使っているのだが、それでなお、DX3000 CLの音を聴いてそう感じたくらい開放型のような自然な音の抜け方をしている。あのドライバー付近のクッション素材があっても全く問題ないようだ。
それでいて、特徴としている低域も量感たっぷりで全身を包むように響く。低域側に寄せられているような印象はなく、自然なバランスに感じる音とともに心地良く低域が響く。
finalの近年の有線ヘッドフォンは、平面駆動型のDシリーズが主軸になっていたこともあり、解像感が高く細やかな音まできっちりと再現する音がベースになっていた印象があるが、今回のDX3000 CLはそれとは少し異なっている。全体的な音が、深い低域とほどよく混ざりあった調和の取れた音になっている印象だ。
1曲1曲の満足感がしっかりと感じられるのに、そのままどんどんと聴いていってしまう。ゆったりとした聴き心地になっている。ソファに深く座って、のんびりゆったり聴いていたいような、ほっとする音だ。
「HACHI/ばいばい、テディベア(Acoustic Live)」では、ピアノの響きとHACHIの声の広がり方が、本当に開放型のヘッドフォンと相違なく感じる。とくにHACHIのボーカルが背後に広がっていくような感覚から、かなり広い空間に居るように感じられる。これに加えて、高域部分に刺激的な音が少ないので、音量を上げていくほど全身が包み込まれているような感覚で曲を楽しめる。
そして、DX3000 CLで試聴していて今回とくに気に入ったのが「連れ出してトロイメライ/MAISONdes[feat.ヰ世界情緒、弌誠]」。低域多めの打ち込みの曲なので、DX3000 CLの量感たっぷりな低域が曲全体で味わえるのだが、その中からヰ世界情緒のボーカルがフワッと浮き上がってくるのがクセになる。
とくに吐息たっぷりでささやくように歌い上げるシーンは、ささやく吐息感が生々しさまで感じるほどリアルで、その魅力をぐぐっと引き上げてくれているように感じる。
もう一つ特徴的なのが遮音性。有線ヘッドフォンなので、電子的なノイズキャンセリング機能はないが、厚めのイヤーパッドで耳が覆われるので、物理的な遮音性が高い。
これがなかなか強力で、付けて音楽を聴いているとまず声を掛けられても全然わからない。なんなら、ヘッドフォンを外すと周囲に音が響くような音量にしていても、装着すると音漏れがしない程。
一般的な密閉型ヘッドフォンと比較しても大分強力に感じる。ここまで遮音性が高いと、ボイスチャットなどにはあまり向かない。PCのオーディオインターフェイスに繫いで、自分の声が返ってくる設定にしておいても、話していて違和感があるので話しにくい。だがそもそもリスニング向けなので、音楽に没入できるという点でかなりのメリットだ。
ちょっと良いヘッドフォンを買ってみようかなと考えたときに、79,800円という価格は「ちょっと頑張れば買そう」という現実的なラインになっていて、ヘッドフォン自体がしっかりキャラクターも持っている。見た目の存在感もあって、所有欲も満たされるような、色々な意味で良いバランスの有線ヘッドフォンがfinalから登場したという点がポイントのようにも思う。
最近のfinalの有線ヘッドフォンは、安くても20万円台と、試聴して気に入っても「いつか買えるかな〜」という理想のヘッドフォンという感覚が筆者にもあった。DX3000 CLも決して安いわけではないが、店舗で試聴してみて、気に入ったら、ちょっと頭の片隅に入れて節約を始めるきっかけになるような存在だろう。






