小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1202回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

さらに解像度アップしたハイエンド機で、“本をスキャン”は次のフェーズへ。「CZUR ET MAX」

ライトスタンドっぽい外見の「CZUR ET MAX」

「本をスキャン」は次のフェーズへ

紙の書籍を裁断してデジタルスキャンする、いわゆる「自炊」といわれる行為のピークは、だいたい2011~12年頃だったようだ。当時は自炊代行サービスも存在したが、代行行為が法的に問題視されたことや、公式電子書籍の拡充によって下火になっていった。

一方で自治体では今年度までにデジタルプラットフォームへ乗るための標準化を終了しなければならないところだが、とりあえず「これから」はデジタル化するものの、「これまで」の紙をデジタル化していく必要がある。

社会がデジタル化・IT化されて久しいと思われているが、それはIT寄りの先端企業だけで、多くの中小企業は過去の紙の資産をどうするか、決着がつかないままになっているところも多い。紙のデジタル化は、いよいよ「ラスト1マイル」が始まるところと言っていいだろう。

そんな中で活躍するのがドキュメントスキャナーである。自炊時代に本の裁断が必要だったのは、ScanSnapに代表されるスキャナが、紙の束を自動でロードするプリンタタイプだったからだ。一方でデジタル化のために希少な本を裁断したくない、あるいは製本された状態でも保存しておきたいというニーズもある。

2013年に中国で創業したCZURは、書籍を裁断せずにスキャンできる、オーバーヘッド型スキャナを手掛けるメーカーで、これまでも2023年に「CZUR ET24」、2024年に「CZUR Fancy S Pro」をご紹介した。

そして今年はETシリーズの最高峰である「CZUR ET MAX」が登場した。現在Makuakeにて、12月23日までクラウドファンディング中だ。支援価格は33%OFFの99,860円で、一般販売予定価格は149,050円となっている。

2年ぶりの登場となるETシリーズの最高峰を、早速試してみた。

見た目はあんまり変わらないが……

2年前の「CZUR ET24」をご存じないの方も多いと思うので、ETシリーズのポイントを簡単に説明しておく。

外見はアーム固定のライトスタンドみたいな格好になっており、先端部分には下向きにカメラが設置されている。カメラ周囲にLEDライトが仕組まれており、スキャンするドキュメントを照らすという仕組みだ。

また真上からの照射では、光沢のある紙の場合はライトが反射してしまうので、斜め上からもライティングできるよう、アーム部に取り付けるサイドライトも備えている。サイドライトはマグネットによる着脱式だ。

サイドライトは着脱式

上部にはプレビュー用の液晶モニターもあり、単体で撮影範囲を確認できる。スキャンはUSB接続したパソコンのソフトウェアで行い、スキャン後にコントラスト補正やトリミング、OCRなどを行ったのち、Word、Excel、PDF、PNGなどのフォーマットへ出力できる。スキャン範囲はA3サイズまでだが、2枚を合成して1枚にするモードがあるため、実質A2までスキャンできることになる。

上部には確認用の液晶モニターもある
※出典 オーム社仕事ですぐに使える! DaVinci Resolveによる動画編集(小寺信良著 4,180円/ISBN978-4-274-22962-6)

スキャンはUSB接続のボタンで行えるほか、フットスイッチも付属している。またページをめくるだけで自動でスキャンするモードも備えている。

付属のハンドスイッチとフットスイッチ

背面にはパソコンとの接続用のUSB Type-B端子、映像出力用のHDMI端子、スイッチ類を接続するためのUSB Type-A端子がある。

背面の端子類

ET24とMAXの最大の違いは、カメラ解像度だ。ET24が最大24メガピクセル、出力解像度が最大5696×4272の約320dpiであったのに対し、MAXは38メガピクセル、出力解像度が最大7168×5376の約410dpiに拡大されている。

ヘッド部底面には、下向きのカメラとLEDがある

単純なテキストのスキャンだけであれば320dpiあれば十分読めるが、ルビなどの小さい文字もちゃんとつぶれずにスキャンすることなどを考えれば、解像度は高い方が望ましい。また希少な古書など、スキャンするチャンスが1回しかないといったケースでは、なるべく高解像度で撮影しておきたいところだ。

そのほか付属品としては、反射を抑えた背景マット、ページを押さえるための専用指サックがある。

反射を抑える背景用マット
※出典 オーム社仕事ですぐに使える! DaVinci Resolveによる動画編集(小寺信良著 4,180円/ISBN978-4-274-22962-6)
特殊マーカーが付いた指サックは、スキャン時に自動で消去される

ソフトウェアは同梱のCD-ROMに収録されているほか、CZURの公式サイトからMac、Windows、Linux版がダウンロードできる。

高解像度だが写真に弱い?

では早速スキャンしてみよう。まずは書籍だが、前回同様筆者がオーム社から出版した「仕事ですぐに使える! DaVinci Resolveによる動画編集」をサンプルで使用する。

小寺信良直伝!「DaVinci Resolve」入門者向け解説本

アプリの使い方自体は2年前からあまり変わっておらず、プレビュー画面に表示された画像を見ながら、センターを合わせる。書籍は開くとページが湾曲しているが、アーム部にレーザーセンサーがあり、湾曲状態を測定して自動的に補正してくれる。

スキャンモードで撮影中の画面
※出典 オーム社仕事ですぐに使える! DaVinci Resolveによる動画編集(小寺信良著 4,180円/ISBN978-4-274-22962-6)

見開きページをスキャンするのにおよそ1秒。「手めくりで自動スキャン」にチェックを入れておくと、ページをめくるたびに自動でスキャンしてくれる。300ページの書籍をスキャンするのに、10分程度だという。

自動スキャン動作中の様子

スキャンされるとスキャナー上部の液晶ディスプレイが点滅するので、それを合図にページをめくっていけばいい。スキャンする際にカラーモードが選択できるが、これはあくまでもデフォルトとして仮に設定するフィルターであり、スキャンしたあとでも変更できる。

スキャンしたあとは、個別ページごとにカラーモードを選択したり、あるいは一括でカラーモードを変更できる。右ページ全体、左ページ全体といった一括選択もできるので、片側だけ修正したい場合にも対応できる。

スキャン結果画面。1枚ずつの補正とバッチ補正に対応する
※出典 オーム社仕事ですぐに使える! DaVinci Resolveによる動画編集(小寺信良著 4,180円/ISBN978-4-274-22962-6)
四辺のトリミングも一括で指定できる
※出典 オーム社仕事ですぐに使える! DaVinci Resolveによる動画編集(小寺信良著 4,180円/ISBN978-4-274-22962-6)

ページの水平は、スキャン時にのどをきっちりラインに合わせることで維持されるが、ページの切り落とし側を見ると、少しパースがかかっている。こうしたパース修正機能も欲しいところだ。

カラーモードは、「自動補正」ではテキストのみのページはかなりうまく補正できるものの、カラー画像が入っているページでは画像が潰れてしまう。「カラーモード」の方が画像は無難だが、ページの裏映りなども分かってしまうというジレンマがある。

「自動補正」で出力した結果
※出典 オーム社仕事ですぐに使える! DaVinci Resolveによる動画編集(小寺信良著 4,180円/ISBN978-4-274-22962-6)
「カラーモード」で出力した結果
※出典 オーム社仕事ですぐに使える! DaVinci Resolveによる動画編集(小寺信良著 4,180円/ISBN978-4-274-22962-6)

スキャンされた画像を見ると、写真部分は若干コントラストがきつい感じがする。写真集など、写真がメインの本は厳しいだろう。

試しに紙焼きの写真だけをスキャンしてみたが、どうも全体的に高コントラスト過ぎてベッタリした印象を受ける。いわゆる昔のCMOSセンサーの画像だ。モノクロのテキストスキャンならあまり階調が出なくても関係ないかもしれないが、写真が相手の場合はセンサー方式が古いのではないか。せっかく高解像度を売りにするなら、デジカメ等で採用されているクラスのセンサーを搭載して欲しかったところだ。

古い写真をスキャンしてみたが、もう少し階調が欲しい

また紙焼きの写真は、そのままだと転写してある方向へ向かって丸まっていくので、オーバーヘッドスキャナにはあまり向いていない。紙を押さえつけるフラットベッドスキャナの方が向いているだろう。

とはいえ、企業や学校、あるいは公立図書館で利用者向けコピーサービスなどには未だコピー複合機を使って書籍をスキャンしているところも多いと思うが、ガラス面に押し当てると書籍の「のど」と言われる綴じ部分が無理やり開くため、古い本だとそこから割れたりする。一方オーバーヘッドスキャナなら本を無理やり開かなくてもいいので、希少な書籍でもページさえめくれれば、問題なくスキャンできる。

伝票など穴の開いた書類や、ホッチキスで留めたためにカドが欠けた書類などは、その欠けた部分を自動的に埋める「穴埋め」機能もある。ただこうした書類はバラすのも簡単なので、一旦バラしてプリンタタイプのスキャナで読ませた方が早い気がする。

また昨今は電子帳簿保存法により、個人事業者でもレシートのような紙の領収書もデジタル化しなければならなくなっている。形が違うレシートや領収書を1枚ずつスキャンするのは面倒だが、「マルチターゲットページング」というオプションを使うと、同時に複数のレシートを自動的に切り出して、真っ直ぐにした状態でスキャンできる。あとはそれらをまとめて複数ページのPDFに保存すれば、1ファイルで管理できる。

適当に並べたレシートも1枚ずつに分離してスキャンしてくれる

意外に使える、カメラとしての用途

CZURの製品は、ドキュメントスキャナだけではなく、普通のカメラとしても使える。例えば書籍の書影とか、製品のような立体物も撮影できる。このあたりが、一般のラインスキャナと違うところである。

普通のカメラを俯瞰で使うには、横に突き出せる特殊な三脚を使うか、天井から吊るしたバトンに固定する必要があるため、なかなか大掛かりになる。もちろん照明も用意しなければならない。

一方CZURはカメラだけでなく照明までセットになっているため、ブツ撮りなどもセッティングの手間がいらないのがポイントだ。フォーカシング機能はなくパンフォーカスのようだが、被写界深度が深いために立体物が撮れるというわけだ。

以外に立体物もちゃんと撮影できる
実際に撮影された画像

コツとしては、黒っぽい製品だと背景の黒とコントラストを出すためにベッタリしてしまうが、手なども一緒に入れ込むとかなり状態よく撮影できる。製品単体でいい場合も、端っこに手などを入れて撮影したのち、トリミングすればいい。

ソフトウェアとしては、スキャナモードのほかにビジュアルプレゼンモードもある。これはスキャナのカメラとマイクを使って動画撮影ができるモードで、手元での操作の様子などを収録できる。マウスでラインを引いたり丸で囲ったりといったこともできる。収録はHD解像度になるが、ちょっとした解説動画などは、本機だけで収録できる強みがある。

ビジュアルプレゼンモードで撮影した動画

また本機の背面には、HDMI出力も備えている。収録ではなくライブ出力ということになるが、4K/30pが出せるので、スイッチャーに入れてライブ配信用途にも使えるだろう。ただしHDMI出力が出るのは、パソコンソフトが起動していない時に限られる。USBとHDMIが同時に出せるわけではなく、USB優先になっているからだろう。

総論

2年前のET24からカメラ解像度を上げて新発売となったET MAX。高解像度化することで注釈やルビのような小さい文字も認識できるようになった。

一方高解像度化したことで、写真集やカタログのような画像中心のペーパーもスキャンしたいところだが、画像に関してはカメラの特性が不向きなのが残念なところだ。元々ドキュメントスキャナーは、白地に黒文字という高コントラストなものを中間の階調なしで取り込めればよかったので、搭載センサーも割と旧式なCMOSを使っているようだ。高解像度ということは画像や写真への対応を期待してしまうところだが、どうもそっちの方向ではないようである。

他方で俯瞰カメラ、文教では書画カメラというそうだが、そうした用途には比較的強い。HDMIからは4K30pで出力でき、かなりコントラストがはっきりした絵になるが、リアルタイムのプレゼンや動画の中に差し込むといった用途ではこれぐらいの方がしっくりくるだろう。

またPCへの接続が、今どきUSB Type-Bというのも気になるところだ。USB Type-Cで電源供給もそこから、といったまとめ方もあっただろう。センサー解像度は上がったが、全体的にアーキテクチャが古いというのは気になるところだ。

ソフトウェアはスキャナとしてはよくできているが、階調がある素材のスキャンには対応できないようだ。いろんなことが自動で素早く、という方向には強いが、1枚1枚じっくり修正といった場合には、調整項目が少ない。

例えば傾き補正は左右90度と180度しかないが、0.1度単位で細かく修正できないと、将来長く残る希少な古典資料のスキャンなどには利用できない。もう少しいろんな補正がマニュアルでできると良かった。

オーバーヘッドカメラを使って撮影するという方法は、アイデアとしては面白い。また照明と一体化している点も評価できる。今後はテキストスキャンに限らない用途の広がりを期待したい。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。