ニュース

「立体テレビ」が2030年実現に向け進化。自然な3Dを可能にする撮影/表示方法

 NHK放送技術研究所で、5月26日~29日に「技研公開2016」が開催される。これに先駆けて24日に行なわれたマスコミ向け先行公開から、メガネ不要で立体視ができる「立体テレビ」関連の展示をレポートする。

立体テレビ活用の将来イメージ

 今回の技研公開は、「スーパーハイビジョン」や「インターネット活用技術」に加え、「立体テレビ」も重点項目に位置づけられており、従来よりも広いスペースで試作機のデモや技術展示が行なわれているのが特徴。毎年着実に進化している立体テレビの、具体的な使い方提案も含めて紹介している。

立体テレビを重点項目として発表

 1階のエントランス近くのコーナーでは、8Kディスプレイを用いたインテグラル立体テレビや、タブレットをイメージしたサイズの試作機も用意。

 セカンドスクリーンのような形で、放送と連動して関連する立体コンテンツを同時に表示できるという使い方を紹介しているほか、高画質化するほど多くのデータ量が必要な立体コンテンツを、通信経由で取得するということも提案。メインのテレビとして放送を受信する以外の方法も検討することで、より実現しやすい形を模索しているという。

タブレットのような使用をイメージしたインテグラル立体テレビの試作機
様々なデザインを試作
立体映像関連の研究/展示内容

インテグラル立体テレビは撮影/表示方法が進化

 裸眼で立体視が可能なインテグラル立体テレビは、多くの微小なレンズを多数並べたレンズアレーを用意し、そこを通って生成された画像を複数のカメラで撮影し、同じくレンズを組み合わせた専用のディスプレイで表示するシステムを基本としている。2030年頃の実用化システム構築を目指し、立体像の高品質化が進められている。

インテグラル立体テレビの基本

 今回の展示では新たな動きとして、1台のカメラと移動ステージを組み合わせることで、レンズアレーが不要な撮影装置を試作。従来のレンズアレーのサイズに制限されずに、カメラで広い範囲を撮影できるようになった。1台のカメラを移動させながら複数の視点から撮影し、1つの立体画像とする。現在のシステムでは、5mm間隔で60cmまでの範囲を移動しながら撮影できる。

 前述した通り、インテグラル立体テレビは撮影にもレンズアレーを用いることを基本としてきたが、今回の方式の方が自由度が高いことから、今後はレンズアレーを使わない方式のみにシフトしていくと見られる。

レンズアレー不要な撮影システムを開発
撮影された立体静止画

 インテグラル立体の表示には8Kスーパーハイビジョンを上回る高精細な表示装置が必要となるため、複数の高精細プロジェクタをレンズアレー上に重ねて投写する立体表示方式を開発。今回の展示では、8Kプロジェクタ1台と、4Kプロジェクタ4台を使用し、ハーフミラー経由で1つのレンズアレーを通して立体視できるようにした。表示サイズは23.5型で、解像度は約11万4,000画素(正面観察時)。視域角(立体的に見える範囲)は水平/垂直ともに約40度で、プロジェクタ1台投写時の27度に比べて大きく向上した。

複数のプロジェクタを合わせて高精細/広い視野角で立体表示するシステム
5台のプロジェクタを使用
仕様や表示性能

 そのほか、立体テレビで広い空間を違和感なく表現するという技術も検討。現状の課題として、インテグラル方式では被写界深度(フォーカスの合った部分)が狭く、対象物の前後にあるものがボケてしまうという点がある。映画などではこうした手法が活きるが、多くのテレビ番組には向いていないことから、元の画像から奥行き方向に圧縮(変形)するという方法を紹介。どの程度まで圧縮しても画像が不自然に見えないかという範囲を評価した結果を紹介している。

奥行き圧縮前は、ほとんどがぼやけている
10%に圧縮することでフォーカスの合う部分が増えた
奥行き圧縮表現技術

 また、半導体エネルギー研究所との協力で、2型程度の小さな画面にレンズアレーのピッチが狭いディスプレイを試作。動画を再生すると、現状の立体インテグラル方式で起こるレンズアレーによるギラつきがほとんど気にならず、自然な立体映像が表現できることをデモしている。

立体インテグラルテレビの動画再生デモ(撮影しながら上下左右に移動)
静止画ホログラム(写真乾板)
静止画ホログラム(写真乾板)を左右から見たときの違い
将来の裸眼立体表示用デバイス技術として、ホログラフィーとレンズレス・インテグラル立体表示の実現に向けた研究も進められている。立体像を広い視域で観られるホログラフィー表示用のスピン空間光変調器と、レンズアレー不要のインテグラル立体表示用の光偏向デバイスを紹介
インテグラル立体テレビを使った映像クイズの体験コーナーも用意。観る位置によって映像が変わることを活かして、クイズに答える

(中林暁)