小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1211回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ソニー初のイヤカフ型「LinkBuds Clip」登場。着けていることを忘れる

LinkBuds Clip

今度は物理開放のLinkBuds

ソニーのLinkBudsシリーズは、2022年に世界初の物理穴あき型イヤフォンとしてスタートした。当時はコロナ禍でライフスタイルが大きく変化した時期であり、日常生活でつけっぱなし、周囲の音も確認する必要があるというニーズを捉えた製品であった。

ただ、これがいわゆる「耳を塞がない」系イヤフォンの道筋を作った……とは言えない。これに続くLinkBuds Sはカナル型だが、外音取り込みするのでLinkBudsシリーズだということになった。

サービス連携としてソニーの「Locatone」、マイクロソフトの「SoundScape」といった音声ガイダンス機能対応という共通点があり、外部の情報とリンクするイヤフォンというコンセプトだったわけだ。だが「SoundScape」は2023年という早い段階でサービス終了となり、Locatoneアプリと対象ヘッドフォンとのセンサー連携機能も昨年終了した。もうなんだかLinkBudsというコンセプトがグラグラになってしまった感がある。

そんな中、この2月に新シリーズとして展開が始まった「LinkBuds Clip」は、初代コンセプトに回帰し、物理的にオープンなイヤカフ型として登場した。ソニーストア価格は3年保証付きで29,700円となっているが、ECサイトでは概ね24,000円前後でスタートしたようだ。

イヤカフ型は2017年に「ambie」という先行事例があるが、一般に広く普及したのは2024年のHUAWEI「FreeClip」とBOSE「Open Earbuds Ultra」の登場以降である。以降Anker、JVC、ティ・アール・エイ、Shokz、サンワサプライ、エレコム、JBLらが参入し、活況を呈しているところだが、ソニーの参入はかなり後発ということになる。

LinkBuds Clipは後発参戦のメリットを活かせるだろうか。早速聴いてみよう。

洗練されたデザインとカラー

LinkBudsシリーズは、初代と後継機のLinkBuds Openは2色展開だったが、それ以外のモデルはすべて4色展開となっており、割とカジュアルに振ったシリーズとなっている。LinkBuds Clipもラベンダー、グレージュ、グリーン、ブラックの4色展開だ。今回はラベンダーをお借りしている。

印象的なラベンダーカラー

印象としてはデザインコンシャスに作られており、機能の都合で引っ張られた部分は少ないように見える。ドライバ部は球体、バッテリーを含む回路部は丸みのある円柱で、それを繋ぐ「く」の字のブリッジはあえて上から貼り付けたようなデザインだ。

ブリッジの接続部分もあえて貼り付けた感を出している

ブリッジ部分を開いて耳たぶに挟み込むわけだが、剛性がある割には表面が柔らかなシリコンで覆われている。直接的に耳に触れることはない部分だが、全体的に柔らかなトーンを演出している。

またブリッジ部分に取り付けるクッションも付属しており、フィット感を調整することができる。ドライバ部と回路部は樹脂製で、頭部に当たる部分だけ平たくなっている。

右がクッションを取り付けたところ。耳たぶへのフィット感が選択できる

なおイヤカフ型で採用の多い、左右が入れ替わっても自動判別する機能はなく、右と左が区別されている。ソニーのイヤフォンには、視覚障害者対策として必ず左側に小さな突起がつけられている。本機も同様で、手探りで左が区別できるようになっている。

左側のみ小さな突起が付けられている

ドライバは10mm径のシングルダイナミック型。片側の重量は6.4gで、標準的な重さだ。対応コーデックはSBCとAACのみ、aptXやLDACには対応していない。

再生時間は連続9時間で、ケース併用で約28時間。また3分充電60分再生の急速充電機能も備える。他のソニーのイヤフォン同様、DSEEやファインド・ユア・イコライザーなどの機能は共通しており、そこはソニーの強みだと言える。

通話機能としては、2つの通常マイクと骨伝導センサーを搭載しており、それにAI技術を組み合わせて高音質を実現した。

ドライバ部の裏側に集音用マイク
バッテリー・回路部にもマイク。平坦部分に骨伝導センサーがある

イヤフォン自体はIPX4の防滴仕様となっているが、「本機の音出口部分、通気孔、マイク穴を除く」とあるので、そこに水が入ると弱いということだろう。

ケースは、フタとベース部分でそれぞれが丸みのある四角形になっており、それを2段に重ねたような形状が面白い。フタ部分は光沢ありのすべすべ、ベース部分はマット仕上げのしっとりといった見た目・肌触りを分けており、ポケットやカバン内で手探りでもどっちがフタ側かわかるようになっている。

フタ側とベース側で光沢・手触りが違う

イヤフォンを充電する際も、左右を逆にするとマグネットが反発してケースに入らないようになっている。ケースに入れる段階で左右を逆にしてしまうということがないように、入念に設計されている。

柔軟な音質調整機能

では早速音を聴いてみよう。リスニングモードには「スタンダード」、「ボイスブースト」、「音漏れ低減」の3種類があり、ブリッジ部分のダブルタップで切り替えられる。このうち10バンドEQが使えるのは「スタンダード」のみだ。

リスニングモードは今のところ3種類

今回試聴するのはイエス『Fly From Here - Return Trip』拡大盤である。オリジナルの『Fly From Here』は2011年発表だが、2018年にボーカルをプロデューサーのトレバー・ホーンに差し替えて『Fly From Here - Return Trip』として再発。さらにそれをドルビーアトモスとインストゥルメンタルバージョンを追加して昨年ブルーレイオーディオで発売という、なんと3回目のリリースである。今年に入ってストリーミングサービスの配信が始まっている。

まずは「スタンダード」でEQ OFFで聴いてみる。イヤカフ型はスピーカーが耳穴に入らないため、低音の量感が不足するという構造的な課題がある。これを各社ドライバを工夫することで、インイヤー型と遜色ない状態にまで低音を届かせることに成功している。

LinkBuds Clipもこの点は同様で、低音表現も現行のイヤカフ型と遜色ないレベルだ。EQ OFFの状態では特徴的なベースラインが腰高な感じも受けるが、同社得意の「ファインド・ユア・イコライザー 」によってEQがカスタマイズできるので、不足しがちな重低音領域もある程度カバーできる。初代LinkBudsはドライバの特性上低音が出ないという宿命があったが、LinkBuds Clipではそのような心配は無用だ。

音楽を聴きながら好みの音質を選べる 「ファインド・ユア・イコライザー」

オープン型で周囲のリアルな音が立体的に入ってくるのに加えて音楽が上乗せされるので、音の広がり感は非常に良好だ。こうした聞こえ方は外音取り込み型では不可能で、物理オープン型の強みである。同時に解像感も良好で、高域特性のクセのなさを感じさせる。

「ボイスブースト」に切り替えると、ボーカル領域を持ち上げるので、騒がしい中でも音楽の中心部分が聞き取りやすくなる。ただその周波数帯域にある楽音も持ち上がるので、音楽的にはクセが出て聞きづらい音になる。これは音声通話するときや、ポッドキャストなどの音声コンテンツを聴くときに使うべきだろう。

「音漏れ低減」は全体的に音圧の減少が顕著だが、同時に高音域を下げて音を丸める印象だ。周囲に音が漏れて気になるシャカシャカ帯域を減少させるということだろう。図書館など周囲に人がいる静かな場所で使うと効果が高いと思われる。

なおリスニングモードには、先日のWF-1000XM6でご紹介したBGMモードも搭載される予定になっている。これはカフェなどから流れてくるようなサウンドをシミュレーションした音質で、音が遠くから聞こえてくる状態を再現したものである。現時点ではまだ搭載されていないが、今年6月頃のアップデートで搭載予定となっている。そもそもオープン型のイヤフォンは、そのままでもBGM的に聞こえるものだが、それがさらに専用モードに入ることでどのように聞こえるのか、期待したい機能である。

WF-1000XM6に先に搭載された「BGM」の選択画面

着けていることを忘れる装着感

ほぼ半日ほどLinkBuds Clipをつけっぱなしで生活してみたが、耳たぶに何かが噛み付いている感じはほとんどなく、付け心地が柔らかいのはさすがである。

付属のクッションは、無理に使わなくても問題ない。取り付けると耳たぶへの接触箇所が増えるので、逆にストレスになる可能性もある。装着したままでスポーツやダンスなどを行なう場合には、ズレ防止のために付けたほうがいいかも、という程度に考えておけばいいだろう。

ソニーのイヤフォンは通話があまり得意ではないが、LinkBuds Clipは回路部の頭蓋骨と接する平たい部分に骨伝導センサーを搭載したことで、集音性能を上げている。またAI技術で周囲の環境ノイズを低減するという。

実際にいつものショッピングモールで、通話性能をテストしてみた。音声品質はなかなかナチュラルで、周囲の騒音はほとんど拾っていない。若干キツキツにしゃべり部分だけ切り出している感はあるが、一般的なコミュニケーションであれば十分対応できるだろう。

音声通話のテスト

AIのノイズ低減処理もだいぶ上手くなっており、以前のように喋っている間だけ環境音が混入するといった現象も見られない。オープン型なので、周囲の状況も確認できる。自宅からのリモート会議などでも使いやすいだろう。

総論

イヤカフ型イヤフォンが大量に出揃ったのは2025年のことで、ソニーはそこから約1年遅れでリリースということになった。なぜ今頃? という疑問もないではないが、すでにイヤカフ型はオープンタイプのスタンダードとなりつつあり、ソニーとしてはそこが欠けたピースだったのだろう。

LinkBudsシリーズは、広域、あるいはエリア内音声情報サービスとの連携というコンセプトでスタートしたのだが、この方法はうまくいかなかった。だが耳を塞がない系の受け皿としては認知度が高く、多くの人は「LinkBudsはオープン型」という認識だろう。

できることは他のソニー製イヤフォンとそれほど変わらないので、特徴的というわけではないが、定番のスタイルがソニーからも出たという点では意義があると言える。デザインやカラーリングなどはやはり優れており、ある意味定番中の定番といった形の売れ方をするのではないかと思われる。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。