CEATEC JAPAN 2009【シャープ編 その2】

初公開された「グリーンフロント 堺」の内部


シャープグリーンフロント 堺のロゴマーク

会期:10月6日~10月10日

会場:幕張メッセ

入場料:大人1,000円/学生500円

    (事前登録で無料/最終日は無料)


CEATECのシャープブースで、「シャープグリーンフロント 堺」が紹介された
 シャープは、CEATEC JAPAN 2009の同社ブースにおいて、10月から第10世代の液晶パネル生産を開始した大阪府堺市の「シャープグリーンフロント 堺」の概要について、ビデオおよびパネルでの説明を行なっていた。これまで、内部の様子などは公開されたことがなく、今回のビデオ放映は、同工場の様子を初めて外部に公開したものといえる。

 シャープでは、環境性能に優れた製品を、環境に配慮した工場で生産することを目指しているが、それを具現化したのが、シャープグリーンフロント 堺である。それを支える最先端の仕組みが、垣間見ることができた。

シャープグリーンフロント 堺の完成予想全景。来年3月までの稼働を予定している薄膜太陽電池パネルの生産拠点など、まだ一部工事が進んでいる部分がある


■ 5つのエコ革新に取り組む

シャープグリーンフロント 堺は、大阪湾に面した埠頭の突端にある
 シャープグリーンフロント 堺を紹介したコーナーでは、エコ・ポジティブカンパニーを標榜する同社が、「環境時代のグリーン社会創造最前線」と位置づける生産拠点として、5つのエコ革新に取り組んでいることを示した。同工場で掲げるエコ革新とは、「最先端のエコ技術」、「エコ&高効率オペレーション」、「世界最先端環境工場」、「社会との共生」、「夢はグリーン社会の創造」である。

 「最先端のエコ技術」では、省エネを実現する第10世代液晶パネルと、創エネを担う薄膜太陽光発電パネルを生産する拠点であることを強調。液晶パネルでは、畳約5畳分に相当する2,880×3,130mmの第10世代のマザーガラスを、最新の検査装置と移載ロボットなどの生産設備を活用することで、当初は月3万6,000枚、フル稼働時には月7万2,000枚を生産し、40型換算で年間1,560万台の液晶テレビ用パネルを生産できることを示した。

 同社の試算によると、同工場で生産された1,560万台の40型液晶テレビを、かつての32型ブラウン管テレビに置き換えた場合、年間約107万トンのCO2排出量削減ができるという。

薄膜太陽電池パネルの生産工場液晶パネルの生産工場液晶パネルの検査装置
シャープグリーンフロント 堺で生産される第10世代のマザーガラス。60型で8枚、40型で18枚がとれる

シャープグリーンフロント 堺が実現するバーチャルカンパニー
 また、薄膜太陽電池パネルでは、来年3月までに稼働を予定している第1期生産ラインだけで、年間480MWの生産を計画。これは、日本の家庭で約12万件の屋根に設置できる規模になるという。年間に見込まれる太陽電池による発電量を、CO2排出量に換算すると、約18万トンのCO2削減が可能になるという。同工場ではフル稼働時に1GWまでの生産を可能としている。

 さらに、結晶型太陽電池バネルに比べてシリコンの使用量が約100分の1と省資源化が図れること、液晶パネル工場と併設することで、共通の材料の活用や、液晶パネル技術と同じ薄膜技術を活用できることなども特徴とした。

 「エコ&高効率オペレーション」では、異業種が集まり、ひとつの生命体のように機能するバーチャル・ワンカンパニーであることを示し、東京ドーム約28個分にあたる約127万平方メートルの敷地に、シャープのほかに、ガラス、カラーフィルター、物流、梱包材、電力、ガス、下水再生などの各種企業が、「共創」をキーワードに相互に連携している様子を示した。



■ グリーンフロント 堺には合計19社が進出

統合エネルギー管理センターでは大画面で現在の状況を表示
 シャープグリーンフロント 堺に進出している企業は、シャープおよびシャープディスプレイプロダクトのほか、旭硝子、岩谷産業、大阪ガス、関西電力、関電エネルギーソリューション、栗田工業、小池産業、コーニングジャパン、神鋼環境ソリューション、積水化成品工業、大同エアプロダクツ・エレクトロニクス、大日本印刷、太陽日酸、大和ハウス工業、凸版印刷、長瀬産業、日本通運の17社による合計19社となっており、これらすべての企業が10月1日からの液晶パネル工場の稼働にあわせて、動きはじめたという。

 高効率オペレーションの具体例としては、統合エネルギー管理センターを設置し、同センターから工場全体のエネルギー状況を管理。従来の実績管理型のエネルギー管理手法ではなく、エネルギー源の使用量予測、危険予知、最適運転などにも踏み込み、これをセンター内の液晶大画面に表示。シャープグリーンフロント 堺全体の省エネ、省電力化を可能にした。

シャープグリーンフロント 堺の正面玄関部シャープグリーンフロント 堺の正面入口

棟間搬送システムで効率化を図るコンバージェンスサプライチェーンマネジメントシステムは企業間を結んだものとなる
 さらに、加工や組立を行なう各工場棟を搬送システムで連結する棟間搬送システムにより、物流面でのコストダウンを大幅に削減。リードタイムの短縮に加え、輸送に伴うCO2排出量の削減も可能にするという。

 加えて、生産計画から工程管理、出荷に至るまでのサプライチェーン全般を、ITによって可視化した「コンバージェンスサプライチェーンマネジメントシステム」によって、複数の企業をまたがった生産に関わるすべてのサプライチェーンを統合管理する。

 「世界最先端環境工場」では、工場まるごと環境対応を実現していることを示し、液晶パネルと薄膜太陽光発電パネルの2つのグリーンパネルが、クリーンなエネルギーで生産されていることを紹介。工場棟などの屋根に最大18MWまでの発電が可能な太陽光パネルが敷設され、現時点では9MWの発電を行ない、これが工場で利用する電力の一部として利用されていること、約10万灯のLED照明を採用し、なかでも事務棟にはプラズマクラスターイオン発生装置付きのLED照明を採用したほか、屋外には太陽電池を利用したLED照明を活用。また、歩道には、液晶ガラス廃材を利用した透過性ブロックを活用することで、雨水の排水効果のほか、路線温度の上昇を抑える効果を達成する。

オフィス内ではプラズマクラスターイオン発生装置付きのLED照明を採用LED照明は10万灯

工場内で使用されている液晶パネルの移送装置、移送ロボット

高度処理水再生プラントは、2010年4月に完成する予定だという
 また、敷地内で使用する自動車は、電気や天然ガスを使用する低公害車を導入し、CO2削減にも貢献するという。さらに、大阪府立大学と共同で、太陽光発電やLED照明を活用した植物栽培と廃棄物の再資源化に関する研究を行なうエコロジー研究所を工場内に設置。また、建築物総合環境性能評価システム「CASBEE」では、最高ランクのSランクの評価を大阪府から受けている。

 「社会との共生」では、堺市の環境モデル都市行動計画に準拠した取り組みを推進。シャープグリーンフロント 堺のなかに、公共下水道放流水を有効活用するとともに、熱回収により工場の空調に活用できる高度処理水再生プラントを、2010年4月から稼働。工場用水を、シャープグリーンフロント 堺に進出する各工場で再利用する仕組みとする。また、隣接する防災拠点との連動なども図ることになる。

工場内の歩道の様子



■ 免震工法の採用により、地震の際も安定稼働

 「夢はグリーン社会の創造」としては、シャープグリーンフロント 堺から誕生する液晶パネルが全世界に供給されるとともに、薄膜太陽光発電パネルでは、携帯電話やスマートフォンなどの太陽電池応用商品の創出、自動車用太陽電池の供給、大規模太陽光発電システムの設置、太陽光発電で生まれた直流電流をそのまま利用するDC(直流エコハウス)の提案、太陽光発電を利用したエコオフィスの実現、農業分野などでの活用を視野に入れたトリジェネレーションへの取り組みにも広がる可能性を示した。

 そのほか、安全対策についても説明。約1万1,400本、延べ595kmに達する杭打ちにより、地盤の強化を図っているほか、津波対策として地盤を大幅に嵩上げ。敷地内に独自に設置した地震計により、地震の揺れをいち早くキャッチし、一定規模以上の地震予測時には即座に工場の操業を停止することで被害を最小限に抑えるという。
 さらに、亀山工場でも実績がある制震ダンパーの採用や、免震工法の採用により、地震の際に生産設備への影響を減らし、安定稼働できるようにしていることも紹介。想定される東海・南海地震クラスにも対応できる耐震構造となっており、とくに液晶パネル工場では、スポット免震構造を採用し、短期間での復旧できるようにしているという。

工場内で採用されている制震ダンパー



(2009年 10月 13日)

[Reported by 大河原克行]