大河原克行のデジタル家電 -最前線-

「シャープグリーンフロント 堺」の前倒し稼動の背景

~亀山工場とグリーンフロント 堺の位置づけは?~


電機メーカーの生産拠点とは思えないほどの広大な敷地
 シャープは10月1日から、大阪府堺市の新工場において、液晶パネル生産施設を稼働した。これに併せて、同工場の名称を「シャープグリーンフロント 堺」とし、省エネ性に優れた液晶パネルと、創エネの太陽電池パネルの2つの環境配慮型製品を世界に向けて供給する拠点として、環境型工場と位置づける姿勢を明確にした。

 2007年に工場建設を発表した際に、シャープの片山幹雄社長は、この工場を「21世紀型コンビナート」と命名した。その言葉の意味は、シャープだけでなく、液晶パネル生産、薄膜太陽電池に関わる部材、装置メーカー、関連インフラ施設などを誘致し、原材料から製品完成までを、敷地内で一貫生産するために業種の枠を越える生産拠点を目指したことが理由だ。

 だが、「コンビナート」という言葉が、日本の高度成長期の象徴のひとつである石油コンビナートなどを連想させ、「環境」に対しては、決していいイメージばかりではない。これを払拭する意味でも、正式名称として、シャープグリーンフロント 堺という、環境を強く意識した名前とした狙いが見え隠れする。

グリーンフロント堺の外観。薄膜太陽電池の生産は来年3月までに稼動する

■ 新町名は「匠町」

第10世代マザーガラスを公開するシャープの片山幹雄社長(2007年7月撮影)
 実際、シャープが指摘するように、省エネ性に優れた液晶パネルと、創エネを実現する太陽電池パネルを生産する拠点として、グリーンフロントという名称は適している。冠にシャープという名を付けたのは、シャープの敷地内に各企業を統合したということ、そして、グリーンは環境を意味する。フロントには、液晶パネルおよび薄膜太陽電池の最先端工場であること、埠頭の突端にあることを示した。

 シャープの工場進出が決まってから公募したこの地の新町名には、「匠町」が選ばれた。匠の技術で、環境配慮型製品を生産するというのが、工場および町名から感じることができる新工場の姿だ。

当初の計画では、マザーガラスサイズは若干小さかった
 10月1日から稼働したのは、液晶パネル工場である。稼働した液晶パネル工場は、2,880mm×3,130mmの第10世代マザーガラスで生産する世界初の生産拠点だ。

 発表当初は、2,850mm×3,050mmであったが、ここから若干大きくなっており、40型で18枚を切り出せるようになっている。この理由についてはシャープでは明確にしていないが、42型で15枚といっていたものが、ややサイズは小さくなるが切り出せる枚数が18枚にまで増加する。40型液晶テレビの製品化においては、効率化が進んだといえる。


■ 2010年3月予定から前倒しで稼働

 そして、当初計画では、2010年3月の稼働予定としていたものが前倒しで稼働した点も評価できよう。前倒しで稼働するためには大きな困難を伴った。というのも、先にも触れたように、21世紀型コンビナートを形成するために、シャープだけではなく、関連する17社の企業の建設も前倒しにしなくてはならないからだ。

 シャープグリーンフロント 堺には、シャープのほかに、マザーガラス生産の米コーニングや旭硝子、カラーフィルターの大日本印刷、凸版印刷などが進出。これらの企業も足並みを揃えて、稼働する体制を整えた。コーニングや大日本印刷、凸版印刷、栗田工業など、大きな施設を持つ企業の建物には、各社のロゴが入っているが、そのほとんどが青いロゴ。シャープの赤いロゴだけが目立つ感じだ。

 

カラーフィルターの生産を行なう凸版印刷同じくカラーフィルターの生産を行なう大日本印刷の建物

 液晶パネル工場では、稼動当初は月産36,000枚でスタート。フル稼働時には月産能力は72,000枚の体制となり、先頃発表した独自の光配向技術「UV2A(ユーブイツーエー)」を採用した液晶パネルの生産を行なう。

 シャープが投入する年末商戦向けの一部製品において、この液晶パネルが採用されるほか、液晶パネル生産工場の運営子会社であるシャープディスプレイディスプレイプロダクトに出資するソニーや、提携関係にある東芝へのパネル供給も予定されている。


■ 今後の亀山工場とグリーンフロント堺との位置づけは?

 

正面左はガラス生産のコーニングの建物
 シャープは、これまで亀山工場で液晶パネルを生産してきた。現在、亀山第1工場では生産が停止しており、生産設備を中国企業へ売却することが決定している。また、第8世代のマザーガラスで生産する亀山第2工場では増産体制を敷き、稼働率を一気に高め、今後は、UV2A技術を導入したパネル生産へと移行する。

 気になるのは、今後の亀山工場とグリーンフロント堺との位置づけだ。亀山ブランドが浸透している亀山工場製パネルと、最先端の生産技術を導入して生産される堺工場製パネルの用途も注目される。

 シャープでは、亀山工場で生産するパネルを日本市場向けの「地産地消」モデルを実現する垂直統合型の工場とし、一方で、堺で生産するパネルを外販を主力とした、グローバル展開するための工場と位置づける腹づもりがある。

 亀山工場にはテレビの生産設備があるのに対して、堺にはパネル生産設備しかない。ここにも、亀山が日本向けテレビの地産地消モデルと位置づけられる理由がある。今後、液晶テレビの需要動向の変化に伴って、この位置づけは変わることもあるだろうが、日本のユーザーにとっては、高い品質を持つ亀山モデルの液晶テレビを入手できる環境が続くことになる。

 

グリーンフロント堺の全体の構成図

 シャープグリーンフロント 堺は、第10世代による世界最大の液晶パネル工場とともに、最先端の薄膜太陽電池工場を併設するものとなる。これらをあわせた敷地面積は、約127万平方メートルに達する。

 現在、従業員数は2,000人。そのうち、シャープおよびシャープディスプレイプロダクトの社員が約1,000人。残りは進出企業の社員ということになる。特徴は、先にも触れたように、シャープ以外にも様々な企業が敷地内に進出している「21世紀型コンビナート」を形成しているおり、液晶テレビと薄膜太陽電池の生産を行なうことだ。

 

液晶パネルと薄膜太陽電池は共通の部材や技術が使われる
 実は、ここに大きなポイントがある。液晶パネル生産で使用するガラス基板やシリコン薄膜などの部材は、そのまま薄膜太陽電池にも共有して使えることができる。薄膜太陽電池は、アモルファスシリコンや結晶シリコンをガラス基板城に1ミクロン内外の薄い膜を形成させて作る構造。ガラス基板やシリコン薄膜といった部材や技術を水平展開でき、ユーティリティについても共有できることから、生産性の向上にも寄与するというわけだ。

 これにより、高効率生産の実現、規模の拡大、オペレーションの一元化、技術のノウハウの結集・融合といったメリットがさらに追求できる。

 同社では、今回の液晶パネル工場の稼働に続き、来年3月までに薄膜太陽電池工場を稼働させる予定であり、太陽電池の生産能力は、年間1,000MWを計画している。これも世界最大規模だ。

 この体制が整った時に、シャープグリーンフロント 堺は、いよいよ本領を発揮することになる。

垂直統合モデルのさらなる進化

(2009年 10月 1日)

[Reported by 大河原克行]


= 大河原克行 =
 (おおかわら かつゆき)
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。

現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、Enterprise Watch、ケータイWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、月刊ビジネスアスキー(アスキー・メディアワークス)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器変革への挑戦」(宝島社)など